「それではユリアの教えに反してしまう」
「厄は取り除かれると預言を受けた者を見殺しにしたら、預言を無視したことになるわ。
それではユリアの教えに反してしまう。それに…」
「それに?」
「…なんでもない」
「確かに預言は守られるべきですがねぇ…」
「あのぅ、私もコーラル城に行った方が良いと思うな」
「コーラル城に行くなら、俺もちょっと調べたいことがある。ついてくわ」
「アリエッタも女性ですよ」
「お、思い出させるなっ!」
「行きたくねー。師匠だって行かなくていいって言ってたろ」
「アリエッタはあなたにも来るように言っていましたよ」
「隊長を見捨てないで下さい!隊長にはバチカルに残したご家族も…」
「頭の痛くなるような会話はそこで止めてもらおうか」
カイツール軍港。
幼獣のアリエッタに襲撃され見るも無残な姿にされたそこで、カーニャが冷徹に言い切った。
ティアがムッとした顔でカーニャを見たのはいつものことだが、今回はイオンもカーニャに対し困惑の表情を浮かべている。
「しかし預言を無視するわけにはいきません」
「導師イオン、お言葉ですが先程グランツ謡将が強襲犯の討伐に向かうと仰って居たではありませんか。神託の盾騎士団の主席総長が向かったのです。厄を取り除くには充分すぎるでしょう」
カーニャの言葉を聞き、嘆願してきた整備士二人組がホッとした表情を浮かべた。
カーニャが二人に対し、だからお前らも安心すると良いと微笑めば二人はありがとうございますと礼を口にする。
しかしそれでは納得いかないのか、固い表情を浮かべてカーニャに言った。
「ですがそれではアリエッタの要求を無視することになります」
「それはつまりキムラスカにテロリストに屈せよと、そう仰るおつもりですか」
すっと目を細め、カーニャがイオンを見る。
イオンはその瞳に怯えたように肩を跳ねさせ、何故そんな目をされるのか解らずに困惑した。
「テロリストに屈するなんて、ちょっと大げさだと思いますけどぉ」
「大げさなものか。しかもテロリストである幼獣のアリエッタはキムラスカ王族にして第三王位継承者であるルーク様の身柄を要求している。
そのような馬鹿げた要求を聞いてしまえばキムラスカの権威は地に落ちる」
アニスの言葉を切り捨て、カーニャはルークに側を離れたことを謝り馬車の手配を終えてきたことを告げる。
整備士の二人はようやくルークの髪と瞳の色に目が行ったらしく、顔を真っ青にして震え始めた。
「も、申し訳ありません!王族の方が居られるなどとは露とも思わず…!」
「決して御身を差し出せと願ったわけではありません!!」
「あ?別にいーって。コーラル城まで行くなんてめんどくせーことする気ねーしな」
膝を着き頭を下げる整備士達に手を降りながら言ったルークを見てカーニャは微笑みを浮かべたが、ティアは更に目を吊り上げる。
そしていつものように、カーニャに対しくってかかった。
「まさか救助に行くな、なんていうつもりじゃないでしょうね?」
「その通りだが?そのようなこと、わざわざルーク様がなさるようなことではない」
「見殺しにするつもり?!」
「グランツ謡将が出向くのだ。わざわざ我等が行く必要などないだろう。それで充分預言は成就される」
「でもアリエッタの要求を無視することになるわ。そうしたら人質の命がどうなるか…!」
「お前は自分の所属する軍の主席総長を甘く見ているのか?性格はともかくグランツ謡将の腕は確かだ。問題なかろう」
「っ、アリエッタ一人とは限らないじゃない!」
「それはそうだな。だったら余計にルーク様の御身を危険にさらすわけにはいかん。さ、ルーク様、参りましょう」
反論を逆手に取られ、会話を無理矢理切り上げられてティアは顔を赤くした。
未だにアニスとガイは行くべきだと思っているらしく、着々と馬車までルークを連れて行こうとするカーニャを横目にジェイドに話しかける。
「大佐、行かなくて良いんですかぁ?」
「おやおや、そんなに行きたいんですか?」
「だって根暗ッタがしたことだし、私達が何とかした方が良いんじゃ…」
「だから謡将が動いたんですよ。謡将の言うとおり、私達は国境で待ちましょう」
「旦那も行かない方が良いと思ってるのか?」
「当たり前でしょう。これから和平を申し込みに行く国の王族をわざわざテロリストの元に届けるなど愚の骨頂ですから。
確かに預言は成就されるべきでしょうが、カーニャの言うとおり謡将が出向く事で人質の救出は達成されるでしょうし。
ガイ、第一貴方が最も優先すべきはルークの安全でしょう?一緒に行くなどと言ったらまたカーニャから叱られますよ」
「あ…そう、だよな。くそっ、気をつけてるつもりなんだがなぁ…」
「戦闘中はルークを優先してますが、それ以外がまだまだ注意力散漫ですねぇ」
「でもぉ…」
「アニス、貴方はキムラスカを怒らせたいんですか?」
「へ?」
ジェイドの言葉に納得しつつ反省するガイの横で、なお食い下がろうとするアニスに対してジェイドが冷たい声で問いかける。
ジェイドの質問の意味が解っていないのか、アニスはきょとんとした顔で首を傾げていた。
ジェイドはアニスの態度にため息をつきそうになるのをぐっと堪えつつ、自分にその資格はないと言い聞かせる。
ついでにといわんばかりにカーニャに食って掛かっているティアを止めようとおろおろしているイオンも手招きする。
イオンはティアを気にしつつも素直にそれに従い、ジェイドは子供主従の意識がコチラに向いているのを確認してから説明するために口を開いた。
「今回、アリエッタはキムラスカに損害をもたらしました。軍船と軍港の破壊行為に加え、兵士も死んでいます。その被害総額はとんでもないものになるでしょう」
「だから私達で根暗ッタを捕まえたほうが良いんじゃないですか?」
「はい。少しでもキムラスカにお詫びをせねば」
「話は最後まで聞いてくださいね。良いですか?これはつまり、ローレライ教団がキムラスカに対しテロ行為を行った、ということです」
何故こんな初歩中の初歩から説明せねばならんのか。
ジェイドの顔にはそんな気持ちがありありと見えたが、イオンとアニスが驚いた顔をしているのを見てやっぱり解っていなかったのかと諦観にも似た感情を覚える。
「えええぇぇええ!?何で根暗ッタがしたことが教団のせいになるんですかぁ!?」
「教団はそのようなことはしていません!」
「アリエッタが神託の盾兵だからです。神託の盾騎士団が教団の所有する軍である以上、そうなるのは当然の帰結です」
「ならやっぱり根暗ッタを捕まえてとっちめてやらないと…!」
「アニース、人の話は最後まで聞いてくださいと私は先程言った筈ですが?」
今すぐにでも動き出しそうなアニスに対し、にこりとジェイドが微笑みを浮かべる。
ただしその微笑みに温もりや親しみなどといったものは一切存在せず、アニスは体の向きを変えようとしたのを無理矢理止めてジェイドに向き直った。
ジェイドが怒っている。それを理解できる脳味噌はあったようだ。
「良いですか?アリエッタが軍港を襲撃した時点で、キムラスカの教団に対する印象は最悪と言って良いでしょう。
そして次に人質をとり王族と導師を要求するという構えを見せたわけですが、さてココで問題です。私達は今どの国に居るでしょう?」
「キムラスカですけど…」
「そうです。キムラスカで起きた事件はキムラスカ軍が解決します。マルクトやダアトが横槍を入れるのは内政干渉です。
ココでアリエッタの要求を呑んだとしましょう。
教団員が軍港を襲撃し、教団員と導師が本来解決すべきキムラスカ軍を無視してそれを勝手に了承し、そのためにキムラスカ王族を差し出した…キムラスカからすれば、教団はキムラスカを馬鹿にしているのか、となるわけですねー」
ジェイドの言葉を聞いているうちにアニスとイオンの顔色は青を通り越して白くなり、イオンは眩暈でも起こしたのかその場でふらりと揺れた。
ガイが慌ててイオンを支え、意識は失わなかったらしいイオンは僕はなんてことを…と呟いている。
「まぁ例えキムラスカ軍が対応したとしても、ルークを差し出すとは思えませんがね。
キムラスカは貴族上位の国ですし、一介の整備士と王族を比べたら間違いなく王族を取るでしょう。
テロリストの要求を呑んでしまえばテロリストに負けたということでもありますから、プライドの高いキムラスカがそのような事実を残す筈がありません。
それに今後似たような要求をしてくるテロリストも出てくるでしょうし、それを防ぐという意味合いもあるんですよ。
だからこそカーニャは救助に行かなくていい、と言っているわけです。解りましたかー?」
最後は若干馬鹿にしたような言い方だったが、アニスとイオンはこくこくと頷くしかなかった。
自分達の安易な考えでキムラスカという大国を怒らせるところだったのだから、当然と言えば当然だ。
最も、普通は軍港を襲撃された時点で怒るものなのだが。
ジェイドは納得してくれた二人に対し密かに安堵の息を漏らした後、未だにカーニャに食って掛かっているティアを見る。
「まぁ普通ココまで言えば理解できるものなのですが…」
「ティアもきちんと説明すれば解ってくれるのではないでしょうか?」
「…ねぇガイ、カーニャはティアに説明したの?」
「あぁ、してたぞ。旦那の言ったことをもっと解りやすく、噛み砕いてな」
ジェイドの話を聞いていたために意識が逸れていたアニスがガイに確認を取るが、ガイは苦笑混じりに答えるだけでそれ以上は何も言わなかった。
それはつまりカーニャの言ったことを全く学習していないという事で、イオンとアニスは顔を見合わせてどうしたものかと困っている。
「いやぁ、教団の教育は素晴らしいですねぇ」
ハッハッハッと珍しくも爽やかに笑うジェイドに対し、イオンとアニスは反論したくてもできないという何とも微妙な気持ちに陥るのだった。
なんかジェイドが出張ってきた。
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