09.狂乱の王都、バチカル


その日、バチカルは阿鼻叫喚の渦に叩き込まれた。



【狂乱の王都、バチカル】



「お前さ、自分が何したか解ってるか?」

「あら、稀代の詐欺師ユリアのしたことに比べればほんの些細なことですよ」

「ユリアと比べたらドイツもコイツも些細だろうが」

ファブレ公爵家の客間、シンクを従えた私は優雅に紅茶のカップを傾けていた。
目の前には厳重な警護をつけたルークが一人。
彼の護衛剣士であるガイ・セシルは、未だにセントビナーから戻ってきていない。
そのまま朽ち果てろと言いたいところだが、ルークが保釈金を払う手続きをしたらしいのでそのうち帰って来るだろう、多分。

「お前の案のお陰で父上達はてんてこ舞いだ」

「素敵な踊りなんでしょうねぇ」

「レインも行っちまうし、俺メチャクチャ暇なんだけど」

「ほら、同じ顔がココに」

そう言ってシンクを指差す。

「さらっとバラすのやめねぇ?俺シンクが哀れになってきた」

「お気遣いありがとうございます、ルークさま」

「お前はこの鬼畜に慣れすぎだ」

深々と頭を下げるシンクに、今度こそルークはため息をついた。
鬼畜って私のことか。失礼だな。大体それを言うならシンクだって口を開けばそこそこ鬼畜だ。
そんな本音を飲み込みつつため息をつくと幸せが逃げますよって言えば、もう充分逃げてるから問題ないと言われちょっとだけルークが哀れになる。
しかし哀れんでいる場合ではない。
なんてったって私とルークは今、ファブレ家に軟禁されているのだから。

ケセドニアを経由してバチカルにやってきた私達は、王城にルークの帰還を知らせた。
勿論、ジェイドと違って国境の時点で帰還を知らせる鳩を送ってあったので、王城にはすんなりと入れた。

ジェイド?門前払い喰らってたけど知らない。
たった一人で来て和平の申し込みに来ましたって言って信じる馬鹿は居ない。
当たり前のことが、アイツには解らないらしい。
つかジェイド終了のお知らせは一体どこで来るのだろう?

まぁこうして辿り着いた私達は王城で持て成され、イオンが末端の兵とはいえ部下がしでかしたことのお詫びにとルークの預言を詠むことになった。
なんと言っても導師直々の預言である。
玉座の間の空気が(色んな意味で)シンと冷えたことは言うまでもない。

そうして朗々と歌い上げた終末預言。
でかい譜石を見上げて呆然とする彼等を横に、私とイオンは一芝居うった。

「滅びるのは、流石に困りますねぇ」

「そうですね、『障気によって破壊され塵と化すであろう』ですか。
シオリ、貴方はどう思いますか」

「はい。まずありえるのはセフィロトツリーの消失による外郭大地の崩落ではないかと愚考いたします」

「ふむ。何故そう思ったのですか?」

「ものには寿命というものがございます。
いくら創世暦時代の遺物とはいえ、戦争による大量の音素消費により劣化または老化したパッセージリングが耐え切れず、セフィロトツリーが崩壊または消失する可能性は充分にありえます。
ND2018の『そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって町と共に消滅す』という一文も、鉱山の町のパッセージリングを破壊する事で第八セフィロトが支えているアクゼリュス周辺を崩落させる、と取ることも出来ますので」

「成る程。ぽんぽん秘密事項を口にするだけの価値がある推測ですね。
それが事実であるならば恐らくバチカルやグランコクマもただではすみません」

「はい、勿論ダアトも例外ではありません。ある意味綺麗になるかもしれませんが」

「そうですね、ある意味綺麗になるでしょう。でも僕は崩落による死亡はゴメンです。痛そうですし。叶うなら凍死とかが良いですね。綺麗に死ねる上、眠るように死ねるそうですよ」

「凍死となるとケテルブルクあたりですか?
導師が凍死となると捜索隊を派遣しなければなりませんので、思いとどまって頂ければ幸いです。人手も金も半端じゃすみませんから」

「僕の命より金ですか」

「ええ、どこかの誰かさんのせいでダアトは非常に貧乏なので」

なんて呑気に話したお陰で、モースが止める間もなく外郭大地のことも露見した。
お陰で急遽捜索隊が作り上げられ、イオンはケセドニアにトンボ帰りだ。
ザオ遺跡で調べてくるって言うイオンにアルバート式封咒があって一括制御できないから、調べるならアクゼリュスにしておけと言っておいたのは1週間くらい前の事である。
ちなみにシンクを除いた六神将と、ヴァンも一緒に連れて行かせた。さっさと救助して来い。

そんなことがあったお陰で『聖なる焔の光』を『鉱山の街』で死なせちゃならんと言う事で、ルークにはこれでもかと言うくらい護衛が付いている。
そのルークの話し相手兼ある意味ダアトの人質として、私もバチカルに逗留している。
そうなれば自然とシンクも私の元に残るわけで、そのオマケというわけではないがアッシュとフローリアンとティアも一緒にファブレにお世話になっている。
最初はルークをダアトサイドで確保する予定だったが、キムラスカ側が予想外に迅速に動いてくれたのでこれはこれでよしとしよう。

「そんなに暇なんですか?そうですねぇ……チェスでもしますか?」

「勝てないからヤダ」

「ではトランプはいかがでしょう?婆抜き爺抜き、神経衰弱、ポーカー、何でもお相手いたしますよ?」

「お前ずっとポーカーフェイスで勝てないからヤダ」

「ルークが解りやすいだけだと思いますが……ではバカラやボードゲームなどはいかがです?」

「お前解ってて言ってるだろうけど俺もあえて言うぞ。勝てないからヤダ」

「勝ったこともあるでしょう」

「3勝72敗じゃ誰だって嫌になるっつーのっ!!」

おやまぁ全部覚えていたのか。
まぁルークは記憶力は良いから、驚くことでもないが。
ただ記憶力は良くてもポーカーフェイスが出来ないので、結局負ける以上意味もない。

「フローリアンとアッシュに手合わせをしてもらったらいかがです」

「あの二人えげつねぇからヤダ」

フローリアンはあの細身で実はパワーファイターだったりする。
それに加え補佐に回るアッシュの使うアルバート流剣術もまた剛の剣。
押して押して押しまくるコンビは「攻撃は最大の防御なり」を地で行くコンビでもある。
フローリアンがなまじ回復を使えるのもえげつない、というよりたちが悪いだろう。

「シンクとティアはどうですか?」

「完全に俺が苦手とするコンビだよな、それ」

詠唱短縮が可能なシンクと、前衛さえいれば回復攻撃補助全てを賄えるティアのコンビも結構にえぐい。
何よりこの二人の嫌なところは術と技の嵐になる事である。
スピードファイターのシンクとナイフ遣いのティア、二人とも技は手数で責めるタイプだ。
この二人のラッシュを喰らえば流石のルークも反撃の術をなくすらしい。

「うああぁああぁ、暇だ」

「じゃあジェイドの様子でも見に行きますか?」

「ヤダ!」

現在ジェイドは牢屋の中だ。当たり前だ。
軍服着てるわかつてはキムラスカ軍を殺しまくった死霊使いだわで、和平の使者です皇帝名代ですと言ったところで誰も信じるわけがない。
親書持ってたってそれを持ってる本人が信頼に値しないんだから、そうなれば誰が書こうがそれはただの紙切れである。
今頃キツイ取調べを受けているところだろう。

「じゃあもう一個爆弾でも落としに行きますか?」

「爆弾?」

「金髪緑眼について」

「ああ、そっちか。モースの手札を潰しとくって事か」

「はい。秘預言を詠んだ際に偽者云々言ってオリジナルイオンにばっさり切り捨てられて信頼度は低迷していますが、まだ罪人ではありません。
キムラスカ側としても預言預言といい加減煩いでしょうし、イオンが帰ってきてからと思いましたがルークが暇ならさっさと繋いじゃいましょう」

「お前って外道だよな」

「どうぞ腐れ外道と呼んでください」

「最低だマジで」

モースを潰す理由。
→ルークが暇してるから。

確かに最低である。しかし本音を言うならば、別にそれだけではないのだ。
毎日突撃してくるお姫様は、ルークに浮気してないか、私に手をつけたのではないかとそれはもう煩いことこの上ないのだ。
偽姫騒動でも起きれば少しは大人しくなるだろうと言う私の目論見は、多分口にはせずともルークだって気付いているだろう。

「まぁいいや。んじゃ父上に登城する許可取らなきゃなぁ。だりー」

「手紙書くならついでにもう一通書きませんか?」

「何を?」

「ジェイド終了のお知らせはいつ来るのかとグランコクマに抗議文を」

「ああ、良いなそれ。ついでに書いとこう」

決してついでに書くような内容ではないのだが、暇を持て余した貴族は何をしでかすかわからないものだ。
紙とペンを要求しようとしたルークの前に、メイドがしずしずと便箋とインクと羽ペンが乗った銀のトレーを差し出している。
全く仕事が速い事である。

さて、ルークの抗議文と偽姫騒動勃発でバチカルは更に阿鼻叫喚の渦に叩き込まれる訳だが、イオン達はいつ帰ってくるのだろうか。

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