論師と烈風の噂話


※第五師団副師団長視点

 俺の名はロイ。騎士団に入団する際、ファミリーネームは捨てた。今は光栄にも第五師団副師団長の座を勤めている。
 俺如きがそんな責任ある職に就いて良いのかという迷いはあるものの、かけられた期待に応えたいという思いから精一杯やらせてもらっている。

 最近俺の上司になったシンク師団長は、幼いながらもとても聡明で有能な方だ。ただでさえ師団長という忙しい仕事をしながら、あの論師様の護衛兼補佐役までこなしている。
 まだ十二歳だとは思えないくらいに頭の回転が早くて冷静で、俺達が三時間かかっていた事務仕事を一時間で終わらせてしまうほど。
 その空いた時間は論師様の元へ足を運んだり、俺たちに付き合って組み手の相手などをしてくれる。

 最初は子供が上司になるという事で反感を持つものも居たが、今では違う。聡明で有能で、且つそれに相応しい強さを持つ俺たちの上司に相応しいお方なのだ。
 少しばかり素直でない面もあるが、それは子供特有の意地っ張りというか……一度受け入れてしまえば微笑ましく思える程度のもの。

 そんなシンク師団長だが、先程も言った通り論師様の護衛も勤めている。そもそも第五師団師団長選抜試験の際、シンク師団長を推薦したのも論師様だ。
 論師様もシンク師団長と同じように幼いながらも聡明な方で、闘うことはできなくともその類稀なる才能でダアトの発展を担ってくれている。

 まだ論師の地位はできて間もないが、導師に次ぐほど重要な役職であることは最早疑いようはない。
 何より論師様が食堂改善を行ってくれたおかげで、食事が断然にうまくなった。論師様は俺たちのこともよく解っていらっしゃるのだ。できれば次は浴室を改装して欲しいです。

 けど俺が直接論師様にできることなど高が知れている。
 だからできうる限りシンク師団長の負担を減らし、シンク師団長が論師様のお力になれるよう努力してきたつもりだ。

 だというのにそれがいけなかったのか。第五師団では少し不穏な噂が流れていた。
 ぶっちゃけて言うのならば、論師様とシンク師団長って実は付き合ってるんじゃね? っていう下世話はなはだしい噂だ。

 確かに俺も怪しいと思ったことは一度や二度ではないが、本人の耳に入ったらどうするつもりなのだろうか、あいつ等は。
 俺もシンク師団長や論師様、論師守護役部隊の耳に入らないよう話せと部下達に言ってはいるものの人の口に戸は立てられない。
 いつシンク師団長の耳に入るかとひやひやしていた俺は、ついにその嫌な予感が当たる場面に遭遇してしまった。

「ロイ」
「は」
「最近師団全体が浮ついているように感じるんだけど、何かあったわけ?」

 それは訓練場でシンク師団長が直々に稽古をつけて下さっている最中の、間に挟まれた休憩時間に投げかけられた質問だった。
 仮面をつけているために表情までは見えないが、純粋に疑問に思っているような声だったのは確かだ。
 あまり時間が取れないながらも師団長は自分たちのことを見ていてくれるんだという喜びと、ついに気付かれてしまったかという思いが胸の中でせめぎあう。

「は。少しばかり下世話な噂話が流れておりまして。師団長がお心に止めるようなことではありません。私から各小隊長達に言っておきますので、どうぞお気になさらず」
「何、噂って。師団のことなら知っておきたいんだけど」

 ですよね! そうきますよね!!
 水を飲みながら言われた言葉に心の中だけで同意の声を上げ、流石我等が師団長と自棄気味に考える。

「くだらない噂です。シンク師団長のお耳に入れるなど」
「でも流行ってるんだよね? 僕に話したくないみたいだけど、くだらないなら話してくれても良いんじゃないの」

 仰るとおりですね! 俺ってお馬鹿!! 何でもっとマシな言い訳できないかな!
 つか最初っから素直に話さずに適当に誤魔化しとけよってことか! そうか! やっぱり俺ってお馬鹿!

 心の中で滂沱の涙を流しながらもどうしたものかと視線をさ迷わせていると、何やら周囲の団兵達がそわそわしている。
 シンク師団長もそれに気付いたのか、手近に居た兵にどうしたのさ?と声をかけた。

 あぁああああぁあ!!
 その優しさが今では憎い!!

「師団長!お聞きしたいことがあるのであります!!」
「何?」
「師団長と論師様はお付き合いされているのでありますか!?」
「……は?」

 言いやがったああああぁああぁあぁ!!

 もう駄目だ、絶対秘奥義喰らう。何馬鹿なこと言ってんのさとか言われるに違いない。
 阿呆なこと言ってないで仕事しなよとか、論師に対する侮辱だよとか鼻で笑われた後仕事量を増やされる可能性もある。もしかしたら照れ隠しで顔面に拳が飛んでくるのかもしれない。
 とにかく脳裏には頬を紅く染めて怒るシンク師団長が飛び交っている。
 三秒の間に三十パターンほどシンク師団長に叱責される場面が脳裏に浮かんでは消えたが、その張本人である師団長は何故かこてんと小首を傾げただけだった。

「オツキアイ?」
「自分も気になります!」
「実際のところどうなんですか!?」
「お似合いだと思うのですが!」
「ドツキアイなら今お前達とやってたけど」

 ……それはボケですか師団長。

「何、オツキアイって?」

 心底不思議そうな声音で聞かれ、コチラを見上げてくる師団長。これはボケでもなんでもない、本当に知らないんだと雰囲気からわかる。
 つーかこれ俺が答えんのかよ!!

「……師団長は論師様と恋人関係でいらっしゃるのですか、という意味です」
「コイビトカンケイ? あぁ、恋愛関係かってこと?」
「はい」

 断腸の思いで答えたというのに、シンク師団長は腕を組んで考え込んでしまう。
 その、その沈黙が怖いです師団長!

「要は好きか嫌いかってことでしょ? まぁどっちかと聞かれたら好きなんだろうけど……あぁ、お前達よりは論師の方が好きだね。確実に」

 ふざけているのか、へっと鼻で笑って言われ、酷いっす!とか、容赦ねぇ!とか、周囲から声が上がっている。
 けどその大半が笑い混じりのもので、シンク師団長なりのジョークだと解っているのだろう。

「ただ背中を預けるという意味でならお前たちを信頼してるつもりだけど? 論師はお守りすべき方だ。けどお前達は僕の期待にこたえてくれる大切な部下だからね」

 シンク師団長の言葉に全員のヤジがぴたりと止まった。
 周囲を見渡せば感極まった顔で師団長を見つめていて、師団長はそれに気付いているだろうに平然と水の入ったグラスを口に運んでいる。

「師団長……」
「俺、俺師団長に一生ついてきます!」
「ご期待にこたえられるよう頑張ります!」

 盛り上がる師団員達。最高潮になった士気に全員自主的に自主鍛錬に戻っていく。
 それを見送った師団長は、論師の所へ行くと俺に言ってさっさと訓練所をあとにしてしまった。

 噂が耳に入ったというのに何事も無かった。その事に安心している自分が居て、一気に身体が軽くなった気がする。
 胸を撫で下ろして俺も自主鍛錬に戻ると、周囲の団兵達の会話が耳に飛び込んできた。

「結局付き合っちゃいないみたいだな、師団長と論師様」
「付き合うの意味も知らなかったもんな」
「師団長ってば生まれたときから軍人になるよう訓練されてたらしいし、そういった方面には疎いんじゃないか?」
「あーシンク師団長ってそんな感じだわ。あの歳で仕事命、みたいな」
「お前ら、雑談する暇があったら身体動かせ!」
「「「へいっ!!」」」

 好き勝手言っている団兵に渇を入れてから、俺も愛用のハルバートを手に取った。慣れた重みに心が引き締まるのを感じる。
 俺だって、言葉にはしなくとも先程の師団長の言葉には感動したのだ。その期待に応えたいという思いは大きい。そのためにももっともっと力をつけなくてはならないだろう。

 気合を入れてハルバートを振り回しながら、俺はふと気付いた。
 師団長、結局付き合ってるとも付き合ってないとも明言してないような??



論師と烈風の噂話



 という訳でオリキャラ視点でした。
 最初はシンク視点やリグレット視点で書いてみたのですがどうもうまく行かず……結局オリキャラ視点と相成りました。

 第五師団副師団長のロイさんです。
 根は真面目なせいで心の中ではいつも絶叫してる何処にでも居そうなお兄さんです。
 シンクが論師を支えているのを更に支えている縁の下の力持ち的な立ち位置。

 師団兵達の脳筋具合は仕様ですが、その中でもロイさんはちょっとだけ勘が良いので副師団長に抜擢されました。
 ちなみにシンクは適当にあしらってます。耳障りの良い言葉を並べ立てて話題を反らすのは論師直伝。


清花

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