06.トリップしたよ全員集合in国境カイツール


セントビナーに逗留すること早一週間。
マクガヴァン将軍は結局私を要人と勘違いしたままだった上、シンクとレインで相談したとかで私は導師相談役とかいう見たことも聞いたこともない役職に就いていることになった。
まだ内々の話なのでマルクトやキムラスカには伝達していないのですよ、といけしゃあしゃあとうそをつくレインは一体誰に似たのか。私か。いや、イオンだと思いたい。

曰く、導師相談役とは軍事及び政治に精通した存在であるらしい。
これからも末永く導師を支えられるようあえて同年代の少年少女に特別な教育を受けさせ、その上で導師に相応しいと判断された者のみが就けるらしい。
そういう設定なので話を合わせて下さいねと笑顔で言われた。
そしてあっさり騙されるマクガヴァン親子と、この親子が統治しているセントビナーの行く末がちょっとだけ心配になった。

しかしまぁそういう設定ならばそういうものなのだと受け入れるしかない。
晴れて私は導師相談役として特別扱いを受けることになり、レインやルークと同じく護衛をされる身の上となった。
そこは私が治癒術が効かないという特殊体質故という理由も加算されてはいるものの、一番大きい理由はその地位や体質よりも、ルークが私を側に置きたいと駄々を捏ねたことだろう。
面倒臭い手続きやお偉いさんの相手は宜しくなと笑顔で言い切ったルークは、とりあえずアッシュ専用と書かれたハリセンで殴っておくことにする。

そんな訳でルークをバチカルへと送るために辿り着いたカイツール。
記憶を取り戻して土下座するヴァンはさておき、予想外な方向から耳に届いた聞き慣れた声に、私の口角は知らず知らずのうちに上がっていた。



【トリップしたよ全員集合in国境カイツール】



「ご苦労様です、レイン。貴方がマルクト軍人に攫われたと聞いた時はどうしたものかと思いましたが、怪我一つなく再会できたことを嬉しく思いますよ」

国境。
マルクト側で顔を合わせているところに、キムラスカ側からやって来た緑の髪の少年に全員の視線は集まっていた。
優しげな微笑みも、金色の音叉の杖も、私の隣に立っているレインと同じだ。
まるでコピーしたような、と表現すると陳腐かもしれないが、その言葉は彼らにとって事実となるのだからたちが悪い。

鏡合わせのようにそっくりな彼らだったが、唯一違うのはその新緑の瞳の奥だろう。
年齢にそぐわない老獪さと狡猾さが潜む瞳を猫のように細める彼は、間違いなく私の悪友で。

「遠路はるばるご苦労様です、導師イオン。お体の加減はいかがですか?」

「なんの。ダアトの一大事とあれば病身の身に鞭を打ってでも立ち上がりましょう。
しかし貴方も巻き込まれているとは思いませんでしたよ、シオリ」

元祖導師ことオリジナルイオンに向かって、私はにっこりと微笑んだ。
レインもイオンの言わんとしたことを察したのだろう。
優しげな微笑みを浮かべた後、イオンに向かって深々と頭を下げる。
イオンはルークに挨拶をした後、レインの方へと向き直り再度無事を喜んだ。

「尊き御身を傷つけられることに比べれば、影武者の僕が攫われるなどたいしたことではございません。ご無事で何よりです、導師イオン」

「レイン、影武者といえど貴方は僕の兄弟のようなもの。本当に無事でよかった。
長旅ご苦労様です。貴方の身には人一倍辛いものだったでしょう。帰ったらゆっくりと休んでくださいね」

「ありがとうございます」

なるほど。どうやらイオンは私と同じようにコチラに体が構築されたようだ。
にも関わらずシンクやレインと同じ14歳の肉体を持っているのはローレライの悪戯かなんなのか。
考えてもせん無いことなので今は横に放っておき、一人パニックになっているティアは足を踏んでとりあえず落ち着かせておく。

しかしティア以上に驚いているのは、恐らくマルクト軍人勢だろう。
何でか着いてきているジェイドなどはぽかーんとしているし、ルークの護衛として派遣されてきたフリングス将軍なども軽く目を見開いている。
つかジェイドの罷免のお知らせはココで届くんだろうか。
フリングス将軍を初めとしたマルクト軍人さんがたに見張られているとはいえ、コレが皇帝名代といわれても敬う気が全く起きないのだが。

「アニス・タトリン奏長。たった一人でのレインの護衛、ご苦労様でした。
直ちに導師守護役部隊に合流し、英気を養った後、職に復帰してください。
レインを誘拐されてしまった罪に関しては、レインを怪我一つなく守りきったことにより不問と致しましょう。

アッシュ響士も付き添いご苦労様です。フローリアンと共にコレ以降はシンク謡士の指示に従ってください。
レイン、貴方はシオリと共に僕の補佐をお願いいたします」

イオンがてきぱきと指示を出し、名前を呼ばれた面々が次々に返事と共に頭を下げていく。
マルクト陣営をまるっと無視しているのはその性格の悪さ故と言っても過言ではないだろう。
内心それに苦笑を覚えつつ、シンクがアッシュとフローリアンを私の護衛に回す指示を出していることに感謝した。
フローリアンとも後で顔を合わせる必要があるだろう。

「さて。ではキムラスカに参りましょうか。末端とはいえ、教団員がルーク殿を誘拐してしまったことをお詫びしなければなりませんからね。
ヴァン、貴方は神託の盾の指揮をお願いいたします。モースに手綱を握られないよう、お願いいたしますよ?」

「肝に銘じておきます」

「それで、そちらが今回の件を引き起こした貴方の妹ですね?」

イオンが深々と頭を下げたヴァンの隣で、視線だけをティアへと移す。
ルークの背後に立っていたティアはその視線を向けられた瞬間、蛇に睨まれた蛙よろしくピキンと綺麗に固まってしまった。
それを見たイオンがちらりと視線を寄越してきたので、可愛いでしょう?と口にする代わりに笑みを作りながら頷いておく。

「そこに立っているということはルーク殿の護衛をしていると言う事で宜しいですか、ティア・グランツ響長」

「は、はい!」

「そうでしたか。ルーク殿、彼女の護衛は不快ではありませんか?」

「いや、責任持ってバチカルに送るって言ってくれてるし、実際俺のこと守ろうと頑張ってくれてるからな。別にこのままで良い」

「そうですか。ではそのように。
っと、ルーク殿も長旅でお疲れでしょう。お気づきできず申し訳ない。
旅券は何故かヴァンが持っているようですし、一度マルクト側の宿屋でお休みなられてはいかがでしょうか。
そして叶うのであれば、今までの旅路についてお話をお聞かせいただけたらと思います。
勿論、ルーク殿がよければの話ですが」

「かまわねーよ。んじゃ、行くか」

「では、私は六神将に指示をしてまいります。シンク、お前は残れ。
ルークとシオリ殿をお守りするのだ。そして動きがあれば私へ連絡を。いいな?」

「はっ」

話が纏まりダアト勢+ルークのパーティはぞろぞろとマルクト側の宿屋へと足を踏み入れた。
キムラスカ貴族に導師イオンというとんでもない客に宿屋の兵士さんは固まっている。
そんな兵士さんを何とか覚醒させたアニスは一番大きな部屋と個室を三つ抑え、とりあえずまずは情報交換をということで一番大きい部屋へと全員で歩を進める。

しかしイオンがマルクト軍勢を綺麗に無視していたことに全員気付いていただろうに、誰もそれに対して突っ込まなかった。
そして多分、ソレが正解であると思っているのだろう。
カーティス大佐方が来られてもお通ししませんのでご安心を、といってアニスはドアの前に立って警備を始めたのだから。
とりあえずティアにはアニスと一緒に部屋の外で待っているよう言っておいた。

最終的に室内に残ったのは、私、レイン、イオン、シンク、アッシュ、ルークのメンバーである。
しかもアッシュはルークに頭を下げた後フローリアンを連れてくるといって去って行ってしまったのだから余計に減ってしまった。
シンク以外の六神将が居たらもうちょっと賑やかくなったのかもしれないが、生憎ラルゴ達はヴァンの指示でまた別行動になるのでそれも無理だろう。
次会えるの、いつになるんだろうね?

「……アッシュが気持ち悪い」

まぁ別行動になってしまった面々はさておき、腰を落ち着けたところでまず声をあげたのは、苦虫を噛み潰したような顔で呟いたルークだった。
確かに、今のアッシュは屑がっとか言わない。
劣化コピーの癖して、とかも言わない。というか言ったら即座に私が張り倒している。

レインとイオンが情報交換するのを横目にルークと話す。
先ほど見たアッシュは既に髪を切って黒に染め上げ、更には瞳の色と顔を隠すために仮面をつけていた。
その上特務師団長の団服も脱いでいたから、ルークにとっては最早別人に等しいだろう。
私はあっちの方が慣れ親しんでいるしそうなるよう調教した結果なので、こればかりは慣れてくれとしか言いようがない。

「今のアッシュはそんなに気持ち悪いですか?」

「うん、キモイ」

「変わろうと、そう決意したからこそのあの姿です。貴方が髪を切った時と同じですよ」

そう言えばルークはハッと目を見開いて私を見た。
こういう言い方はよくないのだろうが、変なところでよく似ているなと思ってしまう。
過去を断ち切るため変わろうともがこうとする姿勢などが、特に。

「シオリのところのアッシュにも、色々あったんだな」

「はい。今はフローリアンと仲が良いんですよ」

「え、アッシュが!?」

「意外でしょう?私も意外でした。気付いたらいつの間にかよく一緒に居るようになってたんです。お互いの居場所になっているのでしょうね」

心底驚いた様子のルークにくすくすと笑ってから、イオンに呼ばれてあちらの会話へと加わる。
改めて自己紹介しあうイオンとルークに微笑みを浮かべつつ、情報交換を終え状況を把握したイオンも交えてさてこれからどうしようかという話になった。

私達としてはさっさと元々居たオールドラントに帰りたい。
ルークはさっさと新しい人生を楽しみたい。
そのためにはいくつか越えなければいけない壁があり、ルークと共に問題点を挙げてからどうすればそれが解決できるかと全員で頭を捻る。

「こう、パパっと解決できる方法とかってないのかな。シオリ、何か思いつかないの?」

「何でも私に丸投げするのやめませんか?」

「あはは、君は今相談役なんだろう?だったら考えるのが仕事じゃないか。ほら、考えて」

「飽くまでも私の仕事は相談役であって参謀じゃないんですがね。そうですねぇ……ルーク、ローレライの助力は借りれるんですよね?」

「ん?まぁ適宜ってとこだけどな。完全に頼りにはならねーよ。アイツ面倒臭がりだし」

ふむ、とその言葉に考え込む。
今回クリアしなければいけない課題。
それは大まかに分けて三つだ。

1つ目は外郭大地だ。
セフィロトツリーも限界を迎えている以上、コレは確実に降ろさなければならない。

2つ目はルークを死なせないこと。
つまりアクゼリュスルートの回避が必要。

3つ目はローレライの解放。
コレは一番最後に持ってこなければいけない。
彼を解放した瞬間、私達は元の世界に帰されるらしいし。

途中問題となる小石はいくつか転がっているが、とにかく一番の課題はこの三つだ。
地殻の振動による大地の液状化に関してはローレライを解放することによるプラネットストームの停止に伴い解決できるだろうし、障気に関してはディバイディングラインに吸着させれば問題ないはずである。

そうなると、可能であればアクゼリュスルートの回避とローレライの解放のことを考えてルークをダアトサイドで確保しておきたい。
そして欲を言うのであれば、余計な寄り道はせずにさっさとことは済ませてしまいたい。

「イオン」

「ん?何か思いついた?」

「はい。ルークを送り届けるついでにちょっとバチカルでローレライの力を借りつつ惑星預言詠んできてください。
その後ルークのことはダアトで確保できるようにお願いしますね。絶対アクゼリュスなんか行かせちゃ駄目ですよ?」

よし、このルートでいこう。
唖然とする全員に向かって、私はにっこりと微笑んでやる。
さぁ、これから忙しくなりそうだ。

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