論師と六神将+αの初めてのハロウィンその2



廊下のあちこちに飾られた古ぼけたカンテラと、顔の掘り込まれたかぼちゃの装飾が独特の雰囲気をかもし出している。
ちなみに掘り出されたかぼちゃの中身は教団が出しているパンプキンスープやパンプキンパイの屋台で使用されたらしい。本当に無駄がないというべきか、ケチというべきか。

意気揚々と歩くシオリは明らかに浮かれていた。宣言どおりまずは大通りの碑石前を目指すのだろう。
そんな中、廊下の角で飛び出してきた二つの影に僕達は足を止めた。

「あ、早速論師様はっけーん!トリックオアトリート!!」

「シオリさま、お菓子くれなきゃいたずらする、です」

珍しい。アニスとアリエッタのコンビだった。
アニスはピンクと紫の縞模様のニーソックスを履き、紫がかったピンク色のもふもふとした一部丈のオールインワンを着ている。
首鈴のついた桃紫色のリボンもつけており、更には尻尾や猫耳などをつけているところを見るともしかして化け猫か何かの仮装なのだろうか。

アリエッタの方は前にも見たことがあった。というより六神将の衣装はシオリから配布されているのだから、見たことがあって当たり前というべきか。
桃色の髪から覗く小さな赤色の二対の角、パフスリーブのシャツの首元には大降りのローズピンクのリボンがある。
コルセットで締められたウエストの下にはジャック・オ・ランタンをバルーンスカートを履いているのだが、そこに描かれている顔の目が泣きそうな表情なのは、もしかしたらアリエッタの顔とかけているのかもしれない。
スカートからは先のとがった黒い尾っぽが僅かに覗いており、かろうじて小悪魔として主張していた。

「おやおや、あなた方は今日は配る側でしょう?」

「えへへー、私達は午後からの担当なんです。ただ配るだけじゃつまらないってことでみんなで交代で繰り出してるんですよ」

「さっき一緒になったから、どうせならって、一緒に回ってます」

「そうでしたか。それではお菓子をどうぞ」

どうやら二人とも今は自由時間らしい。納得したシオリはバスケットからチョコクッキーの入った小袋を取り出した。
一袋につき二〜三枚しか入っていないが、僕とシオリが作ったものなので味は折り紙つきだ。
アニスもアリエッタもそれにぱぁっと顔を明るくさせたかと思うと、礼を言って自分達が持っているバスケットへとしまっていく。

「論師様の手作りですよね?イオン様から論師様のお菓子はすっごく美味しいって聞いてるんで楽しみ〜」

「アリエッタもシオリさまのお菓子は好き……シオリさま、ありがとうございます」

「ふふ、ありがとうございます。それでは二人とも、トリックオアトリートです!」

シオリの言葉に二人は目をぱちくりさせると、慌ててお菓子を探し始める。
アニスはバスケットの中からキャンディを取り出すと、悪戯が成功したような笑みを浮かべているシオリにしぶしぶ差し出した。
アリエッタはポケットの中から取り出した少しつぶれたマドレーヌをそっと差し出した。

「うう、アッシュがくれたマドレーヌ……」

「ぶーぶー、今は貰う側なのにー」

「だって二人ともリボンをはずし忘れてるんですもの」

「「あ」」

アニスとアリエッタが顔を見合わせ、慌てて首元に巻いたリボンを外した。
そう、色はどうであれ教団及び師団の人間がリボンをつけている=お菓子を配る側、もしくはお菓子の交換が可能。これが今日のルールだった。
だから僕も執務室から出るときにリボンを外したのだが、慌ててリボンを外す二人にころころと笑ったシオリはバスケットから新たにパウンドケーキの欠片を取り出し、二人へと渡す。

「ちゃんと気をつけなきゃ駄目ですよ?さ、二人とも時間いっぱい楽しんできてください。今日は無礼講です」

「は〜い!論師様、ありがと!」

「いっぱいもらってきます!」

「ちょっと、アリエッタは時間までには帰ってきてよね!パレード忘れないでよ!」

「……わかってます!」

あれは忘れてたな。
返事までの間にそう確信するも、アニスと手をつないで楽しそうに廊下の奥へと消えていったアリエッタを見送ってとりあえず突っ込みは飲み込んでおいた。
二人の様子にくすくすと笑いながら、シオリはまた外へと歩き出す。

「あの二人も仲良くなりましたね」

「ちびっ子同士気が合うんじゃないの?」

「ふふ、アリエッタのほうが年上の筈なんですけどね、シンクよりも」

「……そういえばそうだったね」

シオリの言葉に今更過ぎる事実を思い出す。しょっちゅう忘れるのだが、アリエッタは僕達より年上だ。
シオリの前だとついつい忘れがちだが、あれでも14歳だ。恐ろしい(?)ことに。

忘れていた事実に内心人体の神秘を感じつつ、教団を出る。途中体中に包帯を巻いたディストとも出会ったが、お菓子を交換して終了した。
ディストは最初こそミイラ男の仮装を嫌がったが、包帯の下に美形が隠れてるっていうのが良いんじゃないですか、というシオリの言葉を聞いてあっさりと掌を返した。
今は大人しく体中に包帯を巻いている。あの包帯を解く機会は今日中には訪れないと思うのだが、それは別にいいのだろうか。
後ディストは額の部分に紫色のリボンを巻いている。シオリがあれを見て酔っ払ったサラリーマンみたいですねと呟いていたがどういう意味なのだろうか。ただ多分いい意味じゃないんだろうな、というのはサラリーマンの意味を知らない僕でもわかった。

正面玄関から出ると、教団本部の前の大通りはそれはもう賑わっていた。
ハロウィンの象徴だというカンテラ、かぼちゃ、魔女の帽子などの飾りがあちこちで目に付く。
道の左右には露店が設置されており、碑石前の広場を中心にして大通りに伸びている。
基本的には碑石から教団に伸びる道に設置されている露店は教団公認か、教団が出資している縁深い露店ばかりだ。
おかげで安価で一定の質を保っているものが大量に売りさばかれている。

逆に碑石の広場から町の外へと通じる大通りには、今日の噂を聞きつけてやってきた商人や普段個人店を出している住人達の店だ。
こちらは値段はばらばら、質もピンキリ、その代わり値切りもできるというかなり自由な露店である。ハロウィンとはまったく関係ない店も多い。
が、売り上げの一割は土地代として回収する予定なので是非是非儲けて欲しいところだ。

今回僕達が目指している碑石前の広場は、教団が出しているハロウィン限定の露店だ。
衣装の貸し出しを始め、パンプキンスープやパンプキンパイ、お菓子の詰め合わせのセットや小物の販売などハロウィンにちなんだ店ばかりが集まっている。
シオリ曰く人は限定という言葉に弱いらしい。そしてその言葉の通り、ハロウィン限定という文字をでかでかと主張した露店達は大変賑わっていた。

「大盛況ですね、ふふふ、これはハロウィンは成功と見てよさそうですね」

イベントが終わった後のガルドのことでも考えているのだろうか。実に楽しそうに笑うシオリの笑顔を純粋に見ることができない僕はきっと多大な影響を受けている。
早速シオリはパンプキンパイを二人分買うと、僕のほうに一つ寄越してきた。
任務中だからと断ろうとしたが、もう買ってしまったからと無理やり渡されるので仕方なく口に突っ込む。
一番小さい一口大のサイズだったのが幸いだった。多分このサイズなら僕が渋々受け取ることを見越してのことなんだろうが。

「ん、かぼちゃの甘みが出ていて美味しいですね。腕の良いパティシエに監修を頼んだかいがありました」

それでもやっぱり、シオリにしたら味は濃いのだろうな。
そう思いつつもぐもぐとパイを食べるシオリを見る。シオリはペロリとパイを食べきると、背後からかけられたトリックオアトリートという言葉に反応してくるりと振り返った。

「おや、フローリアンも参加してたんですか」

「うん!お菓子くれなきゃ悪戯するぞーっ!」

「では私もトリックオアトリートです」

「あは、じゃあ交換だね!」

頭に弓矢をぶっさし、額から血のりを垂らし、壊れた装備を纏ったフローリアンがきゃらきゃらと笑いながらお菓子を取り出した。
その腕にはかろうじて若葉色のリボンが巻きついている。
そしてその背後にはくりぬかれたかぼちゃを頭を被り、真っ赤なリボンをつけている無言の男がいた。
……もしかして、もしかしなくとも、あのかぼちゃ頭は……アッシュなんだろうか。

「ところでアッシュは言わないんですか?」

「アッシュねぇ、あれ被ってから一言も喋らないの」

「お菓子か悪戯かって言われたらどうしてたんです?」

「まだ一回も言われてないよ。一緒に回ってる筈なんだけどね」

つまりフローリアンに声をかけることはあっても、アッシュに声をかける人はいなかったということだ。珍しくフローリアンが苦笑交じりに答えた。
シオリはそれに苦笑しつつ、パウンドケーキをフローリアンに渡している。
しかしフローリアンが苦笑する理由もわかった。
かぼちゃを被っているせいで表情は解らないはずなのに、このアッシュらしい人物の機嫌が最悪なのは伝わってくるからだ。
それはもう俺は不機嫌だぞと全身で主張している。これに声をかける奴がいたらそいつはよほどの鈍感か、勇者だと思う。シオリを別として、だが。

「そうでしたか。アッシュ、私も声をかけないほうがいいですか?」

シオリが僅かに首をかしげながら声をかける。僅かに雰囲気が和らぎ、かぼちゃ頭がふるふると首を振った。

「そうですか。それは自分で被ったんですか?」

またふるふると首がふられる。

「もしかして第三小隊で何か?」

こくりとうなずいた。

「……まさかとは思いますが、第三小隊全員その恰好ですか?」

少し間を空けた後、もう一度こくりとうなずくかぼちゃ。
その姿が哀愁を背負っていたように見えた気がしたのは、きっと気のせいではない。
シオリは首肯したアッシュに額に手を当てたあと、そうでしたかお疲れ様ですと告げてバスケットからチョコチップクッキーの入った子袋を取り出した。
その姿を見て慌ててアッシュもバスケットの中からマドレーヌを取り出している。少しいびつな包装に、もしかして手作りなのだろうかと少しばかり悩んだ。

「交代で休んでくださいね」

最後にシオリの言葉にこくりと頷き、露店を見て回るという二人とは手を振って別れた。
ところであのかぼちゃを被ったままどうやって食事などはとっているのだろうか。
もしかしてあれを被ってから何も食事を取っていないのか。そうだとしたら第三小隊は後でしかっておく必要があるかもしれない。


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