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 私は変わらず仕事に精を出している。

 事業の更なる拡大と安定に力を入れる。
 神託の盾傭兵団は本部以外でも開始。ホスピスも数が増え、シュザンヌ様と連絡を取り合いながら保育士の育成も本格的に開始する。
 巡礼者向けの宿屋も順調。魔物宅配便も思っていた以上に好評だ。

 それでもまだ足りない。教団の支部が各地にあることを利用して交通事業の拡大に着手する。
 巡礼者向けの護衛付きの馬車の運用を開始。護衛付きで安全性をアピールしつつ、同時に道路の整備をして往来を盛んにする。
 折角巡礼者が居るんだから、もっとお手軽にできますよと喧伝すれば人も増える。ついでに簡易な荷運びも請け負い、定期便として定着させる。
 各地の教団で民宿のような制度を導入する。人の行き来が増えれば金も動く。経済を回さねば金は稼げない。

 手っ取り早く稼ぎたいならやっぱり賭博なんだけど、流石に宗教本山でやるのはアウトだよな……。
 でもどうせだからと教団事業じゃなくて、個人事業の方で一年に一度の大博打ということで宝くじを売り出してみることにした。
 元の世界を参考に年末になったらダアトの広間を抑えてルーレットに弓を打ち、当たり番号を決めるとしよう。
 大々的に宣伝しておけば見に来る人も居るでしょう。宿に泊まって金を落としてくれ。

 年末。
 宝くじのルーレット会場は大いに盛り上がった。騎士団の弓上手に登壇してもらったかいがあり、弓を打つ度に歓声が上がった。
 一等を当てた人は大はしゃぎだった。そのあとかなりたかられていたが大丈夫だろうか。
 お陰で私の懐も潤った。やはり賭博は胴元が一番儲かる。詠師達から苦言を貰ったが、個人でやってることなので……と全部スルーした。ヴァンだけ苦笑してたな。
 イオンは来年から一枚噛みたいらしい。トップがこう言うなら別に教団で賭博やっても良いのでは? 駄目? ああそう。預言という名の霊感商法よりよっぽど健全だと思うんだけど。

 ND2017を迎えた。
 ローレライ大祭という名の儀式で、イオンが今年一年の預言を詠んだ。導師が直接預言を詠むなど滅多にないが、その滅多にないことをする大切な行事らしい。
 大きな波乱が来る。嵐の前の静けさ。要約するとそんな感じの預言だったらしい。
 なんというか当たり障りのないことを言ってさも当たっているだろうというような、バーナム効果だっけ? あれを思い出させる内容だった。
 まあ間違っちゃいないんだろうけど。来年が激動の年だから、ND2017それの準備に当てる予定だし。
 私は預言がないので微笑んで見守っているだけだったけど、イオンは何故私をエスコートしたのか。要らんだろ、その一幕。お陰でシンクが機嫌悪くしたわ。

 教団への寄進はじわじわと減少の一途を辿り、事業による金が無ければ騎士団の維持が難しくなってきた。
 その頃になって詠師達から私の背も伸びてきたからという何ともぞんざいな理由で法衣を新しくすることを提案された。身長、既に伸び切ってるんだけどね?
 笑いをこらえながらも礼を言ってデザイナーに新しいデザインをいくつか出してもらう。
 希望を聞かれたので動きやすく締め付けの少ないものと言えば機能性に振りすぎだと苦言を漏らされた。

 新しい衣装は教団員らしく紋様が施されたものを……と言われていたがそれを蹴ってシンプルに仕立て上げてもらった。
 私の仕事は導師や詠師達とは方向性が違うため、あえて一線を画したものを頼んだのだ。ビジネスがメインだからね、ちょっとしたお堅さだって必要になる。
 希望が通ってイオンたちよりはお堅さを感じる、けれどゆったりとした衣装になったのだが、アンダーを締めるベルトがある。ベルトの穴が変わったら必ず報告するように言われた。
 何故、と聞けばこれ以上痩せたら危険だからと言われる。太るなではなく、痩せるなという意味だった。
 念のため太る分には良いのか聞けば、そちらは構わないらしい。もっと仕事を減らした方が良いとまた苦言を漏らされた。

 地震を感知。マルクト国内でがけ崩れや落盤を確認。
 アクゼリュスに通じる道が塞がれ、人の往来が制限される。マルクト側はまだ危機感を抱いている様子はない。
 ただ鉱石の値段が少し上がった。

 巡礼という名目でやってくる様々な人物との面会が増えた。
 貴族も居れば商人も居た。共通しているのは全員それなりに頭が切れる実力者だということだ。
 業務提携や保険の導入など名目を引っ提げて入るが、彼等は揃ってこちらを探ろうとしてくる。
 腹の探り合いは最早仕事の一環だ。のらりくらりとかわしつつ、私が最も尊ぶのは人の意思とその命だと伝えておく。
 でも余りにも繰り返されるのでちょっと面倒になってきた。誰かたぬきときつね持ってきて。

 ジョゼット・セシル。特務師団長就任。
 その知らせを聞いた時、思っていたよりも早かったなと独り言ちた。
 手段を問わなかったのだろう。新たに用意された黒と赤の団服はとてもよく似合っていた。
 面会時に祝いは何が良いか聞けば仕事と言われた。参謀総長に推薦しておいた。

 ルークの手紙の中にファブレ公爵の手紙が混ざっていた。
 表向き看護学校を始めとした事業関連のやり取りのみだったのが、同時にあちらも情報収集を続けていたらしい。
 堂々とはできないが、本格的に手を組むことになったのでこちらからも少しずつ情報を流していくことにする。
 ルークを隠れ蓑にちょこちょこやり取りを続けていると、大詠師がインゴベルト陛下にマルクトの危険性をとくとくと吹き込んでいるという情報が齎される。同時に導師派を密かに取りまとめつつあることも。
 ちょうどいいので反大詠師派の取りまとめもお願いすれば、手を組みはすれど傘下に入った覚えはないと言われたので、そもそもお宅の国の貴族ですよと返しておいた。
 公爵なら貴族の手綱くらい握っておいてちょうだいな。

 ディストから連絡があったので会いに行ってみれば、なんと以前頼んでいたクリーンエネルギーについての研究に目途が立ったと言われた。
 びっくりした。え? こんなに早く? 数年がかり、下手をすれば十年以上かかると思ってたんだけど?
 大雑把でも私が概要を伝えていたお陰らしい。だからこの程度は簡単だと胸を張っていたので褒めちぎっておいた。
 ただ独自の試みなので初期投資がべらぼうに高い。ちょうどいいと年末に稼いだ金を全部ぶち込めばディストを含めた第二師団の研究者たちが小躍りしていた。
 研究費用は出し渋ってもいいことないからね。その代わりちゃんとしたものを作ってもらいたい。
 ひとまず電気の運用とザレッホ火山の地熱と火力を利用した発電を試みるザレッホ発電所の建築を開始する。いずれ風力、波力なども利用する予定だ。

 その際にレプリカ研究についても相談を受けた。アイディアが欲しいらしい。
 ディストはレプリカたちの主治医としてよくやってくれている。けれどディストはもっと有意義なレプリカ研究をしたいと言う。
 自分にとって思い入れのある研究だから、禁忌ではなく人に褒められる研究にしたいとも。
 それならばとまずレプリカ情報を抜く際の安全性の確保。そして拒絶反応を起こさない人工ドナー作成の研究など提案しておいた。
 が、ドナーの概念がそもそもこの世界になかった。根掘り葉掘り聞かれてかなり時間を喰った。

 巡礼という名目でやってきたアスラン・フリングスと面会をする。どうやら私が事業を拡大したのを見て、陛下の代理として密かに派遣されたらしい。
 本格的に動く前に一報をくれという伝言を受け取り、それならアクゼリュスに障気が噴出したら教えてほしいとこちらも伝言を頼んでおく。
 それは預言ですか、とフリングス将軍に聞かれた。別に預言じゃなくても解ることはたくさんある。
 なので地震によって地盤の緩みを感知した専門家が想定した災害ですと答えれば面くらっていた。だから私に預言はないんだってば。
 ついでに機会を作ってジョゼットとも顔を合わさせてみたが、ラブロマンスは産まれる気配はなかった。残念。

 それからそろそろ動くだろうから里帰りするなら今のうちに行っておけとヴァンの尻を蹴っておく。
 行こう行こうと言っているくせになんだかんだで仕事で忙しいヴァンは里帰りができていなかったのだ。
 私に言葉で蹴られたヴァンは苦笑しながらリグレット共にユリアシティに里帰りした。

 計画も変更されているし、例えリグレットとの密談を見られてもティアが暴走することはもうないだろうから、問題ないはずだ。
 そう思っていたのに、ティア・グランツが詠師テオドーロのコネで大詠師の私兵として雇い入れられたという情報が入った。
 帰ってきたヴァンが頭を抱えながら教えてくれた。大詠師の私兵なので、一見神託の盾っぽい軍服を着てはいるが神託の盾所属ではない。
 それっていわゆる愛人枠なんじゃ……という言葉は何とか呑み込んだ。

 ルークの手紙の字が段々と綺麗になっていくのが見ていて楽しい。
 何だかんだ言いつつシンクとも文通は続けているようで、こっそりいろんな話をしているのだと教えてくれる。
 教師が一新されてからは勉強も苦ではなくなったようだが、やっぱり身体を動かす方が好きなようだ。ヴァンが来るのが待ち遠しいと繰り返し書かれている。
 同時に私の仕事について詳しく調べたという言葉と共に、将来自分も似たようなことをするのかもしれないが、いきなりやるのは不安だという心情を吐露してくれた。

 それなら本格的にやる前にちょっと試してみればとベルケンドで地熱を利用した温室栽培について提案してみる。
 教師に相談し、計画書を作ってからお父上に相談してみなさいと手紙を送ったら、息子に何吹き込んでるんだとファブレ公爵から苦情が来た。
 普通に国家事業になるレベルの話だと言われたけどそもそも初期投資ば馬鹿にならないので金持ちの貴族が豪商でなければ着手は無理だし、第一預言に詠まれていない事業は今のキムラスカでは無理である。
 なので将来国家事業にすることを視野に入れるとしても、まずはバチカルから遠いファブレ公爵の領地で息子の勉強がてら小規模に始めればよろしいと返信を送っておく。

 次の返信で公爵監督の元、ルークが温室栽培についてベルケンドとやり取りを始めたと書かれていた。
 地熱を利用するところがネックらしいが、研究を進めているという。ベルケンドの研究者たちも面白がって積極的に協力してくれているとのこと。
 うまくいったら既存のフルーツの品種改良をして、糖度の高い美味しいフルーツを専門で作りたいと思っているそうだ。もっと美味しいものを開発したいらしい。
 理由はともかくとして、大量生産はどう足掻いてもマルクトには負けるので方向性としては良いんじゃないかな。

 それにしても高級路線の農作物は良いアイディアだ。
 ダアトのあるパダミヤ大陸もマルクトほどではないが肥沃な土地だし、マルクトで栽培していない農作物の推奨と支援をすれば新しい販路になるかも。
 でも農業は開拓民を募っても脱落者が大量に出るのがネックだ。治安の悪化にもつながりかねない。
 稼ぐとしたらもう少し安全な路線で稼ぎたい。

「閃いた! トレーディングカードゲームを作ってみるとかどうだろう。一見ただの玩具だけどあれも一種のギャンブ」
「これ以上仕事を増やすな! 君自分がどれだけ仕事を抱えてるか解ってんの!?」

 シンクに怒られた。
 今日も私は元気に仕事をしている。

 ごめんちょっと嘘ついた。
 ワーカーホリックの自覚はある。


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