論師と六神将+αの初めてのハロウィンその4



ライトアップされたダアトはいつもとは違う浮かれた雰囲気に包まれている。
あちこちで光るオレンジ色の光は、もしかしたらかぼちゃから漏れる灯りだろうか。
中に第六音素を詰めてランタン代わりにしていると聞いたときは、本当に音素は何でもありだなと思ったものだ。

「お隣失礼しますね」

「導師イオン。私など気になさらず、どうぞおかけくださいな。本日はお楽しみいただけましたか?」

「はい。こんなイベントは初めてで、年甲斐もなくはしゃいでしまいました」

「何をおっしゃいますか。導師はまだまだお若いでしょう。詠師達が聞いたら言葉に詰まってしまいますよ?」

そんな雑談をしつつ、隣の少し高いところにある席に腰掛けたイオン……に、化けたレインと笑いあった。
ハロウィンはダアト主催ということもあり、彼はいつもと違う衣装を纏っていた。デザインこそほぼいつもの衣装と変わらないが、その身に纏うのは純白ではなく漆黒だ。
しかし首飾りと杖だけは平時と変わることなく、むしろ逆に漆黒に映えるダアトの象徴は普段よりも一層際立って見えた。

そうして少し雑談をした後、眼下に広がる風景を見下ろす。
ここは導師と私のために設けられた特別席だ。本来ならば大詠師モースの席も用意されていたのだが、彼はキムラスカに居るために今日は欠席である。
護衛には導師守護役長、論師守護役長が率いるそれぞれの守護役が影から警護しているのに加え、主席総長が導師と論師の背後で直々にお守りするという徹底ぶりも見せた。
それだけ導師と論師の存在はダアトにとって大きなものなのだとここで一つアピールでもしておきたいのと、民衆から支持を得る姿を旅人にも見せてマルクトやキムラスカにも喧伝したいのだろう。
でも赤い薔薇が飾られているのは何故だろう。もしかして設置にはディストも関わったのだろうか。

まぁ要はこの薔薇と同じでお飾りなわけだが、それもまた仕事の一つとして私もレインも受け入れている。
それにこの教団本部の目の前にあつらえられた特別席は大通りの奥からやってくる神託の盾の行進がとてもよく見えるのだ。
役得だと思えば烏合の衆の視線など気になる筈もなかった。

高らかに金管楽器が鳴る。花火が打ち上げられ、市民達がワッと湧き上がる。
そして遠くから声が聞こえたかと思うと、神託の盾に箔をつけるためと情報部を中心に結成されたマーチングバンドの行進曲が耳に届き始めた。
一糸乱れぬ軍靴の踵が石畳を叩く音が響き始め、民衆達も彼らが辿り着くのが今か今かと身を乗り出して待ち望んでいる。
大通りの警備を担当する兵士達は民衆が道に乗り出さぬよう必死に抑えていた。

そうしてまず辿り着いたのは、他でもない第三師団。
魔物を率いる桃色の小悪魔、幼獣のアリエッタがライガに乗りフレスベルクを指揮して行進の先頭をきっていた。
普段見ることのない魔物を指揮下に置くアリエッタの師団を目にすることができた民衆達は歓喜に湧く。
フレスベルク達やライガ達も頭に小さな三角帽をくくりつけていたり、リボンを巻きつけていたりと親しみやすい姿をしているのも原因だろう。

その後重厚な足音と共にやってきたのはラルゴ率いる第一師団である。
派手さはないがその重厚で徹底された動きはまさしく軍隊と呼ぶに相応しい。
全員が儀礼用の剣と盾をもって歩く姿は、幼い子供ならば一度は憧れる軍人そのものだろう。
それに派手さがなくても良いのだ。
普通よりも巨大な馬に乗ったラルゴはその身の丈ほどもある大鎌を肩にかけて第一師団を率いている。
幾多の商人たちを守り抜き砂漠を乗り越えてきた経験者にしか出せない凄みが、確かにそこにはあった。

続けて現れたミイラ男ディストが率いる第二師団は正直ラルゴほどの精度は保っていなかった。
しかし彼等はいまや体を張るよりも知恵を絞ることに特化した、第三師団と並ぶ特殊な師団である。
自らの成果と呼ぶべき譜業に乗って行進するもの、空気に触れると虹色の炎へ変化する薬液を振りまき行進に花を添えるもの。
ばらばらの動きが絶妙な調和を保ち、綺麗に並んで歩いていた。

何より師団長である死神ディストが空を飛ぶ赤い椅子に座って軍を率いているのである。
彼らの奇特な行進を、否定できる筈もなかったのだ。

「見事ですね」

「はい。素晴らしい完成度です」

思わず漏れたらしいレインの台詞に、私もまた首肯で答える。
有志の面々のみで賄われているとは思えないほど、彼らの行進は素晴らしかった。
教団本部の前までに辿り着いた者達は、それぞれ所定の位置にて直立不動を貫き、後進の者達を待っている。
彼らを祝福するように、マーチングの金管が高らかに鳴り響いた。

これから第四、第五、第六師団と来るはずだ。
第四師団はリグレットが率いるせいか女性兵の数が若干多い。
そのため今回は行軍の華を添える役を担っている。

シンク率いる第五師団は連携の巧みさと一人一人の質の高さが売りだ。
行軍の最中、観客達に被害が出ない程度に派手な譜術を発動させる手筈となっている。

殿を務める第六師団は、まだダアトに戻ってきて日が浅い。
そのためカンタビレの顔見世と、錬度の高さを見せ付けるのが目的だった。
特出した能力はないが、どのような事態にでも対応できるほど軍として完成している。
言い方は悪くなってしまうが、部下として彼等は非常に優秀なのである。

そんな彼らがここに到着するのを待っていたのだが、ふと背後から不穏な気配を感じて私は振り返った。
するとそこには困ったような顔で犬耳を外しているヴァンと……。

「こんばんは、君を攫いにきたよ。僕に盗まれてくれるかい?ダアトの誇る、論師シオリ」

「イオン!どうしてここに……」

「勿論、君がこんなイベントを開催するっていうんだ。ベルケントから飛んできたに決まってるだろ?」

「お久しぶりです。彼女は教団に必須の人間なので、攫わないでいただけると助かります」

「久しぶりだね、レイン。元気そうで何よりだ。でも今日のテーマは怪盗だからね、怪盗は何かを盗むものって決まってるだろ?」

そういって元祖導師ことオリジナルイオンはモノクルをかけた顔でくすくすと笑った。
その緑の髪の上には、白いシルクハットが乗っている。
怪盗がテーマらしいイオンは、白い燕尾服の上にたっぷりと布を使った白いマントを羽織っていた。
シンクと対照的なのは……意図したところではなく、単純に偶然なのだろう。
しかしこいつ、イベントの度に乗り込んできてないか。

「まだパレードが終わってないので、今攫われると困りますね。この後挨拶が控えてるんです」

「あはは、挨拶が終わった後なら攫われてくれるのかい?」

「どうせ行き先は私の部屋でしょう?」

「ばればれか。他に行き場所もないし、何より君の部屋は落ち着くんだよね。一時期引きこもってたせいかな」

「なら先に行ってて良いですよ。むしろ顔出したままなら今のうちに行ったほうが良いでしょう」

私の言葉にイオンはマントの裾を持ったままくすくすと笑う。
その背後ではイオンに見えないようにヴァンが腕を組み、うんうんと頷いていた。

「君が言うならそうしようかな。でもその前に、お菓子くれなきゃ悪戯するよ」

その言葉に目をぱちくりとさせる。まさか今来られるとは思っていなかった。
生憎お菓子を詰めたバスケットは今は手元にない。
慌てて立ち上がってからポケットなどを探るがそう都合よくお菓子が出てくる筈もない。
降参の意をこめて両手を挙げると、イオンは笑みを深めた後に私がつけていたブローチへと手を伸ばす。

「じゃあ悪戯だ。これ、部屋で返してあげるから、それまではこっちをつけてて」

そう行って代わりにつけられたのは精緻な銀細工の上に緑色の石が乗ったブローチだった。
今日着ている黒い衣装によく映える。というか、これシンクの仮面と被ってないか。
文句を言う暇もなく、私とレインにそれじゃあまた後でねと言ってイオンはくるりときびすを返す。
私の部屋に向かったのだろう。
私はそれに苦笑を漏らし、同じく肩を落として苦笑しているヴァンに向かって謝った。

「すみません、せっかくいただいたブローチをとられてしまいました」

「構いません。あの方なら必ず返してくださることでしょう。それにそちらのブローチも良くお似合いです。導師の瞳と同じ色ですな」

ヴァンの言葉を聞き、そっとブローチを撫でる。レインもまた、よく似合ってますよと言って微笑んでくれた。
いつも同じブローチばかりつけていたため、二人の言葉に少しばかり照れてしまう。
それに教団から支給される衣装はワインレッドを用いることが多いため、緑色の装飾品というのはあまり馴染みがない。
多分そんなものをつけなくとも、私の傍にはいつも緑の髪があったから必要なかったのだろうけれど。

「二人とも、ありがとうございます」

「どうしたしまして。それにしても……ふふ、イオン様は本当にシオリが好きなのですね。僕も居るのにずっとシオリと話されていて」

「気分を害しましたか?」

「まさか。ただ仲間はずれにされるのは少しだけ寂しかったです。というわけで僕も便乗させてください。お菓子くれなきゃ悪戯します」

にこっとかわいらしい笑みを浮かべながら言われた台詞に、私は苦笑を返すしかなかった。
お菓子がないと知っているのにわざわざ言うのだ。悪戯がしたいのだろうと、両手を広げてどうぞと声をかける。
レインはありがとうございますとお礼を言った後、悪戯をしますから座ってくださいとにこにこしながら告げた。
さて、どんな悪戯をされるのか。

少しだけ期待しつつ席に座りなおしたのだが、レインは飾られていた薔薇を一輪手に取ったかと思うと、私の帽子にそのまま薔薇を飾りつけ始めた。
なるほど、座らされたのは帽子に手を伸ばすためか。
もう良いですよと言われたのでためしに帽子を脱いで手にとって見れば、リボンの部分に赤い大輪の薔薇が取り付けられていた。
まったく、どうしてイオンといいレインといいこう気障なのか。
違いらしい違いといえば、レインは天然でイオンはわざとだということくらいか。

「ふふ、かわいらしい悪戯ですね?」

「今日が終わるまでつけていてくださいね」

「解りました」

再度帽子を被りなおし、レインと笑いあう。
そこでふと眼下を見下ろせばパレードはもう終盤に近づいていて、私とレインはこの後閉会の挨拶をするために再度椅子へと座りなおすのだった。



栞を挟む

BACK

ALICE+