03.緑っ子達の優雅な日常



※シオン視点



「はぁ!?どうして4と7を間違えるの!」

背後で聞こえた声に思わず振り返れば、珍しく眉間に皺を寄せたカナが携帯に向かって怒鳴っていた。
視線だけで画面を確認すればセントビナーに向かうためフィールドに突っ立っているレプリカルークが写っていて、エネミーと接触しないようポーズ画面を呼び出してからカナへと視線を戻す。
両隣を見れば同じようにコントローラーを置いたシンクも、一緒になってゲームを見ていたイオンも同じようにカナを見ている。

「当たり前でしょ、それだけ間違えれば……あぁ、もういい!言い訳は良いから、次から同じミスはしないでよ?それより私も今からそっちに行くから、今日は残業だからね!」

乱暴な手つきで通話をぶち切ったカナは、大きなため息をついてから僕達を見る。
そして顔の前で手を合わせ、ごめん!と言った。
何が?

「会社の方で新人がミスしちゃったらしくてね、事後処理のために私も出社するから、今日の晩ご飯は冷蔵庫の中のもの適当にレンジでチンして食べて」

「て、ことは遅くなるんだね?」

「多分、てゆーか絶対遅くなると思う。先に寝てて良いから。あ、寝る前にちゃんと歯磨きしなさいね」

養ってもらっている以上、仕事関連に関しては文句を言える立場では無いので素直に頷いておく。
カナは本当にごめんねともう一度謝罪をしてから、ぱたぱたと私室へと走っていった。
恐らく着替えてからすぐに出社するのだろう。

「カナは…確か、ご両親から継いだ会社を経営されてるんですよね」

「アレで社長っていうんだから、この世界ってホント凄いよね」

「そうですか?カナはぱそこんに向かっている時は凄く真剣ですよ」

「それ以外はどっか抜けてるじゃないか」

「可愛らしくて良いと思います」

「アンタは何でもそれだね…」

好き放題言っているシンクの言葉に密かに頷いていると、スーツに身を包んだカナがバタバタと現れる。
バッグを抱えて「出かけても良いけど鍵はちゃんと掛けてね!」とボク達に言ってからさっさと出て行ってしまった。

「……慌しいですね。大変なんでしょうか?」

「じゃなかったらわざわざ出社しないでしょ。いつもなら家で済ませてるし」

「ボク達が居なかったら毎日でも出社してると思うけどね」

シンクの言葉に追従すれば、イオンはその言葉にしゅんとする。
迷惑をかけているとか、そんな事を考えているのだろう。
7番目のボクはどうも卑屈すぎていけないなぁと苦笑しつつ、テレビに向き直る。

「まぁボク達が無事日常生活を送れるようになれば、カナも安心して出社できるんじゃない?」

そうフォローを入れてからゲームを再開する。
ポーズ画面から解放されたルークが再度セントビナーに向かって走り出した。
王族を闘わせるなんて死霊使いと護衛剣士はとことん無能だなと再度認識しつつ、突っ込んできたチュンチュンのおかげで戦闘画面に切り替わった画面を見ながらボク等は会話を続けた。

「そのためにはさっさと日本語覚えなきゃね…イオン、まだカタカナマスターしてないだろ?」

「そういうシンクだってひらがな苦手じゃないですか」

「ボクは漢字が未だにインクの塊にしか見えないんだよねぇ」

ガイを操作しているシンクと連携をとりながらチュンチュンたちを潰していく。
術技の名前なんかもカナが作ってくれた一覧表を見ないと未だに解らない。

「でもシオンは自分の名前くらいは書けるだろ」

「まぁね。結構気に入ってるし。そういうシンクはどうなの?」

「まぁ…書けるよ、意味も教えてもらったし」

そう呟くシンクの顔はどこか切なそうで、多分漢字に込められた意味を教えられたのだろう。
ボクの名前にもきちんと意味が込められていて、少し前にカナがこっそり教えてくれた。
そのおかげもあるのだろうけれど、一つ一つに意味が込められているこの漢字という言語がボクは結構好きだったりする。
覚えるのは大変だけど。

「イオンの漢字は複雑だったよね」

「はい。癒しの音という意味だそうです」

そう答えるイオンは先程までしゅんとしていたのに頬に赤みがさしていて、余程嬉しかったのだと簡単にわかる。

表情の変化を見る度に思う。
イオンは幼すぎる。導師には向かないほどに。

そんな彼に全てを押し付けてしまった事実に後悔は無い。
過去、ボクが死んでしまった時、彼に押し付けることがボクの最善の選択だった。
あの時、預言を覆し、アリエッタを救い、教団を存続させるためには。

後悔はしていない。
それに後悔は懸命に導師として生きてきたイオンに対しての侮辱だと思う。

だからこそこの世界で、改めて全て彼に譲ったのだ。
ボクという存在を含めた、全てを、イオンに。

「イオンらしくて良いと思うよ」

「癒しねぇ…まぁ外れては居ないんじゃない」

素直じゃないシンクの操るガイが最期の一撃を食らわせ、戦闘が終了する。
そのままセントビナーにたどり着くと、神託の盾が検問を敷いていた。

「…なんかホント暴走してるよね」

「モースが好き放題してたからね」

他国で勝手に検問を敷くという暴挙に呆れていると、シンクがそんな感想を漏らした。
何とかセントビナーにもぐりこみ、マクガヴァン元元帥達と話して基地を出る。
するとそこで六神将が居て、初登場のシンクに思わず噴出してしまった。

「うわ、ホントに仮面つけてる…っ」

「何で笑うのさ!?」

あの嘴のような仮面は一体何処から調達したのだろう。
偉そうに(実際偉いのだが)指示を出すシンクに笑みを零しつつ会話を進めていけば、憐れなディストを残して全員撤退していった。
外交問題を気にしているのが2歳児であるシンクだけってどうなんだ。

「シンクだけだね、マルクト気にしてるの」

嘲笑交じりに言えばシンクが苦々しい表情をした後、深く重いため息をついた。
色々と思い出しているのだろうか。シンクはどうやら苦労性らしい。

そうしてストーリーを進め、探索を進めているといつの間にか夕陽が室内に差し込んでいた。
イオンがそれに気付き、そろそろご飯にしようと提案され、確かにお腹も空いてきたのでセーブをしてゲームの電源を落とす。

「冷蔵庫の中の物チンして食べてって言ってたよね」

「電子レンジ…ぼく、前に触っちゃ駄目って言われたんですけど」

「何したのさ?」

「タマゴが爆発しちゃって…」

「ほんとに何したのさ!?」

イオンとシンクの掛け合いを聞きながらゲームを片付ける。
さて、今日の晩ご飯は何を食べようか。


Novel Top
ALICE+