01.帰ってこいピクニック
そもそもの発端は、まだレインに導師としての教育を施している際に軽い気持ちでシンク達と一緒にピクニックに行きたいねと話したことである。
いつか行けたら良いな程度の気持ちで言った私だったが、レインにいつ行くのかと言われ何も考えていなかった私は慌てて計画を立てた。
何故かって?だってそこまで楽しみにされたら、応えなければ論師の名が廃るからだ。多分、きっと。
レインと予定をすり合わせたあと、どうせなら大勢の方が楽しいよねと他にも色々と声を掛けてみたのが一週間前。
最終的に私、シンク、レインは元々のメンバーとして、更にアリエッタ、ディスト、フローリアン、アッシュ、ラルゴが追加されたのである。
なのでこれ幸いとディストとラルゴに責任者の地位を押し付け、ヴァンの許可を得てやっとこさ実現したピクニック。
アリエッタが周囲にお友達を展開し且つアニスと共に一時的に導師守護役の役目を担うことでレインの外出許可もなんとか降りた。
そうしてアリエッタのお友達も含めた大所帯でダアト市街から少し離れた丘へと向かい、お弁当を広げていたのだが、問題はそこで起こった。
まず予想外なことに、イオンがやって来た。
その護衛とでも言うように、ヴァンとリグレットもやってきた。
なんてこった、旧六神将勢揃いではないかと思ったものの、大勢の方が楽しいからと喜んで三人を手招けば至急本部に帰還して欲しいと告げられる。
何事かと話を聞いてみればどうも異常な第七音素が断続的に観測されているとかで、何が起こるか解らないために警護を厳重にしているとか。
成る程だから主席総長直々に導師と論師を迎えに来たのか。
あれ、じゃあ何でイオン居るんだ。遊びに来た?治療に専念しろよばかやろう。
と、私が納得しつつもイオンと真顔で罵倒しあっていると何故か全員一瞬にして険しい顔に。
この展開は見覚えがある。アレだ。マルクトで音素が収束したんだか異常を起こしたんだかした時の、レインとピオニー陛下の反応だ。
サッと血の気の引く感覚を覚えた瞬間、シンクが走り寄って来るが既に時遅し。
空から降ってきた膨大な光の奔流に押しつぶされ、私の意識は暗転した。
【帰って来いピクニック】
「っざけんな、何でこんな子供寄越したんだよ!……はァ?……って戦えねーのかよ!
……は?……じゃあコイツが居れば……ほー……」
なんか、どっかで聞き覚えのある声がする。
決してお行儀が良いとは言えない口調は教団ではあまり聞かない類のもので、それを目覚まし代わりに目を覚ました私はギシギシと軋む全身に泣きそうになるのをぐっと堪えた。
次に感じたのは湿った草の感触と、濡れているせいで濃くなっている緑の香り。
「っ、う……」
それでも何とか身を起こせば、関節がギシギシと痛んで自然と呻き声がもれた。
見れば空には星が輝いていて既に夜を迎えているのだと知る。
一体私はどれくらい意識を失っていたのだろう。
というか、私はダアトの外れに居た筈なのに、この周囲に咲き誇るセレニアの花とか遠くに見える鬱蒼と茂る森だとか微かに香ってくる磯の香りとかに嫌な予感しかしない。
「お、目覚めたか」
「貴方は……失礼、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
歩み寄ってきた青年を見て、未だはっきりしない頭に痛みが走った気がした。
ああ、本当に嫌な予感しかしない。夜なのではっきりと断言は出来ないが、気だるげな瞳は翡翠色に見えるし、腰まで流している見事なグラデーションを描く髪は夕焼けのような朱色に見える。
咄嗟に言葉遣いを切り替えたのは完全にダアトに来てからの経験の賜物と言えるだろう。
「ルークだ。ルーク・フォン・ファブレ。アンタは?」
「……シオリと申します。もしやキムラスカ王家に連なるファブレ公爵家のご子息であらせられる、」
「あー、その堅苦しい喋り方やめろ。面倒」
「……ファブレ家のルーク様で宜しいですか?」
「敬語は……チッ、まぁしゃーねーか。そうだよ。そのルークだ」
公爵子息が舌打ちなんぞすんなバカタレ。
しかし間違いなく私の知るルーク・フォン・ファブレである。
これは一体どういうことか。
動揺している私にルークが手を伸ばしてくる。
手を伸ばされる意味が解らずにルークを見上げれば、とりあえず立てよと言われて手を握れと言われているのだとようやく気付いた。
なので丁寧にルークの申し出を断り自分で立ち上がれば、少々ふらつくものの何とか自力で立つことができた。
そうして立ち上がったルークは私の手を取ると、そのまま近場の岩の陰へと私を引きずり込む。
え、何この展開。
「うし。じゃあシオリ、だったよな?」
「はい」
「ローレライから聞いた事の確認なんだけど、お前はヘイコウセカイから来て、これからオレがどんな目に合うか知ってて、且つ六神将の奴等とも顔見知り、で、合ってるか?」
ぼそぼそと言われた台詞に目が点になる。
私の聞こえた言葉が正しければ、目覚めたばかりの頭には刺激が強すぎる内容だ。
呆気に取られていた私はルークにオイ、と声をかけられて何とか再起動すると、とりあえず痛む頭をもみもみしながら言われた言葉を反芻した。
「……それはつまりルークさまは、未来のことを知りつつ六神将とも顔見知りである人物が平行世界からやってくる、とローレライから告げられていたということで宜しいですか?」
「おう、合ってるぞ」
「質問ばかりで申し訳ないのですが、それはいつ頃告げられたのでしょうか?」
「んー、ヴァン師匠を倒した後?いや、逆行する前って言った方が良いのか。
オレ一回死んでるんだけど、そこでローレライがちょっくらもっかい人生やり直してみないかとか言い出したんだよ。
けどオレはあんな自己中で後先考えなくて秘密主義で鈍感で世間知らずな同行者どもともっかい旅するとか死んでもゴメンだったわけだ。いや、実際死んでるんだけどさ。
しかも人生やり直してってことはオレが超頑張ったことも無しになるわけだろ?
だから素直にローレライにふざけんなって伝えたら、ちょっとずれた平行世界のオレの身体に意識をぶち込むだけだからオレがやったことは無駄にならないし、他の平行世界から味方も呼ぶからって言われたんだ。
今度は好きに生きて良いしチート人生も楽しいんじゃないかって言われて、そういうことならって渋々受け入れて今に至る」
「ご説明ありがとうございます。何となく状況が把握できました。
つまりココは屋敷に襲撃をかけてきたティア・グランツと超振動を起こした直後のタタル渓谷ということですね」
「おー、ほんとに知ってるんだな。正解正解ー」
小さくパチパチと拍手をするルークを前に延々と米神をもみもみする。
天然なのか好意なのか解らないがルークが説明をしてくれたお陰で大体の状況は把握できた。
つまりどこぞの意識集合体のせいで私は平行世界にぶち込まれたということだ。
迎えに来たヴァンが言っていた異常な第七音素の反応というのも恐らくこれのことだろう。
「……ちなみにルーク様はローレライと連絡が取り合えるのですか?」
「できるぞ。何か聞きたいことでもあるのか?」
未だに引かない頭痛は人の都合など考えない意識集合体の愚行のせいか、それとも第七音素の奔流に巻き込まれたせいか。
考えても詮無いのでここに来る前にシンクたちとピクニックをしていた事を説明し、同じように第七音素の波に呑まれたであろう彼等がどうなっているのか聞いて欲しいと頼む。
ルークはすぐに引き受けてくれて、額に手を当ててなにやらぶつぶつと独り言。
事情を知っていれば別におかしな姿ではないのだが、見知らぬ人が見たら延々と独り言を呟く怪しい人だなと思いつつ結果を待つこと早1分。
どうやらローレライ曰く、一緒に飛ばされた人々はルークと同じようにこのオールドラントに住まう人々の身体に意識をぶち込んだ形になるらしい。
私はぶち込む先の身体がなかったので、ルークとティアが起こした擬似超振動のエネルギーと力の奔流を利用し流れに乗せてそのままこっちに連れてきたそうだ。
ただココで問題が一つ浮上した。
ルークはローレライと繋がっているので意識をぶち込む際上書き作業を完璧に行うことができたが、そうでないシンク達は恐らく意識がごっちゃになっているだろう、というのだ。
ローレライ曰く、私と会えば私や私と過ごした記憶などを思い出すだろうが、逆を言うならば私と会わない限り思い出すことはないだろう、と。
それはつまり私と接触しない限り皆は原作通りの行動をする、ということではないか。
「……成る程、把握しました。もう一つ質問しても宜しいでしょうか?」
「おう、何だ?」
「どうやったら元の世界に返していただけますか?」
「……預言を覆して、外郭大地降ろして、地殻から解放してくれたら音譜帯に昇る時のエネルギーを利用して送り返してくれるってさ」
「解りました。重ね重ねありがとうございます。では最後に一つ、ローレライに伝言をお願いできますか?」
「ん?なんだ?」
「人様に迷惑かけてんじゃねぇよ一生埋まってろ大馬鹿野郎が」
ぷっちん、と堪忍袋の緒が切れた私の言葉にルークはきょとんとした後、噴出した後に腹を抱えて笑い始めた。
だって私ここじゃ論師じゃないし、猫被る必要ないじゃない。ねぇ?
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