10.和平締結、ダアト/前


「シオリー、ルークが一斉降下について確認したいことがあるってさ」

「アクゼリュスのことですか?
お忘れでしょうがアルバート式封咒のせいで第二・第八セフィロト、つまりホドとアクゼリュス以外からの一括操作は禁じられています。
今回はプロテクトもかかっていませんので各セフィロトを回る必要はありませんから、一斉降下をすべき場所はラジエイトゲートでもアブソーブゲートでもなくアクゼリュスなんです」

「シオリ、来期の予算に関して詠師会が納得がいかないと抗議が……」

「預言に従わずに生きようと話しているというのに、預言無しでこれからも今までどおり献金が来ると思っているなら豆腐の角に頭をぶつけて死んで来いと伝えておいて下さい」

「おい論師、ナタリアは何とかならないか?うっ、胃が…」

「ココでは論師ではないと何度も言っているでしょう。胃が痛いなら胃薬を貰いに行きなさい。
それと彼女の回収を頼みたいなら私じゃなくキムラスカに頼みなさい」

「シオリ、和平締結にプラネットストームの停止を盛り込む事に対して各団体から抗議がきています」

「またですか。ですがこれで規定数に達しましたね。下手に隠すからこうして抗議をくらうんです。
プラネットストームの使用による弊害に関する資料は纏めてありますね?
抗議団体には纏めてそれを送り付けなさい。次からは許可を取らずに資料を公開して構いません。
文句があるなら公表しようとしたことを止めたキムラスカに文句を言えと伝えなさい。
ダアトは公平に伝えようとしたことをきちんと相手に印象付けるようにすることを忘れないで下さい」

「シオリ、カンタビレが帰ってきた」

「このクソ忙しい時にくるんじゃねえよばかやろう」

私、今論師じゃないのに何でこんな忙しいんだ。





【和平締結、ダアト】





パッセージリングの耐久限界を確認したダアトはキムラスカ、マルクト両陛下に緊急会談を持ちかけた。
ダアトで行った三ヶ国緊急会談は和平締結後の外郭大地降下作戦を決定。
ディストと私の提出した資料により、プラネットストームの停止も条約に盛り込まれている。
会談の最中、ローレライにルークに語りかけてもらうという一芝居を打った効果も大きかっただろう。

ローレライは地殻からの解放を望んでいる。
そしてローレライが居なくなればプラネットストームは必然的に停止する上、大地の液状化も止まるのだからそうなれば止めるしかないわけで。
まぁ出してくれないともっと暴れて大地振動させるかも、とローレライの脅しが一番大きいのだろうが。
そうなれば大地降下させる前に崩落だもんね、私もそれはいやだ。
余談だが、ジェイドのルークに対する不敬もあり、和平条約は若干キムラスカに有利な内容で結ばれたのは言うまでもない。

こうして和平が無事結ばれたのだが、私がやることは他にも多々あった。
導師から信頼を受ける相談役という立場、ルークから信頼されている上バチカルまでの帰還の徒を知る第三者という側面、そして和平締結の場において導師と共に進行役を勤めた技量。
これらを見込んでこれから行われる示談の場の進行役を勤めて欲しいと、導師とピオニーに頼まれた。

阿呆か。知るか。私はもう寝たいんだ。
後はルークがアクゼリュスで外郭大地を一斉降下させて、ついでに鍵を受け取ってローレライを解放すれば帰れるのに、何でそんな面倒を引き受けなきゃいけないんだ。
ルークが帰って来るまで寝ていたって良いじゃないかと主張したかったのに、イオンにまさか僕にだけ働かせる気だったの?ときょとんとした顔で言われてしまえば逃げられる筈もない。

マルクトのルークに対する示談。
マルクトのダアトに対する示談。
ダアトのキムラスカに対する示談。

これらの調整及び示談進行全てを任された挙句、いつの間にか外郭大地降下作戦に噛んでることになってた上、導師の仕事まで手伝わされているのだから泣いても許されると思う。

「……とりあえずジェイドは死ねば良いとおもう」

「それを許してたピオニーもね。あんな馬鹿だとは思わなかった」

「まさか親友を拘束するのに抵抗があるからってだけでジェイド終了のお知らせをずるずると延ばすほどの馬鹿だったとは……」

ふぅ、とイオンとため息をつく。
ココは導師の私室、ようやく仕事に一区切りをつけた私とイオンは部屋の隅で警護をしているアニス、レイン、シンクを横目に雑談に興じていた。
もっぱら話題に上がるのは、予想外に無能だったピオニーについてである。
このオールドラントのピオニーは情が非常に強く、ジェイドを切り捨てる強さを持っていなかった。
あのままで行けば、恐らく貪欲なキムラスカとダアトに喰らい尽くされるだろう。
懐刀に己の首を掻っ切られる羽目になるとは、なんと皮肉なことか。

そんな事を考えつつ窓の外を見る。
外郭大地が無事降下すれば暫く地鳴りが続き、そしてルークが送ってもらった鍵でそのままローレライを解放する手はずになっている。
だからルークは今、ココには居ない。

アクゼリュスの地は障気に晒されすぎた。もう手遅れだ。
だからその場でローレライを解放する事でアクゼリュスを消滅させ、他の大地への汚染を防ぐという荒業を取る手はずになっており、私は不安な気持ちでルークを見送った。

ルークはまた、人々を引き連れ『鉱山の街』を訪れる羽目になってしまった。
超振動は使わずとも、あの街を壊すという性を背負ってしまった。
それが無性に悲しい。結局預言はどこまでも彼にまとわりつくのかと、柄にもなく考え込んでしまったほどに。

「不安なの?」

「……まぁね。1万人殺しが無いとは言え、あの子はまた町ひとつ壊すという業を背負うことになる。
ソレはきっとずっとこれから……ルークの枷になる」

「……ちょっと考え方を変えてみたらどう?ルークはアクゼリュスを壊すんじゃない、ルークはアクゼリュス以外の他の大地を救うのさ」

「まぁ、確かにそういう側面はあるけども、多分ルーク本人は私みたいな考え方するわよ」

「だろうね。表向きは開き直っているように見えるけど、アレは根っこはかなり卑屈っぽかったし、シンクみたいだね」

「ちょっと、僕が卑屈だって?」

「ん?違った?あぁ、違うか。卑屈じゃなくて屈折してるんだよね、シオリへの愛が」

「ちょっとそこで土下座しなよ、踏んであげるから」

シンクとイオンのやり取りを身ながら苦笑していると、ふいにノックの音が聞こえた。
瞬時に猫を被ったイオンが入室を許可すると、ティーポットとカップの乗った銀盆を持ったティアがおずおずと入室してくる。
彼女が着ているのは情報部の軍服ではなく、白とワインレッドを貴重にした衣装だ。
聞いて驚け。ティアは現在導師相談役見習いとしてダアトにいるのである。

「お飲み物をお持ちしました」

「ああ、ありがとうございます。良い香りですね」

「アッサムでしょうか?ミルクはありますか?」

「はい」

少しもたつきながらも綺麗にテーブルにセットされた紅茶のカップにミルクをたっぷりと入れ、ミルクティーにしてから口をつける。
異物の味がしないことを確認してからイオンに頷けば、イオンもまたカップに口をつけた。
普段ならばそこでティアは出て行くのだが、何故か彼女は盆を抱えたままもじもじとしている。

「どうかしましたか?」

「……導師イオン、シオリ様と少々お話しても宜しいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

ティアはイオンの許可を取ると、一つ深呼吸をしてから私へと向き直った。
敬語を使う彼女に普通に話して良いと許可を出してから、次からは二人のときにするよう注意だけしておく。

「ごめんなさい、でも今しかないと思ったの」

「まぁ、良いでしょう。それで、お話とは?」

「失礼だって解ってる。でも、聞かせて。
……貴方は、何者なの?」


栞を挟む

BACK

ALICE+