02.常識所持試験開始のタタル渓谷
「とりあえず、ティアたたき起こして辻馬車捕まえてエンゲーブ行きましょうか」
「えー、ティア起こさなきゃ駄目か?今回は別行動で、とかも考えてたんだけど」
「私とルーク様では回復役が居ませんし、何より辻馬車代払わせる人が居ないじゃないですか」
「お前実は鬼畜だろ?」
「ありがとうございます」
「褒めてねぇ」
【常識所持試験開始のタタル渓谷】
ひとしきり笑い終わったルークと簡単な今後のプランを立てる。
ルークはどうもティアと行動するのを嫌がったが、どちらにせよエンゲーブに向かわねばならない理由はあるのだ。
そう、レインである。
私と出会わない限り記憶が戻らないのであれば、遅かれ早かれ彼はライガの元へと向かうだろう。
それは非常に宜しくない。恐らくルークやティアが介入しなければライガの爪の餌食になるのは目に見えているからだ。
そう言えばルークはそれは確かにまずいという言葉と共に早速ティアを叩き起こしにかかった。
やっぱり友達を見捨てる気にはなれないらしい。優しい子だ。
しかしまぁ、ティアと行動するのが不快だというルークの主張もわかる。
加害者なのに自覚もなく、送り届けると言いながら前線に立たせる傍若無人っぷりはルークでなくとも苛っとする。
なのでルークがティアを叩き起こした後、まず行うべきはティアの調教であると私は結論を出した。
私の居た場所のティアは最悪の一言に尽きた。
ルークが居た所のティアもあまり宜しい性格ではなかったらしい。
さて、ココのティアは一体どんな性格なのか。あまり酷いようならばエンゲーブで捨てることも視野に入れよう。
「おはようございます」
「うっ……ここは……貴方は?」
「私はシオリと言います。お名前をお聞きしても?」
「……ティア、ティアよ。ココはどこ?私は確か、」
「オレんちに襲撃かけてきたあと、オレと擬似超振動起こしてココに飛ばされてきたんだよ」
地面に横たわっているティアと視線を合わせるようにしゃがみ込んでいる私と、その背後で公爵子息っぷりを発揮するルーク。
ティアは私達の顔をじっと見比べていたがやがて経緯を思い出したらしく、暗闇でもわかるほど顔を真っ青にしながら勢いよく起き上がった。
「その様子では、どこか欠けてるとかそういうことは無さそうですね。痛むところはありませんか?」
「え、えぇ、無いわ」
「欠けてるて、お前恐ろしいことをさらっと言うなー」
「うまく再構築されない可能性は十二分にありますから。ルーク様も今はどこも悪くなくとも、バチカルに帰還次第一度精密検査をお受けすることをオススメしますよ」
「あー、そうしとくわ」
しゃがみこんだまま私が言った台詞にルークは頭をかきながら適当に答えた。
まあすぐにアクゼリュスに派遣されるのが解ってるんだから、返事も適当になるわな。
ティアはようやく現状を把握できるようになったようで、立ち上がった後に改めて自己紹介をしあう。
私の存在に訝しげな顔をされたが、急に光の奔流に巻き込まれ気付いたらココに居たと言えば擬似長振動に巻き込まれてしまったのねと勝手に結論付けてくれた。
嘘は言ってない。ホントの事も言ってないが。
「こうなってしまったのも私の責任ね。貴方達のことは責任を持ってバチカルまで送り届けるわ」
「では、お言葉に甘えて。お願いします」
「まずは……この渓谷から降りるか」
「そうですね。せせらぎも聞こえますし、恐らく近場に川があるのでしょう。
まずは川を下って街道沿いを目指しましょうか。
では、戦闘はお任せしますね、ティアさん」
「そうだな、お前確か短杖持ってたよな?あとナイフも。んじゃ任せたぞ」
ティアが送り届けると言ったのをこれ幸いといわんばかりに、私とルークで畳み掛ける。
ティアは目を白黒させたかと思うと、ちょっと待ってと私達に食って掛かってきた。
「任せた、って……あなた達、戦わないつもり!?」
「つもりも何も私一般人ですし。そもそも戦闘なんてできませんが」
「送り届けるっつったのお前じゃん。それとも武器も何も持ってないオレ達に戦えっつーのかよ?」
「そ、れは……あ、でもルーク、貴方木刀持ってなかった?」
「お前とかち合った時は持ってたんだけどな。目覚めたらなくなってた」
「そう、なの……」
「ところでティアさんはルークさまにタメ口こいてますが、お二人はお知り合いなのですか?」
意気消沈するティアを見た後、わざとらしく首を傾げてルークに問いかける。
ルークが違うと言ったのを確認し、且つルークがティアが眠りの譜歌を使って家に襲撃をかけてきた経緯を説明してくれた。
勿論本当に知らなかったわけじゃない。事前にルークと打ち合わせした通りの流れだ。
「……えっと、つまりルークさまは完全に被害者ということですか」
「被害者って、随分大げさに言うのね。あれはただの事故よ?」
「大げさ?ただの事故?おかしなことを仰いますね。
眠りの譜歌を使用するのは立派な傷害罪ですし、擬似超振動が意図的なものでないにせよこうしてお屋敷の外に連れ出してしまった事で誘拐罪が成立するでしょう」
「!? で、でも、擬似超振動を起こしたのは私だけじゃないわ」
「しかしティアさんは眠りの譜歌を使用して家宅侵入罪、つまり不法侵入した後、客人に対し殺人未遂を犯しています。
合法的にお邪魔していたのならばともかく、その状態で自分だけのせいじゃないといわれても説得力はありませんよ。
むしろ家人であるルークさまの前で殺人未遂を犯しているわけですから、客人ではなくルークさまを狙っての襲撃だと思われて当然。元々誘拐するつもりだったのかと疑われて当然です。
今頃ファブレ家ではルークさまをかどわかした犯罪者として貴方の情報を集めようとしているでしょうし、貴方が狙ったというグランツ謡将も共犯を疑われているでしょうね。
最も、運良く共犯ではないと判断されても貴方の兄であり上司である以上良い感情が向けられることはありませんし、監督責任などを問われるでしょうが。
さて、ちょっぴり脱線しましたがルークさまは完全に貴方がしでかした犯罪の被害者って私が言った意味、解りました?」
まあそれ以前にルークは貴族なんだから、敬語使うのが当たり前なんだけどね。
私が言葉を重ねるごとに顔から血の気を引かせていくティアを見て、何とかその言葉は飲み込んだ。
どうやら自分が不味いことをした、と自覚するだけの理性と常識はあったらしい。
実に素晴らしいことではないか。一般人なら当然の反応をティアがしただけで素晴らしいと感じてしまう時点で既に駄目駄目なのだが、あえてこれは横に置いておこう。
瞬時にDO☆GE☆ZA(土下座)したティアにルークがびびっていたが、あえてココは放置しておく。
そしてティアの側に膝をついた後、そのむき出しの肩にぽんと手を置いて優しく語りかけてあげた。
「話を戻しますね。私がそもそも言いたかったのは、その被害者であるルークさまととばっちりを受けた私に何故戦闘をさせようとするのかという事なんです。
想像してみて下さい。犯罪の加害者が『今からアンタ送り届けてやるから一緒に戦え当たり前だろ』と被害者に対して言ってるところを。
そんな加害者を反省していると思いますか?謝罪の意思があると思えますか?」
私の優しーい言葉にぶるぶる震え始めたティアが、土下座したままぶんぶんと首をふる。
うん、髪が乱れて非常に怖い。
「じゃあまずはルーク様に謝罪しましょうか。あなた、まだ謝ってないでしょう?」
「申しわけございませんでしたあああぁああ!!」
「解った!解ったからこんな所で大声出すな!!魔物よって来るだろ!!」
「ルーク様がお優しい方で良かったですねぇ。ところでソレ、なんに対しての謝罪なんです?」
「お前もその辺にしてやれよ!良いからティアも顔上げろ!ってのわああぁあ!?魔物キター!?」
「あああぁあ!お逃げくださいルークさまああぁあ!!」
「だから叫ぶなっつーの!!」
ナイスカオス☆
どうやらまともな感性を持っているらしい今にも泣き出しそうなティアに満面の笑顔を浮かべておき、とりあえず持っていた音叉の杖で力任せにプチプリを殴っておく。
音素による筋力強化がなくとも、レベル1のプチプリ程度なら怯ませることくらいは私でもできる。
この後何とかティアを落ち着かせ、まずは渓谷を降りることを納得させた。
勿論、戦ったのはティアだけであることは言うまでもない。
自分弱いのでいざという時は自己防衛して下さい、とは言われたけどね。
栞を挟む
BACK
ALICE+