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 ナタリアは三回ほど私の預言を詠もうと四苦八苦して、最後には何かトリックでも使っているのだろうと私に対して怒り出した。
 逆切れかよ性質悪いなと私が内心げんなりしながら困り顔を浮かべているのを見て、父インゴベルトに宥められようやく終わったものの食事を再開した今でも睨みつけられている。
 もうホント誰だよコイツの教育係。折角ほっぺたが落ちるような美味しい料理を食べていると言うのに、ここまで敵意をむき出しにされては美味しさも半減である。

「殿下は随分と血気盛んでいらっしゃる。民を思う精力的な王女殿下を持って、キムラスカの将来も安泰でありましょう」
「……殿下は行動派だからな」
「当たり前でしょう。国とは民あってこそなのですから。彼らから無作為に富を搾取するような真似などできる筈がありませんわ」

 それでもまぁ表面上は穏やかに会話をしようじゃないかと軽い嫌味を飛ばしてみれば、咳払いをしながらクリムゾンが無難な返事。
 ナタリアに関しては私に対して嫌味を飛ばしてきたが……多分私が言ったのは嫌味だと気付いていない。
 クリムゾンに同情の視線を向ければサッと視線をそらされた。

 ああ、クリムゾンも苦労してるんだな。そりゃあ眉間の皺も深くなろうと言うもの。
 私の中でちょっとだけクリムゾンへの同情心が増した。
 私がクリムゾンに同情していると、ナタリアの嫌味に気付いているのか居ないのか、そのフォローなのかすら解らないがシュザンヌが口を開く。多分だが、この人は天然なのだと思う。

「しかし論師殿も広く事業展開をされていると聞きます。私は屋敷から殆ど出ませんが、それでもお噂はかねがね耳に届いておりました。その若さでそれだけのことを成し遂げるなど、中々できることではないでしょう」
「お褒め頂き光栄です。言葉を重ね人々の役に立つこと、それが私の本分です。幸い多方面からの助力を得てホスピスや託児所なども成功と言える利用者数を維持しておりますし、そこから出た利益は教団に還元しています。最も、仲間が居たからこその結果です。私一人ではここまで出来なかったでしょう。彼らの存在には感謝してもし足りません」
「それなのだけれど、実は論師殿に相談に乗って欲しいことが」
「人に役に立つことが本分だと言いながら民から富を吸い上げるなど、矛盾していませんこと? 真に民を思うのであれば無償で行うべきですわ」

 シュザンヌの言葉を遮り、ナタリアが馬鹿にしたように言う。
 遮られたシュザンヌはナタリアに苦笑しているが、私には呆れしか出てこない。

 これがこの国の王女か。しかもそれを誰も咎めもしない。先程から王も観察しているが、ナタリアを宥める気配もない。
 むしろ仕方ないと言いたげに苦笑を浮かべるだけ。つまりインゴベルトはそういう王であるということだ。

 ……これがこの国の価値か。
 思わず笑みを消してしまいそうなほど愚か者しか揃っていないと思うと、自然と目も細めてしまうというもの。
 とりあえずナタリアに対しては反撃をしておくかと、先程から話に着いていけていないルークに微笑んでからナタリアを見る。

「ああ、そういえば殿下は福祉に力を入れていらっしゃるとか」
「ええ、そうですわ。だからこそ貴方のような、」
「だから勘違いなさるのですね」
「……勘違いですって?」
「勘違いでしょう? 私がやっているのは殿下のような福祉活動ではありませんもの」

 ナタリアの眉間に皺が寄る。ヴァンとシンクが食事の手を止め私を見る。まさかは反論する気かと、ヴァンが心配と恐れと驚きがない交ぜになったような目で私を見てくる。
 しかしナタリアがどういう意味ですのと問いかけてきたので、ヴァンには微笑みを一つ浮かべておいてナタリアへと視線を移した。

「そのままです。私は事業を起こして利益を出し教団へと還元することが仕事です。その事業が福祉事業に酷似していることが殿下の勘違いの原因なのでしょう。繰り返しますが、私の目的は飽くまでも利益を得ることなのです。そして得た利益から労働者への賃金を払い、労働環境を整え、次の事業に着手するための資本金を貯蓄しておく。教団へ還元したものは従事する教団員や神託の盾騎士団の給金となり、彼らの労働環境をよりよくするための資金となります」

 ここまで言ってから一拍置く、ナタリアは訝しげな顔をしている。これは一から十まで説明しないと、多分理解しないなと内心ため息をついた。
 そしてインゴベルトを見る。なるほどといわんばかりの顔をしている。こっちには本気で頭痛がしそうになった。

「確かに人々の役に立つのは私の本懐ですが、そこに利益が出なければ継続は不可能です。故に施行した施設への使用料はいただきますが、それらは施設の維持費、労働提供料金、雑費など諸々を含めた料金であり、決して無作為に富を搾取するものではございません。勿論純利益がないとは言いませんが、それらは先程も言った通り資本金に回すか、教団に還元して居るため無作為な搾取とは違います。それなのに殿下は先程から私に対し富を吸い上げると言い、無辜の民から搾取していると仰る。私がしているのは施しではありません、勿論ダアトの活性化や社会貢献にはなっていますが、根本は利益を出し続けることです。ですから勘違いですよ、と私は言っているのです」

 ここまで懇切丁寧に説明してやってんだからいい加減理解しろ。全員の視線が集まる中そこまで言い切れば流石のナタリアもたじろいだものの、それでも反論の言葉を紡ぐ。
 その不屈の精神には感服するが、自分で自分の首を絞めていると本当に気付いて欲しい。インゴベルトもおろおろしてないで止めろ愚王。

「し、しかし……民を思うならばやはり無償でやるべきですわ! 貧困に喘ぎ、施設を使用したくとも出来ない民とて居るのですから」
「ではその資金はどこから出てくるのです?」
「きょ、教団から……出せば良いではありませんか」
「教団は信者からの寄付金で成り立っております。そのような無償の奉仕活動を行うほど余裕はございません。もう一度言わせていただきますが、利益が出なければ継続は不可能です。働いている民もまた、ボランティアでやっているわけではありませんから」
「ですが我が国では無償で孤児院を立ててやっていけておりますもの。貴方が真に優秀であるのであれば可能なはずですわ!」
「……殿下の目にはキムラスカは美しい花畑に見えていらっしゃるようで」

 額を抑えて私が言った台詞に、クリムゾンやシュザンヌがサッと目をそらす。ヴァンに関しては胃が痛いのか腹部を押さえている。
 ルークがこっそりシンクにどういう意味だ? って聞いてたけど、シンクは少し考えてから今は晩餐会の最中なので後ほどでも宜しいですかと答えていた。
 そうだよね、お前は馬鹿か? を遠まわしにした言い方だってここで言える筈がないよね。

「先程から無償でと仰っていますが、そもそも孤児院の作業員とて給料を貰っています。その給料は民の税から捻出されるものです。つまり民から得た金銭で孤児院を運営しているわけですね。殿下は無償でやっているつもりでしょうが、民から集めた税を使っているという前提を忘れないで下さい。何事にも資本となる金銭が無ければ実効は不可能です。労働力となってくれる民もまた、給金がなければ動かないでしょう。殿下はそれに税を使い、私は施設の利用料金からそれを捻出しているわけです」

 今度はストレートに、無償無償って言うけどお前だって税金使ってやってるんだろ、と言ってみる。
 しかし何故かそれがナタリアの逆鱗に触れてしまったらしい。

「我が国の民はそこまで非情ではありませんわ!! 例え無償であろうと善意の心を持って奉仕活動をしてくれますもの! 事実キムラスカ軍では無償の奉仕活動を行うものは多く存在するではありませんか!」
「……それは罰則では?」

 立ち上がってナプキンをテーブルへと叩きつけるナタリアに呆れ、クリムゾンに確認すれば諦めきった顔で一つ頷かれた。

「だ、だとしても! 心根の優しい民の集まる国です! 声をかければ奉仕活動のために集まる者は大勢居る筈ですわ!」
「そうですか。では殿下はそのように活動をなさるのですね。私は私のやり方でやらせていただきながら応援させて頂きます」

 一体どれだけ自分の国の民に幻想を抱いているのか。
 自分が活動をやるからお前の事業の出番などない、むしろ潰れないうちにさっさとキムラスカ内から出て行けと言わんばかりに憤り、デザートも食べないままナタリアは席を立って行ってしまった。
 インゴベルトから謝罪されるが、最早あの猪突猛進のお姫様などどうでもいい。
 味は濃い目だが頬が蕩けんばかりの食事の方が大切である。さあ、静かになったことだし食事を堪能しようじゃないか。


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