05.誤解を招いたセントビナー
彼等を見て一つ思ったことがある。別に非常識事態は迷惑ではないのだ。
ティアは世間知らずゆえの非常識っぷりを発揮していたが、彼女は人の意見をきちんと受け入れて反省し同じ事を繰り返さないよう気をつけている。
しかし彼等はどうだ。
非常識な上に自信過剰で、自分が信じていることを疑いもしない上、白い目で見られていることに気付かないほどの鈍感っぷり。
更には間違いを指摘すれば呆れた視線を向けられ、子供の言う事だと笑われもする。
反省と学習の二文字を知らないからこそ、彼等はこんなにも人の神経を逆なでするのだと私はようやく理解した。
【誤解を招いたセントビナー】
何とかラルゴ達と接触することに成功した私達は、結局タルタロスから降りる羽目になった。
というのもリグレット達とレインを迎えに出ていた私やルーク、ティアなどの間に大佐が割り込み、ガイと共に無理矢理レインを連れて行ってしまったためである。
連れ去られたレインを見てまずルークとアニスが追いかけ、続いてティアが私の手を掴みルークの跡を追いかけたのだ。
お陰で私は長距離を延々と走らされる羽目になり、最終的に息も絶え絶えになった私を見たティアからぺこぺこと謝られるというオチがついた。
「何故私の手を引っつかんだんですか……」
「ご、ごめんなさい。つい反射的に……それに貴方が居ないと不安だったのよ」
「私は貴方の保護者じゃありません」
「ごめんなさい……」
しゅんとするティアを見てため息をつく。だが着いてきてしまったものは仕方が無い。
リグレット達と居たことに猜疑の目を向けられたが、ダアトにも色々あるんですとレインが言ってくれたお陰で槍を向けられることはなかった。
余談だが、やっぱりカーティス大佐は封印術を使われたらしい。ざまーみろー。
「タルタロスは奪われてしまいましたが、ココで諦めるわけにはいきません。幸い親書もイオン様も無事ですし、ルークも居ます。このままバチカルに向かいますが、宜しいですね?」
が、へこたれない大佐の発言にガイとティア以外が白い目を向ける。
ガイはそうだなと頷いているのだが、ティアは新たに知った常識とジェイドの言っていることがかみ合わずにプチパニックに陥っていた。
とりあえずジェイドの言っていることは全て非常識だと思っておけば間違いないと後で教えておく必要があるだろう。
「それなのですが、このまま直通でカイツールを目指すのですか?」
「おや、何かご不満でも?」
「私も導師も身体が丈夫とはいえませんし、途中補給も兼ねてセントビナーに寄って頂けたらと思いまして」
しかしまぁ、ココでジェイドに逆らうのは得策ではない。
いっそのことティアとルークで袋たたきにしてもらうという手もあるが、ガイが厄介だ。
それ位ならば安全の確保という面も考えて、セントビナーでシンクやディストと合流しきったところで叩いた方が得策だ。
シンクが未だ原作通りならば、セントビナーで導師奪還のために検問を敷くのはほぼ間違いないだろうし。
幸いレインが私の案に乗ってくれたため、一度セントビナーで補給をし装備を整えてからカイツールへ向かうという事で話が着いた。
問題はココからはルークも戦闘に参加すると言い出したことだ。
これはガイとジェイドの案にルークが乗った形になる。
ティアやアニス、私やレインは最後まで反対したのだが、本人が戦うと言っているのだからと言って押し切られてしまった。
「……良いのですか?」
「へーきへーき。殺さないくらいの手加減はできるしさ。心配してくれてありがとな。
それにやっぱ守られっぱなしっていうのも性に合わないんだよなー」
「……ありがとうございます」
「何でお前が礼言うんだよ?」
「守る対象が導師だけでなく私も居るから……戦闘に参加しようと思ったのでしょう?
彼らだけでは、私と導師を守りきることは出来ないと」
私がそう言えばルークは頬をかき、あーとかうーとか言いながら視線を泳がせる。
やはり当たっていたようだと思いながら、スカート越しに太ももに固定している小銃を撫でた。
私も戦うべきなのかもしれない。少なくとも、威嚇くらいは出来るだろう。
そう思うものの、踏ん切りがつかない。やっぱり、怖いのだ。
私自身には治癒術が効かず、怪我をしたら自然治癒に任せるしかないというのもあって、余計に。
そんな私の迷いを見抜いたのかどうかは解らないが、俯いて唇を噛む私を見たルークは苦笑をもらし、私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
予想外のことに思わず顔を上げれば、柔らかく笑うルークが居る。
「例えそうだとしても、だ。オレがそうしたいと思ったからそうするんだから、お前が気にすることじゃねーよ。
それに弱い奴に無理させたってしょーがないだろ?
それでも気にするっていうならオレの代わりにジェイドやガイの相手してくれよ。
オレはあいつ等の相手する方がめんどくせー」
だるそーに言われた言葉に思わず私も笑みを零してしまう。
ルークに辛気臭い顔をしてしまったことを謝ってから、戦闘は任せることと対外交渉は任せて欲しいことを告げてセントビナーまで宜しくと改めて頭を下げた。
余談だが、私に持たせてんじゃねぇよと言わんばかりに嫌味全開のアニスが親書をジェイドに突っ返してたのに笑った。
そうして辿り着いたセントビナー。
案の定六神将が検問をしいていて、私達は柱の影に隠れジェイドとガイは検問をどう突破するか話しあっていた。
どうも何も普通に突破すれば良いだけだと、ルークとアニスに一時的にガイとジェイドを抑えこんでくれるよう頼んでおく。
更に六神将に交渉するので、私が合図したらアニスとティアの誘導でイオンとルークをあの馬鹿二人から引き剥がし保護するよう指示をしてから私は普通に歩み寄った。
兵士にとめられそうになったものの、リグレットを呼んで手をふればラルゴ達が慌てて私を引き入れてくれる。
そんな私の対応に訝しげな顔をするシンクだったが、私がシンクの前で腕を組み仁王立ちになりなってにらめっこをすれば、シンクは段々と顔色を悪くさせた後声なき悲鳴を上げた。
もうこの反応にも慣れました……。
「ちょっ、え!?はぁあああぁ!?」
「落ち着きなさい」
「え、あ、うん……って、ええええぇええ!?」
「落ち着けつってんだろ」
再度叫ぶシンクにチョップを落とし、その叫び声に何事ですかと空中から降りてきたディストとも顔を合わせる。
やっぱりディストも叫び声をあげたので、こっちは蹴りを食らわせておいた。
「事情は後で説明します。すぐに検問を解きなさい。そしてセントビナー軍基地に弁明を。
ああ、話したいことがありますので軍基地には私も同行します。グランコクマには誰が?」
「スピードを優先するため、アリエッタに書状を持たせて向かわせました」
タルタロスでグランコクマに至急連絡をと指示しておいたのだが、どうやらリグレットはすぐに動いてくれたようだ。
勿論、タルタロス襲撃に関してはモースに全部押し付けるつもりは満々である。実際モースの指示だしね。
「どちらも非がある状況です。問題の芽は早急に摘まねばなりません。交渉は迅速に、しかし確実に当たれる人選をお願いします。
タトリン奏手!グランツ響長!」
「はい!イオン様、コチラへ!」
「ルークさま、お早く!」
私が呼んだことによりティアとアニスに手を引かれてイオンとルークが柱の影から飛び出してくる。
慌てて追いかけてきたガイとジェイドはよく解らないもののとりあえず捕まえておけとシンクが指示したことによりあっという間に神託の盾兵に捕縛された。ナイスシンク。
そうこうしている間にも次々に兵士から伝令が集まってくる。
「軍基地にアポイントメントをとったところ、責任者であるマクガヴァン将軍がすぐに来てくれて構わないと仰っておりました」
「宿屋を抑えましたので、いつでもお休みいただけます」
「検問撤収準備完了しました」
報告を聞き流しながら、ようやく保護されたことにホッとしているレインとルークに対し、疲れているところを申し訳ないが軍基地に行くので付き合ってほしいと頼む。
二人は快諾してくれたため、現状説明と謝罪のために早速セントビナー軍基地へと向かうことになった。
六神将に囲まれながら軍基地に向かう最中、ふと気になったのでラルゴに問いかける。
「そういえばアッシュはどうしていますか?」
「リアンが心配だからダアトに戻ると言っておりました。この時期に戻るのは愚策かとは思ったのですが己自身も不安だった故に強く止められず……」
「そういえばあの二人は情報部に入って以来よく一緒に居ましたね……構いません。むしろ彼の容貌を考えれば一度引っ込んでもらった方が良いくらいです。
ラルゴ曰く、アッシュはフローリアンを迎えに行ったのだと言う。
この時期のフローリアンはモースに軟禁されていた筈なので、アッシュが保護に向かったのであれば心配は要らないだろう。
アッシュにもかいつまんで事情を説明してあるので、フローリアンを保護したら私の元に連れてくるだろうし。
こうして全員で軍基地に向かった私達はマクガヴァン将軍に一通りの事情説明をした後、暫くセントビナーに滞在してほしいと頼まれたためにそのまま宿屋へと向かうことになった。
最初は懐疑的だったマクガヴァン将軍も実際にダアトで暴動が起きたという情報を入手していたことと、導師本人の証言もあって最終的には謝罪をしてくれた。
しかしダアトも導師奪還のためという名目があるとはいえ、タルタロス襲撃というアチャチャーなことをしてしまっている。
なのでまだ正式に謝罪を受け取るわけにはいかないということも、マクガヴァン将軍だけではことを収束させることは出来ないだろうということにも、同意してくれた。
この中では唯一誰の加害者でもないルークの意見を最優先させるべきだろう、ということも。
ちなみにジェイドは導師誘拐と暴動を先導した罪で牢にぶち込まれたらしい。ざまーみろー。
そうして全員の意見を纏め終わった後、ようやく宿屋で一休みすることが出来るようになった私達だったが、何故か当然といわんばかりに私とシンクが同室になった。
文句はない。文句はないが、とてつもなく抗議したくなる気分になるのは何故だろうか。
先程もなるべくレインを立てて説明しようとしていた中、シンクが参謀総長としての顔を見せつつも私にばかり話をふるので非常に困っていた。
恐らくマクガヴァン将軍は今頃私を要人か何かだと勘違いしているだろう。
なのでそれに関してシンクに注意しようと思ったのだが、何故かぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
待て、このハグは一体何だ。
「ごめん。危険な目に合わせて……こんなんじゃ守護役失格だ」
「別に平気よ?怪我だってしなかったし、それにシンクの意思で私の側を離れたわけじゃないんだから、」
「それでも、シオリを守るために僕達は存在するんだ。
魔物が跋扈する渓谷に守護役もなしに居たとか、マルクト軍人に牢にぶち込まれたとか、襲撃にかち合ったとか、セントビナーまで徒歩で移動したとか守護役長たちが知ったら卒倒するよ」
「……シンク、もしかしてさっき私にばっかり話をふってきたのは、私がこの世界に来てどんなことをしてきたか情報収集するためだったわけ?」
「そうだけど、なに?」
「時と場所を考えろ!」
「別に良いじゃん。マクガヴァン将軍も当事者でありながらも冷静に客観的な報告をしてもらえるのは非常にありがたいって言ってたし」
そういう問題じゃない。
文句を言いたいのをぐっと堪え、不安にさせてしまったのだろうととりあえずシンクの頭を撫でておく。
私が知るものよりも幾分か背の高いシンクに違和感はあったものの、中身は変わらないので安心感もひとしおだ。
背中をぽんぽんと叩けば、何故かシンクに抱き上げられソファに押し倒された。
「シンク……?」
「ちょっと身体に違和感があるんだけど……それでも何か良いね。シオリがちっちゃいや」
「そりゃこっちじゃシンクは14歳だからね。でもちっちゃいは余計」
「だってホントのことだろ。ねぇ、いい?」
「私がいやって言うと思う?」
「思わない」
ソファに押し倒されたまま、そんな会話をする。
私の許可を得た(?)シンクが仮面を外さないまま私の胸元に耳を押し当てた。
身体に絡みつく腕もまた、私が知るものより硬く筋肉質だ。
そんなシンクの頭を撫でながらぼんやりとしていたら、今までの疲れがドッと出てきたのか段々と瞼が重くなってくる。
「リグレット達にも……詳しい説明をしないと」
「夜で充分だよ。今はバタバタしてるし」
「そうだけど……やっぱり、」
「良いから。今はゆっくり休みな。疲れただろ」
シンクの腕がするすると動き、私の太ももを抱えて膝を立たせたかと思うと慣れた手つきでブーツを脱がせる。
なんか変態染みているなぁというおかしな感想を抱きながらも眠気に抗えずされるがままになっていると、カチャリという音を皮切りに鈍い音が連続して響いた。
瞬間、私の意識も無理矢理覚醒させられる。
起き上がって音のした方向を見れば、開いたドアのところで何故かルークを下敷きにしてレインとアニス、そしてティアがいた。
ティアは顔を真っ赤にしているし、レインとアニスは愛想笑いをしている。
どうでも良いけどルーク潰れてるよ。早くどいてあげなさい。
「何か御用でもありましたか?」
「えー……その、ですね。あ、あははは。行きましょうか、アニス!」
「あ、ああ、はい!行きましょうイオンさま!」
「あ、おい!オレを置いて逃げるなよ!裏切り者ー!」
「ルークさま、わ、私達も逃げましょう!」
「一番下っ端が責任取るに決まってるだろ、逃げるんじゃないよこの除き魔!」
ルークを起き上がらせながら言ったティアに起き上がったシンクが詰め寄る。
バタバタとせわしなく逃げ出すルーク達の背中を見て、また弁明するのが大変だなと苦笑するのだった。
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