03.おいでませエンゲーブ
何とか渓谷降りて辻馬車捕まえたよ!
ルークが飾り釦で馬車代払ってくれたよやったねティア!
けどやっぱりローテルロー橋落とされたよ!
物価上がるだろ責任取れよ根暗マンサーいっそそのまま降格されてしまえ。
【おいでませエンゲーブ】
何か今論師じゃないって開放感があって心の罵声が漏れそうだわ。
駄目だねちょっと落ち着こう。言葉の刃も二割増しになってるみたいだし(当社比)。
まあ私の口の悪さはさておき、タタル渓谷で捕まえた辻馬車は次の町までと頼んだのでそこまで高くなかったから、ルークが飾り釦で払うよう交渉してくれた。
ティアは申し訳無さそうにしていたが、密かにホッとしていたのを見逃さなかった。
けどルークとしてはまともなティアというのにいたく感動したようで、ティアがまともならば別に構わないとのこと。ホント優しいね、あなた。
そうして辿り着いたエンゲーブ。
今回はルークが林檎を勝手に食べることもなかったので泥棒に間違えられることもなく、私も手持ちの指輪を売ってガルドを得、何とか宿屋を取ることが出来た。
とりあえずひと段落したことに三人でホッとしつつ、まずは鳩を借りれないか交渉しようかと言う話になった。
というのもローテルロー橋落ちてしまった以上、バチカルに向かうにはグランコクマからの海路かカイツールの関所経由になる。
どちらを経由して帰るにせよ旅券は必須だが、生憎私達は三人とも旅券不携帯。
なので、バチカル直通は無理でもキムラスカ大使館に鳩を飛ばすか、グランコクマかセントビナーの軍基地に鳩を飛ばして保護を求めれば何とかなるだろう、と私が助言したのだ。
ティアがルークの正体を明かすことに反対したが、戦時中ならともかく左官か将官クラスであれば貴族を蔑ろにすることは殆どない。それが戦争の原因になりかねないと知っているからだ。
だから"きちんと教養のある軍人ならば"ルークが公爵子息と知れば丁重の扱うだろうと説明すれば納得したようだった。
ティアも納得したところで宿屋のおっちゃんに聞けば、鳩はローズさんが持っていると言う。
そういうことならと三人で宿を出たのだが、そこでぶつかりかけたのはピンクの制服を着たツインテールの小柄な女の子で。
あらヤダどこかで見かけたことあるわー。
「っとと!ごめんなさい!
あ、あのすみません、ココらへんで緑の髪したぽやーっとした男の子、見かけません、でした……か……?」
案の定、ぶつかりかけたのはアニスだった。
アニスはぶつかりそうになったことを謝った後、私達に質問しようとしてゆっくりと言葉を途切れさせる。
そして私の顔をじーっと見つめながら段々と顔色を悪くさせたかと思うと、やがて冷や汗をかきながら固まってしまった。
アニスの反応に訝しがるルークとティアを横目に、私を見ると思い出すとはこういうことかと、私は密かに納得していた。
「導師からはぐれたんですか?」
なのでにっこりと微笑み、ちゃんと思い出したのか試すようにそう聞けばアニスが大げさなまでに身体を跳ねさせる。
ひっ!?と喉を引きつらせた音が聞こえたのは、きっと気のせいではない。
「ろ、ろろろ、ろん、ってうえええぇえ!?何でアタシこんなことしてんのおおおぉお!?」
「唱士アニス・タトリン!」
「は、はひっ!」
「とりあえず落ち着きなさい。導師守護役たるもの、いつ如何なる時も冷静であらねばいけませんよ。何故貴方以外の守護役が居ないのかとか、何故守護役が導師を見失っているのかとか、聞きたいことは山ほどありますが今は横に置いておきましょう。
とにかく落ち着きなさい。貴方が慌てれば慌てるほど教団の醜聞を撒き散らすことになります」
「も、申し訳ありません!導師のお側を離れてしまった罰則はダアトに帰還次第!」
「過ぎてしまったことは仕方ありませんし、私が責める権利はありません。
罰則が必要ならば導師から通達されるでしょう。
ところで私達は今からエンゲーブの顔役であるローズ夫人の元を訪れる予定なのですが、宜しければ一緒に行きませんか?
導師がエンゲーブの住民に保護されていれば情報が届いている可能性もあります」
「はい!ご同行させて頂きます!!」
先程までの子供っぽい空気から一変し、緊張気味ではあるもののびしりと敬礼を取るアニスに呆気に取られるルークとティア。
あえて説明を省いて二人に行きましょうかと先を促せば、ルークから物凄く変なものを見るような目で見られた。
「……お前、実は偉いのか?」
「ココではただの一般人ですよ?」
「アニスに何したんだよ……」
「私"は"何もしてませんよ」
「つまり他の奴に何かさせたんだな?」
「失礼な、ちょっと再教育を施すよう部下に指示しただけです」
私の発言に胡乱げな視線を向けながらも、ルークはそれ以上追求してこなかった。
というか、ルークを見て更に驚いて飛び上がっているアニスに気を取られたようだった。
アニスはキムラスカの貴族が何でココに!?と驚いているわけだが、それが普通の反応である。
別段驚くことではない。ティアが世間知らずすぎるだけだ。
私とルークを護衛するようにしてパーティイン(?)したアニスと共に、ローズ夫人の家へと向かう。
ノックの後にお邪魔すればそこには案の定、ローズ夫人、レイン、大佐というメンバーが揃っていた。
今すぐレインに駆け寄って土下座し出しそうなアニスの肩を掴んで止め、レインの方をじっと見る。
ドアを開いた時点でレインの視線はコチラに向けられていたのだが、やがて私の顔をじっと見たレインの顔色が段々と青くなっていった辺りでもう良いかなとアニスの肩から手を離した。
「イオンさまああぁああ!?」
顔から血の気を引かせ、音もなく倒れそうになったレインをアニスが見事なスライディングで下敷きになった。
実に素晴らしい主従愛ではないか。
お気を確かに!と叫ぶアニスを横目に、突然倒れた導師にどうしたものかと慌てるローズ夫人に挨拶した。
挨拶どころじゃないでしょうとティアに怒られた。
「あ、そ、そうだわ!治癒術!治癒術は必要ですか!?」
「この場合はリカバーになるんでしょうか?」
「その前に水とかじゃねーの?」
「そうですね、椅子に座らせてあげて水を飲ませてあげるのが一番ではないでしょうか。
それでも気分が悪いというのであればリカバーをかければ良いかと。アニス!」
「はい!」
私の言葉を聞いたアニスがローズ夫人に水を頼んでからレインを椅子に座らせる。
ついでに持ってきた椅子を私とルークにも勧めたあたり、教育は上々のようである。
レインを落ち着かせるという意味でも私は隣に座り、ついでにティアの手を引いて入れ知恵をしておくことにした。
「自主的にルークさまの護衛をしておけばキムラスカに辿り着いた際、反省していたと言うアピールになりますよ」
「そ、そうなの?」
「自分が巻き込んでしまった相手を精一杯守ろうとしたという証明になりますし、そういった人間の方が好ましく映るのは身分は関係ありませんから。
最も、中にはそんな事して当然だろうという人も居ますが、どちらにせよしておいた方がよいことには変わりありません。
それと不用意な発言は控えた方が宜しいでしょう。
自分が世間知らずなのは解ったでしょう?
何かあったらそれとなくフォローはしますが、出してしまった言葉は消せませんから、どうぞご注意を」
「そ、そうね……解ったわ。大人しくしていることにする」
素直に頷いたティアは、レインに水を飲ませた後背後で直立不動になったアニスをまじまじと見た後、同じようにルークの背後で直立不動になる。
どうやらアニスを真似することにしたらしい。まあ悪い判断ではないだろう。
ルークはそんなティアに目を丸くしているが、私がにっこりと微笑めば何とも言えない顔になった。
なんだよ、文句あるなら言ってみろ。
「イオン様、あまり体の調子が優れないようでしたら艦へ戻ったほうが宜しいでしょう」
そんな中、紅茶を飲み終えたらしいジェイドがレインに声をかけている。
遅いよ。倒れた時に言えよ。
水を飲んで落ち着いたらしいレインはふるふると首をふった後、私をじっと見てからローズ夫人へと向き直った。
「突然倒れてしまってすみませんでした。出来れば彼女と一対一で話したいのですが、どこか部屋を貸していただけませんか?」
レインの申し出を聞いたローズ夫人は、レインの体調を気にしながらも快く隣室を貸してくれた。
ジェイドの視線が煩かったがそれを綺麗に無視し、レインと二人になることができた私は早速情報交換をする。
どうやら原作通り、レインはジェイドとアニスのタッグの力を借りてダアトから出てきたらしい。
何でこんなことを、と今すぐにも頭を抱えだしそうなレインを落ち着かせ、何故ココに居るのかという説明をすれば苦虫を噛み潰したような顔になるレイン。
出てきた言葉はこれだった。
「つまりとばっちりですか」
「そうとも言います。しかし送られたものは仕方ありませんし、帰る方法が限定される以上そうする以外道はありません」
「……大筋はわかりました。とにかく、至急ダアトに連絡を取ります。
それとキムラスカには謝罪を、マルクトにはジェイドへの抗議と、チーグルの森へアリエッタを派遣する許可を頂かなければいけませんね」
「シンク達とヴァンは接触しなければ何も始まりません。
恐らくタルタロスへ襲撃をかけてきますから、まずはそこでアッシュやリグレットと接触を図るつもりです」
「それが貴方の知るシナリオなんですね?解りました。お願いします」
「念のためジェイドには最早ダアトは仲介役に相応しくなくなったことを伝えてもらえますか。
彼がそこでダアトの仲介を諦めるほどまともであるのであればそれに越したことはありませんし、別ルートを考える必要がありますから」
「解りました。まずは手紙を書いて……そのあとジェイドですね」
「ええ。私はローズ夫人に鳩の手配と便箋を分けてもらえるようお願いしてきます。
それともしルークが嫌がるようであればそちらを優先しますが、宜しいですか?」
「はい。むしろルーク殿の意見を一番尊重すべきでしょうね」
「本来ならば、ね」
ぽんぽん段取りを決めた後、そんなやり取りをしてから部屋を出てそわそわしていたローズ夫人に便箋と鳩の手配を頼んでおく。
ドアの外で待機していたアニスに入室を許可した後、ルークとティアの元へと戻れば何故か二人は兵士に囲まれていた。
「……これは一体何事ですか?」
「おや、丁度よいところに。イオン様とのお話は終わったようですね」
「ええ。なので現状に関して説明をお願いしたいのですが」
「いえいえ、ちょーっと艦へご同行をお願いしたいだけですよ。
最も、素直に従っていただけない場合少しばかり痛い目を見ることになりますが……」
意味深に言葉を切り、私を見下ろしてくるジェイド。
ティアはルークを背に庇いながらもパニックに陥っているようで、涙目になりながら私に助けを求めてきている。
けどその背後のルークは呆れた表情でため息をついているのでそこまでパニックになる必要はないと思うよティア。
「マルクトの底が見えたようで頭痛がしそうですが……どうされますか、ルークさま」
しかしまぁ、こうなれば後の展開は目に見えている。
同時にこの根暗マンサーに何を言っても無駄だという諦めが胸の内を締め始め、ルークに判断を仰げば着いていけば良いんだろう?と気だるげなお返事。
成る程どうやら彼は最初から諦めていたらしい。
「良い子ですねー。連行せよ!」
ジェイドの声と共に、兵士達が私達三人を取り囲んだ。
ティアはまともなようだが、ジェイドはそうでもないらしい。
面倒だという感想が胸の内から湧き上がり、私はこの世界に着いて初めてのため息を漏らすのだった。
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