04.強襲、タルタロス
以下はピオニー陛下に届いた導師イオンのお手紙。の、要訳。
拝啓。
お久しぶりですピオニー陛下。導師イオンです。貴方の戴冠式以来でしょうか?
僕は身体が弱いためにあまりダアトの外に出られない己をふがいなく思う日々を続けておりますが、いかがお過ごしですか。
本日こうしてお手紙を出したのは他でもありません。
貴方の名代を名乗る男がダアトで信者煽って内乱もどきを起こした挙句、導師を誘拐したんですけどどういうことでしょうか?
ついでに言うなら誘拐されマルクトに来てしまったキムラスカの公爵子息を連行した挙句、和平に協力しないなら牢屋にぶち込むって言って本気で牢屋に入れてますけど。
これはアレですか。国の存亡をかけた懇親のブラックジョークですか。
和平の使者に死霊使いと名高いジェイド・カーティスを起用した辺りでそんな感じかなとか思ってたんですが、なるほど僕には理解できません。
これが俗に言うカルチャーショックという奴なのでしょう。
中略
それでこのマルクト滅亡フラグを立てまくっている自称名代殿はどこで回収してくれるのでしょうか?
このままでは和平どころではないと大佐に言っても僕が居れば大丈夫だと言って話になりません。
お恥ずかしい話ですが、公爵子息を誘拐したのは末端の教団員ですのでどう考えても最早仲介役にすらなれないと思うのですが、大佐は僕の意思ではないのだから大丈夫だと言って理解してくれません。
至急お返事をいただけたらと思います。
敬具
P.Sエンゲーブで聖獣チーグルによる農作物盗難事件が発覚いたしました。
チーグルは教団の聖獣ですし、幼獣の異名を持ち魔物とコミュニケーションをとることができるアリエッタ響手を派遣しても宜しいですよね。ありがとうございます。
その手紙が届いた日、グランコクマの宮殿では皇帝の叫び声が響いたという。
【強襲、タルタロス】
ガッシャーンと音を立てて無情にも締まる牢屋。
一緒に牢屋にぶち込まれたティアは既に泣きそうだ。
が、その隣でルークは非常に楽しそうにしているので、ティアも少しはルークを見習えば良いんじゃないかと思う。
「いやー、本気で牢屋にぶち込むとはなー」
「脳味噌が足りてないんでしょう。常識を持っているならば和平を申し込む相手の国の公爵子息を牢屋にぶち込むなんてできませんから」
「いやいや、アレでも天才なんだぜ?アレでも」
「天才とは時に狂人と同意義だそうですよ」
「何呑気に話してるのよ!アレはどう考えてもルーク、さまと貴方が悪いんでしょー!?」
最早本気で泣きそうなティアの叫び声に私とルークは阿呆な会話をぴたりと止めた。
「……これも世間知らず、に入るのか?」
「いえ、一概にそうとも言えませんよ。やはり王侯貴族と一般人の常識は違いますから」
「ああ、それもそうか。
まあいいや。時間もあるだろうし、ティア、ちょっと落ち着け。
ちゃんと説明してやっから」
「良かったですねー」
固いベッドの上に腰掛けたルークに手招かれ、ティアは隣にちょこんと座った。
自分が過去にされたように呆れて放置することもできるだろうに、それをせずにちゃんと説明をしてやるルークは本当に優しいと思う。
まず、ジェイドはルークとティアに対しきちんと事情聴取をしなかった。
何故国境を越えたかはルークの扱いを考える上でも、そうでなくとも捕縛したというのであればきちんと調べなければいけない事柄であるにもかかわらず、だ。
この時点でまずルークはジェイドはまともな軍人ではない、という感想を抱いていた。
次にルークが貴族であると解っていながら礼を失した点。
軍人ならば礼儀は叩き込まれる筈で、それができて居ない時点でこの男はまともな教育が施されていない、ひいてはマルクトは軍人にまともな教育を施して居ないということが読み取れる。
勿論不法に国境を越えた犯罪者だからという言い訳は通用しない。
ルークは誘拐による被害者であり、この場合国境を不正に越えたというのは適応されないからだ。
勿論、知らなかったという言い訳は通用しない。
どう考えてもきちんと事情聴取をしなかったジェイドの自業自得である。
こういった経緯がありルークの中ではジェイドに対する不信感がぐんぐん育っていたのだが、そこでもたらされた和平の取次ぎ。
信頼がなければなしえない事であるし、ルーク自身の面子というのもある。
ジェイドは信頼を得る努力をしなかったが故に、まともな軍人ではないと判断したルークは当然のように断った。
むしろこれを和平の使者だと連れて行けばルークが頭の具合を疑われるレベルだとルークは判断したのだ。
そもそもルークは保護を願い出る立場であり、政治のためにきていたわけではない。
更に言うならば、軟禁されている以上政治的な影響力は皆無に等しい。
なのでルークは断った。結果、不法入国者としての投獄。
冤罪の上に不敬罪を重ね侮辱罪を塗りたくった挙句不法投獄を行ったのである。
マルクトはキムラスカに喧嘩を売っているのかと言われても否定できないだろう。
たった一人の、愚かな軍人のせいで。
ルークの口からジェイドの行動の不味さを説明されたティアは先程とは違う意味で顔色を真っ青にしていた。
ほんの僅かな対応の差で戦争になりかねない。それが貴族の世界なのだと知り、恐ろしいとぷるぷると震えていた。
「とまぁ、大体は理解したか?」
「わ、わかったわ。さっきは何も知らないのに生意気なことを言ってしまってごめんなさい。
貴族の世界って私が想像していたよりもずっと過酷なのね……ところで、ルークさまは貴族だからわかるのだけれど、どうしてシオリもそんな普通に対応できるの?
一般人って言ってなかった?」
「ええ、ココでは一般人ですよ」
「……?それはどういう、っ!?」
質問を遮るように、耳を劈く警報が鳴り響いた。
反射的立ち上がって戦闘体勢をとったティアは、間髪入れずにルークを背に庇う。
それを横目に見て素晴らしい反応だと思いながらも、私はルークとアイコンタクトを取る。
「襲撃のようですね」
私の一言にティアは顔を強張らせ、ルークはにやりと笑った。
すぐに動きたそうなルークを抑えつつ管制から聞こえる声から判断するに、どうやらグリフィンの集団による襲撃を受けているようだった。
やはりアリエッタかと判断しつつ、どうしたものかと一瞬迷う。
ココでアッシュとリグレットを抑えておきたいところだったが、生憎と今の私は牢屋の中。
いっそのことココで待機でも良いんじゃないかと思えてしまうのは私が戦えないせいか、はたまた単純に怠惰なせいか。
うずうずしているルークの横で悩んでいた私だったが、その答えは全く予想外な方向から決定へと導かれた。
なんとまともな常識を持った第三師団の軍人に、今のうちにお逃げくださいと牢屋から解放されたのである。
彼は土下座せんばかりにルークに謝罪していて、ティアもまた彼と結託すれば外に出るくらいは出来るのではないかと言った。
確かに、ナイトメアがあればそれも可能だろう。
「あまり賛成はできませんが……どうします?と聞いても答えは決まっているのでしょうね」
「解ってんじゃねーか。安心しろよ、守ってやっから」
「今の貴方は守られる側でしょう?」
「自己防衛ぐらいはしなきゃいけないだろ?なぁ?」
「そのようなことにならないよう精一杯護衛をさせていただく所存です」
「あー、周囲の目がないところならそんな畏まらなくて良いぞ。オレも堅苦しいの好きじゃねぇし、ちゃんと弁えてる奴なら気にしねえよ?」
「あ、ありがとうございます!!」
なにやら感動している兵士さんはさておき、結局脱出するらしい。
しょうがないので兵士さんとティアに守ってもらいつつ、牢屋を出て出口へと向かう。
途中どうしても通らないといけないとかで甲板に出たのだが、案の定エンカウント。
戦う兵士さんとティアを心の中で応援する傍ら今すぐにでも飛び出しそうなルークを何とか抑えていたら、上から声が降ってきた。
「はっ!守られっぱなしとはとことん屑だな出来損ない!!」
途端、上空に冷気の気配がしたかと思うとルークに抱えられて床に転がる羽目になった。
何度か回転した後先程立っていた場所を見て見れば強大な氷柱が床に突き刺さっている。
成る程、あれがアイシクルレインか。
「鮮血のアッシュ!」
魔物を倒し終えた兵士が頭上を見上げながら剣を構え、ティアがいつでも譜歌を歌えるように短杖を構える。
そんな中私はルークの腕の中から顔を出してアッシュをじーっと見れば、私の視線に気付いたアッシュが声を張り上げた。
「あ!?何見てんだこの屑、ぅ……ううううぅぅううぅ!?」
「あ、落ちた」
どうやら上に立っていたらしいアッシュだが、間抜けな叫び声をあげながら落っこちてきた。
頭を打ちながらも呆然と私を見ているので、何となく微笑んでおけば大げさなまでに肩を跳ねさせる。
「屑、ですか」
ルークの手を借りて立ち上がった私がぼそりと呟けば、またアッシュの肩が大きく跳ねた。
いつの間にか正座をしていたアッシュだが、今すぐにでも土下座に移行せんばかりの怯えっぷりだ。
なので私はアッシュへ歩み寄った後、怯えるアッシュの肩にぽんと手を置く。
「良いです。事が事ですので不問にして差し上げましょう。
ところで現在私は非常に面倒な事象に巻き込まれておりまして、できれば他のメンバーにも事情説明をしたいのですよ。貴方だってこのまま何も知らない状態は嫌でしょう?
リグレットとラルゴとアリエッタは最低でも同船していますよね?」
「しております!」
「では私が頼みたいことは……解りますね?」
「畏まりました!!」
「お願いします」
あいつ等も連れて来いと言う命令を汲み取ったアッシュは、どこにいやがるんだこの屑があああぁああと叫びながら三人を探しにいった。忙しい事である。
私はそんなアッシュを手をふりながら見送り、見送る私に対して兵士さんとティアは呆気に取られていた。
勿論その後連れてこられたラルゴ・リグレット・アリエッタの変貌振りに対し、兵士さんとティアが更に首を傾げるはめになったのは言うまでもない。
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