07.始まりの場所、コーラル城


「ああ、カーティス大佐どうなさいました?
私の記憶が正しければ貴方はルークさまのご不興を買うので可能な限り喋らず視界に入らず息を止めて過ごすようマクガヴァン少将に言われていたと思うのですがその有能と称される脳味噌では既に忘却の彼方ですかそうですか天才って大変ですね。
あ、フリングス将軍はお借りしますけど貴方はお呼びではありませんのでどうぞお部屋に戻ってくださって結構ですよ貴方のお部屋は取ってませんがまぁ部屋くらい自分で取れるでしょう。
出発の際、遅れても呼びに行きませんのでそこの所はご自分で判断なさってくださいね。

え?イオン様にお話がある?おかしなことを仰いますねぇ。
皇帝名代とはいえ貴方はダアトに動乱をもたらした存在だと先ほど導師イオンが仰っていたのを聞いておりませんでしたか?
そうでなくともたかが左官如きがアポイントメントもなしにダアトの最高指導者である導師に近寄ることが出来るとでも?
導師を誘拐した存在で?暴動を起こした主犯として疑われている分際で?そんなことも習ってきませんでしたか親の顔が見たいとはこういう時に使う言葉なのですね初めて使いました貴重な経験をさせていただきありがとうございます。

ですが大佐も良いお年ですしそのような言葉など言われないようこの機会に是非ご勉強なさってはいかがでしょうか。そうすれば嫁も来るかもしれませんよ。
その年で未婚など問題のある男としか見られませんからね。
ではお勉強頑張ってください。応援してますよ心から。貴方がまともになりますようにと。

それでは、ごきげんよう」

パタン、と無情に締められた扉の背後では、ルークが腹を抱えて爆笑していた。




【始まりの場所、コーラル城】




作戦会議の為にマルクトの宿屋で額を付き合わせていたのだが、ルーク達は途中部屋を訪ねてきたフリングス少将とジェイドのコンビに当然のように私を差し出した。
アニスもまた渋々と言った感じでこの取次ぎを阻止しようと何とか頑張ってくれたようだが、多分フリングス少将がいるから断りきれなかったのだろう。
まぁフリングス少将を引き入れた後、ジェイドにはマシンガントークかました後反論する前にドアを閉めてやったから一言も声を聞いてないけど。
ちょっと失礼かなって思ったけどルークが楽しんでいたからよしとしよう。

フリングス将軍はレインからの手紙を見たピオニー陛下が、誘拐されてマルクトに来ているらしいキムラスカの公爵子息を保護せよと慌てて派遣した存在である。
馬を潰してセントビナーまで駆けて来ただけでもお疲れだろうに、あのジェイドの相手をしなきゃいけないんだから本当にご苦労様としか言いようがない。

そんな彼に大雑把な作戦の概要を説明し、預言に書かれたマルクト滅亡を回避するためにもと言えば、彼は最終的に自分から協力を申し出てくれた。
ようやくマルクト側にまともな味方が出来たことにホッとしてしまった。

「では万が一ルーク様がアクゼリュスに派遣された場合、鉱山の街へ入れないよう人を派遣しておきましょう」

「でも街道の使用許可はまだ出てないぜ?」

「国への忠誠心は皆無ですが、金さえ出せば契約を守る輩と言うのはどこにでもいるものです。それにことがことですから正規軍を使用するよりも確実かと」

「神託の盾でも住民の救助が出来ないか閣下に進言してあります。全ての住人は無理でしょうが、未だ健康を保っている労働者位は保護できるかと」

「ありがたい。マルクトの救助隊が潰されてしまった以上再編成には時間がかかります。
そちらにばかりご負担をかけてしまうこと、真に申し訳なく思います」

「ご安心を、後ほどきっちり請求させていただきすから」

「シオリ殿はお若いのにしっかりしていらっしゃる……」

請求される額を瞬時に計算したらしいフリングス将軍は胸元を抑えつつ口元を引きつらせていた。
そうだね、導師誘拐、暴動扇動だけじゃなく、誘拐の際に死傷した神託の盾や破損した建物に対しての慰謝料に加え、更にアクゼリュスへの救助隊の代行。
マルクト、つぶれないと良いね?そしてその大部分がジェイドが関わってるって時点でもうアイツ懐刀名乗るの辞めた方が良いと思う。
一番の問題は本人の自覚がないところだけど。

まぁ神託の盾が襲撃をかけている以上救助隊がつぶれてしまったことは100%ジェイドが悪いとは言い切れないので、全額まるっと請求とは行かないだろう。
示談と言う形である程度慰謝料を減額する形に落ち着くのだろうが、それでも莫大な金額になるのは間違いない。

こうして新たな仲間をパーティインした私達は、国境を越えカイツール軍港へと辿り着いた。
そこで一つ問題が起きた。ルークがコーラル城へ行きたいと駄々を捏ねたのだ。
整備士は誘拐されていないのに何故廃城に行く必要があるというのか。

「ルークさま、それがどういう意味か解っていらっしゃるのですか?」

「我が侭だって言うのは解ってる。けどどうしても一度行っておきたいんだ。
今までずっと軟禁されて自由なんてなかったし、きっと帰ったらまた屋敷に軟禁される。
この僅かな時間だけでも自由にさせてくれたって良いだろ?これ以上我が侭は言わないからさ、な?このとーり!」

このとーりも何もこの一行で行き先を決める決定権はルークが持っているといっても過言ではない。
私はルークの信頼を受けているが故にお目付け役扱いされているだけ。
あとダアト・キムラスカ・マルクト三国の要人が揃っているが故の調整役を受け持っているだけで、一番優先されるのは純粋な被害者であるルークの意見なのだ。
つまりルークが行きたいと言い、他のメンバーが嫌だと言わなければ行き先はコーラル城に決定される。

それを解っているからこそ、同情を買うために軟禁云々を口にしているのだからこの七歳児はタチが悪い。
ほら、アルマンダイン伯爵もフリングス将軍も同情しちゃってるじゃないか。
しかも公爵子息にこんなお願いさせるとか貴様何様だみたいな空気になっていて、いっそ拗ねてやろうかと心の中だけでやさぐれているとイオンが微笑みながら一歩前に出てきた。

「僕は構いませんよ。ルークの望むままに」

「私はルークさまの護衛として派遣されただけですから、反対する理由もありません」

フリングス将軍も続き、最早反対する理由はゼロである。
早く和平の申し込みに行きたいのですが、とぬかしているジェイドを無視していたら、ルークが念を押すように駄目か?と私に聞いて来るのでとうとう私も折れざるを得なくなった。

「〜〜っ!コーラル城と言えば長年放置されていて既に魔物の巣となっている場所でしょう?
戦闘しようとか思っちゃ駄目ですよ?あくまでも護衛をつけた状態で、かるーく回るだけですからね?
ココで貴方が怪我したら大変なことになるんですから!」

「解ってるって、絶対無茶はしない!サンキューっ!」

ハイになったルークにぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、シンクに早急に護衛部隊の編成をするように命じればアルマンダイン伯爵もまたキムラスカ軍でも護衛部隊を編成するよう申し出てくれた。
まぁ当然だよね。ルークはキムラスカ貴族なわけだし。
そんな風にとんとん具合に話を進めていると、ジェイドが一歩前に出てきたかと思うとルークに向かって嫌味を投げかけてくる。

「やれやれ、寄り道をしている暇はないのですがね。
温室育ちもここまでくると逆に立派ですよ」

……彼にとって軟禁は温室育ちらしい。
ルークの前に立ち、ジェイドに向かって微笑みを向ける。
ルークを傷つける言葉を吐くことだけは一人前なのだから、本当にこの男はタチが悪い。

「カーティス大佐、そのように仰ると言うことはインゴベルト陛下に謁見の申し込みやもろもろの手続きなどはしてあるんですよね?」

「機密事項なのにできるわけないでしょう?」

そんなことも解らないのかといわんばかりの態度。
私がその態度をとってやりたい。

「和平の申し込みに来たので謁見してくださいと言ってキムラスカが門扉を開くとでも?開くわけないでしょう。
和平が機密事項なのはマルクトの事情です、キムラスカには関係ありません。
そのままバチカルにいっても門前払いを食らうのがおちですよ。

さらに言わせていただくならば貴族だろうと王族だろうと関係なく、会いに行くのであればアポイントメントを取るのは当然の常識です。
それともアレですか、貴方は自分はマルクトの恥曝しですと言いにでも行くつもりですか?」

「導師イオンとルークが居ればすぐに謁見できるでしょう。そのための仲介役なのですから」

「これは驚きました。
もしかして導師イオンとルークが自分に協力してくれると思ってたんですか?」

最早笑いがこみ上げてくるレベルである。
肩を震わせて嘲笑を浮かべながらジェイドを見れば、ジェイドは訝しげな顔をしながらも当然だと言わんばかりの態度。
なので口元を抑えつつイオンとルークを見れば、それを察した二人はそれぞれに口を開いてくれた。

「僕の影武者を誘拐した挙句、信者や神託の盾兵を傷つけた貴方に協力する謂れはありません。キムラスカに向かうのは謝罪のためですよ?」

「俺、仲介役を引き受けるなんて一言も言ってないけど?」

二人の発言に呆然とするジェイド。
フリングス将軍に視線をやれば申し訳ないと言いながらジェイドの頭を殴っていた。

「状況把握も録に出来ず、常識知らずの皇帝名代ですか。
貴方を指名した皇帝陛下は一体どのような評価を受けるのでしょうね?」

こみ上げてくる嘲笑に耐え切れず肩を震わせながら言った私に、ジェイドは僅かに眉を顰めていた。





  * * *





「……これが、見たかったんですか」

「うん。ここは、俺が生まれた場所だから」

書斎だったらしい部屋に存在した不可思議な扉を開いた先、むき出しの岩を荒々しく削り取っただけのスペースに置かれた場違いなほどの巨大な音機関。
そのつるりとした表面を撫でながら、ルークは懐かしそうに目を細めた。

ココに居るのは私とルークとシンクのみ。つまり事情を知る人間のみということだ。
そして同時に、ルークとシンクは同じ産まれであるという共通点もある。

「……ヴァン師匠も、変わってたよな」

「はい。アレは私の居たオールドラントのヴァンです」

「俺の知ってるヴァン師匠は、あんな風に顔色を変えたり慌てたりしなかった。
笑顔だったけど、今思うと俺と話している間ずっと笑顔なんて不自然だ。けど俺はそんな不自然さにすら気付けずに、ヴァン師匠を慕ってた」

「……ルーク」

「けどさ、国境でヴァン師匠を見て思ったんだ。あっちの方が良いって。
おかしな話かもしれないけど、あっちの方が"生きてる"って気がするんだ。
何でだろうな。今のヴァン師匠の方がずっと生き生きしてるように感じたんだ。
変だよな。でも、そう思ったんだ。お前が……そうしたんだよな。
俺とティアが躍起になっても出来なかったことを……ヴァン師匠を変えたんだよな」

私達の背後で膝を着いているシンクは無言だ。
私はどこか泣きそうなルークになんと答えて良いかわからず、逃げるように視線を音機関へと向ける。
起動していない音機関は無機質で、何も答えてくれない。

そして目に付いたのは、その中程にある丸い円盤のような場所。
私はそこに足を向けると、つるつるとしたそこに座り込んだ。

「……ここで、ルークは生まれたんですね」

「ああ」

「……コチラに来ませんか?」

ぽんぽんと私の隣を軽く叩く。
ルークはちょっとだけ驚いた顔をしたかと思うと、少し照れ笑いをしながら歩み寄ってきた。
そして隣に座ろうとしたかと思うと、少しの戸惑いの後に私の膝の上に頭を乗せてくる。

「甘えん坊ですね」

「駄目か?」

「いいえ。たまには良いんじゃないでしょうか」

するすると、指通りの良い髪を撫でる。
身体を丸めたルークは気持ちよさそうに身を捩る。

……ここは、冷たい母の胎だ。

「ルーク、これはあくまでも私の考えなので深く考えずに聞いてください」

「……ん?」

「ヴァンは、どこか欠落しています。
それは彼の幼少期の体験がそうさせたのかもしれませんし、辿り着いた町の歪さに適応するためにああなってしまったのかもしれません。答えはきっと解りません。私にも、ヴァン本人にも」

「……うん」

「ヴァンは自分の中で正しいと思うことを、貫きました。
それと同様に貴方もまた自分の中で正しいと思うことを、貫きました。
そして貴方はヴァンを討ちました。それはある意味親を乗り越える行為だったとも思います」

「親を、乗り越える」

「はい。私は正攻法でヴァンを攻略していません。彼が歪だと知っていたから、ずるい方法で彼を説得しました。
けれど貴方はヴァンを乗り越えようと、我武者羅に真っ直ぐにヴァンへと立ち向かいました。
それは私にはできないことです。そしてそれが出来る貴方を、私は凄いと思いますし、尊敬しますよ」

「……そう、か?俺、結局、何もできなかった」

「そんな事はありません。全てを見てきた私が保証します」

「……ん」

顔を背けるルークの頭を撫で続ける。
じんわりとスカートが湿った気がしたが、気付かないふりをする。

「もう少し、このまま……」

「はい。どうぞ、ルーク」

私のスカートの端をぎゅっと握る彼の顔は見えない。
この冷たい母の胎が少しでも温かい場所になれば良いと、ルークの気の済むまで私は彼の頭を撫で続けていた。


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