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 詠師の一人から連絡が来たので密かに面会をすれば、ピオニーが和平を申し込むためにキムラスカに使者を送っていたことが解った。
 導師派の詠師で私の意見にも耳を傾けてくれる穏健派。マルクトにもいくつかパイプを持っている人物で、詠師の中でもそれなりに会話をする人でもある。
 そんな彼が自分に送られてきたという手紙を見せてもらったのだが、その使者は原作通りジェイド・カーティスだった。何でや。

「ジェイド・カーティス。ジェイド・カーティスですか。何故和平という重要な場面において彼を抜擢したのでしょう?」
「カーティス家は優秀な子供を養子にとって家を盛り立ててきた貴族ですし、大佐自身も譜術の天才と呼ばれる才人です。皇帝の懐刀と呼ばれるほど陛下からの信頼もあります。おかしなことではないと思いますが」
「ですが大佐はケセドニア北部戦ではキムラスカ軍を壊滅させ、≪死霊使い≫の悪名を持った軍人でもあります。和平の使者としては不適合では?」
「それは否定しませんが……その分、キムラスカから追われることになっても帰国する可能性も高い、とも言えるでしょう」
「……ふむ。マルクトに赴いた際、彼が名代を任せられるほど政治的に優れているようには見えませんでしたが」
「大佐にお会いしたことがあるのですか?」
「園遊会では彼が陛下の護衛に付いていましたから」
「ああ、なるほど」

 私の言葉に詠師が頷き、続けてこの話を聞きつけた大詠師派の妨害を受ける可能性を鑑みて、レインに身辺に気を付けるよう伝えてきたと教えてくれる。
 それはありがたいことだ。私自身も警護を厚くするよう伝えたが、複数人から言われたというだけでも守護役達は警戒度を上げてくれるに違いない。
 そして流石に詠師も大佐本人が突撃してくるとは思ってもいないようだ。そりゃそうだ。

「レイン様にはいざという時の面会と書状の用意をお願いしてあります」
「素早い対応をありがとうございます。助かります」

 妥当な判断だ。
 二か国へ外殻大地降下作戦について通達することは決定しているが、まだ準備段階だ。現状イオンの不在を外部に知られたくないので、レインを代理に立てるのは何もおかしなことではない。
 大佐の非常識っぷりには短時間の接触だけでも眉をひそめたものだが、非常識だろうが皇帝名代の地位を引っ提げてきた友好的な相手は無碍に出来ない。
 それならレインに直接お断りしてもらって、和平の仲介は書状を持たせて帰すというのは何らおかしなことではないだろう。

 光陰矢の如し。アクゼリュスの救助とセフィロトの調査をしている内に大分時間を喰ってしまった。
 特にアクゼリュスから避難させた人達を落ち着かせるのに結構な時間を要した。当たり前だろう。アクゼリュスという職場と住処を取り上げてはいさようならなんてできる筈もない。
 避難民の職業や住居斡旋、治安維持などでシンクと第五師団にはだいぶ負担をかけた。そろそろ帰還する筈だが、帰ってきたら思い切り甘やかしてあげたいところだ。時間は取れるだろうか。
 ND2018を迎えるまで三か月を切っている。可能な限りアクゼリュスの住民は救助した。ジェイドから接触があったのを鑑みても、原作軸に突入するまでもうすぐだと気合を入れなおす。

 改めて詠師に連絡を入れてくれたことに礼を言い、部屋に戻るために席を立つ。
 守護役を引きつれてゆっくりと自分の執務室に戻る。本音はさっさと歩きたいが、優雅に落ち着いて見えるように歩くのも仕事の内なのである。
 馬鹿らしいと思うか? でも上の人間が下手に急いでいると、すわ緊急事態かと周囲が誤解しかねないのだ。あとゆっくり歩いてた方が守護役達の警備がしやすいそうだ。守護役長が言ってた。
 仕方ないので歩いている最中は軽い打ち合わせに使う。大っぴらに話せることだけではあるが、ただでさえ忙しいのだ。時間は効率的に使わねば勿体ない。

「そういえばシンク謡士が帰還されたようです。先ほど執務室にて待機中と伝令がありました」
「シンクが。そうですか。帰還したなら休んでほしいんですが、まさか仕事を?」
「ご報告だけでも、と」
「もう。報告の後は休暇を取るように言わなければいけませんね」
「シンク謡士に休めというのであれば論師様もお休みになって欲しいのですが、いかがでしょう。最近ずっとお仕事をされていましたし、一日くらいご一緒にお休みをとるというのは」

 にこりと守護役長に微笑みながら言われて言葉をつまらせる。仕事を詰め込んではいないが、ろくろく休暇を取っていない自覚はあったからだ。
 どうにか穏便に守護役長の主張を退けられないか考えたところで、これは独り言ですがと守護役長が言葉を続けた。

「シンクの友人としては、あいつもようやく長期任務を終えたんだから、少しは恋人といちゃいちゃしたいんじゃないかなぁ。と思ってます」
「……そうですか」

 でっかい独り言だね??
 やっぱりにっこりと微笑む守護役長に何とか返答を絞り出す。
 振り返れば他の守護役の子達もこくこくと頷いている。私何も言ってないよ?

 とはいえここまで休暇を取るように促されているのに、無理に仕事を詰め込むのもなぁと思ってしまう。
 というかここまで包囲網が出来上がっているなら、頭を切り替えて一日休暇を取ったほうがいい。でなければいつまでも休め攻撃は続くだろう。
 シンク以外の子に事務を手伝ってもらうようになってからそれなりに経ったおかげで、書類を捌ける子はだいぶ増えた。多少の余暇を捻りだすことは可能だ。
 頭の中で直近のスケジュールを反芻する。うん。面倒な面会予定とかもないし、至急返信が必要な手紙の類もなかったはず。

「とりましょうか、休暇」
「どうせなら三日ほどいかがですか?」
「一日で充分ですよ。三日も休みを取ってしまえば後が大変ですから」
「そこはつつがなく回しますとも。我々は論師守護役部隊ですよ」
「信じていないわけではありませんが、こればかりは私の性といいますか」

 三日も休んでは逆に気が休まらないと言えば、守護役長は苦笑交じりに頷いてくれた。
 というわけでシンクに合わせて明日はお休みだ。シンクもお仕事がずらせないなら私も仕事をする。
 シンクと一緒にと言い出したのは彼らなので、そこは守護役達も納得した。

「お帰りなさいませ」

 執務室に待機していた守護役達と一緒にシンクが頭を下げて出迎えてくれる。
 ただいま戻りましたと声をかけていくつか指示を出し、椅子に腰かけながら増えた書類や手紙にざっと目を通す。うん、緊急性の高いものはないな。
 続けてシンクに報告を促せば、アクゼリュスの住民の避難が完了したことを書類を提出しながら正式に告げられた。

「長の任務、お疲れ様でした。明日はゆっくりと休んでください」
「いえ、長らく不在にしておりましたので、明日は第五師団の方に」

 シンクがそう言いかけたところで守護役長がシンクの肩に肘を乗せ、耳元に顔を寄せた。
 ムッとしたシンクの耳元でぼそぼそと何か囁くと、シンクがきゅっと下唇を噛む。そのまま黙り込んだシンクの横で守護役長が優雅に頭を下げた。

「失礼いたしました。以降、任務中の私語は慎みますので何卒ご容赦頂ければ幸いです」
「ふふ、構いませんよ」

 わざとらしい物言いにくすくすと笑ってシンクを見れば、しばし思案した後にふるりと頭を振った。

「閣下への報告もありますし、任務中にたまっているであろう雑事を片付けなければなりませんので、明日休みを入れることは出来ません」
「そうですか」
「……諸々の仕事を明日の間に片付けきることが出来れば、明後日なら……休めると、思います」
「では、私も明後日に休暇を入れましょうか」

 シンクの言葉にゆるりと微笑み、私も休みを入れることを決める。渋りはしたものの、やっぱりシンクと時間を取れるのは嬉しい。
 久々に一緒にゆっくりと過ごせることにシンクと一緒に頬が緩ませる。今すぐ抱きしめたいなぁなんて思いながらも、今は仕事中なのでぐっと我慢だ。

 と、思っていたら守護役長がシンクの脇を肘で突いた。そして指で守護役達に背を向けるように指示を出す。
 くるりと背を向けた守護役達に、頬を赤らめたシンクが小声で「馬鹿じゃないの」と悪態をついた。私もここまで気を使われるとちょっと恥ずかしい。だいぶ公私混同だ。
 でも公私混同するくらい、守護役達と私達は近い。距離的にも、同じ時間を過ごしてきたという意味でも。

 苦笑を漏らしながらシンクを手招く。
 流石に仮面を外すことはなかったけれど、それでも音もなく歩み寄ってきたシンクにぎゅっと抱きしめられた。
 いつもと違って埃っぽい匂いがするけれど、そんなの全く気にならない。久々のシンクの温もりに涙が滲みそうになる。

「おかえりなさい、シンク」
「ただいま。出来ることはやってきたよ」
「うん。お疲れさま。頑張ってくれてありがとうね」

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