08.今日は皆でおでかけです



※シオン視点



「今日はお出かけをしようと思います」

 ことの発端はカナの突然の提案だった。
 何でもボク達が現れて引き取ると決めた際慌てて色々と揃えたものの、落ち着き始めた今足りないものも明確化してきたので、休日である今日にまとめて買いに行きたいらしい。

「ぼく達も行って良いんですか?」
「イオン達も一緒に来てくれなきゃ。誰が荷物持つと思ってるの」
「つまり僕達は荷物持ちって訳ね……」

 イオンの疑問にカナはきっぱりと言い切り、シンクが呆れたようにため息をついている。
 まぁ気持ちは解らなくも無いけれど、物入りになった理由がボク達である以上逆らうつもりはない。

「ついでに三人の服も買い足そうね。今着てるのも私が適当に買ってきた奴だし、やっぱり好みがあるでしょう?」
「特にない」
「右に同じかな」
「着られるだけでもありがたいですし」

 好みがないと断言したシンクに同調すれば、イオンも申し訳なさそうに続いた。
 カナは顔を顰めているものの、どちらにしろ下着などを買い足すつもりだったというのでボク達も出かける準備をする。
 といっても、外出着に着替えて帽子を被り、財布を持ってしまえば準備完了だ。

「準備できた? じゃあ車に乗ってね」

 少し化粧をして外出用のバッグを持ったカナがきっちりと鍵をかけ、家を出た途端そう言われた。車に乗るのは初めてで、少し、いやだいぶわくわくしている自分がいる。
 カナがするとおりにドアを開けて、全員で後ろ側に乗り込む。カナが運転するらしい。大丈夫か?

「全員シートベルト締めたね? んじゃ、しゅっぱーつ」

 ちなみにシートベルトが窮屈だというシンクの文句は即効で潰された。
 振動と共に動き出した車は聞きなれない音を立てて動く。馬車のような激しい揺れもなく、座席のクッションもあるせいで不快感はない。
 窓の外の景色を見ると滑るように流れていくため、結構なスピードが出ているのが解る。
 イオンは窓にべったりとくっついていて、外に対する興味を隠し切れていない。こういうのを微笑ましいというのだろう。

「どう? 気持ち悪くなったりしない?」
「平気だよ」
「ボクも」
「はい、大丈夫です」

 丸いものを握り締める(あれで動かしているらしい)カナに聞かれてから二十分ほどしてたどり着いたのは、ローレライ教団の本部ほどありそうな大きな四角い建物だった。
 様々な形と色をした車の隙間に埋めるようにして車を止め、シートベルトを外して車から出る。

「はい、ここがいーおんです」
「あ、はい。なんですか?」
「違う! そういう名前の店なの!」
「え? ぼくの名前なんですか!?」
「だからそうじゃなくてね」
「……馬鹿?」

 イオンとカナのやり取り、そしてシンクの呟きにこっそり噴きだしつつ、カナの誘導で店に入る。
 カナ曰く、あらゆる店舗を合併した大型店舗らいしい。いろんなジャンルのものがおいてあるから、一気に買い物をしたいときは最適なんだとか。

「えっと……まずは服と下着を買って、消耗品買って、食器類買って、最後に食品かな」
「大量になりそうだね」
「だからシオン達を連れてきたんだってば」

 カナに苦笑交じりに言われ、まずは子供服売り場へ向かった。新生児用の玩具みたいな服から、ボク等でもぶかぶかになりそうな様々な服が取り揃えられている。
 オールドラントではこうはいかないだろうなと思いつつ、カナに言われてまずは下着を選ぶことにした。160と書かれた奴なら何でも良いらしい。

「ブリーフにトランクス、それにボクサーブリーフにニットトランクス……どう違うのさ?」

 が、はっきり言って下着なんて選ぶ必要ないだろうと思っていた。どれも一緒だろうと思っていたのだが、ここまで種類があるとは思わなかった。
 シンクがカタカナで書かれた表記を憮然とした声で読むのに苦笑しながら、パッケージに記された形を指差す。

「形で選べば良いんじゃない?」
「あ、あっちに見本ありますよ」
「あぁ……なるほど」

 お尻が履いていた(そうとしか形容の仕様がない)のを見つけ、三人でそれを見上げてあーでもないこーでもないと話して、結局適当に選んだ。
 ちなみにブリーフは誰も選ばなかったことをここに記しておく。

「決まった?」
「よくわかんなかったから適当に選んだよ。僕らの世界じゃあんなにたくさん種類がなかったし、ホント意味わかんないんだけど」
「カナは何か買って来たの?」
「私の分の下着をね、あっちで買ってきた。一緒に行きたかった?」

 籠に入れた下着や肌着(こっちは普通だった)を渡しながら聞けば、なにやら女性の身体を模したマネキンが女性用の肌着を纏い、隠すことなく大量の下着が置かれている空間を指差された。
 レースをふんだんに用いられているのが遠目からでも良く解る、男のボク等では足を運びにくい空間だ。

「……行くのはちょっと勇気がいる、かな」
「だと思ったからね、先に行ってきた」

 顔を赤くしながら何も言えなくなっているイオンとシンクを横目にそう言えば、カナは恥ずかしげもなく笑いながら次に服を選ぶよと言ってのけた。
 恥じらいとかないんだろうか? それともここではそれが当たり前なのか、判断がつかない。いや、恥じらいを持ってるからボクらが選んでる間に行って来たのか。
 そう結論付けつつ向かった子供服売り場でも、やっぱり色とりどりの服があった。基準が解らなかったものの、マネキンを見てみたりカナに相談してみたりして何とか服を選ぶ。

「これは……文字が書かれてるね?」
「英語だね。おしゃれの一環だから意味は気にしなくて良いよ。直感で選べばいい」
「カナ! これ可愛いです!」
「それは女の子用だよイオン……着るの?」
「着たいの?」

 便乗してみた。

「え!? 流石に着ませんよ……」
「アンタなら違和感なく着そうだけど」
「あはは、イオンに違和感がなかったらボクもシンクも違和感がないだろうね」

 シンクの言葉にそう返せば、シンクは何故かショックを受けていた。レプリカなんだから同じ顔だろうに、何故ショックを受ける。
 結局シンクは動きやすさを重視し、イオンとボクはシンプルな服を選んだ。時計を見ると結構に時間が経っている。
 服一枚買うのにこんなに時間がかかるとは思わなかったなぁ。

「んじゃ次は消耗品か」
「消耗品って?」
「トイレットペーパーやティッシュ、後は掃除機のパックにシャンプーや石鹸や洗剤とか」
「かなりあるね……そう言えばボディソープが終わりかけてたっけ」

 カナに言われ、ふと思い出した。
 洗面台の下にあった筈の詰め替え用もなかった気がする。服の入った袋を片手にシンクも続いて口を開いた。

「風呂掃除に使う霧吹きの奴も終わりかけてるよ」
「お醤油もあと少ししか無かったはずです」
「「それ食料品だから」」

 イオンの追従にシンクとカナが突っ込んだ。イオンのボケは今日も健在らしい。
 カナが持って来たメモを片手に消耗品を選んでいく。柔軟材はいろんな香りがあって少しばかり楽しかった。
 そんな中、ボディーソープを選んでいる最中にシンクが小さな袋に入ったお風呂の絵が描かれたものを発見した。

「ねぇ、これ何?」
「ん? あぁ、入浴剤ね」
「にゅうよくざい、って何ですか?」
「お風呂に入れるんだよ。肩こりや疲れをとったり、お肌に良い成分が入ってたり、まぁお風呂を楽しむもの、かな」

 ほう、と内心驚きつつシンクが手に持っているものを覗き込む。
 漢字交じりの説明文は読めないものの、温泉のような効果のあるものもあるらしい。

「これは?」
「森の香りと肩こり解消」
「こっちは?」
「薔薇の香り。お肌に良い感じ」
「こっちは何ですか?」
「香りはないけど血行を良くして疲労回復」
「こっちの大きいのは?」
「四種類入ってる。なんだったら買ってく?」

 カナの提案にイオンがぱぁっと笑顔になる。解りやすさに笑みを漏らしつつ、ボクにとっても魅力的な提案なので三人で選ぶ。
 カナに色々と注釈を貰いながら、最終的に箱入りの入浴剤を選んだ。四種類の香りがあるらしい。早速今晩使ってみよう。

 それからボク達専用の食器を選び、食料品を買い足す頃には全員の手に買い物袋が持たれていた。
 確かに、こうなるならボク等の手は必須だっただろうと思う。

「いやぁ、買ったねぇ」
「たくさんお金使ってたけど大丈夫?」
「へーきへーき。子供はそんなこと気にしなくて良いの」

 そう言ってカナは笑うけれど、ボク等は三人揃ってそれを素直に受け取れない。ボクもイオンも導師であり、そういった流れに対しては慎重にならざる得ない立場だった。
 シンクだってそうだ。軍人として働き、しかも参謀総長なんて職に就いていた以上気にしなくて良いと言われても気になってしまうだろう。

 何より慣れないのは子ども扱いされること。
 そんな時間、ボク等には存在しなかったから……。

「さーて、じゃあ外食して帰ろうか」
「外食、ですか? ぼく、初めてです!」
「何食べるのさ?」
「んー……初めての外食ならやっぱりファミレスかなぁ。色んなご飯があるから好きなの選ぶと良いよ」

 けど、カナはボク等を子ども扱いする。庇護される立場の人間としてボク等を扱い、ボク等を守ってくれる。
 しなくて良いと言ったとしても、それが大人の義務なのだと、笑って言うのだろう。

 荷物をトランクへと積み込み、全員で車に乗り込む。行きと違ってカナは音楽をかけた。
 行きの時にかけなかったのは、ボク等が車に慣れるまで待っていてくれたのだろう。

「ねぇイオン、シンク」
「何ですか?」

 小声で名前を呼べば、イオンは流れる景色から目を外し、シンクは目線だけ寄越してくる。

「子ども扱いって、悪くないね」
「……そう、ですね。心地良いです」
「まぁ、悪くはないよ」
「いつか……恩返しができたら良いね」
「……はい、はい!」
「……いつかね」
「何か言ったー?」
「「別に」」
「何でもありません」

 前から視線を外さないカナの言葉にそう返す。ミラー越しにカナが首をかしげているのが解った。
 それに三人で笑いながら、ボク等は新しい場所への期待に胸を膨らませる。
 教団に居た頃は知らなかったけれど、人生っていうのは案外楽しいものらしい。

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