論師と六神将+αの初めてのハロウィンその3



予想の斜め上をいっていたアッシュのことを話しながら歩いていると、ふと見たことのある銀髪が茶色の耳をつけて歩いていた。
予想外過ぎる人物に同じくその人物を見つけたらしいシオリは足を止めて目をぱちくりさせており、僕もまた珍しく口をあんぐりと空けてしまう。
そしてすぐに覚醒したかと思うと、僕の手をとってこそこそとその人物へと近寄っていく。

「フリングス殿!」

「! 論師様、お久しぶりにございます。マルクトでお会いして以来ですね」

「やはり貴方でしたか。お会いできるとは思ってもみませんでした」

「私もです。まさかお会いできるとは。シンク殿もお久しぶりです」

「お久しぶりです。ところでその仮装は……もしかしなくてもブウサギの耳ですか?」

「はい……」

そういってフリングス将軍は頬を染めた。見れば腰のところには短い尻尾が揺れている。
大方ピオニー陛下から突然大々的に宣伝を始めたハロウィンという聞き覚えのないイベントの視察を命じられ、同時に仮装が必須と聞いてこれを指定したのだろう。
そう思ってフリングス将軍とシオリが歓談するところを見ていたのだが、やはり将軍は似たようなことを話している。
何でもピオニー陛下は自室でブウサギを飼うほどブウサギが大好きなんだとか。そんな情報貰ってどうしろというのだ。

「しかし大きなイベントですね。正直驚きました。任務で来ているとは解っておりますが、露店の品々も美味しいものが多くてついつい舌鼓をうってしまいます。なんでも、今日の夜はパレードもあるとか?」

「ええ。神託の盾主催のパレードです。軍の有志による行進と六神将の顔見世も兼ねておりますので、是非見ていってください」

「ほう。それは華やかになりそうですね。神託の盾の方々のどれほどの精鋭か、こちらとしても期待してしまいます」

「ええ、彼らも今日のため賢明に訓練していましたからそのご期待に沿えることをお約束いたしましょう」

うふふふ、あはははと笑い声が響くが、話している内容は決して穏やかではなかった。
少なくとも軍の完成度を見たフリングス将軍はそれを余すことなくマルクトの者達に報告するだろうし、こちらとしてもそれを踏まえた上でのパレードである。
もっと下っ端がくるものかと思っていたが、宣伝を大々的にしすぎたせいかこんな将官クラスの大物が来るとは思わなかったが。
とはいってもフリングス将軍は昇進したばかり。わざわざダアトに視察に寄越すなど、嫌がらせか、もしくは反感を買った輩を抑えるために少しグランコクマを離れたほうが良いといわれてきたのかもしれない。
まぁどんな理由はあれど、こんな道端で国同士の腹の探りあいはしないで欲しいのだが。

それから少し歓談した後、ピオニー陛下によろしく伝えてくれという言葉で会話を終わらせ、フリングス将軍ともお別れをする。
その後露店で販売しているピンで髪に留めるタイプの小さな三角棒を頭につけ、魔女を模した安っぽい黒いケープを羽織っただけのセシル将軍に出会うことになるとは、流石の僕らも予想してなかった。

マルクトとキムラスカの軍人は、存外暇人なのかもしれない。





「論師、そろそろお時間です」

「ああ、もうそんな時間ですか」

あれから露店を冷やかしつつ、商店街の代表に調子はどうかと聞きにいったり、職員に連れられて参加しに来たホスピスの人達と顔を合わせたりと、楽しむという体の元出てきたが結局ほぼ仕事をしていたようなものだった。
それでも途中出会った子供達や情報部の面々にお菓子を配りつつ自分もお菓子を貰っていたあたり、ちゃっかりしている。
それになんだかんだ言いつつ僕自身も露店を冷やかすことができた。良い品を安く買うこともできたから、なんだかんだ言いつつ良い一日だったのだろう。

シオリと一緒に教団本部へと戻り、シオリは特別席へ、僕は神託の盾の控え室へと向かう。
早めにきたつもりだったが、そこには既に先客がいた。
まず目に入ったのは顔に繋ぎ目を描き、頭にねじをさしたラルゴだ。その古ぼけたスーツはもしかして自前なのだろうか。
それから二の腕と太ももをむき出しにした、微妙に露出の多い衣装を着ているリグレットだ。
ざっくりとあいた背中からは蝙蝠の羽が生えており、何でもサキュバスと呼ばれるものを模しているらしい。
僕としてはこんな時期に寒そうだ、としか思えなかったけれど。

二人とも部隊を整えた後、最終確認のため早めにこちらへと顔を出していたらしい。
二言三言挨拶を交わした後これからのことを話していたら、すぐにディストやカンタビレもやってきた。
ところでカンタビレが男装しているのは何故だろうか。オールバックの髪が妙に決まっている。

「あれ?ヴァンは?」

「閣下なら犬の耳をつけ狼男の衣装に着替えて個人的に警邏に回っていたのだが、子供達に怖いと泣かれて通報され、現在その弁命中らしい。
幸い私達だけで何とかなるからな、というわけでシンク、指揮を頼む」

リグレットが腕を組みながら言った台詞にカンタビレが勢いよく噴出した。
予想外すぎる返答に僕も目が点になったものの、今は気にしている暇はないと切捨て最終確認に入る。
多分誰かが迎えに行くだろう。リグレットがここに居る時点で迎えにいく人物がゼロになっている気もするが、もう時間も時間なのでその事実には気づかないふりをしておく。
ちょうどアリエッタは既に待機しているとの伝令も届いたことだし。

「しかしよくこんなお祭り騒ぎをすることを教団が許しましたね。ちょっと論師の色に染まりすぎてやいましませんか?」

そんな中、口を開いたのは全身包帯だらけのディストだった。
ちらりと時計を見れば、全員早めに集まったせいでまだ少し時間がある。
緊張をほぐしたいのだろう。その軽口にのることにする。

「別にいいじゃん。経済の活性化には繋がってるしね。訓練にもなるし、これが終わった後は懲罰房に入ってる奴等に町中の掃除させる気らしいから、こっちとしてもデメリットは少ないしむしろ好都合だよ」

「まぁ確かに色々と研究もやりやすくなりましたからデメリットがないという点では同意しますがね」

そういってディストがずれた眼鏡の位置を直す。
はたして包帯の上からかけられた眼鏡に意味があるのだろうか。

「まぁディストの言うとおり確かに論師がくる以前の教団だったらこんな馬鹿騒ぎは許さんだろうな。俺もこの話が通達されたときはかなり驚いた」

「それは神託の盾に所属する者ならば誰だってそうじゃないかしら。ただあの方が今まで成してきたことがあり、その上に信頼を築いていたからこそ受け入れられているのだと私は思っているけれど?」

ラルゴの言葉にリグレットも同意する。
しかしその言葉に僕と、それからカンタビレも同意できないようで揃って肩を竦めてしまう。
どうもリグレットはシオリを妄信しているきらいがある。
毒を食らわば皿までとたとえ地獄の道でもお供すると覚悟を決めている分、シオリもまた見逃しているようだが。

「どうだかね。単純にシオリが出すびっくり箱にいい加減慣れただけじゃないの」

「つまり驚いてるうちはまだ正常ってことかい?」

「そうとも言えるね。それが日常になったらおしまいだよ」

「つまり貴方じゃないですか……」

僕の言葉にディストがぼそりと呟いた。自覚はあるからほっといてほしい。
そうして軽く雑談をした後、残り時間の配分も考えて雑談を切り上げこれからのことへと思考を切り替える。

今日のパレードはライトアップされた大通りを仮装した神託の盾が音楽と共に練り歩くという至極単純なものだ。
それでも普段質素な生活を送っている住民からすればただの華やかなパレードだが、これは二カ国に対して密かに軍の完成度を見せ付けるという意味合いもある。
また、僕達としてもイベントを通じて結束間を高めるという意味合いもあった。
パレードの行軍も、戦場に出るほどではないが大衆の目に晒されるとなればそれなりに気が引き締まる訓練をすることもできる。
平和ボケ防止にはちょうどいいのだろう。

僕達六神将は騎乗した上で、大聖堂へと向かって行軍するパレードを引っ張る形になる。
中でもアリエッタの師団は先頭と殿をライガの部隊で固め、頭上をフレスベルクの部隊で駆ける予定なので大忙しだ。
そのためこの部屋には訪れず別箇所で待機という形になっている。

「それじゃあ、手はずは解ってるね?神託の盾の顔を潰すんじゃないよ!」

最終確認の後、その言葉を皮切りに僕達は外へと繰り出した。
ハロウィンもこれで終盤。無事切り抜けるためにも、失敗は許されないのだ。


栞を挟む

BACK

ALICE+