「イオンがいなくなれば調停役が存在しなくなりますわ」


「イオンがいなくなれば調停役が存在しなくなりますわ」

デオ峠。
自分が居ればイオンは必要ないと言ったルークに対して罵声が飛び交い、ナタリアがイオンを慰めるように言う。
それを見ていたカーニャは何度目か解らない失望の表情を浮かべた後、ナタリアの前に立って苦い顔を隠さずに問いかけた。

「ナタリア、貴方は一体何を学んできたのです?」

「? いきなり何ですの?」

「確かに導師イオンは平和の象徴であり、今回の和平でも仲介役として立って下さいました。
最も、おかしな部分は多々ありましたが…」

そこで言葉を切り、カーニャはティアをちらりと見る。
しかしその本位に気付いたのはルークのみで、訝しげな顔をするナタリアに対してカーニャは吐きそうになったため息をぐっと飲み込んだ。

「ですが既に陛下は和平を受け入れ、こうしてルークの派遣を決めました。
既に和平は成っているのです。ルークの言っていることも間違ってはいません」

「貴方までイオンが居なくなれば良いと仰るの!?」

「誰もそんな事は言っていません。この親善大使一行に導師イオンは居なくても良いと言っているのです」

ショックを受けたらしいイオンを横目に、ヒステリックに叫ぶナタリアにぴしゃりと言い返す。
ティアとアニスがカーニャに対して酷いだの傲慢だのイオン様を馬鹿にしてだの叫んでいるが、カーニャはそれを全て綺麗に無視した。
そして予想外にも、その二人を諌めたのはジェイドだ。

「まぁまぁ二人とも、カーニャは貴族です。貴族というのは私達軍人とは根本的な考え方が違います。
イオン様が同行しなくても良いと断言する根拠はちゃんとあると思いますよ」

「あるわけがありませんわ!イオンは和平のために!」

「それで、障気の溢れるアクゼリュスで導師がお倒れになったらどうするつもりですの?」

「そ、それは…障気障害とて必ずなるワケではありませんわ!」

「導師は数年前にご病気になられて以来、虚弱体質になられたという話です。私達よりもずっと障気障害になる確立は高いのではなくて?」

「ですが……そう、イオン本人が来たいと言ったのですから仕方ないですわ」

「ルークが却下したにも関わらず、それの許可をしたのは貴女でしたわね。王女と呼ぶなと言いながら王女の身分を振りかざしたナタリア殿下」

「っ、なんですの!?その言い方は!」

「貴女が同行を許可した以上、イオンに何かあれば責任をとるのは貴女と導師守護役ですわ。
和平のせいで導師が障気障害になったと信者達に知られたら…どうなるでしょうね」

カーニャの台詞にイオンとアニスとナタリアがサッと青ざめる。
ティアも障気障害のくだりで顔色を悪くしていて、この三人はそんなことすら想像していなかったのかとカーニャは嘆きたい気持ちでいっぱいだった。

「話を戻しますが、イオンは仲介役です。つまりもう役目は終わっているのです。
もしアクゼリュス派遣に導師の同行が必要ならば陛下がそう仰っているでしょう。
そもそもこれはマルクトとキムラスカの親善のためなのですから、親善大使のルークと皇帝名代であるカーティス大佐の二人が重要なのです。

だからルークの自分が居れば戦争は起きないというのは間違いではない、といってるのです。
そしてそれは貴女にも言えますわ、ナタリア」

「ですが…わたくしは治癒術師ですわ!今まで戦闘でも役に立っていたではありませんか!」

「障気障害に治癒術は効きません」

何故こんなことまで言わなければいけないのかと、頭痛を堪えながら言ったカーニャの言葉にナタリアはカッと顔を赤くした。
それが無知を恥じているのか、羞恥を感じているのか、はたまたカーニャに指摘されたことに屈辱を覚えたのかは解らない。
解らないが、カーニャは自分はナタリアを理解するのは無理なのだろうな、ということだけはぼんやりと理解していた。

「それにお体の弱い導師に歩幅を合わせていれば自然とアクゼリュスに行くのも遅くなります。
アクゼリュスは一刻を争う状態だと解っているでしょう?
貴女は民を助けたくて無理矢理同行したのではありませんの?
それなのに導師を優先させ、己を優先させ、一体何がしたいのですか。
何故こんなことも解らないんですか。貴女は一体何を学んできたんです!」

「そ、そのような言い方をしなくても、良いではありませんか…」

「貴女が昔ルークに勉強を強要していた時よりも遥かに優しい言い方ですが?
それで、障気障害になるかもしれないのに、必要もないのに、責任者であるルークの意見を無視し、独断で導師の同行を許可したナタリア。
まだ何か言いたいことはありますか?」

カーニャの言葉にナタリアは悔しげに俯く。
しかしその瞳には反抗心が燃えていて、カーニャの言葉を理解しているとは思えない。
逆にイオンは自分がいかに我が侭を言ったのか理解したようで、カーニャに向かって謝罪を告げた。

「すみません、僕は随分と我が侭を言ってしまったようです」

「お気を悪くしてしまったならすみません。私のような者に言われるのは不快でしょうが、導師、もし教団と信者を想うのであればどうかダアトで養生なさって下さい」

「はい。わかっています。障気障害になってしまえば回復は難しい。
そんな事態になればこの和平が潰れるどころか戦争になりかねません。
アニス、帰りましょう。僕達が一緒に居てはお邪魔になってしまいます」

「ええぇえ〜!?」

「それとカイツール軍港襲撃に関しても抗議文が届いている筈です。誠意ある対応を期待しております」

「はい」

カーニャの言葉に頷き、ルークが差し出したホーリーボトルを受け取ってイオンはくるりと背を向けた。
魔物はホーリーボトルが退けてくれるし、野盗程度ならアニスだけでも退けられる。
カーニャとルークは去っていくイオンの後姿にホッと息を吐いたのだが、ナタリアは不満げにカーニャを睨みつけていた。
カーニャはその視線に気付いていながら、無視してルークへと声をかける。

「行きましょう、ルーク。だいぶ遅れてしまいました」

「そうだな」

ジェイドがそれに同意し、ガイとティアは不満げだったもののそれでも黙ってあとに続く。
ナタリアは手袋をした手をぎゅっと握り締めながら、唇を尖らせて最後尾で歩くのだった。







イオン離脱。この後六神将に攫われてアクゼリュスで封咒を解かされます。
夢主はナタリアに苛々しつつもまだ見限れない状態。
けどルークはとっくに見捨ててます。ジェイドはナタリアなんてどうでも良い。

そうそう、捏造キムラスカはルークが鉱山の街で消滅することを知りません。
教えても実行しないだろうと踏んだモースが、ルークが鉱山の街に向かうという預言だけ教えました。
モースはこの後アクゼリュスが崩落した後、ルークの死と引き換えに繁栄を得られるのだと叫び、キムラスカで捕縛されます。


戻る


ALICE+