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「理解できませんね。何故人を救済するのがいけないのですか?」
「何を言う!預言は成就されるべきものだ。
あの者たちは野垂れ死ぬと詠まれていたのだぞ!即刻先日雇った者達を解雇しろ!」
「私が変えたいのはその偏った思考回路なのですがね。
人の命よりも預言が成就されるべきことを取る。コレは異常ですよ。
大詠師殿、貴方は預言にこだわりすぎでは?
大詠師の本懐とは、預言を成就させることではなく人々を導く導師を支え、人々の不安を消してやることではないのですか?」
「はっ、何も知らぬ小娘が戯言を。預言通りに進めば繁栄が訪れるのだ。
確かに貴方は教団に利を齎している。それは私も認めよう。だがそれも未曾有の繁栄の前では瑣末に過ぎぬ」
つばを飛ばし喚くモースに、幾人かの詠師達が顔を顰める。
私は高々数十年の繁栄に何を期待してるんだか、と鼻で笑ってやりたくなった。
詠師会に顔を出せば多少の嫌味は日常茶飯事なのだが、今日はちょっとばかりタイミングが悪かった。
普段はキムラスカに出張っている大詠師がダアトに戻っていたのだ。
おかげで大詠師派がそりゃあもう図に乗る図に乗る。鬱陶しいことこの上ない。
「その小娘に頼らなければ利を得られない癖に何を仰いますか。
大体繁栄が記されているのはダアトではないでしょう。それともおこぼれを下さいとこじきの如くねだるのですか?」
「何ィ!?」
「繁栄を得られるのはダアトではない、と言っているのです。
あぁ、繁栄を手にした後はもう用済みだと教団が消される可能性もありますね。
騎士団を所有し、預言を独占している教団など脅威でしかありませんし、教団を解体して預言士を管理下に加えたほうが余程安全です」
私の言葉に何人かの詠師がさっと顔を青ざめさせた。
必要なものを手に入れた後は用済みといわんばかりに排除する。
これまで散々教団がしてきたことだ、自分達がされる側に回った場合でも簡単に想像がついたのだろう。
「そんな馬鹿なことは預言にっ!」
「確認できていないのに断言するのは止めてくださいね」
言い返そうとしてきた大詠師の言葉を遮りばっさり切り捨てる。
大詠師はぐぬぬ、と唸って口を閉じたが、いい加減嫌味を言えば言い返されるって理解してほしいものだ。
人が儲けた恩恵はきっちり受け取るくせに、預言を持たないからといってこうして嫌味を飛ばしてくる阿呆どもの相手というのは結構に疲れるのである。
「ふんっ、今に見ているがいい。そうしていられるのも今のうちだ。ユリアは未曾有の繁栄を詠んだのだっ、貴様如き小娘にそれが理解できるものか!」
悪役の定番の台詞のように捨て台詞を残し、大詠師はのっしのっしと足音を立てて会議室から出て行ってしまった。
まだ口を開こうとする大詠師派の詠師を視線だけで黙らせ、必要事項の許可をもぎ取ってから私も詠師会を後にする。
この後も会議室に残っているのは暇をもてあました老人のように悪口と獲らぬ狸の皮算用にワクテカさせている詠師達くらいである。
私は仕事がたまっているのでさっさと失礼しようと思ったのだが、珍しいことに廊下でヴァンに呼び止められた。
「どうされました?」
「は。お時間をとらせてしまい申し訳ございません。実は私の妹の件なのですが」
「あぁ、彼女ですか。どうかされましたか?」
「ダダをこねているのです。私がいさめても聞かず、それどころかふてくされて周囲に迷惑をかける始末で……知恵を貸していただければと」
……私は何でも屋じゃねぇぞ。
漏れかけた本音をぐっと飲み込み、憔悴した様子のヴァンを見る。
どうやら妹を説得するのにだいぶ気力を持っていかれたらしい。
「そうですね。では、軍の厳しさを教えて差し上げれば宜しいのでは?」
「厳しさを、ですか」
「リグレットを派遣し、正規の軍人通りの訓練をさせておあげなさい。弱音を吐き逃げ出すようであればそこで諦めろと諭すこともできましょう」
「もし妹がこなしてしまった場合は」
「諌めの言葉に耳を貸さず、周囲に迷惑をかけるような子供がこなせるほど軍の訓練は甘いのですか?」
私の言葉にヴァンは目をぱちくりさせた。
そして確かに、と言って苦笑した後リグレットと予定のすりあわせをすると、礼を言って去っていった。
まだ見ぬティア・グランツは迷惑しか寄越してくれない。
このままユリアシティに引っ込んでいてくれと切に願う私は悪くないと思う。
「そういえば今日の詠師会ではやけにモースが自信満々だったのよね……捨て台詞が」
「何それ、捨て台詞が自信満々とかかっこ悪っ」
「かっこ悪いんじゃなくてせめて気持ち悪いと言ってあげなさい」
「どっちがダメージ大きいかな?」
「さぁ?試したこと無いから知らない」
シンクと辛辣な会話をしながらばっさばっさと書類をさばく。
初期に比べて大分仕事の速度も上がってきたと思う。
ホスピスや神託の盾傭兵団を設置した街からのお礼状に目を通しながら、私はふとある事実を思い出した。
「……もしやフロ助を見つけたのか?」
「何そのフロスケって」
「三番目のイオンレプリカだよ。確かモースに軟禁されてた筈……原作ではフローリアンって呼ばれてたの。略してフロ助」
私の略し方にシンクは僅かに眉を顰めたものの、口を挟んでは来なかった。
いいじゃないか。長ったらしい名前は苦手なのだ。
「そのフローリアンに惑星預言を詠ませようとしてるなら、自信満々なのも納得できる、ってこと?」
「そう。ちょっと調べてきてくれる?」
「情報部に回す?」
「いや、できればシンクかアリエッタにやって欲しい」
「了解」
ちょっとコーヒー入れてきて、みたいなノリで頼んだのにシンクはあっさりと引き受けてくれた。
仮面をつけて出て行く背中を眺めた後、そのまま仕事を続けていたのだが……一体誰が思うよ。
その30分後にはフロ助連れて帰って来るとかさ!!
「見つけた。居たよ」
「早かったね。ちょっとびっくり」
「シオリが調べてきてって言ったんじゃないか。それとも置いてきた方が良かった?」
「いや、連れてきてくれた方がありがたいけどね」
ローブを目深に被り、きょとんとした顔で私を見ているフロ助、もといフローリアン。
フードを取ってみれば少し汚れた緑の髪が露わになって、雑に扱われていることがすぐに解った。
……あの樽豚、いつかハムにしてやる。
「こんにちは」
「? こんにちは!」
「私はシオリっていうの。宜しくね」
「シオリ?」
「そう」
「シオリ、シオリ……ん、覚えたよ!」
「偉いねぇ」
無邪気な反応に思わず頭を撫でていた。
刷り込みが不完全だかなんだかでゲーム中でも幼い印象が強かったのだが、シンクが隣に並んでいるせいで余計にその印象が強い。
「んで、こっちがシンク」
「しんく?シンク、シンク……覚えた!」
「よしよし、偉いね。それじゃあ手を洗っておいで。お菓子をあげよう」
シンクにフローリアンを洗い場に連れて行くように指示し、私はドアの外に立っている守護役の子にラルゴを呼んでくれるよう頼む。
そしてクッキーを取り出して皿に並べ、お茶を淹れていればフローリアンたちはすぐに返ってきた。
「すごいんだよ!泡がいっぱいでたの!」
「あはは、いっぱい泡だった?」
「うん!」
そのままソファに座らせ、私も隣に座る。
シンクも黙ったまま自分も腰掛け、少し複雑そうな表情でクッキーに手を伸ばす。
どうやら幼い反応のフローリアンにどう反応して良いか解らないらしい。
「ほら、食べな。美味しいよ。食べる前はいただきます、ね」
「いただきます!」
「ゆっくり噛んで食べなさい。誰も取ったりしないから」
一口食べた途端顔を綻ばせ、即座に次に手を伸ばすフローリアンに私は苦笑しながら言い聞かせた。
一心不乱にクッキーを食べるフローリアンを見守りながら紅茶を飲んでいたのだが、それほど多くなかったためにあっという間にフローリアンは手持ち無沙汰になる。
なので熱いから気をつけてと注意をしてから紅茶を渡せば、舌を出して顔を歪めたので砂糖を足してから再度渡してやる。
甘くなった紅茶に今度は顔を綻ばせたのを見て、完全に子供味覚だなと私は苦笑するしかない。
「美味しい?」
「うん!今までで一番美味しい!」
たかがクッキーにそこまで言われるとちょっと照れくさい気もするが、同時に悲しい気持ちになった。
育ち盛りの歳だというのに、一体モースはどんな飯を与えていたんだと子一時間問い詰めたくなる。
「ねぇ、これからどうしたい?」
「これから??」
「そう。戻りたい?」
「え……やだよ!あの太った人怖いんだもん!
シオリやシンクの方が優しいし、美味しいものくれたから、好き!」
それを聞いたシンクが何故か紅茶を噴出した。
ストレートな感情表現に慣れていないせいだろうか?
頬が少し赤くなっている。
「よし。じゃあフローリアン」
「ふろー、りあん?」
「君の名前だよ。フローリアン」
「フローリアン……僕、フローリアン?」
「そう、フローリアン。戻りたくないなら、フローリアンの面倒を見てくれる人を呼んであるから、その人のお世話になりなさい」
「……ココじゃ駄目なの?」
「ココはちょっと、ね。その代わり、遊びに来るのは構わないから。その時はまたクッキーを用意しておくよ」
しゅん、としょぼくれるフローリアンの頭を撫でる。
その時、タイミングよくノックの音が響いた。
「第一師団師団長ラルゴ奏士、参りました」
「丁度良かった」
シンクに視線だけで合図をすれば、それを的確に読み取ったシンクがドアを開けに動いてくれる。
私はフローリアンの顔がドアの外に見えないようさりげなく庇いつつ、再度シンクがドアに鍵をかけるのを待つ。
「急にお呼び立てしてしまい、申し訳ありません。
ラルゴ殿、実は貴方に頼みたいことがありまして」
「は。私のような無骨者で宜しければなんなりと」
「この子の保護者になって欲しいのです」
「……は?」
頭を下げていたラルゴが、目をぱちくりさせて顔を上げる。
そしてその先に居るのは、同じように目をぱちくりさせているフローリアン。
「……その子供は?」
「導師イオンのレプリカが作成されたのは知っていますね?彼はその生き残りです。
軟禁されているところを救助したのですが、私が保護すれば嫌でも目立ってしまう……しかしレプリカの身である以上、目立つことは避けねばなりません。そこで貴方に保護をお願いしたいのです」
ラルゴは暫く私とフローリアンの間で視線をさ迷わせていたが、最終的に気の抜けた笑顔になって私の頼み事を引き受けてくれた。
フローリアンに挨拶するように言えば、勢いよく頭を下げて転びそうになる。
「幼いものですな……」
「彼は刷り込みが不完全で、何も知らない状態に等しい。色々教えてあげてください」
「私で宜しいのですか?」
「構いません。貴方なら間違いないと私は思っています」
少なくともヴァンに預けるよりは不安は少ない。
フローリアンにラルゴの言うことをちゃんと聞く事、次ココに来るときはラルゴの許可を貰ってくることをきちんと言って聞かせてから、そのままフードを被せてラルゴに預ける。
不安そうに振り返るフローリアンの頭をラルゴの大きな手がわしゃわしゃと撫で、目を白黒させたフローリアンがラルゴを見上げた。
「宜しくな、坊主」
「坊主じゃないよ、僕フローリアン!」
「そうか。良い名前だ。それでは論師、失礼致します」
「どうかフローリアンをお願いします」
部屋を出て行く二人を見送り、隣に立つシンクを見る。
そしてシンクの手をそっと握ってから、私はほっと息を吐いたのだった。
ラルゴの階級って出てましたっけ?
解らないので奏士にしてみました。
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