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 帰還したシンクとたっぷりイチャイチャしてエネルギーを充填し、ND2018が間近に迫ったところでジェイドがこっそりとダアトにやってきた。
 導師に和平の仲介をしてくれるよう、申し込みに来たらしい。

 詠師が一度お断りしたものの、当初の懸念通り一度導師に面通しをさせてくれと食い下がってきたとのこと。
 イオン達はこちらに帰還している最中なので、詠師と改めて額を突き合わせた後、渋々レインを出すことを決める。
 レインはようやくお役に立てると意気込んでいたが、こっちはハラハラして仕方がなかった。

 非常識だろうが何だろうが、ジェイドが手練れなのは間違いない。
 だからこっそり会話を盗み聞くことも諦めたのだが、同席していた詠師からの報告によればレインは立派に影武者の任を果たしたそうだ。
 堂々と同席しても良かったのだが、その場合私が操っているとか妙な勘違いをされると面倒だったので断念した。

 レインはジェイドを皇帝名代として丁重に扱い、和平の重要性に理解は示しつつも同行はきっぱりと断ったらしい。
 導師が長期間ダアトを空けようとするなら、事前に綿密なスケジュール管理と不在の間の調整が必要になる。今から同行してくださいと言われたところではい解りましたと同行できるわけがない。
 なにより和平の仲介を公務として認められるためには詠師会の承認を得る必要がある。秘匿性が高いために詳細は言えないが、今ダアトでは重要な問題の解決に当たっているために協力はしたくともその余裕がない……と、丁寧に伝えたそうだ。
 その上で教団もまた和平に賛同の意を示すことを記した書状を渡し、話を終わらせたという。

 全くもって正論だ。これがイオンならそれくらい言われずとも解れとチクチクやっていたことだろう。
 特に導師がすぐに同行できるわけないだろうのあたり。仲介役として同行した場合、潰れた公務の負債を全部マルクトに吹っ掛けても良いんだぞと脅しをかけたに違いない。
 それを思えばジェイドはレインの優しい対応に感謝すべきではなかろうか。

 ただレインの温和な性質を見て付け入る隙があると見たのか。
 ジェイドは和平の仲介以上に重い問題などある筈がないだろう、と何とかレインを引っ張り出そうとごり押ししようとしてきたようだった。
 まあ外殻大地のことを知らない以上、二か国間の緊張が高まっている現在において、和平の締結を最も優先すべき課題と見るのはある意味間違ってはいない。
 間違ってはいないんだが、協力しろっていうならこっちの事情も多少は忖度しなさいよ。そこら辺のバランス感覚が壊滅的に見えるから、お前が名代と言われて不安になるんだよ馬鹿。

 しかしレインは温和そうに見えてその実芯はしっかりしている。無理なものは無理とはっきり言えるレプリカである。なにせ教育したのは私なので。
 ジェイドのごり押しを笑顔で受け流し、最終的に書状一つ渡して話を無理やり切り上げ、お暇をしたそうだ。
 相手は皇帝名代だが、レインは導師として相対したのだ。その程度の無礼は許される。

 むしろ自分の意見をごり押ししようとしたジェイドの方が失礼なので、ダアトを軽んじているジェイドに対して遺憾の意を示すためにも離席は悪い手ではない。
 お前がその態度を取り続けるなら同じテーブルに着く義理はない、と態度で示したわけだ。
 報告をしてくれた詠師も実にご立派な態度でしたと褒めていたあたり、多分詠師もジェイドの物言いに腹立ってたんだろうな……。

 私は報告をくれた詠師に礼を告げ、後からレインを労いに行かねばとスケジュールを再確認した。
 頑張ってくれたのだ。本人も張り切っていただろうし、対応もパーフェクト。しっかり褒めてあげなければ。
 ただまだジェイドがパダミヤ大陸を出たという報告を受けていないため、念のためこちらに帰還中のイオン達に目立たないよう注意してほしいと連絡も送っておく。

 返答を持った鳩はすぐさま帰ってきた。さっさとジェイドを大陸から追い出せ、だと?
 無茶言わないでほしい。相手は腐っても皇帝名代なんだから。

「論師、お時間です」
「解りました」

 イオンの返答に頭痛を覚えていたら、シンクの声に現実に引き戻された。
 まあイオンのことだ。知らせはしたんだ。見つからないようこっそりと帰ってきてくれるだろう。

 シンクの声に他の守護役達も休憩時間かと顔を上げ、テキパキと書類や筆記用具を片付け始める。
 今日は長めに休憩時間を取ると宣言したこともあり、テーブルの上を綺麗さっぱり片付けた守護役達はさっさと執務室から出ていった。
 後はごゆっくり、ということだ。まぁあの子達が考えてるみたいにシンクとイチャつくためではなく、レインのところに行くために絞り出した休憩時間なんだけどね。
 誤解されていた方が都合がいいのが確かなので、そのまま放っておいてある。

 シンクと二人で転移陣を使ってレインの部屋に移動する。
 あらかじめ告げてあったため、レインは私達を歓迎し、アニスがお茶を淹れるために席を外した。

「シオリ、来てくれたんですね!」
「大役をこなしたレインを労おうと思ってね。よく頑張りました」

 両手を広げて抱きしめれば、レインはふにゃと笑っておずおずと背中に腕を回してくる。
 柔らかな緑の頭を撫でれば僅かに震える声でありがとうございますとお礼を言われた。お礼を言うのはこっちなんだってば。

「僕、お役に立てましたか?」
「もちろん! ジェイドの相手、大変だったでしょう?」
「そう、ですね……表立っては言えませんが、とても強引な方でした。ご自分の世界だけで生きているというか、世界は自分に合わせて当然とでも言うような……その、傲慢な方にも、見えました」
「まあ世界的に見ても和平の仲介が最優先課題であることは間違いない。こちらの情報を渡せない以上、私達が仲介役を引き受けないことでマルクトとキムラスカの関係の悪化を狙っていると思われる可能性があるのもね」
「はい」
「それでも相手にも事情があるのだ、と察することが出来るのが大人で、そのための情報を集めて駆け引きをするのが為政者だ。ごり押しだけじゃあ通らないよ。それは子供のダダと一緒だもの。そういう意味ではジェイドの対応は間違ってて、レインの対応はダアトのためにも正しくベストだったと言える。いい経験を積んだね」
「はい!」

 頭を撫でながらもう一度褒めれば、レインはパッと顔を明るくしてもう一度むぎゅと私を抱きしめた。
 そして私から離れた後、何かを期待するように後ろで控えていたシンクを見る。
 シンクはレインの態度に一瞬動揺したものの、腕を組んで「何」と素っ気なく言った。

「シンクは褒めてくれないんですか?」
「僕が褒めてどうするのさ」
「僕はシンクに褒められたいです」
「レインの方が地位が上なのに何言ってんの? 僕が何か言わずとも、もう立派に役目を果たしてるじゃないか」
「褒めてくれないんですか??」

 ごり押しである。
 そうだね、ごり押しってこういう時に使うものだね。
 助けを求めるようにシンクがこちらを見るが、私はにこにこしながら二人を見守った。
 それだけで私からの手助けが期待できないと理解したシンクは少し間を空けた後、嘆息してからおずおずとレインに手を伸ばす。

「まあ……頑張ったんじゃないの。次からも頑張りなよ」

 ぽん、と黒手袋のされた手がレインの頭に置かれた。
 わしゃわしゃと頭をかき混ぜるような撫で方は乱暴で、それでいて不慣れなのが見て取れる。
 それでもレインは心底嬉しそうに破顔すると、はい! と元気よくお返事をした。
 お兄ちゃんに褒められて嬉しかったんだねえ。良かったねえ。気分は近所のおばちゃんである。

 にこにこしてたらアニスが紅茶のセットを持ってやってきたので全員で席に着く。
 この後はアニスとシンクに見守られながら普通にお茶会をして終わったが、私とシンクが帰る前にレインは一つだけ懸念があると言った。
 あの強引な態度を続けたジェイドが、一度断っただけで果たして引くだろうか……と。
 私は少し考えた後、シンクを見た。シンクもまた心得たと言うように一つ頷く。

「警備を強化しておく。第五師団だけじゃなく、第二、第四師団にも協力を仰ぐ」
「うん、お願い」
「あの……それなら一つだけ、お耳に入れておきたいことがあるんですけど」

 シンクと頷き合っていたら、アニスが挙手をしながら発言の許可を求めてきた。
 無言で先を促せば、どうも信者たちの間で不穏な噂が流れているという。

「大詠師が導師イオンを監禁してるって言うんです。最近イオン様がお姿をお見せしないのもそのせいだと」

 アニスの耳にしたという噂に私とシンクは揃って唇を引き結んだ。
 ジェイドの仕業だろうと思うが、イオンが姿を見せていないのが事実なのは厄介だ。イオンの不在は隠されているため、知っている人は知っているが知らない人は全く知らないのだ。
 私はあえて何も言わず、もう一度シンクを見る。シンクもまた黙って頷いた。

「情報部にも連絡を入れておく」
「些細なことでも報告を」
「了解」
「アニスも貴重な情報をありがとうございます。警備は厚くしますが、レインの警護を頼みます」
「はっ!」
「レイン、貴方も気を付けて。万が一のことがあった場合、自分の命を最優先にしてね」
「解っています。イオン様の影武者だとばれないよう、細心の注意を払います」

 自分の命を最優先にって言ってるでしょ。
 真剣な顔でずれた返事をするレインに頭を押さえる。
 頑張るのはいいけど、もっと自分を大切にしてほしい。頼むから。

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