「イオン様を探して下さい!ついででも良いですから!」
「イオン様を捜してください!ついででも良いですから!」
去っていくタルタロスを呆然と見送った親善大使一行。
ジェイドが陸路か海路か選べとルークに迫っている中、アニスがルークに縋るように言う。
途端に、アニスの背後にゆらりと陰がゆらめいた。
「ついで、ねぇ……」
「ひっ!?」
「うをっ!?ってお前どっから現れたんだよ!!」
地を這うような低い声にアニスが喉を引きつらせ、ティアとナタリアが反射的に構え、ルークが一歩飛びいたあと思い切り突っ込む。
そしてルークが飛びのいた先には、つぎはぎだらけの人形を抱きしめたアリエッタも居た。
「ルーク様、突っ込み上手……」
「そ、そうか?」
「はい。裏手、素敵でした」
「お、おう。さんきゅ……?」
若干赤とピンクがほのぼのしているがそれはさておき。
突然現れたカーニャはアリエッタとルークのやり取りに目を細めて微笑んだ後、すぐに絶対零度の瞳へと切り替えて腕を組みアニスを見下ろす。
「私の忠告は全く聞いていないようだな、アニス・タトリン奏長?」
「な、なによ!イオン様を誘拐した六神将の言うことなんて誰が聞くもんですか!」
「ちょ、ちょっと、アニス……」
アニスがカーニャに噛み付くようにして言うものの、カーニャは冷たい瞳でアニスを見下ろすだけだ。
ティアがもっと穏便にとでも言いたげにアニスの名を呼ぶが、多分アニスには聞こえていない。
「だいたいどっから現れたわけ!?イオン様を誘拐した次はルーク様を誘拐するつもり!?
そんなの絶対にゆるさ、ぁぐっ!?」
アニスの喚き声が聞くに堪えないと言わんばかりに、カーニャは腹部に勢いよく膝を叩き込んだ。
避けることも防ぐことも出来なかったアニスは当然のように吹っ飛び、ティアやナタリアはカーニャが動いた瞬間肩を竦めながら反射的に目を瞑っていた。
ルークもおい、と声をあげかけたが、アリエッタがルークをみてふるふると首をふったために、庇うのを諦めたようだ。
「な、んで……っ」
「その様子だとバチカル支部の責任者には会っていないようだな」
腹部を押さえ咽こむアニスにカーニャは冷めた声で呟いた。
意味が解らないという顔をしているアニスにカーニャは深々とため息をつく。
「支部の責任者には、守護役が役立たずだからイオン様は別口でダアトにお帰りいただくことを説明してある。
イオン様もご了承済みだ。つまり誘拐など最初から無かったということだ。理解したか、不寝番すらしなかった、役立たずの導師守護役殿?」
「う、そ……」
「イオン様が居なければ当然責任者に報告するだろうと思っていたのだが……貴様の確認不足で親善大使であるルーク様の足を止めるなど、厚顔無恥も甚だしい。
そもそも本当にイオン様が六神将に攫われたならば、それは飽くまでも教団内で解決すべき事案だ。教団の導師が教団の人間に誘拐されたなどと完全に私事でしかないからな。
キムラスカに救援を頼むことではない。そんなことすら解らないとは、一体どれだけ無知を晒せば気が済むのだ」
「で、でも……攫ったのが六神将なら他の騎士団だって敵じゃない!」
「貴様は導師守護役が己だけだとでも思っているのか?導師守護役部隊は導師直轄の部隊、同僚に助けを求めれば良いだけだろう」
「けど時間が」
「ほう?責任者にイオン様の居場所を確認する時間や同僚を呼ぶ時間は無くても、ルーク様に媚を売る時間はあるわけか。
貴様のおかげで導師守護役の品位がどんどん落ちているな、嘆かわしいことこの上ない」
「だ、だって……その、すぐにイオン様を助けなきゃって思ったから!」
「その割には先程シンク謡士とアッシュ響士が導師イオンをお連れする際はぼうっと突っ立っていたようにしか見えなかったが?
おかしな話ではないか、アニス・タトリン奏長。親善大使であり公爵子息であるルーク様が剣を持って敵陣へと突っ込み、導師守護役である貴様は呆然と立っているだけなど……この神託の盾の恥さらしがっ!」
一喝するカーニャにアニスがひっと喉を鳴らす。
その隣ではアリエッタが拙い言葉で誘拐は誤解であることと、アニスは気にせず親善に向かって欲しいことを告げ、アニスが親善の妨害をしたことを詫びていた。
飽くまでもアニスがしたことは個人的な事でダアト自体はマルクトとキムラスカの親善を応援しているとも。
しかしアニスが邪魔をしてしまったのも事実なので、お詫びにもならないが微力ながら親善の手伝いをしてほしいとイオンに頼まれ、アリエッタ達はコチラに来たらしい。
どうやら、イオンは先ほどルークを発見したことでアニスが何をやらかしたか察したようだ。
「それよりタルタロスを返していただけませんか」
「? ピオニー陛下にお手紙を送って、アクゼリュスまで使用する許可は貰ってます。
マルコ中佐?って人に手紙見せて、通達してもらって、マルクトの第三師団の人たちも納得してました。
あとこれ、渡してくれって頼まれたから……あげる、です」
アリエッタが懐から取り出した手紙をジェイドに渡す。
するとジェイドは警戒を露わにしながらもそれを受け取った後、中身を見て思い切り目を見開いていた。
中身を予測しているカーニャだけがそれを横目にふんと鼻を鳴らし、怯えているアニスを見下ろしている。
「そもそも本当に導師が誘拐されたとしよう。それは先程も言った通り神託の盾で解決すべきことであり、他国に救援を頼むなど言語道断だ。
そう、神託の盾が全力で当たらなければならないのだ。
なのにそのような重大事のことを"ついで"だと……?」
「ひっ」
「導師に敬意を払わず、それどころか導師を蔑ろにし、最低限の礼儀すらできていないような愚か者、どうして我々が貴様の尻拭いなど……腹立たしいことこの上ないな!」
最後に怒りを露わにしたカーニャはもう姿さえ視界に入れたくないと言わんばかりにアニスから視線を逸らし、ルークに挨拶をしている。
ルークもまた、陸路を行くならばアリエッタの魔物に乗っていけると言われてご機嫌だ。
ガイとティアとナタリアはアニスに同情の視線を向けていたが、カーニャの怒りを買うと解っていながらアニスを庇うことはしなかった。
アニスは自分に味方が居ないことを知り、喉もと過ぎればなんとやらと言うように先程までの恐怖心も忘れ、ただ悔しげにルークと歓談するカーニャとアリエッタを睨みつけていた。
実は生きてたタルタロスの人々。
とはいえ、全滅は間逃れたけど死者は出てます。
ジェイドへの手紙はピオニーからのお叱りの言葉。
アニスは目の前に叱る人がいなければ、ばれなきゃ良いよねの精神で何度も馬鹿やる気がします。
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