16.それぞれのクリスマスプレゼント



※シンク視点

 この日本という国において、聖なる夜というのはクリスマスを指すらしい。
 そして日本にとってクリスマスとは宗教的な意味合いは低く、どちらかといえば馬鹿騒ぎをするためのお題目でしかない、とも。
 クリスマスって何? っていう僕達の疑問に答えたカナは、百聞は一見にしかずと言うからどうせなら家でもクリスマスパーティをやりましょうかと楽しそうに言ってくれた。
 これを聞いて少しワクワクしていたのは、僕とて否定しない。

 そしてクリスマス当日。イオンは物置にあったミニツリーを取り出して飾り付けを担当。ついでに一緒に入っていたファーや他の飾りを部屋全体に適当に盛り付けている。
 その間シオンと僕で食事の準備。カナが下ごしらえまでは済ませてくれているので、それほど時間はかからない筈だ。
 ちなみにカナ張本人は人数分のケーキを買いに行っているのだが、まるで計算していたかのようにカナが帰って来たのは僕らの準備が終わった頃だった。
 慌ててシオンが荷物をとりに行き、咄嗟に炬燵の中へと隠す。

「ただいまー。遅くなってごめんねー」
「お帰りなさい。あれ? ケーキ以外にも何か買ってきたんですか?」
「うん、揚げ物系をね。ほら、フライドチキン」
「ルークが居たら喜びそうですね」

 イオンが苦笑しながらフライドチキンが入っているらしい箱を受け取る。
 既にテーブルに並べられている料理達の間にチキンを追加し、更にカナがケーキを追加してクリスマスの準備は完成した。
 カナは僕達に準備の礼を言ってから、着替えてくると言って自室に行ってしまう。

「ねぇ、ちゃんと持って来た?」
「勿論」
「どこにあるんですか?」
「炬燵の中」
「「…………」」

 そんな間抜けな会話をしている間にさくさく着替えを終えたらしいカナが鞄を持って降りてくる。
 全員が炬燵に入り、夕食の時間には少し早いもののいつもより豪華な食事にジュースを振舞われる。

「さて、じゃあ三人とも、メリークリスマス!」
「「「メリークリスマス」」」

 カチン、と軽やかな音を立ててグラスをぶつけ合う。
 それぞれグラスに口をつけたのを確認してからシオンにアイコンタクトを送れば、それを察したシオンがグラスを机に置いてカナを呼んだ。

「どうしたの?」
「うん、実はね、前テレビでクリスマスって親しい人にプレゼントを贈る日でもあるって見たんだ」
「うん、そうだね。何か欲しいものでもあった?」
「そうじゃなくて……それで三人で話し合って、ボク等もプレゼントを用意したんだ」
「カナはぼく等の家族のようなものですから。気に入ってもらえると嬉しいんですけど」

 イオンの言葉に頷き、シオンが炬燵の中からラッピングされた箱を取り出す。
 カナは予想外に現れたプレゼントに目を丸くしていて、グラスを置いて静かにそれを受け取った。その手が少し震えているように見えたのは気のせいだろうか。

「……ありがとう。嬉しい」

 中身も見てないのに、少し泣きそうになりながらそんな事を言われるとこちらも反応に困ってしまう。シオンに開けてみて、と促されてカナはようやくラッピングに手をかけた。
 丁寧に丁寧に、ラッピングの紙を破ることなく開けた箱の中にあるのは、一つのネックレス。
 中央に透明な石があり、その石を包むようにして羽が展開されている銀色のそれは、僕達三人のお小遣いを足して買ったものだ。

「これ……いつ買いに行ったの?」
「カナが仕事行ってるときにね。ほら、スーパー行く途中に雑貨屋があったでしょ? あそこに三人で行ったんだ」
「あそこで……高かったでしょうに」
「いくらだっけ?」
「確か五千円くらいだった筈です」

 唇を噛み締めながら、カナは早速ネックレスを着ける。鎖骨の間で揺れる羽と石が、蛍光灯の光を反射してきらりと光った。

「どう? 似合う?」
「はい、素敵ですよ」
「うん、選んだかいがあったね」
「まぁね、気に入ってもらえたなら良かったよ」

 頬を緩め目を細めて心底嬉しそうに再度礼を言われ、胸の中に温かな気持ちが広がる。
 これだけ喜んでもらえたのだから、全員で頭を捻ったかいもあるというものだ。けど流石に泣きそうになるくらい喜ばれるとは思わなかった。

「それじゃあ、私も今渡しちゃおうかな。食事が終わってからって思ったんだけどね」

 カナは楽しそうに声を上げると、鞄を引き寄せてその中からラッピングされた小箱を取り出す。
 小さなベルのシールが張られた袋が僕らに配られ、開けてみてと言われて僕等はそれぞれ袋に手をかけた。

「……これ、ブレスレット、ですか?」
「そう。真ん中に石がついてるでしょう? 一番イオンっぽいなって思って」

 まず声を上げたのはイオンだった。
 イオンの手元を覗き込めば透明度の高い緑色の丸い石があり、銀色の縁取りから伸びた三本の細い鎖が輪を成している。
 鎖が細いせいで繊細なイメージが強く、無駄な装飾もないので主張も激しくない。イオンによく似合うだろう。

「ボクは……イヤリング?」

 その隣ではシオンが声をあげていて、同じように手元を覗き込めば小さな箱の中に二つのアクセサリーが収まっていた。
 どちらかというとカフスに近いそれは、やはり緑の石が埋め込まれている。黒の縁取りがされているが、よくよく見るとイオンのものよりも緑が濃い。

「そう、イヤリング。シオンの奴が一番色が濃いの」
「へぇ? ちゃんとみんな違うんだ。シンク、君のは?」

 イオンもシオンも貰ったばかりのアクセサリーを早速身に付けながら、今度は僕の手元を覗いてくる。
 視線を感じながらも袋を開けてみれば、中から出てきたのはネックレスにしては短く、ブレスレットにしては長いそれ。
 ぶら下がっている炎をかたどった銀色の装飾の真ん中には、やはり緑色の石が埋め込まれていた。

「これは?」
「チョーカーよ。首につけるの」
「首輪?」
「違う! シンクは動き回るのが好きみたいだから、ネックレスだと邪魔かなって」

 その言葉に納得しつつ、早速チョーカーを付けてみる。少しひんやりとした金属の感触を覚えるものの、すぐに気にならなくなるだろう。この程度なら動き回ってもそれほど気にならないに違いない。
 三人でカナに礼を言えば、カナは穏やかに笑いながら僕等に言った。

「貴方達を護ってくれる石を選んだつもりよ。私もできる限りのことをするけど、何があるか解らないからね」
「石が、護ってくれるんですか?」
「石に祈りでも込めたの?」
「まぁそんな感じかな」

 それぞれ渡されたアクセサリーを身に付けた状態で、やっと食事を開始する。
 思ったとおりチョーカーはそれほど邪魔に感じることなく、つけているのを忘れるほどすぐに馴染んだ。多分つけたまま闘ってもそれほど気にならないであろう程に。
 それから食事を再開して、少し冷めたチキンを頬張る。スパイシーなチキンもうまいが、やはり僕はから揚げの方が好きだったりする。欲を言うなら、揚げ物ならカボチャやイカの天ぷらの方がもっと好きだ。

 カナが買ってきたケーキも美味しかった。それぞれ違うものを買ってきたらしく、僕は苺のタルトを選んだ。イオンもショートケーキに喜んでいたし、シオンはチーズケーキにご満悦だった。
 カナもプレゼントに喜んでくれたし、カナから貰ったプレゼントも嫌じゃない。クリスマスって楽しいんだねって話して、僕等の初めてのクリスマスは終了した。

 予断だが、イオンがブレスレットを着けたままお風呂に入ってしまい慌てて飛び出してくるというアクシデントがあった。
 最近寒いし、風邪引かないといいんだけどね。


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