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「じゃあシンクは格闘家なのか?」
「正確に言うならば拳闘士です。譜術も使用できますが、メインは格闘技なので。ですが私もまだまだ未熟の身ゆえ、論師の御身をお守りするために日々研鑽を重ねております」
「その堅苦しい喋り方止めろよ! 普通に喋れ!」
「は? し、かし……」
「オレが良いって言ってんだから良いだろ!! なぁ、ヴァン師匠からも言ってやってくれよ!」
「それならばルークが命令すれば良い。最も、公式の場では流石に無理だがな」
「公式の場って? オレ軟禁されてるのにそんなとこ出るのかよ?」
「今日の晩餐会も公式の場だろう? ダアトの論師と主席総長を招いているのだからな」
「あ、そっか。じゃあシンク、命令だぞ。公式の場以外は普通に喋れ、膝も着くな!」
「はぁ……解ったよ。これでいい?」

 ルークがシンクをびしっと指を差して命令し、シンクは仕方ないとでも言いたげにため息をついて敬語を使うのをやめる。
 明らかにシンクは不承不承といった感じなのだが、ルークは気安い態度になったシンクにご満悦だ。

「言っとくけど、他に人が来たらさっきみたいに話すからね」
「えー!? 何でだよ!」
「そんなの僕が罰せられるからに決まってるだろ」
「あ? 何でオレが命令したのにシンクが罰を受けるんだよ?」
「貴族社会ってのはそういうものなんだよ。身分が下の人間が罰を受けるのが当然なのさ。この場合僕よりルークのが立場は上なんだから、ルークの命令でも僕が罰を受けるの。解った?」
「ふーん。ちぇっ、じゃあしゃーねーな」

 シンクの説明に今度はルークが不承不承頷いた。何だこのレプリカコンビ、実は相性良いんじゃないか?
 そんな事を考えながら、にこにことした表情を作ったまま二人を見守る。すると私の笑顔に気付いたのか、ルークが何でそんなに笑っているのかと私に問いかけてきた。

「そうですね、ルーク様が普通の貴族ではありえないほど気安い方であるということもありますし……」
「悪かったな、貴族らしくなくてよ」
「これでシンクとお友達になってくれたらという思いもあります」
「は? トモダチ?」
「はい。シンクはずっと仕事一辺倒なので」
「論師……」
「ふふ、解っていますよ。そこまで気にしなくて良いと言いたいのでしょう? けれどシンクに大切なものが出来れば私も嬉しいんです。いらぬお節介かもしれませんが、やかせてください」
「お前オレより小さいのに仕事ばっかしてんのかよ!?」
「ちっさい言うな!」

 ぎょっとするルークにシンクが噛み付き、それを見て私はまたくすくすと笑った。
 見ればヴァンもはははと笑っている。私とヴァンからすれば〇歳児と五歳児なので、微笑ましい以外の感情はない。

「まぁいいや。お前譜術? も、使えるんだろ? なぁ、どんな感じだ?」
「どんなって言われてもね……人形一個潰して良いなら見せてあげるけど」
「は? 潰す?」
「剣と違って譜術は一発のダメージが大きいんだよ。勿論その分詠唱時間もかかるし、譜力も消費するけど」
「ふーん? いいぜ、潰して良いからやってみてくれよ!」
「じゃあ論師の隣に座ってなよ。危ないから。どれくらいなら良いと思う?」
「中級以下だろうな。上級譜術は流石に不味いだろう」
「解った」

 ルークがワクテカした顔で私の隣に座り、ヴァンが近場に居た白光騎士団に声をかける。
 念のためシンクが私やルークに味方識別を施してから、人形を前に詠唱を始めた。

「唸れ烈風、大気の刃よ」

 あの舞い上がっているのは第三音素だろうか? 淡い光がシンクを取り巻き、ルークがそれを見て目を輝かせている。
 そしてシンクがタービュランス! と技名を叫んだ瞬間、無数のカマイタチが人形をズタズタにした。
 風に踊らされ綿を撒き散らした人形は、最後にぽてっと中庭に落ちる。これが相手が人間だったならば今頃体中切り傷だらけにしているところだ。

「す、すげええええぇぇえ! なぁ、オレもやってみたい!」
「やってみればいいじゃん。フォンスロットは開いてあるわけ?」
「フォン、すろっと……? て、何だ?」
「あぁ、そこからか。フォンスロットっていうのはね」

 シンクが目を輝かせて駆け寄ってきたルークに対し、フォンスロットについて説明を始める。
 なんだろう。ルークは勉強が嫌いとか言う設定があった筈なのに、私とシンクに対しては随分素直に説明を聞いてくれる。
 私の隣に立っていたヴァンを見上げて問いかけてみれば、以前のルークと比べないからでしょう、と苦笑交じりに応えてくれた。

「この家の殆どの人間はルークを以前のルークと比べます。その上家庭教師にはそんなことも解らないのかと呆れられることも多いそうです。論師もシンクもゼロからきちんと説明しますから、ルークとしては反発する理由も無いのでしょう」
「まぁ……私達は知ってますからね」
「はい。無知は罪と言う言葉は、こういうときに使うのでしょうな」
「もともとの原因は貴方でしょうに」
「はい。ですが後悔はしておりません。例え方法は変わったとしても、私の信念は変わりません。故に、そのために取った手段を後悔する気は毛頭ありません。それは私の命令で散っていった部下や私が手に掛けてきた命に対する侮辱だと思っておりますゆえ」
「では今もなおあの子に優しくし続けるのは、贖罪ですか」
「……」

 私の質問に、ヴァンは答えなかった。ただ黙って穏やかな顔でルークとシンクのやり取りを見守っている。
 野暮な質問だったかなと思いながら、私も二人を見守る。
 ルークが自分のフォンスロットを開こうとしてできなくて、自分の頭をかきむしりながらうがーっと叫びながら切れている。
 シンクが腕を組みため息をつき、そんなすぐできるわけないだろ。そう言いながら首をふっている。

「じゃあシンクはどうやって開いたんだよ」
「僕? 僕は二週間くらいかけて開いたかな。普通はもっとゆっくり開くものらしいけど」
「二週間も? 時間かかるんだな」
「そりゃね。ルークだって一日で剣を習得したわけじゃないだろ? それと一緒だよ」
「それもそーか。くそー、使ってみたかったのになー」
「フォンスロット開けたとしても今度は音素を集めて譜術に変換する訓練が待ってるからね。そもそも譜術の素養がなきゃ使えないし」
「譜術の、そよう?」
「譜術を使う才能が必要ってこと。僕は第一から第五の素養があったんだよ」
「その第一とか第五って何だ?」
「あー……音素には七つの種類があってね、」

 笑顔で質問するルークに対し、音素について講義を始めるシンク。
 これではどちらが年上か解らないなと思いながらその会話に笑みを零していると、ファブレ家のメイドがワゴンを押しながらこちらへとやって来た。
 ラムダスに言われて稽古後の飲み物と、軽く摘めるものを持って来たらしい。

 ルークはメイドにサンキュと軽く礼を言ってから、下がって良いぞと言いながら軽く手をふる。
 メイドはワゴンを置いた後頭を下げて出て行き、ルークに言われて私やシンクも一緒にはちみつレモン水を頂くことになった。
 流石は公爵家、心遣いも行き届いているがそれ以上にうまい。超うまい。
 ルークは当たり前みたいな顔してるけど、シンクと私は高級品を使っているだろうその味に思わず頬が緩む。

「これは……美味しいですね」
「あ? そーか?」
「教団は基本貧乏だからね。こんな良いもの滅多に口に入らないんだよ」
「ヴァン師匠より偉いのにうまいもん食えないのか?」
「偉かろうと何だろうと先立つものがなければ無理なものは無理ですから」
「でも論師って金稼いでるんじゃねーの?」
「勿論稼いでいますが、教団にはたくさんの教団員が居ますし騎士団も抱えています。稼いだお金で彼らのお給料などもまかなっていますから、私の元に残るお金は稼いだ額から見ればほんの僅かですよ」
「へー。じゃあ今晩はうまいもんたくさん出してくれるようコックに言っとくから、たくさん食ってけよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」

 さり気ないルークの優しさを垣間見ながら、晩餐会までの時を過ごす。
 晩餐会もこんなほのぼのした空気で過ごせたら、なんて思いながらもルークのヴァンの自慢話に耳を傾ける。
 ま、私を敵対視しているナタリアも参加するというのであれば、ほのぼのした晩餐会なんて無理なんだろうけどさー。

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