28.護衛を名乗る資格は無い



※シオン視点

「この護衛剣士もありえないよね」

「どこら辺が護衛してるのか甚だ疑問だよね」

ナタリアに関してはとりあえず言いたいことを言えたので、ココらへんで置いておくことにする。
次に口に出したのはガイ・セシル。自称ルークの親友で使用人、だ。
ボク達の言葉にカナはいちごオ・レを飲みながらこくりと頷いた。

「ガイは護衛放棄してるもんね」

「そう、そこもありえない」

以前カナの前で導師守護役について話したことがある。
護衛は何をおいても護衛対象を護らなければならない、という話だ。
ソレを覚えているからこその言葉なのだろうが、ボク達が言いたいのはそれだけじゃない。

「ルークに剣を持たせて一緒に戦ってる時点で確かに護衛失格だよ。
本来護衛剣士を名乗るならルークに怪我一つさせちゃいけないってのに。自分が何でお給料貰ってるのか解ってないんだろうね」

「それどころかヴァンの妹を捕縛してないからね」

「ティアを捕縛??」

「忘れたの?ヴァンの妹はファブレ家に襲撃をかけたんだよ。
自分の仕えるべき家を襲撃した人間を捕縛もせずそれどころか仲良くなる使用人なんてコイツくらいだろうさ」

ボクとシンクの言葉にカナはストローから口を離しながらそういえば、と呟いた。

「まさか本気で忘れてたの?」

「ガイ様華麗に参上、の印象が強くてさ」

「ああ、あの馬鹿台詞か」

確かにあの台詞は印象が強かった。
そんな事言ってる暇があったらルークの側によって膝をつくべきだろうにと呆れたものだ。
すべきことを放置して格好付けられても呆れた視線しか向けれそうに無い。
ボクが何度目か解らないため息をつくと、隣で頷いていたシンクが口を開いた。

「護衛剣士ならまず何よりも先にルークの無事を確認して、その後襲撃犯であるティアを捕まえるべきなんだよ。
まぁガイは護衛剣士とはいえ僕達みたいに正式に訓練を受けた軍人って訳じゃないから、ルークを護りながらティアを護送するのが無理だと判断してティアを放置していたってのならまだ解る。
自分からキムラスカに向かってくれるティアを放置し、自分の仕事であるルークの護衛一点にのみ集中するってことでね。

だから逃げ出さないようにするために、わざと友好的な態度を取って油断させていた、とか言うんだったら納得もできた。
けど実際はそうじゃない。この時点でガイはルークを軽んじているし、仕事をする気が無いのが見て取れる」

「アクゼリュスまでの道中もそうだよ。ルークを諌めるわけでも、ルークを庇うわけでもなく、他の人間に同調してルークを貶していた。
コレは王女にもいえることだけどね、幼馴染であり気心の知れた人間が庇ってくれなくて、ルークはどれだけ傷ついただろうね。それどころか赤の他人と同調して自分を見下してくるんだ。
ソレはもう味方じゃないし仲間とも言わない。立派な敵だよ」

「あとガイはさ、ルークは〜〜だからってよく言うだろ?これってルークを庇ってるように見えて、実はルークを貶してるとしか思えないんだよね。
ルークはこうだから解らなくても仕方ない、ルークはああだからできなくてもしょうがない、ってね。
解らない、できないのが前提なんだよ。そう育てたのは自分なのにさ。
ルークを馬鹿にされるってことはルークを育てた自分も暗に馬鹿にされてるんだって気付いてないんだろうね、この使用人」

ボク達の言葉にカナはげんなりとした顔を浮かべている。
ナタリアの時と同じように、カナの中でガイという人間の印象が変わっているのだろう。
ボク達に強制意識革命をさせらているカナの心中はさぞ複雑なものに違いない。

「シンクの言うとおりだね。それとね、使用人なら主を侮辱されたら普通は怒るよ。
よっぽど主人のことが嫌いでも、外聞がある以上怒るふりくらいはする必要がある。
もし本当に主人が悪かったならば、ソレは主人を思うならば諌めるべきなんだ。
ガイはソレができる立場にあるにも関わらず、ソレをしていない。
自分が仕えるべき主を馬鹿にされてへらへら笑って同調する人間なんてボクなら絶対雇わないね。
大体解らないというのなら教えるべきだろう。親代わりを自称するならなおさらね」

「えーと…つまりガイは使用人としても親代わりとしても親友としても駄目駄目で、むしろ害にしかならないってこと?ガイだけに」

「そうだね」

「何それシャレ?」

カナの発言にボクが頷き、シンクが突っ込む。
身分制度がなく命が平等といわれるこの世界のカナには理解が難しいかもしれないが、ボク達が生きてきたのはそういう世界なのだ。
それに自分だってヴァンの妹の襲撃で攻撃を喰らってるはずなのに何故あんなに仲良くできるかが理解できない。

「で、アクゼリュスだけど、ガイはルークの護衛だ。
護衛の仕事を放り出して救助するなんてありえないし、ガイがちゃんと護衛していればルークが超振動を使わされることだって防げた筈なんだ。
その責任を放棄しておいて、失望しただなんてよくもまぁ言えるもんだよ。

でもそれだけじゃない。もしアクゼリュスに暗殺者が居たらどうする?
汚い話だけどね、和平を快く思わない人間なんて山ほど居る。
邪魔したいなら親善大使であるルークを殺すのが一番手っ取り早い。
それにキムラスカ人だっていうだけで嫌悪感を抱くマルクト人はいるし、キムラスカ王族だって聞いて殺気立つ鉱夫だって居ないとも限らない。
ガイはそういう人間からルークを護るための人員なんだ、側を離れるなんてありえないんだよ」

「そっか…ルークだって貴人だもんね。暗殺される可能性だってあるんだ」

「そういうこと。むしろ王族なんだからそういう危機感を持って当たり前なんだけど…ずっと軟禁されてた上、7歳のルークにそれを求めるのは少し酷だね」

ボクが苦笑しながら言えばシンクにそれ言ったらナタリアはどうなるのさって言われたけど、アレは論外だろう。
それにナタリアは金髪だから、キムラスカ王族だと思われる可能性は低い。
精々身なりを見て良い所のお嬢様なのだろう、くらいだ。

けどルークは違う。朱金の髪と緑の瞳はキムラスカ王族のみの色だ。
見るものが見ればすぐに王族だと解る。

「つまりアニスと一緒でガイも護衛を名乗る資格は無いってこと」

そう言って纏めればカナはくもの上の話だとか何とかよく解らないことを呟いていた。
蜘蛛が一体なんだというのだろうか?

「ま、そういう意味ではガイもアニスも同類だよね。
アニスがちゃんとイオンを護衛していれば、ヴァンに言われてセフィロトの扉を開くことも無かったかもしれないわけだし」

「それはどうかな?もしアニスが居たとしてもヴァンはアニスを人質にとって扉を開けるよう脅迫するんじゃない?」

「それもそうか。そもそも導師ほっといて救助する導師守護役なんだから、そこまで期待できるわけないね」

「そうそう。まあアニスの場合それ以前の問題なんだけどね」

「それ以前?」

ボクの言葉にカナは首を傾げる。
なんだと思う?って聞いてみれば、カナはグラスをテーブルに置いて腕を組んで考え始めた。
カナは馬鹿じゃない。ボク達の話を聞いていればおのずと答えは出てくるはずだ。
そして思ったとおり、カナはすぐに腕を解いて答えを口にした。

「…導師がアクゼリュスに行くって言うのを諌めなかった時点で導師守護役を名乗る資格は無い、ってこと?」

「正解。何でそう思った?」

「さっきシオンが言ってたじゃない。障気障害だけなんてことは無いって。
てことは体の弱いイオンなんか真っ先に感染するだろうし、そうなればナタリアと同じでイオンが感染したのはマルクトのせいにされるわけでしょ?
だからアニスはいくらイオンが行きたいって言っても、体のことを考えてとめるべきなんじゃないかなって」

「うん、その通りだよ。それにアリエッタが軍港を襲撃したことに対する対応も求められているし、詠師達の許可も得ずにダアトを出てきている点も鑑みて、仮にとはいえ和平が結ばれた以上早急に教団に帰還しなきゃならない。そこでもう導師の役目は終わってるんだから。
そしてアニスはそれをイオンに進言しなきゃいけなかったんだ」

「守護役は導師の私兵としての側面もあるけど、本来の目的は導師を護るための軍団だ。
導師の願いを叶えるための存在じゃない。アニスは何か勘違いしてるんだろうね」

「でもそれって結局イオンの責任になるんじゃ…?」

イオンが居ない分、ボク達の言葉も自然ときつくなる。
最近のイオンは自覚が出てきたから言うのをやめていたが、やはりこうしてみるとイオンの行動は非常に不味い。
まぁ不味いからこそ、それを止められなかった余計にアニスにも辛くなるんだけど。

「そうだね、けど導師を罰するなんて余程のことが無い限りできない。
導師の退位は預言にも詠まれてるから、簡単に廃位させることもできないしね。
だからその場合、側についていた導師守護役が責任を負う羽目になる。
イオンが勝手に飛び出したことも、ダアトに戻らないのも、アクゼリュスに向かったのも、全てアニスの責任になるのさ。お前が止めなかったからいけないんだ、ってね。
だから普通の守護役は導師のため、ひいては自分が罰せられないためにも導師に進言するのさ」

「アニスがそこに気付いてるとは思えないけどね」

シンクが呆れたように呟き、画面を見る。
ゲームの手を止めているので、映っているのはルークとチーグルの仔のみ。
シンクが何か思い出したのか、自分の腕を摩りながら呆れたように呟いた。

「それにあの金への執着、あからさま過ぎて見てて鳥肌立つんだよね」

「あれか。ルークにも散々媚売ってたもんね。アクゼリュスでこっそり持って帰っちゃえば大金持ちだねとか言ってたのは流石に私も引いたなー。火事場泥棒かよ、って」

「そこはもう導師守護役じゃなくて人間性としてどうよって話になるね。
まぁそんな品位の無い人間を導師守護役にしてつれている時点で導師の評価に繋がるわけだけど」

「あー…イオンの責任がアニスに向かうように、アニスの評価もイオンに向かうわけか。
あれ?てことはルークが何かした場合、それはガイの責任になるの?」

「「当たり前じゃないか」」

ボクがシンクと声を揃えて断言すれば、カナはうへぇ、と呟きながら微妙な顔をした。

「普通にクビだよね」

「むしろ物理的に跳ねられるよね」

シンクと顔を見合わせて言えば、黙っていちごオ・レを一口飲むカナ。
そしてぼそりと呟いた。

「身分社会…なんて恐ろしい…」

何を今更。
そう言おうと思ったが、何か可哀想なのでそこは飲み込んでおいた。


Novel Top
ALICE+