論師と六神将+αの初めてのハロウィン



「最近はダアトも活気付いて参りましたな」

「新たに作った巡礼者用の宿屋の方も繁盛しているようです」

「論師が個人で出資されているカフェテラスなども住民達の憩いの場として親しまれているそうですし、教団からも何か店を出しても良いかもしれませんな。食事処など良いかもしれませんぞ」

「元々ダアトは発展の余地がそこかしこにありましたからなぁ、ここいらでもう一押し、更なるダアトの活性化を図りたいところですが……論師殿、何か良い案はございませんか?」

「そうですねぇ……季節のイベントなどはいかがでしょう?」

「季節のイベントですか。良い案ですな。習慣化すればまた新しいダアトの目玉となりましょう。それで、そのイベントとは?」

「ハロウィン、というものです。つまり仮装パーティですね」

「「「……は??」」」



【論師と六神将+αの初めてのハロウィン】


※シンク視点

『ハロウィンのお知らせ。

来たるハロウィンのため、ウンディーネリデーカン31の日から58日まで、教団はハロウィンイベントのため飾り付けをさせていただきます。
また、期間中の週末(32、33、39、40、46、47、53、54の日)は商店街のイベントに協賛するため、市街巡回の方々はイベントに合わせて仮装をしていただきます。
詳しくは各師団長より通達がありますので、ご確認のうえ任務に当たってください。

そしてハロウィン当日、ウンディーネリデーカン58の日は神託の盾主催によるハロウィンのパレードを行う予定です。
パレードは各師団の有志による大通りの行進を予定しておりますので、皆さん是非訓練に励んでくださいね。

論師シオリより。

追伸、ハロウィン当日、パレード参加者及びイベント参加者の方々には参加賞をご用意しております。ふるってご参加くださいませ』


「……おい、何だこの張り紙は」

「今度のイベントだってさ。六神将は強制参加だから、アンタも仮装してよ」

「あたしは軍人なんだが?」

「僕だって軍人だよ。諦めな、もう詠師会でも承認されてるんだ。どれだけ足掻こうが神託の盾に所属してる限り逃げられないんだからさ」

僕の発言を聞いたカンタビレは力いっぱい眉間に皺を寄せたかと思うと、再度廊下の掲示板に貼り付けられた張り紙をまじまじと見る。
お知らせの下部にはハロウィンというイベントについて記載されている。シオリ曰く元々は宗教的な意味合いがあったらしいが、ここでは簡潔に仮装をして合言葉を言って騒ぐ日として説明されていた。
新たなダアトの目玉として売り出そうということで、今回はとりあえずお試しという意味合いが強いらしい。

「まさか論師は毎度毎度こんな馬鹿騒ぎをやってるんじゃないだろうね?」

「それこそまさかだね。たまにしかしないよ」

「たまにしてるのかい」

「アンタだって計画は聞いてるだろ?それに上の命令でもあるんだ、軍人なら必要なことだと割り切りな。どうしても嫌って言うなら仮装のための衣装は論師が特注してくれてるから、せいぜい部下の訓練に集中することだね。当日を過ぎればおしまいなんだからさ」

「つまり参加は強制なのか」

「だからそう言ってるじゃないか」

シオリの突飛な行動に慣れていないカンタビレは、隻眼を細め口をへの字にして僕を見下ろしている。
その顔にはありありと面倒だ参加などしたくないと書かれていたが、さっき言った通り六神将は強制参加なのだ。
現に僕の元には既に吸血鬼を模したらしい仮装衣装が届いているし、ディストのところには大量の包帯が届いたらしい。ミイラ男、なのだろう。多分。
執務室に乗り込んできたかと思うと何故美しい自分がこれなのかとぎゃあぎゃあと不満を並べた挙句、最終的には僕の分と取り替えろとわめいていたのを黙らせてきたので、間違ってはいないと思う。
服のサイズを知られている僕達の元にはもう届いているのだから、多分どう足掻いてもカンタビレの元にもそのうち衣装が届くはずだ。

「はァ……仕方ないね。仕事だと割り切るか」

「そうしな。それと当日の行進は式典に出られるほどの完成度でって論師からひそかに注文がきてるから、頑張って部下の尻を蹴っ飛ばしてよね」

「ははーん?なるほどね、大々的に宣伝することでキムラスカやマルクトからも観光客が来る。そしてその観光客には、神託の盾の有志による一糸乱れぬ行進を見せることで軍の完成度の高さを密かに見せ付けるってことか」

「そういうこと。論師の発案ってだけでも注目度はあるからね。その上で有志だけでもこれだけできるんだぞって見せ付けてやるのさ。
勿論各週末のプチハロウィンで内需を上げようって意味もあるし、商店街と教団が手を取り合うことで住民との結びつきを強くする意味合いもある。後は密かに期待されてるのが神託の盾の人手不足解消かな。こんなお祭りもするくらい親しみやすいところだってアピールするんだってさ」

「確かに最近忙しいからね。ウチは人数が多いから良いが、第三師団と第二師団なんかは大忙しらしいじゃないか?」

「あそこは特殊技能を持った奴らの集まりだからね、仕方ないといえば仕方ない。ラルゴとリグレットのところもてんてこ舞いらしいよ。傭兵団のほうに結構人数裂かれてるし、前に突然入ったあんたんとこの師団との演習のせいでヘロヘロだってさ」

「はっ!鍛え方がぬるいんだよ」

「あんたのとこの師団員が傭兵団の登録を終えた後もそう言えるならその意見は認めるよ」

僕がそう言えばカンタビレは微妙な顔をする。傭兵団に登録すると専門の教育を受け試験に合格した後、特別な仕事を請けられるようになる。
護衛や討伐任務が主だがお布施によって支えられている普段の任務よりも圧倒的に金回りがいいため、神託の盾の中でも登録しているメンバーは非常に多い。
騎士団との兼ね合いもあるため仕事を割り振るのは師団長以下班長達の采配になるが、この様子だとカンタビレの師団でも登録をし始めている兵士は多いのだろう。

「ま、とりあえずは承知した。詳しい資料はまた届けてくれるんだろう?」

「次の会議で配布される筈さ。論師主催ってことで正式募集前だけどパレード参加希望者が出始めてるから、早まるかもしれないけど」

「そりゃまずいな。慣れてない以上仕方ないが、うちの師団じゃまだ希望者は出てない。軍の空気に馴染むためにもちっと尻を蹴っ飛ばすべきか」

カンタビレが僕の言葉を聞いて舌打ちを一つ。
つい先程まで浮かれた空気にため息をついていたくせに、その中にピンと引き締まるものを見つけた途端乗り気になっている。
けど僕はその心配は無用だろうとこぼした。何故だと問うようにこちらに向けられた隻眼に対し、僕は肩を竦めて答える。

「脳筋ばっかりなんだ。参加賞と周りの空気につられて、そのうち希望者が殺到するだろうよ」

僕の言葉にカンタビレは今度こそ微妙な顔をしたものの、否定材料が見当たらなかったのかこちらもまた肩をすくめるのだった。




 □ ■ □ ■



「ふふふ、さぁ、やってきましたね!ハロウィンですよ、シンク!!」

「はいはい、ハロウィンだね」

ウンディーネリデーカン58の日。
ウンディーネリデーカンの最終日、今日はハロウィン当日だ。
最初はハロウィンという聞きなれない単語に戸惑っていたダアトの住人達も今ではすっかりハロウィンイベントに心を躍らされている。
違和感しかなかったジャック・オ・ランタンやこうもりを模した飾りつけなども目に慣れてしまっているし、今ダアトの町ではハロウィンの飾りつけがされていない場所を探すほうが難しいだろう。
大通りにある商店は軒並み今回のイベントに乗っかって商売をしているし、シオリの指示の元一時的に開かれたハロウィンの飾り付けや仮装用の衣装を販売するお店はほぼ完売状態らしい。
多分、本来ならば真っ先に馬鹿騒ぎを規制するべき教団が主催しているのが、ここまで広まった一番の原因だと思う。
後は……良くも悪くもシオリの影響だろう。ダアトの人間は彼女が来て以来、非常に流されやすく、いや、柔軟な思考を持つことを強制されているのだから。

そんなイベント当日、僕といえば白いカッターシャツに緑のリボンタイをつけ、黒のスラックスと普段に比べて非常にシンプルな服装をしている。
が、その上から襟の立ったマントを羽織っている上、裏地が赤色と非常に目に痛い。更に言うならマントを止めている金具は金色で、宝石を模した大降りの緑色の色ガラスを使ったりと地味さを殺すような勢いであった。
後は仮面がいつもと違うくらいか。シオリ曰く、オペラ・ザ・ファントムの仮面、だそうだ。意味はよく解らないが、目の部分が掘り込まれておらずともかけられた譜術によって視界は良好のため支障は出ていない。
しいて言うなら深緑と銀色をメインに使い精緻な細工の施されたこの仮面のお値段が気になるくらい。いったいいくらつぎ込んだのか。聞くのが怖い。

「今日は見回りという体の元ハロウィンを楽しむつもりですので、護衛をお願いします」

「せめてもうちょっと本音を隠そう?まだ執務室から出てすらいないよ?」

シオリはイベントとなるといつもよりテンションが高くなる。
本人は自重したいらしいが、当日になるとどうも制御が利かなくなるらしい。幼くなった影響ですかね、と以前苦笑していたのを覚えている。
が、僕は元々の性格だろうと踏んでいる。普段悪ノリしまくってる癖に何を言っているのか。

そんなシオリは今日は魔女の恰好をしている。
黒地に赤いリボンの巻かれたつばの広い三角帽をかぶり、いつもの音叉の杖ではなく樫の木を使用した杖をついている。
前開きのフレアケープはいつもつけている黒いブローチで止められており、その下には黒とワインレッドを使用した教団の法衣風ワンピースを纏っていた。
いつも白地にワインレッドなのにそれが黒くなるだけでずいぶんと印象が代わるものだ。

「シンクだから良いんです。それより今日はキムラスカ・マルクトからも多くの観光客がやってきています。巡礼者の方々や各地に派遣される預言者に宣伝を頼んだのが効いたのでしょう。
今までにないほどの賑わいを見せておりますし、宿屋は満室だそうです。こういう時はトラブルが起きやすい。守護役長達も隠れて護衛をしてくれるそうですから、何かあったら第五師団のほうも指示をお願いしますね」

「確かに今までにない浮ついた空気だからね、面倒ごともおきやすいだろうっていうのは解った。君の安全を確保しつつ周囲に指示を出すようにするよ」

「それじゃあ、いきましょう!まずは碑石前にあるハロウィン限定の露天を漁りにいきますよ!」

「せめて見回りって言って」

お菓子のたっぷり詰まったバスケットを掴み執務室を出るシオリに、僕も胸元のリボンタイを解いてポケットにしまいながら続く。
さて、面倒ごとがなければいいんだけど。そう思うもののシオリといる以上、それも難しいのかもしれない。

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