02.突っ込みが追いつかない



※シンク視点


 今日も相変わらずシオンはコントローラーを握り、僕は隣でそれを眺めている。
 最初こそイオンは隣で小さくなっていたものの、段々吹っ切れてきたのかシオンや僕の突っ込みにふむふむと頷き始めていた。
 どうやら突っ込まれているのではなく矯正されているのだと考えることにしたらしい。何その無駄なポジティブ感。

 僕らの生きていた世界がこんな形で形成されていることに最初は驚いたけれど、レプリカルークの目線で見たあのパーティが突っ込みどころ満載だったことに対し更に驚かされた。
 最初から居場所を用意されていたレプリカってことであまり良い感情は抱いてなかったけれど、今では同情の方が強い。
 僕だったらあんな場所に置かれるのは絶対にごめんだ。かといってダアトが良かったかと聞かれれば、そんなことはないんだけど。

 そんな僕等を横目に、僕等を保護してくれたカナは何やら不穏な電話をしていた。
 最初は小さな塊に向かって話しているカナに眉を潜めたが、どうやらあの掌サイズの機械は携帯型の音声通信機らしい。
 この世界はオールドラントと比べ随分と発達していて、そんなものが存在することに僕たちは驚きを隠せなかったのは記憶に新しい。

 そのカナの電話がまた……なんというか……一言で言うのなら、不穏だった。
 というか、不穏としか言いようが無かった。

「うん、出身はドイツの僻地あたりで良いと思う。三人分ね?」
「あー……髪色が特殊だからね、その辺の事情も考慮してくれると嬉しいんだけど……解ってるよ、追加料金は払う」
「えー、それはぼったくりすぎでしょう。取引打ち切りでもこっちは良いんだけど? 別のとこに頼むし……あ、ほんと?じゃあ二割引で。妥当でしょ? 別にふっかけてなんかないわよ、あんた達がぼったくりなの!」
「ちゃんと保険も加入させてよね。年齢? 十四歳だけど一応十五にしといてくれる?……いや、男だから、女じゃないから」

 相手の声は聞こえないからカナの発言で判断するしかないけれど……これは何か僕たちの事で犯罪に手を染めてるように聞こえるんだけど。
 気のせいかな? 気のせいだよね?

「日付? 任せる。できれば先月の半ばあたりが良いんだけど……あぁ、それくらいでいいよ。日本に飛ばして、私を保護者ってことにしといてくれれば……え? 苗字? ないから適当につけといて。全員同じ年齢だし、三つ子ってことにしといてね」

 いつの間にか手を止めたらしいシオンが眉を潜めながらカナを見ていた。どうやら僕と同じ考えにたどり着いたらしい。
 その隣で首をかしげているあたり、イオンは何も気付いていないんだろう。この、のほほん導師め……しかし今はそののほほん具合が羨ましい気がしなくもない。僕だってこんな嫌な想像したくない。

 突如現れた僕たちをモップでふるぼっこにしようとしたカナは、あのモップさばきはともかくとして面倒見の良い、ちょっと抜けた姉のような存在だったはずだ。
 しかし今の姿はどうだろう。怪しい取引をしているようにしか見えない。

「うん、うん……煩いな、ほっといてよ。プライベートに首を突っ込むんじゃない……いや、心配してくれるのはありがたいけど、突っ込まないでって言ってるの。……いい加減にしないとドタマかち割るよ?」

 何か最後に物騒な言葉が聞こえた気がした。
 いつもよりワントーン低いカナの言葉にシオンが顔を引きつらせ、イオンは半泣きになっている。モップで頭をかち割られそうになったのを思い出したのだろう。
 あれ、カナってこんなキャラだっけ? と、僕も思わなくもない。しかしながらしょっちゅう拳骨を喰らっている身としては、今更な感じもする。
 やがてカナも電話が終わったのか、嘆息した後僕たちの視線が向けられていることに対してきょとんとした。そんな顔されるとこっちも困るんだけど。

「……カナ、一個聞いても良いかな?」
「はいはい、なぁに? 解らない漢字でもあった?」

 シオンの質問に携帯電話をしまったカナがテレビ画面に目を移した。しかしテレビはフィールドに突っ立ったレプリカルークが居るだけで、特に漢字はない。
 その事に気付いたカナは首をかしげている。コントローラーを置いたシオンが、意を決したのか口を開いた。

「今の、何の電話……?」
「何って……貴方達の戸籍を用意させて、日本に移動させるようにしただけだけど」
「……用意、させて?」
「うん、用意させて」

 それがどうしたといわんばかりのカナ。
 戸籍って用意されるものだったけ?

「それって……大丈夫なの?」
「ちょっと人を雇って、外国にある孤児院にあなた達が居たことにして、書類上三人が日本に移住したことにさせただけだよ?」
「「「………………」」」

 沈黙が落ちた。
 カナは相変わらず首をかしげている。それって犯罪なんじゃないの、とは聞けない。
 突然ふって湧いた僕達の存在が世間に公になっても問題がないように動いてくれたことは想像に難くない。それがわかる分、突っ込めない……が、突っ込みたい。
 というか突っ込みどころ多すぎだろう! 突っ込める勇者が居たなら見てみたい!

「……あの、カナって何者なんですか?」

 突っ込む勇者が居た……!
 恐る恐る聞いたイオンを見る。シオンもイオンを見ている。
 そりゃあ、見るだろう、この状況じゃ。

「ちょっとお金持ってるだけだよー。私自身はただの一般人だから」

 イオンの質問にカナはからからと笑いながらずれた返答をした。
 それは一般人とは言わないと突っ込めたらどんだけ楽か。

「とりあえず手続きが終わったら三人分の身分証明書が送られてくるから、そうしたら病院とかも行けるからね。あ、苗字はミーティアにしておいたから」
「苗字?」
「ファミリーネームのこと。三人は三つ子ってことになってるから。上から順番にシオン・シンク・イオンね」
「「………………」」
「ぼくが末っ子なんですね」

 勝手にファミリーネームが決まっていた。僕はいつの間にか次男になっていた。
 勝手に決められていく事実にもう突っ込む気力すら起きない。そして多分、呑気な返答をしているイオンは天然なんだろう。

「どうせなら漢字も決めとく? そうだなー……シオンは紫苑、シンクは真久、イオンは癒音でどう?」
「もう好きにして……」

 さらさらとメモ帳に漢字を書いていく(読めないけど)カナに、僕はそれしか言えなかった。





ちょっとお金を持ってるだけです。
決して裏社会の人間って訳じゃありませんよ?
ちょっと伝手があるだけ←

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