君の笑顔が宝物



※泥に沈むことを選んだのは僕でした IF

「村の奴等が、近くに神託の盾が来てるから暫く降りてこないほうがいいってさ」
「ん、了解」

ぱたん、と微妙に形のずれているドアを閉めたシンクがフードを脱ぎながら言う。
帰宅したばかりの彼の言葉に頷きつつおかえりと言えば、少し照れながらただいまとシンクは言った。

私を殺す、という選択肢が取れなかったシンク。ヴァンからの逃避行を選んだシンク。
嫌がる私の手を引っ張って、無理矢理ダアトから逃げ出したシンク。
優しすぎる。そう思いながらも、こうして共に過ごせるのがまた嬉しくて。
叱ることもできず、我武者羅に後先考えずにとにかくダアトから距離をとろうとするシンクにチョップをかましたのはいい思い出だ。

貯金を引き出して、お金を持ってマルクトの山間部へと身を隠した。
エンゲーブのはずれ、農業だけで何とか生活している村民達と最低限の交流をしながら、多少危ない仕事を引き受ける代わりにココに住んでいることを黙っていてもらった。
ここではずっとシンクは素顔を見せている。当たり前だ。導師の顔なんて、ダアトに住んでいるか、はたまた特権階級の人間でなけりゃ知る由も無い。

「ねぇシンク」
「なに?」
「今日の晩御飯ブウサギでいい?」
「また?」
「それかイケテナイチキン」
「ブウサギでいい」

なんてことのない日常の会話が愛おしい。連日食卓に並ぶブウサギにげんなりする弟子が可愛くて仕方がない。
人を殺すことのできなかった、私の可愛い可愛い弟子。軍人としては失格なのだろう。けれど復讐よりも私をとってくれたことが嬉しくて。本当に嬉しくて。

「ねぇシンク」
「なに?」
「大好きだよ」
「…………………………………うん」

そっぽを向いた彼が真っ赤な耳をちらつかせつつとても小さな声で頷いてくれた事が堪らなく幸せで、その背中に思い切り飛びつく。
鬱陶しい!と怒鳴られたが気にしない。
ああ!ユリアよ!どうかこの幸せが一日でも長く続きますように!!


【君の笑顔が宝物】


愛をいっぱいそそぐから。

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