あなたの帰りを待つほど馬鹿な女じゃありません


――ああ、終わった。
外から聞こえる歓声にそれを悟った。

キムラスカ・マルクト・ダアトからそれぞれ排出された英雄達が、世界の敵を倒した。
空中要塞は海に落ち、無骨な砲台に脅かされる生活も、新生ローレライ教団からの脅しにしか取れない通達も、全て終わりを告げたのだ。
民達は皆安全な生活が戻ってきたことに喜びを口にし、悪を討伐した英雄達に祝いの言葉を投げかける。

それらを横目に見ながら、私は自分の家を出た。ぱたんとドアを閉める。もう帰ってくる気はないけれど、いつもの習慣で鍵をかける。
少しだけ迷ってから、鍵はポストの中に入れておいた。後のことは手紙で親戚のおばさんに頼んである。
幸い家の立地は良いほうだ。家と、家の中のモノを売ればそれなりの値段になるからそれを手間賃として後片付けをしてくれるだろう。
もしかしたら泣かれるかも知れないけれど、その涙を私は見ることはない。

丈夫な皮製のブーツに、防水防塵のマントと幾ばくかの食料。着替えなどの荷物は最低限に。
無駄なものは置いていくわ。どうせ必要の無いものだから。

まず目指すのはケセドニア。幸い港の機能は回復している。往復便が出ているだろう。
船代は決して安くないけれど、片道分ならそれほど値も張ることはない。

それから少し歩いてタタル渓谷へ。大丈夫、心配しないで。貴方のお陰でど素人よりはマシな程度の護身術は身に着けているから。
ホーリィボトルを使えばよほどのことがない限り、目的地まで辿り着ける筈。流石に泳ぐことはできないから、せめて近くまで行きたいの。
この乙女心、きっと貴方は理解してくれないでしょう。けれど私は馬鹿だから、こんな選択しかできなかった。



【あなたの帰りを待つほど馬鹿な女じゃありません】



待ってて。すぐそっちに行くから。
きっと貴方は後を追ってきたことを怒るでしょうけど、許して頂戴ね。
好きだから、側にいたいのよ。


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