「そうだよ、だから何?根暗ッタ!」


ローレライ教団本部。
外郭大地降下が終了しやっと一息ついたにも関わらず、障気が再度噴出し、倒した筈の六神将が暗躍していることを知ったルーク達は、また世界を股にかけて行動していた。
転機はダアトで両親を人質にとられたアニスがモースに命令されるがままに、イオンをザレッホ火山に連れて行ったことだ。

ヴァンに追従することなく神託の盾に残っていたカーニャやアリエッタと手を組んだルーク達の妨害によりイオンは命を落とすことは無かったが、それでも暫くベッドから起き上がることはできないほどに消耗していた。
預言を詠んだからではない。アニスに連れまわされ、休憩どころか水分を取ることも許されずに火山の中に居たからである。

降下作戦が実行されて以降、降格を言い渡され導師守護役から外されていたアニス。
かつてはイオンを守る立場にありながらもイオンの命すら売り渡したアニスに対し、アリエッタは声高に責めた。
例え自分の愛したイオンでなくとも、導師である以上今のイオンはアリエッタが守るべき存在であることには変わりは無いと、アリエッタは認識していたから。

何よりセントビナー以降アリエッタとイオンの距離は急速に縮まっていた。
そこには被験者イオンと違う絆が生まれていたのも、また事実だった。
今のイオンとも仲良くやっていけるかもしれない。アリエッタがそんな風に思っていた矢先の事件だったため、アリエッタはいつもより苛烈にアニスを攻め立てた。

「イオンさまが倒れたのはアニスのせい!
アニスは導師守護役だったくせに、イオンさまの命を売ったんだ!!
この、恥知らずっ!!神託の盾の恥さらしっ!!」

「……そうだよ。だから何?根暗ッタ!」

傷ついた身体で立ち、瞳に涙を溜めながら叫んだアリエッタに対し、アニスは叫んだ。
そしてそんな事嘘よね?と青い顔でアニスに言うタトリン夫妻に対し、誰のせいだと思っているのと、アニスは泣き叫ぶ。
己の身を省みず借金を重ねる両親を持ったことは同情する。しかしだからといってそれが全て免罪符にはならないのだ。
そして言い訳を繰り返す様は、アリエッタ達の怒りを煽った。

せめて大人しく自首をするか罰を望む姿勢を見せれば、アリエッタもココまで怒ることはなかっただろうに。
ただひたすらに仕方が無かったと、両親のせいだと繰り返し、イオンに対し謝罪の一言も無いアニスに、とうとうアリエッタは堪忍袋の緒が切れた。

「カーニャ!!アニスを捕まえてっ!!」

絶句する両親に泣きながら叫ぶアニスは、突如叫んだアリエッタにぎょっとした表情を浮かべた。
カーニャは短く御意と口にすると、アニスを床に叩きつけて叫ぶ。

「衛兵!聞こえたな!アニス・タトリン響長は今導師イオンの御身を売り渡したことを認めた!!罪人を引っ立てろ!!」

まさか正式に捕まるとは思っていなかったのか。
アニスはカーニャの叫び声に血の気を引かせたかと思うと、その拘束から逃げ出そうと必死にもがき始める。
しかしカーニャの声を聞いた神託の盾兵達が集まり始め、すぐに腕を縛られトクナガを取り上げられたため抵抗はほとんど意味を成さない。
引きずるように牢へ連れて行かれそうになる娘を見て、タトリン夫妻が慌ててカーニャに縋る。

「あ、あぁ、ああ!カーニャ様!!どうか、どうかお慈悲を!
あの子は本当は良い子なんです!私達のせいであんな罪を犯してしまっただけなんです!」

「罰は私達が受けます!あの子はまだまだ子供なんです!ですからアニスだけは……っ!」

「確かに子供ですが、彼女は軍人です。軍人であれば子供であろうと一般人と同じように罰せられます。
あなた方にもお話を聞くことがあるでしょう。どうぞお部屋へ戻り、謹慎なさって下さい」

カーニャに淡々と言われ、タトリン夫妻は諦めたように肩を落とし、兵士に挟まれて教団内に構える自室へと戻って行った。
拘束され猿轡をされたアニスはそれでも何とか助かろうと、ルーク達へと縋る視線を向ける。
ルークはアニスを睨みつけていたが、ジェイドに肩に手を置かれて顔を上げた。

「行きましょう。正式に罪人となったアニスにかかずらっている時間はありません」

「……そうだな」

ジェイドに言われてルークはアニスから視線を外した。
アニスも成り行きでPTに同行していたが、流石にもう同行させたくないのだろう。
他の面々もアニスを睨みつけていて、アニスは絶望を顔に浮かべる。
それでもそのまま連れて行かれたアニスを見送った一行だったが、ティアがアニスの姿が見えなくなってからぽつりと漏らした。

「……庇うかと、思ったわ」

「初めてできた友達を殺しかけた奴を、か?」

ルークもまたぽつりと漏らした返答に、ティアははっとした表情を浮かべた。
ティアが失言を謝り、そのまま教会を出ようとするルーク達をアリエッタが引き止める。

「ルーク、迷惑をかけてごめんなさい。それと、イオン様を助けようとしてくれて、ありがとうございます……です。
イオン様はアリエッタ達が守ります。だから安心してください」

「ああ、信頼してる。またちょくちょく寄るからさ」

「なら第三師団の人間か、詠師トリトハイムに声をかけてください。
イオン様に取り次ぐよう言っておく、です。でも、休まなくて大丈夫ですか?」

「ん。サンキュ。ちょっとココに居たくないからさ、行くよ」

「解りました……カーニャ」

「はい」

ルークの言葉に一つ頷き、アリエッタはカーニャを呼ぶ。
そして一礼するカーニャに対し、アリエッタは命令した。

「ルーク達に着いていって。イオン様を殺そうとしたリグレットも、お友達を駒みたいに使う総長も、アリエッタは許せない。
だからアリエッタの代わりに、行って、倒してきて下さい」

「それは女王としてのご命令ですか?」

「……そう、です。女王として命令です。ルーク達に協力して、裏切り者で、邪魔者の、総長たちを殺して」

「拝命、賜りました」

人形を抱きしめながらも冷酷に告げるアリエッタに、カーニャは恍惚とした表情を浮かべながら優雅に膝を着く。
ルーク達は一瞬ぽかんとしたものの、強力な助っ人の存在を笑顔で迎えた。

こうして新たな仲間を迎えたルーク達は障気中和、ヴァン・グランツ討伐、ローレライ解放などの偉業を次々に成し遂げていく。
その中でもアリエッタに命令されたカーニャは一際際立った働きを見せ、幼獣アリエッタの副官ということもあって、いつしか人々からはこう呼ばれるようになった。


『猛獣』、と。


アニスが歴史の闇に消え、世界に平和を取り戻した後も、『猛獣』はダアトを守り続けた。
愛する主人と、主人の仕える導師を守るために。

また主を害する者が現れたら、彼女は武器を手に取るのだろう。
その『猛獣』の名に相応しい爪と牙は、愛する主のためならばいくらでも研ぎ澄まされるのだから。




end.




はい。アニスいじめシリーズコレで終わりです。
ホントはデオ峠とかも考えてたんですが、話の流れ上無理でした。
外郭大地降下作戦以前の罪は、イオンの最後の恩情で処刑は間逃れ、降格と守護役解雇ですみました。
ま、本人がそれを無駄にしちゃったんですがね。
つか責めるアリエッタに対して「そうだよ」ってアニスが犯罪認めてんだから捕まえろよって話ね。

しかしこの『猛獣』も最後の最期オマケみたいな感じでつけてみたんですが……いじめシリーズ、二つ名シリーズとしてもいけるんじゃないだろうか。

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