論師と六神将+αの初めてのハロウィンその5



パレードも無事終わり、締めの挨拶をした私はごみは各自持ち帰るかゴミ箱に捨てましょうというアナウンスを聞きながら、シンクと共に自室へと帰っていた。
そこには私に言われた通り、執務室よりもさらに奥にある私のプライベート空間では、白い衣装を着た自称怪盗のイオンがまるで自室かの如く寛いでいた。
勿論、シンクの機嫌が急降下したのは言うまでもない。

「何でオリジナルがここに居るのさ」

「そりゃ勿論、ハロウィンに参加しに着たに決まってるだろう?」

「僕は何でシオリの部屋に居るのかって聞いてるんだけど?」

「そりゃ勿論、シオリからお誘いをいただいたからだよ」

イオンの言葉にシンクからどういうことだと視線を向けられた。気がした。
シンクは仮面をつけてるので真偽は定かではないのだが、十中八九間違いないと思う。
何故こんな浮気を疑われている妻のような気分にならなければならないのかは解らなかったが、一応無実を証明するために両手を上げて言い訳をさせてもらうことにする。

「しょうがないでしょ。突然来たから部屋の準備なんてしてなかったし、かといって顔を見られたら面倒になるし、何よりブローチ返してもらってないもの」

そう、今イオンの手の中には私が普段から身につけている黒いブローチがあった。
あれはヴァンから貰ったものだし、私もそれなりに気に入っている。シンクもそれを知っている筈だ。
それを聞いたシンクは舌打ちを一つすると、イオンの手からブローチを奪う。
そして私にずかずかと歩み寄り、胸についていた緑のブローチを乱暴に外したかと思うと、再度黒いブローチをしっかりとつけてくれた。

「これで用件は済んだよね。さっさとベルケントに帰れば。夜中でもアリエッタの魔物なら連れてってくれるよ」

「ひどいねぇ、か弱い病人に何てこと言うんだ。シオリ、こんな冷血漢を傍に置いておいて本当に大丈夫なのかい?」

「か弱い病人はイベントのために施設を抜け出したりしないから」

「じゃあ聞くけど、お前が僕の立場ならシオリの主催するイベントにわざわざ足を運ばず、大人しく検査を受けるって言うのかい?」

「抜け出すに決まってるじゃん」

「シンク、少しは本音を隠しましょう?」

「別にいいでしょ、僕達しかいないんだから」

なんてこった。これじゃ今朝と逆である。
それからもう少しイオンがシンクをからかったあと、結局ヴァンに部屋を用意してもらっていたようで、今日はそちらで寝るといってそのまま部屋を出て行った。
帽子の薔薇、似合ってるよ、なんて余計な一言を置いていかなければとっても良かったに違いない。
シンクはシンクで胸元のブローチばかりに気をとられて頭上にある帽子の薔薇には気づいていなかったらしく、ちょっとどういうこと?と私を問い詰め始める。
だから何故私は浮気を疑われる妻のような気分にならねばならないのだ。
仮面をとったシンクに再度無罪を主張するため、両手を上げながらレインから貰ったのよと弁明した。
私はやましいことはしていない。断じて。

「何で薔薇なんて貰う羽目になるわけ?」

「悪戯の一環だよ。パレードの最中にトリックオアトリートって言われたの。バスケットは持ってなかったから、実質悪戯しかなかったんだよ」

「ふぅん、ずいぶんとかわいらしい悪戯じゃないか」

一人がけのソファに腰掛けた私に対し、シンクはソファの肘掛に腰掛ける。
シンクから見下ろされることになった私は不機嫌そうに腕を組むシンクに眉尻を下げて苦笑するしかなかった。

「気に入らないみたいだね。じゃあシンクならどんな悪戯をしてくれるの?」

「は?ぼく?」

「そう、シンク」

私の質問にシンクは不意をつかれたかのようにきょとんとする。
そして顎に手を当てて少し考えた後、再度私を見下ろしてから帽子を奪い取る。

「僕なら……噛む」

「はい?」

「だから、噛む。というわけで、トリックオアトリート。お菓子くれなきゃ悪戯するよ」

「いえ、だから今はお菓子は持ってなくて、」

「じゃあ悪戯ね」

帽子をぽいと絨毯の上に投げ捨てたシンクは、私の足と足の間に膝をついたかと思うと肩の上でするりと腕を滑らせる。
さりげなく襟元をくつろげられたかと思うと、私が静止する暇もなくシンクは私の首筋に噛み付いてきた。

「ちょ、ぁ、いたっ、痛いっ、ってば!」

「僕は今吸血鬼だから仕方ないよね」

「仕方なくない!血を吸う気か!?」

「吸ってあげようか?あれ、ものすごく痛いらしいね?」

「いーやーだーっ!!」

拒否の意をこめてぐいぐいとシンクの肩を押す。
しかしその程度の力でシンクがどいてくれる筈もなく、シンクは噛み付きこそしなくなったが首元に顔をうずめてきた。
その上ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、突然の甘えん坊モードに私も少しばかり戸惑ってしまう。
おずおずとシンクの背中に腕を回す。恐る恐る背中を撫でてやれば、僅かに私を抱きしめる腕に力がこめられた。

「……パレードの最中にレインやオリジナルとじゃれてたってことは、僕が頑張ってたところは見てくれなかったわけだ」

「う……それは、その……ごめん」

「ヤダ。許さない」

「えぇー……」

「シオリからも僕に悪戯してよ。そしたら許してあげる」

私の首もとから顔を上げたシンクが、そんなことをいう。
予想外の台詞にどうしたものかと困っていると、シンクは楽しそうに笑いながら期待のまなざしで私を見ている。
シンクがこんな目で私を見るなんて珍しい。それこそめったにない。
プレッシャーという言葉が、ずんと肩の上に乗った気がした。

「ほら、どうしたの?早く悪戯してよ」

シンクにせかされ、脳味噌を高速で回転させようと試みる。
想像していなかった展開に疲れきった脳味噌は悲鳴を上げるだけで動いてくれそうになくて、ちっとも答えをはじき出してくれない。

「悪戯してくれなきゃ、僕ここから動かないからね?」

更にそんな追い討ちをかけられ、私の脳味噌はますますパニックへと陥った。
いったいシンクは私にどんな期待をしているのだろう。
現実逃避のようにそんなことを考えるものの、それこそ答えなんてない問題だ。

「じゃあ、目をつぶってくれる?」

何とか苦し紛れにそう言えば、シンクは私に言われたとおりに目を瞑ってくれた。
長いばさばさとした睫が下ろされ、緑色の瞳が隠される。
それでも期待を隠さないように、薄い唇は弧を描いたままで……。



この後私がどんな悪戯をしたか、それはご想像にお任せする。







論師と六神将+αの初めてのハロウィン






イオンが持ち込んだブローチは論師にプレゼントされる筈でしたが、シンクに回収されてしまいました。

おしまい。

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