23.舞い戻ってきた日常とストレスゲージ



※シオン視点


「導師守護役って言うのはね」

ふぅ、と一つ息を吐く。
ボクの隣ではシンクがコントローラーを握ったまま何とも言いがたい表情をしていた。

「導師の太鼓持ちじゃないんだ。
その上神託の盾内でも特殊な立場にあり、導師直属の私兵という一面もある。
だから守護役の評価はそのまま導師の評価に繋がるわけだけど」

テレビ画面の中ではルークとアッシュがそっくり、ということでパーティメンバーが呆然としている。
何でルーク以外助けに行かないのか。それが不思議でたまらない。

途中無理矢理ついてきたお姫様にも驚いた。
王女である自分が着いていかなくてどうすると言っていたが、別にどうもしないと突っ込んだものだ。
だがそれ以上に王位継承権を持ち時期国王と言われ王の名代である親善大使に媚を売り、目の前に導師が居ても呆然としている導師守護役にどうしようもない苛立ちが浮かんで仕方が無い。

これが、あのアリエッタと比較されるのだ。
可愛い可愛いボクだけのアリエッタ。
拙いながらもボクの傍に居るためにと懸命に仕事をこなしたゆまぬ努力を重ねていた、ボクが死んだことによってどこか壊れてしまった可哀想でそこすら可愛いアリエッタと。

「もしボクがこの導師守護役の評価をつけるなら、2000点満点中2点を押させてもらうよ」

「その2点はどこから出てきたのさ」

「一応導師を取り戻そうとしている気概かな。方法は横に置いておくとすれば、だけど」

最低評価を下す横で、カナは出来上がった写真を見つつ苦笑をもらしている。
イオンはイオンでボクの話を聞きながら絵本を読んでいて、ボクの言葉にダメージを受けている様子は無い。

アダチから持ちかけられた仕事を終えて、ボク達は日常に戻っていた。
写真展の発表はまだまだ先らしく、先に出来上がった写真をいくつかカナに渡してくれたらしい。
カナが見ているのはそれなのだが、今のところボクは見るつもりはない。
それはイオンやシンクも同じらしく、カナが見ているアルバムに目を向けるそぶりは無い。

なので日常を謳歌しようと仕事中はストップしていたゲームを再開しているのだが、なんだこれは。
これほどまでにストレスを溜める娯楽、というのをボクは知らない。

ムービーが終わり、脅迫行為を重ねられたルークが陸路を選択する。
砂漠へと画面が切り替わり、先が見えない砂色の画面をルークが走り始める。
もう不敬だの何だの言い出したらきりが無い。
敵を倒しながら何とかオアシスに辿りつけば、アッシュからの通信が入り導師がザオ遺跡に居ることを知ったパーティメンバーは早速ザオ遺跡の情報収集を始める。

「なるほどね、アッシュが連絡を入れてたわけか」

「なに、知らなかったわけ?」

「まぁね、だからあいつ等がセフィロトの前に来た時は結構びっくりした。アッシュの奴、勝手なことを…」

舌打するシンクにふぅん、と頷きつつイオンを見る。
イオンは絵本を読み終えたらしく、一つ息をついてから画面へと視線を移してきた。

「ザオ砂漠ですか?」

「そう。今からザオ遺跡に行くとこ」

「またアニスがお願いを?」

「そ。キムラスカ兵か教団兵に連絡すれば済むところをわざわざ自分達で助けに行くつもりらしいよ」

にんぎょひめというタイトルの絵本を読み終えたイオンが、この時のことを話し始める。
レプリカということはシンク達は知っていたが、一応タルタロス内で軟禁されつつもそれなりに丁寧には扱われていたらしい。

「遺跡の奥までもちゃんとアリエッタの魔物で運んでもらいましたよ」

「あいつ等に救出されてからは?」

「徒歩でした。上に行けば馬があるとかそんな事はありませんでした」

苦笑するイオン。
情報収集を終えてザオ遺跡へと走り出したルークをどこか懐かしそうな目で見ている。
守護役のことは自分の中で蹴りをつけたらしいが、ルークのことをイオンはとてもいとおしそうに見るのだ。

「イオンは、ルークが好きかい?」

「…はい。ぼくにとって初めての友達でした。
導師イオンとしてではなく、ただのイオンとして扱ってくれる初めての存在だったんです」

瞳を伏せて語るイオン。その瞼の裏にはルークの笑顔でも写っているのだろうか。
しかしイオンは頬を緩めることなく瞼を持ち上げ、その表情はどこか暗い。

「けどぼくはルークが変わるのを止められなかった。
友達としては、最低です。いえ、友達と名乗る資格すら無いでしょう」

「ルークが変わる?」

「アクゼリュスを崩落させたルークは劇的に変化するからね、それでしょ」

ボクの疑問に答えたのはシンクだ。
共に行動していなかったシンクですら劇的に変化するというほどの変化。
一体どんな風に変わるというのか。

「シオンには胸糞悪い話になるかもね」

アルバムを見ていたカナが、顔を上げることの無いままそんな事を言う。
カナはこの中で唯一第三者視点でこの物語の軌道を最後まで見たことがある人間だ。
イオンもそれを否定せず、ボクは更に胸糞悪くなる展開があるのかと思いながら発見したザオ遺跡へと向かうのだった。

「……何このチーグル」

「アターックって声は可愛いと思うの」

「鬱陶しくない?」

「可愛らしいと思いますが…」

ソーサラーリングの強化をしたチーグルの活躍を見たボクの呟きに、カナとシンクとイオンが続く。
アレは頭が痛くなったりしないのだろうか。むしろ岩より頑丈ということか。

「あれ、頭蓋骨割れたりしないわけ?」

「ミュウは終始平気そうでしたから…音素を纏って肉体強化しているのでは?」

画面が切り替わり、戦闘に突入する。
今のパーティはルーク、ガイ、ティア、ジェイドだ。
単純に前衛二人回復一人火力一人なのだが、後衛コンビが苛立って仕方が無い。

「何それ、何で戦闘に使わなかったのさ。一番役立ちそうじゃん」

相変わらずエネミーの傍で詠唱し始め、攻撃を喰らった後援護をしろとのたまうジェイドに悪態をつきながらシンクがぼやく。
まさにその通りだ。
詠唱中は守って!という甲高い声を無視しながらボクもルークを操作する。

「…このチーグルが一番役に立ってるかもね」

「そうですね、ですがミュウは基本的にルークの肩の上か道具袋の中でした。
ティアが戦闘に参加させるなんて可哀想だとも言っていましたし」

「……王族は戦闘させるのに、魔物を戦闘に参加させるのがカワイソウ?」

相変わらず理解できない感性である。
理解したくないというのもあるがどうしてもこうして話を聞く度に眉を顰めてしまう。

「そうだったんだ?」

「はい。ジェイドもわざわざミュウに参加させることは無いでしょう、と」

「死霊使いは頭の中まで腐乱死体で詰まってるのかな?」

「花を活けてやれば立派な脳味噌になりそうだね」

ボクのブラックジョークに棒読みのシンクが追従し、最後の魔物を倒す。
そうして辿りついた最奥ではイオンがシンクやラルゴに言われてセフィロトの扉を開いていて、正義感たっぷりにイオンを返せというパーティメンバーと結局戦闘となった。

「ねぇちょっと、シンクムカつくんだけど」

「これゲームだから。僕に当たらないでくれる!?」

「でもシンクでしょ?」

「君に何かしたわけじゃないだろ!」

なんてやり取りを挟みながら何とかシンクとラルゴを倒し、出てきたのは仮面をつけたままの鮮血のアッシュ。
何で同じ技、というイベントと導師イオンを返還する代わりに帰れという取引をするイベントをすっ飛ばし、ようやくザオ遺跡を出る方向へと向かう。

「あれ本気だったの?」

「殺さないようにっていうか大怪我させないようにって言う前提で、しかもあんな脆い足場のところで本気で闘えると思う?
しかも熱くなるとすぐ見境を忘れる鶏冠を牽制しつつだよ?」

「無理だね」

ため息交じりのシンクの言葉に納得しつつ、イオンを回収したメンバーは今度こそザオ遺跡を出た。
イオン、そこ謝罪するところじゃないって言う突っ込みも勿論忘れずに。



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