現パロでエイプリルフール
※シンク視点
「もう、またなの?」
腰に手を当てぷりぷりと怒っているのは幼馴染であるシオリだ。
お互い親が多忙なせいか、同い年であるにも関わらずよくご飯を作ってくれたり掃除してくれたりと何かと面倒を見てくれている。
そんなシオリが「また」と表現し怒りながらも呆れているのは、僕達の兄弟喧嘩のことである。
四つ子という珍奇な生まれをした僕達は、仲は良い方だと思うがその分喧嘩もする。
その喧嘩の度合いによって物が壊れたり他の兄弟に被害が拡散するのはご愛嬌として、今回はイオンとレインとフローリアンが喧嘩をした。
結構珍しい組み合わせだ。
「で、今回の喧嘩の原因は?」
「「イオンが悪いんだよ(です)」」
「酷いな、お前たちは兄貴を売る気なの?」
「酷くないよ。僕だってやりたいのに!」
「そうですよ、イオンばっかりずるいです。それに兄と言っても3時間ほど早く生まれただけでしょう」
「そうだ、そうだー」
「あんた達、反省してないでしょう?」
「「「だって」」」
「しばらくご飯作りに来るの止めるわよ」
「「「ごめんなさい」」」
こういう時だけは息ぴったりだな。
はぁ、と小さくため息をつき正座している3人の前で腰に手を当ててお説教しているシオリを見た。
その後ろにあるのは床にばら撒かれたキャベツの千切り、だったものだ。
シオリが一生懸命刻んだキャベツは、兄弟喧嘩のあおりをくらいご臨終となった。
まぁそれが原因でシオリは怒ってるわけだが。
「で、喧嘩の原因は何なの?」
ひとしきり叱った後、シオリはもう一度質問を繰り返す。
問題を解決しないとまた喧嘩が勃発することを身をもって知っているからだ。
シオリの質問に3人はアイコンタクトをとって頷き合うと、何故かイオンがすくっと立ち上がった。
そしてシオリの手を取り、クラスメイト達が見たらキャーキャー騒ぎ出しそうなほど甘い笑みを見せる。
まぁ、シオリはそれを見てドン引きしているわけだが。
「シオリ、僕と結婚してほしい」
「「……は?」」
「学校を卒業して就職したら僕がシオリを養うよ。
シオリは毎日ご飯を作って、家を綺麗にして僕を迎えて欲しいんだ。
ううん、そうじゃなくてもいい。
これから先の人生を、君と共に過ごしていければそれでいい」
そう言ってイオンはシオリの指に口づけを落とした。
気障ったらしいことに、左手の薬指に、だ。
呆然としていたシオリだったが、ハッと意識を取り戻したかと思うと胡乱げな顔でイオンを見つめ、
「……熱でもある?」
と、のたまった。
プロポーズに対し失礼な反応なのかもしれないが、僕も同意見だ。
しかもさりげなく自由になった手を服で拭っている。
どうやらトキメキは0%だったらしい。
「辛辣なお言葉をありがとう。でもちゃんと考えてほしいな。
シオリのご飯が美味しいのはよく知ってるからね」
「ねー。だから僕も一緒だよ!」
「は?一緒?」
上機嫌に微笑んでいるイオンの隣、片膝をついたフローリアンがまるで中世の騎士のようにシオリの手を取って甲に口づける。
無邪気な笑みはいつもと変わらないが、その瞳は真剣にシオリを見上げていた。
何これ何かの流行り?
「イオンと同じ。シオリには僕のお嫁さんになってほしい。
これから先、僕の横で笑っていて。そして僕にその笑顔を守らせて欲しい」
愚直なまでの懇願に、シオリは手を取られたまま視線を彷徨わせた。
手を引こうとしたがフローリアンはシオリの手を掴んだまま、むしろぐっと引き寄せて詩織を抱きしめている。
今度はちょっとはときめいたようだ。20%くらいだろうか。
シオリの視界から外れたところで呆然とするしかない僕の足をイオンが音もなく踏んできたので、思いきり踏み返しておく。
「僕もイオンもね、シオリのこと大好きなんだよ」
「それは僕も同じですよ?」
突如フローリアンに抱きしめられたシオリは戸惑っていたのだが、そこから優しく引き寄せたレインがお互い座りあったままシオリをじっと見つめた。
わずかに赤くなっている頬を両手で包み、天使のような微笑みを浮かべながらシオリを見下ろしている。
「二人のではなく、僕の奥さんになっていただけませんか?
手を取り合いながら共に生きていくパートナーはシオリ以外考えられません。
病める時も健やかな時も、シオリの隣にいると誓いますから」
柔らかい言葉選びはとてもレインらしい。
シオリの混乱は酷くなっているらしく、先程よりも顔が赤く何度も口を開閉させている。
解放されたその手が宙を彷徨っているのが見えた。
てゆーか、何この茶番。
突然のことに僕もフリーズしていたが、落ち着いて顔を赤くして戸惑っているシオリを見ていて段々とイライラしてきた。
何で抵抗しないのさ。
大人しくやられっぱなしで顔を赤くして、あんなの言われて嬉しいわけ?
「……あんた達、何企んでるわけ?」
イライラしている僕を察したのかどうかは分からないが、そっとイオンの体を引き剥がしたシオリは赤い顔のまま3人を睨みつける。
しかしそれぞれ別種の笑顔を浮かべた3人はシオリに密着する。
「ねぇ、返事はくれないの?」
「そうそう、プロポーズしたんだからさ」
「シオリの気持ち、教えて下さい。僕達3人のことをどう思ってるのか」
「そうそう。シンク以外の3人を、ね?」
「そうだね。シンクはプロポーズしなかったもんね」
「そうですね。シンクはぼけっと突っ立ってるだけでしたからね」
「全員喧嘩売ってるでしょ?」
3人が声を揃えて僕に喧嘩を売ってきたことで、戸惑っていたシオリも冷静さを取り戻したらしい。
冷たい視線を送ったあと3人から逃げようとしたものの、レイン達ががっちりと抱えているためにそれも叶わない。
もがきながらも逃げ出せずにいるシオリにため息をつき、助け出そうと手を伸ばす。
すると3人がシオリの頬やら首筋やらに唇を寄せたので、慌ててシオリの腕を掴んで引っ張り出した。
「ちょっ、何してるのさ!」
「何って、キスしようかなって」
「そうだよ。ちょっとちゅってしようかなって」
「はい。まだお返事を貰ってないのでほっぺにですが」
びっくりして固まっているシオリを腕の中に閉じ込めながら3人を睨みつけるが、3人とも全く動じていない。
それどころか何やらにやにやと笑っている。
何あれ、すっごくムカつくんだけど。ちょっと殴っていいかな。
「いいでしょ別に、シンクはプロポーズしてないんだからさ」
「そうだよねー。シンクはシオリにお嫁さんになってって言ってないんだから、文句つけないでよー」
「リアンの言う通りです。シンクはシオリが好きじゃないんでしょう?
だったら別に良いじゃないですか」
「誰も好きじゃないなんて言ってないだろ!」
途端、3人が口をつぐみ、にやっと笑う。
嵌められた、と気づいた瞬間には遅かった。
腕の中で僕を見上げているシオリは、今までで1番顔を真っ赤にしていて、不覚にも今日見た顔の中でその顔が1番可愛いと思ってしまった。
「えっと……シンク?」
「え、あ……その、」
「はいはーい!今日4月1日でしょ?僕達のプロポーズはエイプリルフールの嘘だから」
「誰がこの嘘をつくかでちょっと喧嘩になっちゃったんですよね」
「うん、でも3人で言ったのも楽しかったからそれでいいや。
あ、シンクのが嘘かどうかは知らないから、シオリが直接聞いてねー」
先程までの甘ったるい空気はもう存在しない。
自分の頬に熱が集まっているのを自覚しながら、バタバタと逃げ出していく3人の背中を見送るしかできなかった。
腕の中でシオリが僕を見上げているのが分かる。
「……シンク?その……シンクのも、嘘?」
おずおずと尋ねてくるシオリは嘘であることを望んでいるのだろうか?
ここで嘘と言ってしまえば簡単だ。
エイプリルフールだから、きっと嘘だと言っても許される。
けどその熱っぽい視線に気付いてしまえばもう嘘だなんて言えるはずがない。
「好き、だよ」
「……あ、」
「嘘じゃ、ないから。シオリが好きだよ。好き」
「……私も、シンクが好き、だよ」
3人みたいに気の利いた言葉なんて選べなかったけれど、それでもシオリは花がほころぶような微笑みを浮かべてくれた。
それが嬉しくて、ぎゅぅっとシオリを抱きしめる。
シオリの頬が赤くなっているのが分かったけれど、僕だってきっと真っ赤になってるからおあいこだろう。
「僕の……その、恋人に、なってくれる?」
ばくばくとうるさい心臓がばれてやいないか怖かったが、シオリが頷いてくれたのが分かってそんなことどうでもよくなった。
やっと言えた。シオリが応えてれた。
それが嬉しくてそれしか考えられなくなった。
「イオン達に嵌められたね」
「……今回は許す」
「私は…代わりにキャベツを刻んでもらうことで許そうかな」
ふふ、と笑いながら言うシオリに僕も自然と頬が緩むのが分かった。
きっとシオリの言う通りいつまでも付き合おうとしない僕達を見て焦れたイオンたちがエイプリルフールにちなんで策を講じたんだろうけど、今回ばかりは感謝してやらなくもないかな。
そんなことを考えながら幸せを噛みしめつつ、もう一度強くシオリを抱きしめた。
たまにはこんなエイプリルフールも、いい。
end.
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