11.今日のドロップ運は最高値
※シオン視点
「あら、あらあらあら、カナコちゃん、その子達は?」
「あ、こんにちは。遠縁の子なんですけど、うちで引き取ったんです」
「あらあら、そうだったの。あんなことがあったから結構心配してたんだけど、元気そうで良かったわぁ」
「ありがとうございます。おかげさまで何とかやってます」
「会社の方はどう? 順調?」
「はい、以前から居る社員さんたちのお陰で特に問題もなく」
「それは良かったわ。何か困ったことがあったら言って頂戴ね。近所中に声かけちゃうから!」
「あはは……お気持ちだけで充分ですよ。私だってもう大人なんですから」
「何言ってるの、こーんなちっちゃい頃から知ってるんだから、私たちからすればカナコちゃんなんてまだまだ子供よ!」
エプロンをつけたまま豪快に笑う彼女は、どうもカナの知り合いらしい。
今日は外に慣れるという意味合いも込めて全員で食材の買出しに来ていたのだが、このおばさんがまたよく喋る人で、かれこれ十分ほどカナと喋っている。
ボク達は完全に蚊帳の外で、手持ち無沙汰になったボク等は自然とその場でお喋りを始めていた。
「カナの小さい頃、ですか。あまり想像がつきませんね」
「そういえばカナっていくつだっけ?」
「二十三歳だってさ、前に聞いた」
「女性に年齢を聞くなんて、シンクは勇気があるね」
「失礼だってストレートに言えばいいじゃないか。何でそういちいち遠まわしな言い方するわけ?」
「それも仕事のうちだったからね」
「こんな所で喧嘩しないで下さいね……」
「解ってるよ。この国では確か、十五歳まで学校に行くことが義務なんだって聞いたよ。カナの学生時代って言うのもあまり想像つかないよね」
「カナコちゃんの学生服は可愛かったわよー。特に高校時代なんか近所の馬鹿共を何度もまとめてくれてね、」
そんな中、ボク等の会話に突如入り込んでくるおばさん。何だこの人と思う前に、慌ててカナが割り込んできた。
どうやらカナはこのおばさんには強く出られないらしい。
「おばさん! もう、昔の話はしないで下さいよ……!」
「何言ってるの、助かったのよ? あれのお陰で安心して眠れるようになったもの」
「私にとっては黒歴史なんですー!」
黒歴史って何、っていうツッコミをする余裕すらない。
そのまま懐かしいわぁって昔話をしようとするおばさんをカナが押しとどめ、ボク等は何とか買い物に戻ることができた。
野菜や練り物、お肉や魚などを次々に検分しながら籠に放り込んでいく姿はどう見ても手馴れている主婦のようで……。
「カナ、キャベツはどれがいいんでしょうか?」
「手に持って重い奴を選んでくれれば良いよ」
「肉は?」
「鶏の胸肉と、それから豚バラも欲しい」
「おやつ選んでもいい?」
「一人一つ、三百円までね」
真剣に選ぶイオンとシンクに便乗して、おやつをねだってみればあっさりとした返答。
本当に子供扱いされているなぁと再認識しつつ、カナの言った言葉にパァと顔を明るくさせているイオンやシンクと共にお菓子売り場に行くことにした。
それぞれがどれが良いか選び、カナが持っていた籠に放り込む。余談だが、シンクは真剣に和菓子を選んでいてちょっと笑ってしまった。
「結構な量になったね。籠持つよ」
「ありがとシンク。毎週こんな感じで買ってるのよ。知らなかったでしょう?」
「うん。ボク達って結構食べてたんだね」
「もっと少ないかと思ってました」
「あはは。四人で食べてるならこんなもんさ」
カナから優しく籠を奪い取るシンクは密かに紳士だと思う。この中では一番筋力方面が発達しているので、シンクが持つならとボク等も何も言うことなく任せた。
そのままお会計を済ませ、何か小さな紙を貰う。どうやら"ふくびき"というのをやっているらしい。
「何コレ?」
「あそこでこれを渡して、引いておいで。丁度三枚貰ったから、一人一回ずつね」
「? 解った。行こう、シンク、イオン」
「え? あ、はい」
「何するのさ?」
「引くんだって」
「は?」
「行けば解るらしいから、行こう」
シンクとイオンに何か書かれた紙を一枚ずつ渡し、言われたとおりの場所に行く。
見かけない顔だけど、どこからきたの? って聞かれてちょっとびっくりした。とりあえず最近この町に住み始めたとだけ告げて、それぞれに紙を渡す。
「もしかしてカナコちゃんが引き取った子達?」
「はい。カナには本当によくしてもらって……右も左も解らない状態なのに、カナが居るだけで不安も吹き飛びます」
「あっはっは! 口のうまい子だね! 海外から来たって聞いてるけど、日本語うまいねぇ。んじゃ福引も初めてだね。この取っ手もって回せば丸い玉が出てくるから、一人一回回してごらん。色がついてるのがあたりだよ」
余所行き用の猫をかぶりつつ、何故か出回っているボク等の情報にちょっとだけ驚いた。そして以前三人でスーパーに出た時におせっかいなおばさんに出会ったことを思い出す。
もしかしたら噂でもされてるのかも、そう思いながら言われたとおりに取っ手を持って何やら六角形の形をしたものを回してみた。
ガラガラと音を立てながら二,三回回せば、ころんと青色の玉が飛び出てくる。
なるほど、そういう仕組みか。
「四等だね。これ持ってきな!」
無駄に声のでかいおばさんは、青色の玉を見てボクにトイレットペーパーがたくさん入った袋をくれた。どうやらこれが景品らしい。
シンクとイオンを振り返れば案の定なるほど、という顔をしていて次はシンクが回すことになった。がらごろと音を立てながらシンクが回せば、次に出てきたのは赤色の玉。
「お、運がいいねぇ! 三等だよ。持ってきな!」
豪快に笑いながら、今度は小さい封筒を渡される。
中を見れば1000と書かれた紙が数枚入っていた。
「これは?」
「商品券だよ。これがあれば買い物ができるからね。使えない店もあるから、詳しいことはカナコちゃんに聞きな!」
ほう、と全員でしょうひんけんとやらを覗き込む。
数えてみれば三枚入っていて、三千円分ということらしい。
「あ、商品券とトイレットペーパー当たったんだ」
ボク等が納得していると、どうやら袋詰めを終えたらしいカナが背後からやってくる。
ボクとシンクでぎゅうぎゅう詰めにされた袋を受け取れば、良い子だねぇとふきびきのおばさんが感心していた。あとはイオンだけだ。
「ほら、イオンも早くまわしちゃいな」
「あ、はい。参ります!」
別にそんな意気込まなくてもいいんだけどね。
二千円で一回回せるんだよ、なんていうカナの説明を聞きながら何となくイオンが回すのを見守る。
思い切り緊張しているのは何でだ。イオンだからか。
がらんごろんと音を立てながらゆっくりと回され、ころんと黄色の玉が転がった。おばさんとカナが何度か目を瞬かせた後、二人とも壁に張られた紙へと視線を移す。
そして何故かカナは耳を塞ぎ、おばさんは台の下へと身を縮め、
「おーあたりー! 特賞出ましたーー!! おめでとーー!!!」
カランカランと煩いベルを鳴らしながら、一際大きな声でおばさんが宣言した。
その音の大きさに思わず三人でびくりと身体を跳ねさせてしまう。カナが耳を塞いだ理由がよく解った。
何故か拍手している周囲の視線を集めつつ、目を白黒させているイオンが先程のものより大きな封筒を受け取る。
白い封筒は黄色と赤の帯がついている、見慣れないものだ。
「運の良い子達だねぇ、こんなに早く持ってかれるとは思わなかったわ」
「今日のドロップ運、良かったみたいだね」
「戦闘後のドロップじゃないんだからさ……」
笑っているおばさんを横目にそんな会話をしていると、カナはボクの呟きに乾いた笑いを漏らしていた。
そんな中、シンクが封筒を見つめてからおばさんに問いかける。
「ねぇ、特賞って何?」
「ここに書いて……って、あぁ、読めないのかい?」
「ひらがなとカタカナは読める。漢字が読めないんだよ」
「あぁ、そういうことかい。ご家族様一泊二日の温泉旅行にご招待、って書いてあるんだよ。良かったね、カナコちゃんと行っておいで」
やっぱり最後に豪快に笑って、おばさんはちゃくちゃくと次のお客さんの受付を始めた。
まだ一等賞と二等賞が残っているし、三等以下は複数用意されているのでふくびきは続行されるそうだ。
今だ耳の奥に残っているベルの音を感じながら、ボク等はおばさんにお礼を言ってからそのまま店を出た。
帰りがけ、シンクがかさかさ言う袋を片手にカナに質問を投げかける。
「ねぇ、温泉旅行って何?」
「えっと……温泉って言う天然のお風呂、がある旅館……宿屋に慰安を兼ねて泊まりに行くこと、かな?」
「お泊り、ですか?」
「そうだね。大抵食事や寝床の準備も旅館がしてくれるから、至れり尽くせりなんだよ」
「スパみたいなもの?」
「近いかな。日本は火山活動が活発な地域でもあるから温泉も豊富でね、お湯に浸かる習慣もあるし、疲れを癒したり怪我を直すために温泉に入ったりもするんだよ。温泉自体にも色んな効能があるしね」
「入浴剤みたいな感じですか?」
「逆。元々温泉があって、家でも温泉気分が味わえるように入浴剤が開発されたの」
カナの説明を聞きつつ、温泉旅行というものをイメージしてみる。
要は日本版のスパみたいなものだろう。しかし温泉のイメージがぽん、と浮かんでこない。
「そうだねぇ……折角当たったんだし、仕事の調整して行ってみようか」
「良いんですか!?」
「封筒の中身次第だけどね。あんまり遠いところじゃ気軽に行けないし、交通費も出るか解らないし」
どうやら色々兼ね合いがあるらしいが、既にイオンの目は期待に輝いている。
カナはそれに微笑みを浮かべつつ、イオンの頭をぽん、と撫でていた。
「どうせなら色々体験して欲しいからね。帰ったら皆で中身見てみようね」
「はい!」
「ところでカナ、それが当たった時のアレ、知ってたね?」
「あはは、ばれた? まさか当たると思わなくてさ」
「僕もびっくりしたんだけど、何あれ?」
「毎年恒例なんだよ。何も知らないままだと確かにびっくりするわなぁ」
シンクもボクも、まだ耳の奥にベルの音が残っている。
音が凶器になるとボクはこの世界に来て初めて知ったと零せば、カナはころころと笑っていた。
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