21.挫折混じりの仕事の前半戦
鬱陶しいストロボの光を横目に、机の上に置かれているパソコンの画面をちらちらと確認しながら、私は普段ならば決して着ないような服を着ている三人を見つめていた。
奏汰の指示を受けながら三人はくるくると回っている。
正確に言うならば、右を向いたり後ろを向いたり、左を向いたり真正面を向いたり、だ。
イオンなんかは半泣きだし、シンクは隠そうとしているものの不満げなのがよく解る。
笑顔を作っているのはシオンのみで、しかしその笑顔すら奏汰にはお気に召さないようだった。
「シオン君の笑顔ってなーんか作り物っぽいのよねー」
というのがオネェな奏汰の言葉である。
否定できないのが辛いところだ。
「三人とも、お疲れ様」
それでも何とか撮影を終えた三人をジュースで出迎える。
シオンは飄々としているが、シンクとイオンなんかはぐったりだ。
よっぽど気疲れしたらしい。
「まだ終わらないの、これ」
「後三日くらいあるわよ」
「まだそんなにあるんですか…」
「二人とも、仕事なんだから泣き言言わない」
「シオンは強いですね…」
「むしろ何でそんな平気そうなのさ」
飄々とした雰囲気を崩さないシオンにシンクとイオンが羨ましそうな視線を向けた。
シンクにとってはうっすらと施されたメイクも気に入らないらしく、どこかむっつりとしている。
そんな姿に苦笑しつつ、私は早速先程撮られた写真をパソコンで見始めた。
そうすれば自然と三人は私の周囲に集まってくるわけで。
「イオンの笑顔引きつってるね」
「う…すみません」
「いや、責めてるわけじゃないよ。笑顔にしようとすらしていないシンクよりずっとマシでしょ」
「明らかに僕は責めてるよね?」
「あはは、そう感じるならそうなんじゃない?」
画面越しにある写真の表情とは違い、今の三人はそのままの自然体だ。
確かに写真は良く撮れているが、私はこのままの三人のほうが好きだなぁとぼんやりと思った。
作り物めいたシオンの笑顔も、どこか怯えたようなイオンの表情も、全てをはねつけるようなシンクの雰囲気も、確かに三人の差を如実に表している。
それぞれ与えられた服装も相まって、同じ顔なのに全然違うというのがとてもよく解る。
解るけれど、やっぱり今の三人の表情の方が好きだった。
「どうだい、撮影の方は?少しは慣れたかい?」
「あ、えっと…その」
「イオン君はまだ慣れないみたいだね」
口ごもるイオンに苦笑をもらす奏汰。
私はパソコンの画面から顔を挙げ、三人とコミュニケーションをとりにきたのであろう奏汰に向かって真剣に問いかけた。
「奏汰、これ出すの?」
「んー…やっぱりカナコちゃんもそう思う?」
「まあ普段を知ってる分、余計に」
「どういうこと?」
私と奏汰の会話にシオンが眉を潜める。
シオンは一番問題ない表情を作っているしその自覚もある分、余計に気になるのだろう。
私と奏汰は顔を見合わせた後、奏汰に説明させるためにパソコンを譲った。
ここは私が口を出す領域ではない。
奏汰は私の考えを理解しているのか、パソコンの前に座った後三人に向かって話し始めた。
「俺が三人を撮りたいと思った理由は話したよね。
三人は同じ造りだけど、全く違う雰囲気を持っている。それを写真に収めたいって。
この写真でも確かに三人は全く違う雰囲気を醸し出している。
それぞれ相応しい服装をして、写真を見た人は一目で君たちが別人だと解るだろう。
けどね、俺が撮りたいのはもっと別の三人なんだよ」
奏汰はゆっくりと語り、三人は真剣な表情でそれを聞いている。
奏汰は三人の視線が集まっているのを確認した後、一度パソコンへと視線を移し一枚の写真を拡大した。
自然と、三人の視線もそちらへと移る。
「この写真を見れば解るよね。
イオン君は緊張交じりの顔で怯えている、とても弱気な雰囲気だ。
シオン君は笑顔だけど完璧すぎて逆に作り物染みているし、シンク君は全てを拒絶するように壁を作っているのが伝わってくる。
けど俺が撮りたいと思ったのはそんな三人じゃないんだ」
「だからどういうこと?」
奏汰が言葉を重ね、焦れたようにシンクが眉を顰めた。
イオンは期待に応えられないことに落ち込んでいるのかしゅんとしているし、シオンも納得できないのか無言を貫いている。
「俺が撮りたいのはもっと自然体の三人なんだ。
弱気なイオン君じゃなく、慈愛に溢れたイオン君。
作り物めいた笑顔を浮かべるシオン君じゃなく、二人を見守るような大人びたシオン君。
全てを拒絶する壁を作ったシンク君じゃなく、二人を守ろうとする勇猛さを持ったシンク君。
そんな三人を撮りたいって思ってるんだよ」
少し困ったように笑う奏汰の言葉に、三人は目を見開いていた。
似ているけれど決定的に違うその差を見抜いている奏汰に驚いたのか、はたまたそんな事を指摘されるとは思っていなかったのか。
驚いている三人を余所に、奏汰は言葉を続ける。
「勿論、すぐに切り替えられるとは思っていないよ。
君たちは素人だし、それを理解した上で俺は君たちを撮りたいと思ったんだから。
けど頭に入れておいて欲しい。俺が撮りたいのはそのままの君達なんだ」
奏汰はそう言葉を締めくくって、ちょっと考えてくれないかなと言って席を外した。
多分少し時間を与えてから、どう変わってくるか見るつもりなんだろう。
なので私も改めて三人を見る。
三人はそれぞれ全く系統の違う服を纏っている。
可愛い系、とでも評すればいいのだろうか。
裾や襟口にフリルの着いたシャツと、パリっとノリの効いた半ズボンをはいているイオン。
サスペンダー付きだったり、靴が丸みを帯びているのも相まって少し子供っぽい雰囲気すらある。
けどあの柔らかな笑顔を見せてくれればきっととても似合うだろう。
シオンの服はジャケットにスラックスという落ち着いたもので、赤いチェックのネクタイが少しばかり遊び心を持たせているのが解る。
もっと歳が上の人間が着ればピシっと決まるような服装なのだが、年齢の割りに大人びた空気を持つシオンが着ているからよく似合っている。
シンクは一言で言うならば崩れた制服のような服装だ。
ロールアップされたチェックのズボンに、腕捲りをされているストライプのシャツ。
シャツのボタンは上が二つほど空いているし、多分街中に放り込めばどこぞの高校生か中学生かと思われるに違いない。
今はこんな格好だが、先程はシンクはオーバーオールを着ていたし、その前はシオンは何故かゴシック調の服だった。
イオンが可愛い系なのは変わらない。
一体ウチの会社の人間は何を考えてデザインしたんだか。
「…難しい?」
「…はい」
改めて三人を見た後に問いかければ、イオンは素直に頷きシオンとシンクは視線をさ迷わせていた。
その反応に私も苦笑しか返すことができず、順番に三人の頭を撫でていく。
「初めてのことだからね、戸惑うのもうまくいかないのも仕方ない。
けど三人はそれで終わらせるつもりも、このまま諦める気も無いでしょう?」
「当たり前だろ。自分達で引き受けるって決めた仕事を放り出す気なんて無いよ」
シンクが断言し、私はそれに頷いて応える。
「だったら大丈夫じゃない?奏汰が言ってるのは精神的なものだもの。
三人がやる気を出せばきっと乗り越えられると思うよ」
私がそういえばシオンはハッとした表情を浮かべた。
はて、何か思いついたのか。
しかしシオンはそれを告げることなく、そのまま奏汰の方へと駆け寄っていく。
そして二人で何か話していたかと思うと、奏汰の表情が明るくなり、まるで納得したと言うように手を合わせていた。
「カナコちゃん!!」
「はいはい、何でございましょーか」
「シオン君からの提案なんだけどね、次のポラ撮りはカナコちゃんも参加してちょーだい!」
「……は?」
思ってもみなかった言葉を告げられ、多分私は今鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているに違いない。
どういうことかとシオンを見れば、シオンは今までのような作り笑いではなく、心の底からの、してやったりと言わんばかりの笑顔を浮かべてくれた。
そうだね、撮影でもそんな笑顔が出せれば良いんじゃないかな。
でもね。
どうしてそうなった!?
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