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※アッシュの扱いが可哀想です。


 第五師団長就任試験。
 それが私の貸した知恵であり、騎士団への正式な入団を決めたシンクの試練だった。

 シンクの強さは既に騎士団内では認知されている。しかしそれは正式なものではないが故に、問題があった。ならばそれを正式なものにすればいい、という単純な結論に至っただけなのだが。
 この試験は誰でも受けられる、自薦他薦問わず参加できる形にした。結果、私の推薦という形で参加するシンクの他に多くのものが名乗りを上げた。

 シンクを含めた彼等にはまず、兵法やサバイバル知識などの筆記試験を受けてもらった。
 他にも礼儀作法や、騎士団内の基礎的な知識についてのテスト、さらに精神鑑定など受けてもらい、それをクリアしたら今度は実力テストだ。

 この実力テストは簡単に言えばトーナメント方式になっている。
 ここで優勝できた者が師団長になるのだが、強さと顔を知らしめるという意味合いも含めてこのトーナメントは観戦自由の形を取らせてもらった。

 騎士団員だけでなく教団に所属する者なら誰でも観戦できるので、勿論私も観客席に居る。
 一人でのこのこ現れた私に団員達がムンクの叫びの如く悲鳴をあげ、あれやこれやと特別席を作り上げ、そこに押し込められたのはご愛嬌である。
 目立つことこの上ないが、快適に観戦できる形になったのでまぁ良しとしよう。

「……大丈夫かな」
「不安ですかな?」
「えぇ、まぁ」

 力加減を間違えて相手を再起不能どころか黄泉の旅路に送らなければ良いのだけれど、と言う不安があります。その言葉を飲み込んで隣に居るヴァンに曖昧に微笑みかけた。
 試験官の一人であるヴァンはもう少ししたら審判として観客席から離れなければならない。

 微力ではありますがシンク様の代わりに護衛をさせて頂きます。
 と私の背後に控えている団員達を警戒するために来たようだが、彼等が下心無く護衛を申し出てくれているのが解ったのだろう。

 それから二言三言離して、礼をして去って行った。試合が近い。少しだけ心臓がドキドキしていた。
 ……それにしても、私の発案とはいえ一週間で闘技場のような簡易アリーナを作れる騎士団って実は凄いんじゃないだろうか。大工的な意味で。

それから少しして始まった試合だが、なんと言うか、やはり相手が可哀想だった。

 一戦目の相手は相性が悪かった。譜術と体術を合わせて使うシンクに対し、相手は生粋の譜術師。
 詠唱している間に手刀を叩き込み、K.O。一分も経たない内に試合は終了した。

 二戦目は剣士だったが、無詠唱のタービュランスで視界を遮った後、背後に回ってからの踵落し。
 三分も経たない内に試合は終了した。

 三戦目は譜術剣士。
 詠唱短縮したグランドダッシャーとエクスプロードがぶつかり合ったが、盾を構え防備に重きを置いたのが良くなかった。シンクの素早さでかき乱されて終了。

「……心配する必要なかったかな」

 とりあえず手加減はできているようである。今のところ誰も死んでいないことに安堵しつつ、準決勝にあたる四戦目。
 鞭という騎士団内においては珍しい武器を使う団員が相手だったが、振りかぶられた鞭を掴んで引き寄せ、顔面に拳を叩き込んで終了した。

 次いで休憩時間も与えられないまま決勝戦に移る。時間を与えないのは持久力と体力を計るためもある。
 提案した際は大人に比べれば遥かに体力の少ない十二歳のシンクは大丈夫だろうかと不安になったのだが、この調子なら問題無さそうだ。
 それにこの程度乗り越えなければきっと団長として認めてもらえないだろう。

「さぁいよいよ決勝戦です! この試合で勝った者が第五師団の師団長に! 第五師団員は最も注目するべきこの試合、勝敗はどうなるのか!?」

 ノリの良い司会の言葉を右から左に受け流しつつ、飄々とアリーナに現れるシンクを眺める。
 緊張している様子は無く、体力が低下しているようにも見受けられない。
 しかし戦闘方面はからきしな上、いくら特別席とはいえ遠目からしか見えないので、実際のところは解らなかった。

「まず登場したのは期待の新星! 論師推薦、論師守護役のシンク選手!」

 いや、選手って何だ。候補生の間違いだろう。
 心の中で突っ込む私とは裏腹に、観客席に居る団員達は歓声を上げる。

 いいぞー!とか、そのままいっちまえー!とか、思ったより小せぇな!とか聞こえる。
 小さいといった団員が後でシンクにぼこされないよう祈っておく私である。

「シンク選手はヴァン謡将が突如連れてきた謎に包まれた少年ですが、見た目にそぐわないべらぼうな強さでここまで勝ち上がってきました! 無詠唱で譜術を発動できるその才能も然る事ながら、優れた拳法家でもあります!」
「更に更に! あの論師様の守護役をこなしつつその秘書を務める程事務能力に優れた少年でもあります!
 彼が第五師団長になれば事務仕事は安泰ですね!」

 司会が簡単にシンクの説明をしつつ茶々を入れている。何故か事務仕事が安泰という説明をされたときが一番盛り上がった気がした。
 ……シンクが以前騎士団は脳筋しか居ないと愚痴っていたが、こういうことか。

「続いて現れました青年、自薦、特務師団所属アッシュ選手!」

 歓声が響き、赤い髪を靡かせてアッシュが登場する。仮面をつけているのは一応緑の瞳を隠すためなのだろうか。
 思わずヴァンを見るとぱちりと視線が合い、サッと逸らされた。アッシュが参加することは彼にも予想外だったのだろう。

 私も最初アッシュが参加を希望してきた時は驚いたものの、参加を断るわけにもいかず今に至る。
 しかしアッシュ対シンクて。

「アッシュ選手もまたヴァン謡将が連れてきた謎の青年ですが、シンク選手との違いはずばり経験の差! 優れた剣の腕と譜術の才能を持って騎士団で奮闘し続けたその経験の差は才能を持っても埋められません! ちょっとばかし口が悪いのはご愛嬌です!」

「やかましいっ!」

 司会の説明にアッシュが突っ込んだ。
 口の悪さを自分から証明してどうする。

「泣こうが喚こうがこれが最後の試合です! 果たして第五師団の師団長になるのはどっちだ!?

レディ、ファイッ!」

 司会が試合の開始を叫んだのと同時に二人は走り出した。
 アッシュの剣を軽々と避け、シンクが蹴りを喰らわせようとするもののアッシュもそれを防御する。
 さらに剣が振りかぶられ、シンクが距離を取る。

 アッシュが詠唱を始めると、シンクはそれをさせまいと嘗底を叩き込む。
 防御する事で詠唱を止め、バックステップでそれをかわしたアッシュにシンクはさらに連撃を食らわせ……うん、シンクの方が押し気味だなぁ。

「昇龍轢破!」
「閃光墜刃牙!」

 奥義と奥義が交差し、お互いにダメージを食らって距離を取った。
 荒事に関しては素人だが、二人ともなんか今までの試合と比べて容赦なくないか?
 そういえばこの二人はヴァンに戦いを仕込まれているが、何か関係でもあるのだろうか?

「うざいんだよっ!」
「そりゃテメェだろうがっ!」

 無詠唱のフレアトーネードが発動し、アッシュはそれを突き抜けて剣を横薙ぎにふるった。
 うん、やっぱり容赦が無い。そして原作並みにシンクの口が悪い。

 もしや私の前では猫を被っていたのか。
 思わず首を傾げていると、小さなハウリングと共に司会の言葉が耳に飛び込んできた。

「まさに犬猿の仲! N極とS極! ハブ対マングースもこんな感じなのでしょうか! 見たこと無いので解りませんが!」

 司会の言葉に私はなるほど、と納得する。つまり、仲が悪いのか。知らなかったな。
 どうでもいいがどっちがハブでどっちがマングースなのだろう。

「シンク選手、うまく譜術で距離を取りつつ着実にダメージを与えています! アッシュ選手は劣勢か!?」
「誰が劣勢だ! 守護方陣っ!」
「雷雲よ刃となれ! サンダーブレード!」

 第三音素が収束し、雷雲となってアッシュに降り注ぐ。
 譜術というのは何度見ても不思議で、そして恐ろしい。こればかりは見慣れるしかないのだろう。

 サンダーブレードのダメージに歯噛みしつつも剣を振るうアッシュに対し、守護方陣をガードしてダメージを軽減したシンクはあまりダメージを食らっていないように見える。
 しかし崩襲脚を喰らってるあたり、やはり多少のダメージは蓄積しているのだろう。

「屑がっ!」
「うるさいよデコッパチ!」
「誰がでこっぱちだ!」
「年中前髪上げてるのは何処の誰さ? 年取ったらハゲは決定じゃないか!」
「んだと!?」
「文句があるならその鶏みたいなトサカ何とかしたら!」

 ぎゃあぎゃあぎゃあ。そんな擬音がつきそうである。よく闘いながら怒鳴りあえるなぁと思う。
 しかし微妙な顔をしている私と違い、決勝戦というだけあって周囲は盛り上がっていた。
 この盛り上がっている中聞こえる声量なのだから相当な大声だと思うのだが、二人とも息が上がっている様子は無い。
 が、息が上がる前にアッシュの頭に血が上ったようだ。零歳児に挑発される王族。先が心配なことこの上ない。

「この屑が!! 全てを灰燼と化せ! エクスプロードォ!」

 ちゅどーん、とは効果音がつかないものの、アッシュの譜術が炸裂し爆発が起きる。
 ゲーム内ではほとんど役に立たなかったアッシュのエクスプロードだが、こうやって見るとそれなりに威力が、

「悶え苦しめ! グラビディ!」

 と、思ったらエクスプロードで上書きされる前にサンダーブレードによって現れていたFOFを使ってシンクがグラビディを発動させていた。
 というか、殆どダメージを食らっていないように見える。

 やはりゲームと同じようにアッシュの譜術攻撃力は低かったらしい。
 反して譜術防御力・攻撃力共に高いシンクにとっては、アッシュのエクスプロードは良い時間稼ぎにしかならなかったようである。

 グラビディを喰らってぺしゃりと潰れ地面とお友達になっているというのに、さらに追撃として空破爆炎弾を喰らわせたあたりシンクは本気でアッシュと仲が悪いようだ。
 場外に吹き飛ばされたアッシュは必然的に負けとなり、シンクの勝利が決まった。

「決まったぁ〜! 勝者! 論師守護役、シンク選手!」

 わぁっとここ一番の歓声が上がり、シンクは腕を組んでアッシュを見下ろしていた。
 なにやらまだ言い争っているが、シンクからすれば所詮負け犬の遠吠えである。アッシュを軽くいなしてとっとと戻ってしまった。

 なんか後ろからクールだ! とかかっけぇ! とか聞こえてきて、シンクが彼らに受け入れられていることを喜ぶべきなのか、団員の単純具合に頭を抱えるべきなのか私は密かに悩む。
 しかし私が悩んでいる間に師団長試験は終了し、シンクは第五師団師団長に就任することが決定した。
 なんだかんだ言いつつ不安だったのだろう、どこかでホッとしている自分が居るのに気付く。

 それでもまぁ、無事に終わったのだ。何かお祝いに贈ろうか。
 悩みを空の彼方にぽいっと捨てて、頭の中をシンクの就任祝いは何がすべきか切り替える。
 今だ冷めぬ歓声を聞きながら私は祝いの言葉を伝えるために席を立ったのだった。







 名前変換が一個も無い…だと?

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