08.甘酸っぱい町ケセドニア


「おー、よく似合ってるなー」

「……もう我が侭は言わないとか言ってませんでしたか」

「我が侭じゃねえよ?だってフリングス将軍が提案してくれて、導師が賛同してくれたことに俺は頷いただけだからなぁ」

「だからって何で私まで着替えなきゃいけないですかっ!」

「だってお前だけあの格好のままじゃ目立つだろ。って導師が言ってた」

イオン、後で覚えてろ。



【甘酸っぱい町、ケセドニア〜酸味のち甘味〜】



コーラル城を経て辿り着いたケセドニア。
連絡船キャツベルトがまだ準備できていないとかで、私達は足止めを喰らっていた。

なのでキムラスカ側の領事館に顔を出して用事を済ませて以来暇そうにしていたルークを気遣い、町に出てみませんかとフリングス将軍が提案したのが三時間前。
それを聞いてそれは良いですねでも変装くらいはしたほうが良いと思いますよと言ったイオンは、30分前にアスターの屋敷へと顔を出しに行ってしまっているためココには居ない。

イオンの提案のお陰でケセドニア風の衣装を身に纏ったルーク、私、レイン、シンク、フリングス将軍の五人組の出来上がりである。
一見護衛対象過多気味に見えるがこの場合レインは回復担当の護衛に相当するし、影から記憶を取り戻したフローリアンとアッシュのコンビが護衛に着いてくれているらしいので問題ないだろう。

お小遣いを準備し、ケセドニア風の衣装に身を包んだ五人で町へと出る。
ちなみにルークの財布を擦ろうとした漆黒の翼はフリングス将軍にあっさりと捕まった。
強制退場は思ったより早かった。達者でな、三人組。

「そういえばルーク殿は先ほど大使館で何をして居たんですか?」

「ん?ガイが不法入国の罪でセントビナーで拘束されてるから、その保釈金を払う手続きとかをちょっとな。つかこんな時まで敬称つけなくて良いって」

「しかし……」

「レインと友達になりたいんだよ。だからプライベートの時くらい呼び捨てにしてくれ、な?」

「……はい、ルーク」

ふにゃと笑うレインに対し、ルークは花が咲いたような笑みを浮かべる。
ルークにとって『イオン』とはレインのことだ。
だからオリジナルイオンのことは出会ってからずっと導師と呼んでいることに、イオンもレインも気付いていた。
けれどこうして友達になりたいと改めてアプローチしたところをみると、彼にとっても自分の中で区切りがついたのかもしれない。

私が和やかに話す二人を見守っていたら、突然ルークは私とシンクをまじまじと見たかと思うと、後は二手に別れるかとか言い出した。
勿論反対する私を余所に、ルークはシンクとレインをちらりと見てわざとらしく腕を組んで言う。

「でもなぁ、シオリの顔色かなり悪いぜ?人ごみに酔ったんじゃないのか?」

と、言ったのはにやにや笑うルークだ。
その棒読みをやめろ。

「! そうですね、ココはシンクと二人でゆっくりお茶でも飲みながら、休んだ方が良いのかもしれません。結構強行軍でしたからね」

と、嬉しそうに言ったのはレインである。
強行軍も何もセントビナーでは充分休んだし、国境で一泊してここでも時間を持て余してるんだけど?

「ケセドニアは町の性質上、プライバシーを配慮して落ち着いてゆっくりと話せるカフェも多いですから、休むには充分ですね。戻るほどのことでもないでしょう」

と、続いたのはフリングス将軍である。
何でアンタまで賛同してんだ。

「……少し、座って休まれた方が宜しいかと」

そして最後に戸惑いがちに告げたのがシンクである。
仮面こそつけてはいるもののシンクにまで言われてはぐうの音も出ない。
もしかして私の自覚がないだけで本当に体調が悪いのかもしれない。

「あそこの店とかいいんじゃないか?シンク、シオリを宜しくな。出たらそのまま宿屋に帰って構わないから」

「御意に」

結果、私の意思の伴わないまま二手に別れることが決定された。
今の私は論師じゃないからそこまで命を狙われる心配も無いため、警備に関しては心配していないが何か納得いかない。
シンクに手を引かれて『ラ・ヴィ』という店に入る。
ドアを開ければカウ・ベルが来客を知らせるためにカランコロンと鳴り、そのまま店員に案内されて私達は店の隅の方の四人掛けの席についた。

席と席の間は程よく開いており、商談などをするにもうってつけだ。
注文したアイスコーヒーもすぐにやってきて、軽く口をつければ程よい苦味は私好みだった。
そんなコーヒーにミルクを足せば美味しいカフェオレの出来上がりである。
私は出来上がったカフェオレに口をつけつつ、向かいの席に座って注文したアイスティーを見つめたまま動かないシンクをじーっと見つめた。

本当に私の体調が悪そうに見えて休めと言ったのであれば、恐らくコーヒーを飲むのはとめられた筈だ。
コーヒーは水分補給には適していない。利尿作用があるために、むしろ脱水症状に繋がってしまう。
にも関わらず私がアイスコーヒーを頼むことを止めなかったという事は、私を休ませたかったわけではないということになる。

「シーンク?」

「っぁ、はい」

「敬語は良いよ。他にお客さん居ないみたいだし、そもそも今私論師じゃないしね」

「あ、あぁ、うん……」

「どうしたの?何か話したかったんじゃないの?」

「え?」

「違うの?」

「いや、その……まぁ、そうなんだけど」

多分、私の後ろを歩いていたシンクを見て、ルークが気を使って周囲がそれに賛同したとかそんなとこだろうな。
ストローでアイスコーヒーを吸い上げながら、歯切れの悪いシンクを見てそんな事を思う。
心当たりがあるとすれば……コーラル城くらいか。ルークを甘やかす間、シンク見てたからなぁ、ずっと。

「コーラル城のこと?」

「!」

なのでストレートに聞いてみれば、シンクは弾かれたように顔を上げた。
仮面があるせいで視線は追えないが、恐らくシンクの視線はあちこちさ迷っているのだろう。

「……嫌だった?」

「……シオリはたらしだよね。レプリカたらし」

「は?」

「レインだってシオリにでれでれだもんね。あぁ、でもオリジナルとも仲良いからレプリカたらしっていうのは違うのかな。この場合はなんだろう、魔性の女っていうの?」

「シンク、ルークが羨ましかったの?」

「……ぐう」

「ぐうの音が出るならまだ大丈夫かな、甘やかさなくても」

「やだ」

「全く」

ぽんぽんと隣の椅子を叩く。
向かい側じゃなくて隣においでという私の意図をきちんと受け止めたシンクは席を立って私の隣に座ると、そのままぎゅうと抱きついてきた。
その緑の頭をぽんぽんと叩いてやる。

「……ちょっと、嫉妬しただけだし」

「うん」

「ルークは僕達が帰ったらもうシオリに会えないけど、僕はずっと側にいるから……別にいいんだから」

「うん、そうだね。シンクは私の守護役だもんね」

「そうだよ。僕は……シオリを支えてきたし、これからもずっと支えてくんだから。
だからルークみたいに隣に立てなくたって……こうやって、他の人の居ないところで甘やかしてくれるから、別にいいし」

言い訳を繰り返すシンクを私からもぎゅうっと抱きしめる。
髪の隙間から覗いた耳が少しだけ赤かった。

「ちょっとルークが羨ましかったのね」

「……うん」

「よく言えました」

素直に頷いたシンクの頭をゆるゆると撫でた。
私に似てしまったのか、他人を貶したり論破する方向には絶大な効果を発揮するシンクの舌は、本音を話したり自分の気持ちを表現すると言った方面にはとことん疎い。
一言を引き出すにも物凄く時間がかかる。

「シオリ……早く帰りたい」

「そうだねぇ、仕事もたまってるだろうし」

「うわ、考えたくないな。というか僕達が居なくなって機能してるのかな、ダアト」

「……うわ、考えたくないな」

お互いくすくすと笑いあう。さっさとやることを済ませて帰ってしまおう。
頷きあった私達はそうと決まれば後は早いと、それぞれに頼んだ飲み物を一気に飲み干す。

さぁ、次は正念場、バチカルだ。


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