11文字の伝言


記憶の底に、こびりついて離れない歌が一つある。

《嗚呼、どんな苦難が訪れようとも
諦めず勇敢に立ち向かいなさい》

歌っている人間は知っている。
いつも白衣を着ていて、髪はぼさぼさ、丸い眼鏡をかけた1人の女性。

《愚かな母の最期の願いです
貴方は、 》

彼女はレプリカ研究をしていた、研究員の1人。
そして火山から生き延びた僕に教養を与えた1人でもある。

《貴方を産んだのが誰であれ
本質は変わらない 何一つ》

かと言って、僕が彼女を母として慕っていたかといえばそうでもない。
彼女は、食事を作ってくれる人、勉強を教えてくれる人、そんな認識しかなかった。

《貴方が望まれて生まれてきたこと
それさえ忘れなければいつか繋がれると》

ただ掃除だけは僕がやった。
理由はごく単純で、彼女は掃除だけは苦手だったから。

《嗚呼、傍で歩みを見守れないのが
無念ですがどうか凛と生きなさい》

あとは、甘いものが好きだった。
下手をすれば食事も忘れて研究に没頭する中、お菓子ばかり食べていた。
よく太らないものだと感心したものだ。

《愚かな母の唯一の願いです
貴方は、0302 0101 1001 0304 0502 0105 0501 0902 0501 0301 0102》

ただの同居人、そんな認識しかなかった彼女。
そして僕の最初の仕事は、彼女を殺すことだった。

《貴方が今生きている
それが私が生きた物語》

彼女は笑ってそれを受け入れた。
僕がそれで一人前になれるなら構わないと、血に塗れで笑っていた。
その理由が、今でも解らない。

《この世界愛してくれるなら
それが私の生きた証》

彼女の最期の言葉は、11文字の伝言だった。
彼女から僕への。
そして、7番目への。

《それが私の物語》

それ以来ずっと、記憶の底に、こびりついて離れない歌がある。




11文字の伝言(Sound Horizon)

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