「そんなの駄目ですわ!ルーク!わかっていますわね!」
「そんなの駄目ですわ!ルーク!わかっていますわね!」
廃工場を抜けた先導師イオンがタルタロスで連れ去られるところに遭遇し、六神将に陸路を使うことがばれてしまった。
ジェイドにナタリアを陛下に引き渡して海路で向かうか、このまま陸路で行くか選択を迫られたルークは噛み付くように怒鳴るナタリアに対し眉を顰める。
ジェイドはその表情に僅かに疑問を覚えたようで、カーニャもまた嫌悪の表情を浮かべていることに密かに目を細める。
「……ナタリア、貴女はその言葉がどういう意味を持つか、解って言っておりますの?」
「当たり前です!今ここで連れ戻されるなど、冗談ではありませんわ!」
地を這うような声で問いかけたカーニャに対し、ナタリアは胸を張って言う。
自分は和平に必要なのだと信じて疑わない姿勢にルークは勝手にしろと言って歩き出してしまい、ナタリアは何故突然怒り出すのか意味が解らないと言いたげにルークを見た。
「ナタリア、貴女はキムラスカ=ランバルディアの第一王女…人一倍発言に気を使わなければいけない立場だと、私は忠告した筈です」
それはナタリアが王女として扱うなと言った時に、カーニャが言った言葉だ。
しかしナタリアは自分の発言には充分気をつけているつもりであったし、尚且つ自分ではなくカーニャが補佐に選ばれたことに対しての不満が燻っていた。
それは王女である自分が行きたいと頼んだにも関わらずそれを却下してカーニャを優先して選んだ(ように見える)父や議会に対する不満であり、ルークは己の婚約者であるにもかかわらずカーニャがルークを支えるという現状に対する嫉妬でもあった。
いくつもの不満が渦巻き、それはカーニャへの反発心となって現れる。
「私は自分の発言に気をつけておりますし、貴女にそのようなことを言われる筋合いはありませんわ」
「……ナタリア」
「まぁまぁ。ナタリアだってそれだけ和平が成ってほしいと思ってるんだよ」
「そうですわ!だいたい、何故それほどまでにわたくしを帰そうと致しますの?
ルークにはわたくしという婚約者がいるのです。貴女に入る隙はありませんのよ」
例え貴女が補佐に選ばれたとしても、婚約者は私なのだと。
ナタリアが優越感を胸に言った台詞にカーニャは悲しげな顔を浮かべる。
そしてため息をつくと、そのままくるりと背を向けてしまった。
「もう貴女には何を言っても届かないのですね。残念です」
それだけ言って、カーニャはルークの後を追って行ってしまう。
ナタリアはそれを負け惜しみだと受け取り、ガイもまたどうしちまったのかねぇと苦笑する。
ジェイドだけは黙ってそれを見守りながら眼鏡のエッジを押し上げていた。
そして時は進み、ここは砂漠のど真ん中。
カーニャとルークが夜番をしている時、ジェイドはぼそぼそと微かに聞こえる話し声で目が覚めた。
それは軍人の性であり、訓練の成果でもある。
完全に眠りに落ちていなかった脳味噌はそのまま会話を聞き取ろうと耳を澄まし始め、いつでも動けるように僅かに上体を起こす。
そして耳に届いてきたのは、カーニャとルークの悲壮な声だった。
「ナタリアは一体どうしたというのでしょう。少し前までは民に対しては国を想う良き王女としてありましたのに」
「ああ、民に対しては…な。でも前から片鱗はあったぜ。カーニャだって知ってるだろ」
「……否定は、しませんわ。ですがそれも悪意があったわけではありません。
それは私でも断言できます」
「まあソコは俺も否定はしねぇけどさ…アレはいくらなんでも駄目だろ」
「こんな夜中に声が聞こえると思ったら…一体何を話しているんです?」
二人の会話の内容が昼間のナタリアのことだと解ったジェイドは、身体を起こして二人の話に乱入する。
それはもう少し声のトーンを落としなさいという忠告を兼ねていて、二人は慌てて口をつぐんだ。
ジェイドとしては昼間感じた違和感の正体を探りたいという思いもあった。
「すみません、起こしてしまいましたわね」
「構いませんよ。軍人の性という奴です。特に私はケセドニア北部戦を経験していますから、どうしても敏感になってしまうんですよ」
カーニャの謝罪にそう答えつつ、軍人の性だというジェイドの言葉を聞いてティアとアニスをちらりと見たルークに対して補足する。
ルークも自分に対しての補足だと理解したらしく、そうかよと言った後、大きくため息をついて呑気に寝息を立てているナタリアを一瞥した。
「ナタリアの話をしていたようですが」
「……まぁな。流石に、な」
「そうですわね。私たちも驚いてしまって…」
「確かに少しばかり自分本位な発言ではありましたが、そこまで驚くような、嫌悪するようなことですか?
あの年頃の子供ならばよくあることでしょう」
ジェイドの発言にルークとカーニャはきょとんとした顔をした。
そしてルークは呆れたように長く息を吐き、お前ほんっとーに外交に向いてねぇなと呟く。
ジェイドはそういわれる意味が解らず、カーニャが困ったような顔をしながら説明を始めた。
「カーティス大佐、貴方は何故我がキムラスカに和平の話を持ち込んだのですか?」
「勿論、危機的状況にあるアクゼリュスから住民を救出するためです。そのためにわざわざ陛下は私を派遣したのですから」
「そうです。アクゼリュスを救うためには、急がなければならない。
にも関わらずナタリアは陸路を選ぶことを強要しました。海路の方が圧倒的にも速いとわかっていながら、です」
「自分が和平に関わりたいから、アクゼリュスに行く足を遅くしろ。
ナタリアの奴はそう言ったんだ。民のためと言いながら同じ口で民よりも己の欲望を優先させたんだよ。俺たちが驚くなっつーほうが無理だろ。
ま、アンタがそれに気付かなかったことにも驚きだけどな。アンタもアクゼリュスはどうでも良いのか?」
しれっとルークに言われた言葉にジェイドはサッと顔を青ざめさせた。
この二人が理解できていたことを、自分は想像すらできなかった。
そのことに対し、先ほどルークに言われた外交に向いていないという言葉を思い出す。
ジェイドは内心動揺を隠しつつ、眼鏡のブリッジを上げながら話題を変えた。
「なるほど。では何故ナタリアの同行を許可したんです?あの時も嫌そうな顔をしていましたが」
「悪いがそれは言えない。ま、キムラスカにも色々あるんだよ」
「そういうことです。流石にマルクト人であるカーティス大佐にこれ以上お話しするわけには参りませんの。ごめんなさいね」
苦く笑いながら謝罪するカーニャにそうですかとだけ答えて話を切り上げ、ジェイドはもう一度眠るために席を立った。
あと30分もすれば今度はガイと共に夜番をすることになるが、少しでも身体を休めるに越したことはないということをジェイドは知っている。
身体を横たえつつ、ジェイドはこっそりカーニャとルークを見る。
少し武術を齧っただけのお嬢様だと思っていた。
世間知らずの箱入りのお坊ちゃんだと思っていた。
しかしもしかして自分の認識は間違っていたのではないか?
そんな言いようの無い不安に襲われながら、ジェイドはゆっくりと目を閉じた。
ルークはお坊ちゃんのふり。
コレでジェイドが大人しくなります。
さて、オアシスとイオン様どうするか…。
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