「じゃあ、今こっそり持ってっちゃえば大金持ちですね!」
鉱山の街、アクゼリュス。
紫色の障気が満ちるすり鉢上の街に、皆が言葉を失っていた。
人が住める場所には到底見えなかったが、それでもヴァンに会うためにルークは師匠を探すと口にする。
勝手に救助を始めようとした面々に対しては、途中ケセドニアで合流したイオンがまずはヴァンと合流し指揮下に入ったほうが良いと言ったために全員でヴァンを探すことになった。
ジェイドとしては先遣隊を率いたヴァンに現状を聞きたいというのもあった。
そうして手分けしてヴァンを探しているうちに、仮責任者であるらしいパイロープという男から現状については聞くことが出来た。
神託の盾とマルクトそれぞれの第三師団の協力を得て、7割がたの救助は完了しているというのだ。
ルークはそれにサッと顔色を悪くすると、駄目だ!と声を張り上げる。
「駄目なんだ!移動させたら戦争になっちまう!」
「ルークさま…?」
「それはどういうことですか?」
アリエッタとジェイドがルークを見る。
ルークはしまった、という顔をしたものの、すぐにとにかく駄目なんだと声を張り上げた。
それに声をかけたのは、やはりというか何と言うかカーニャであった。
「ルーク様、宜しいでしょうか」
「なんだよ……」
「ルーク様の発言の意図は解りかねますが、先にグランツ謡将を探しませんか?」
「あ、そ、そうだ、ヴァン師匠!ヴァン師匠なら何とかしてくれるかも!」
「グランツ謡将なら先遣隊を率いて14番坑道に行ってまさぁ」
「14番坑道だな!よし、すぐに行こう!」
踵を返して14番坑道に行こうとするルークを、イオンとアリエッタが慌てて止める。
落盤の可能性もあるし、坑道の中というのは障気以外の猛毒ガスが発生している場合もある。
それに身分を考えればルークが赴くのではなくヴァンの方から訪ねてくるべきだ。
だからルークは安全なところで待っていてくれと言葉を尽くす二人にルークは渋々折れた。
そしてイオンとアリエッタに命令されたのと、早く現状把握がしたいというジェイドが立候補し、カーニャ、アニス、ジェイドの三人で坑道へと足を踏み入れる。
ガイとティアは別の場所にいたし、ナタリアはイオンに説き伏せられてルークと一緒にお留守番だ。
三人でPTを組んで先に進んでいたメンバーだったが、アニスがジェイドにココの鉱石は非常に価値が高いと聞いて雑談交じりにこんなことを呟いた。
「じゃあ、今こっそり持ってっちゃえば大金持ちですね!」
「……アニス」
「……不謹慎、という言葉を知っているか、タトリン奏長」
「え?あ、いや、その……冗談でーす!」
慌てて誤魔化すものの、二人の視線は冷たい。
アニスはちょっとした冗談だったのにと内心呟くが、坑道の奥に倒れていた人たちを見てジェイドはアニスを構うことなくその人たちに近寄った。
アニスもまた救助に動こうとしたが、カーニャに呼ばれて渋々足を止める。
「タトリン奏長、我々の任務はグランツ謡将を探すことだ。ココはカーティス大佐に任せて奥へ行くぞ」
「た、倒れてる人たちを見捨てろって言うんですか!?」
「任務が優先だ」
「しっ、信じられないっ!人の命より任務のが大切だって言うわけ!?」
「何を言ってる。軍人ならば任務を優先すべきだろう。何故そんな当たり前のことも解らない?」
「ふざけないで!そんなサイテーなことできるわけないでしょ!大体任務って言うけどこの人たち運んでからでも良いじゃない!」
「サイテーねぇ……好き勝手喚いているが、彼等がこんなことになっているのはタトリン奏長が原因でもあると理解しているのか?」
頬に手を当て、わざとらしいほどゆっくりとした声音でカーニャは言う。
その声は侮蔑に彩られ、アニスを見下ろす瞳は氷のように冷たい。
アニスは言われた言葉の意味が解らず、また心当たりも無かったためにはぁ!?と声をあげてカーニャを見上げている。
「あたしがこの人達に何したっていうのよ!?」
「貴様、タルタロスの情報を大詠師モースに流しただろう?」
突然飛んだ話にアニスの顔色がサッと悪くなった。
「な、んで……知って」
「当たり前だろう。六神将は貴様の流した情報を元にタルタロスを強襲したのだから」
「あ、あれはアンタ達が勝手に……っ!」
「そうだな、勝手に行動した黒獅子や鮮血を私とアリエッタさまが止めた事件だ」
カーニャの言葉にアニスはぐっと言葉を詰まらせる。
そう、タルタロス強襲に関してカーニャやアリエッタが責められるいわれは無い。
カーニャ達は飽くまでも強襲を止めた立場なのだから。
「しかしアリエッタさまの尽力も虚しく、タルタロスは人員を減らされアクゼリュスへの航行にも支障が出た。
まあ当たり前だな。どこぞの馬鹿上司が隠密行動だからと常時の半数しか乗せていなかったらしいからな、その上兵数が減らされれば時間のロスはどうしても出てしまうだろう。
だがな、私が言いたいのはそこではない。あのタルタロスに乗っていた人員はアクゼリュスに到着した時の救助要因であり、タルタロスの物資は救助物資であったということだ。
なのに貴様はタルタロスの情報を漏らした。
解るか?タトリン奏長。貴様が一番最初に救助の妨害をしたのだ。
せめてマルクトの兵士が誰も欠けることなく無事アクゼリュスに辿り着いてたら、ココに倒れている鉱夫達も無事に救助されていたかもしれないのになぁ?」
冷酷でいて美しい微笑を浮かべるカーニャの前で、アニスはかたかたと震え始めた。
彼等が苦しんでいるのは貴様のせいだと突きつけられ、アニスはその罪の重さに耐え切れずにただ震えていた。
しかしそんなアニスを見て慰めてやるほどカーニャは甘くないし、優しくも無い。
むしろ敬愛するアリエッタに暴言を吐くアニスは、カーニャにとって敵でしかない。
「それなのに人命優先だの私に対しサイテーだの、よくもまあ言えたものだな。
はっ!口だけは随分とご立派じゃないか!」
「し、仕方なかったの!そうしないとパパとママが……っ!」
「言い訳はいらん。貴様は両親を盾に命を売り渡した冷血漢でしかない。
幾つもの命が失われた今、その事実は変わらない。
導師の情報を売り、安全を売り、そして罪なき人々の命を売った貴様が、奇麗事を口にするな。
そして貴様の一番醜いところはな、己の罪を自覚せずに厚顔無恥に振る舞い、他人を傷つけ外聞も無く恥を振りまくところだ。
こっそり持ってっちゃえば大金持ち、だったかな?罪を自覚していたならば言える台詞ではないな。
イオン様のご命令が無ければとっくに切り捨てているものを……!」
その場にぺたりと座り込むアニスをカーニャが見下ろす。
「貴様に救助する資格は無い。行くぞタトリン奏長。
さっさとグランツ謡将を見つけてルーク様の元に連れて行かなければ」
座り込んだままのアニスを無理矢理立たせ、引きずるようにしてカーニャは動く。
腕を引っ張られる痛みを感じながらも、アニスの心の中にはいい訳だけが渦巻いていた。
凄い不謹慎な台詞だと思います。
でもアニスの何が一番醜いって、やっぱり罪を自覚せずにキャピキャピやってるとこだと思う。
そしていい訳ばっかするとこ。
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