初詣に行こう!
「はつもうで?」
「そう」
「て、何ですか?」
年越しを終え、三人を引き取って初めての元旦を迎えた我が家では朝ごはん代わりのお雑煮を食べつつ初詣の話をしていた。
ちなみにシオンは餅と格闘しているため、口を開いていない。
喉に詰まらせないと良いんだけど。お姉ちゃんちょっと心配だわ。
「神社とかお寺の話は前にしたよね?」
「はい、聞きました」
「一年の始まりにそこに行くんだよ。おみくじを引いたり、お守りを買ったり、後はおまいりをしたり」
「お参り?」
「今年一年も良い年になりますようにとか、学校に受かりますようにとか神様にお願いをするって言うか…誓いを立てる人もいるらしいけど。まぁそんな感じかな」
こうして話してみると、改めて初詣について説明をするというのも存外難しいものだ。
日本人として産まれた私は一年のローテーションの中に当たり前のように組み込まれているものだから特に疑問を覚えたことはないけれど、シンク達にとっては初めてのことだからきちんと説明しておかなければならない。
あとシオン、餅は無理に全部口に入れようとせずに歯で噛み千切ればいいと思うの。
「大掃除とか年越し蕎麦と一緒で、日本の習慣みたいなもの?」
「そうだね。私はいつも同じ神社に行くんだけど、シンクたちも行く?」
「行く」
「はい!」
「もふもひふ」
「シオン、口の中のもの飲み込んでから喋りなさい」
「んぐむ」
「返事は良いから。よく噛んで食べなさいね」
「もむ」
「何語?」
「フォニック言語では?」
「日本語じゃなくて?」
「シオン語でいいんじゃない?」
こうして初詣に行くことが決めた私たちは、朝食を食べ終えた後出かける支度をして早速車に乗り込んだ。
車を一時間ほど飛ばして着いた先にあったのは、ここいらの地域で一番大きな神社だ。
三が日の参拝者数はかなりのものになり、その参拝者を目当てに出店まで出回る。
しっかり帽子を被った三人を連れ、はぐれないようにねと注意をしてから早速本殿を目指した。
駐車場から本殿までに繋がる大きな道路の左右には出店が展開していて、三人は既に興味心身だ。
「ねぇ、あの屋台何?」
「参拝者…初詣に来た人たちを目当てに出してるんだよ。多分三日までやってるんじゃないかな?」
「カナ、アレは何ですか?袋?」
「綿飴だね。甘いお菓子」
「カナ、アレは?」
「お面のこと?えっと…子供用の玩具の仮面?」
「ほらシンク、行かなくていいのかい?」
「喧嘩なら買うよ?」
笑顔でお面の出店を指差し、シンクを促すシオン。
シンクが拳を握り締めながら答えるのを見てイオンが空笑いを零す。
いつものやり取りにこの人ごみで緊張してやしないかと思ったけど杞憂だと解り密かにホッとした。
出店を冷やかしながら、流れに沿って進んでいく。
移動型の駄菓子屋みたいな出店もあって、10円単位で売っている駄菓子に目をきらきらさせている三人に笑みが漏れてしまう。
そうやって時間をかけて辿りついた本殿も人に溢れていて、三人の姿を見失わないようちょくちょく確認しながらまずはお参りに行こうかと促した。
五円玉は一枚ずつ渡してあるので、流れに沿ってお賽銭箱の前に行く。
「あの太い紐を持って鈴を鳴らしているのは何で?」
「何でだろうね。昔からずっとやってるから理由なんて考えたこと無かったな…」
「アレなんて名前?」
「……小さい頃はガランガランって呼んでたかな」
正式名称を知らないのでそう答えれば何故かシオンが噴出し、シンクとイオンは目をぱちくりさせていた。
しょうがないだろう。子供のネーミングセンスなんてそんなものだ。
賽銭箱の前までたどり着いたので、簡単な参拝の仕方を教えて全員で手を合わせる。
願いたいことなんて一杯ある。
会社が潰れないようにとか、ご近所づきあいが悪化しませんようにとか、大きい病気や事故にあいませんようにとか。
でも一番に願いたいのはやはりこの三人の幸せだ。
今は私が養っているけれど、これが未来永劫続くだなんて思ってない。
日本語を教えつつ少しずつ日本の習慣を教えているけれど、いつかはひとり立ちできるよう私がサポートしてあげなければならないだろう。
でも、普通の子供達より苦労するのなんて解りきっている。
だからこの子達の未来が、少しでも明るいものでありますように。
そして願わくば、笑って過ごせるような幸せな未来がありますように。
神頼みなんて性に合わないが、それでも願わずにはいられなかった。
最後にもう一度手を合わせて、参拝を終える。
見れば三人はまだ手を合わせていて、何をそんなに熱心に祈っているのか少しだけ気になった。
参拝を終えてからは、神社まできたらこれは外せないだろうと言う事でおみくじを引くことにした。
一年最初の運試しだよ、なんて話をしながら全員でおみくじを引く。
せーのという掛け声と共に全員でおみくじを開いた。
……おう、凶かい。
でかでかと書かれている文字にちょっと凹みつつ、小さな紙を凝視している三人を見る。
覗き込んでみればイオンの紙には私とは正反対に大吉の文字があった。
「凄いね、イオン大吉だ」
「凄いんですか?」
「一番の大当たりだよ」
ただ健康面の欄が少し危ういようだと詳細を教えてあげれば、イオンはおみくじをまじまじと見ていた。
イオンって実は運良いほうだよなぁなんて呑気に考えつつ、今度はシオンとシンクのおみくじを覗き込む。
シオンが吉で、シンクは小吉だった。
全員勉学の欄が努力あるのみになっているのは笑うべきか、それとも励ますべきか。
「吉と小吉ってどっちが良いのさ?」
「吉」
「カナはなんだった?」
「凶。大凶じゃないだけマシかなー」
波乱万丈の一年になるらしいが、それはこの子たちがいる時点で予想がつくので置いておくとして、大怪我に注意せよとか書かれてるのがちょっと不安だ。
商いはよさげなことを書いてあるので、少しばかりホッとしたけれど。
それぞれに書かれていることを説明し、注釈を加えながら人の流れから外れる。
木の枝に大量にくくりつけられたおみくじを指差し、同じようにおみくじをくくりつける。
シオンの不器用さにちょっと笑みを零しつつ、それじゃあ次はお守りを買おうかとなった時に三人は別に要らないと答えた。
予想外の答えに思わず足を止めてしまうと、三人も釣られて足を止める。
「要らないの?色々あるよ?」
「要らないよ。これがあるしね」
そう言ってシオンはイヤリングをピンと弾いた。
私がクリスマスにプレゼントして以来、ずっと着けているそれ。
イオンもブレスレッドに手を添えながら微笑んでいるし、シンクも服の上からチョーカーがあるであろう部分に掌を置いていた。
「カナはこの石にぼく達への祈りを込めてくれたんでしょう?これ以上のお守りはありませんよ」
「いくつも持つ物でもないしね。これで充分」
三人の言葉にじんわりと胸が温かくなる。
そんな風に言って貰えるとは思わなくて、私も服の上からそっとネックレスを握り締める。
私とて三人が選んでくれたネックレスを毎日のようにつけていたりするから。
結局交通安全のお守りは買ったけれど、三人からあんな言葉を貰えるとは思わなくて私の頬は緩みっぱなしだった。
帰りもまた出店を冷やかしつつ、車へ戻る。
狐のお面をつけたシオンが妙にしっくりきてちょっとだけ噴き出しそうになったのは内緒である。
「そういえば三人とも何をお祈りしたの?」
車に乗り込み、ハンドルを握り締めた私はシートベルトをつけてきちんと座っている三人にそんな疑問をふった。
「そういうカナは何をお祈りしたのさ?」
「私?家内安全とか、商売繁盛とか、あと三人のことかな?」
「ボク達のこと?」
「そう、三人が幸せになれますようにって」
赤信号に引っかかり、ブレーキを踏んでミラーを覗き込む。
目をぱちくりさせている顔が並んでいて、似ているはずなのに全然似ていない三人に目を細めてしまう。
「今も充分幸せですよ」
「そうだね、否定はしないよ」
「確かに不幸ではないね」
三者三様の答えに、私はいつものように笑みを零してしまう。
それぞれ表現は違えど今は幸せだと言ってくれる。
保護者としてこれほどうれしいことは無い。
「それじゃあその幸せが長く続くよう、祈っておくよ」
私の言葉に三人も笑顔になる。
その笑顔を見れるだけで、この子達を引き取って良かったと思えた。
願わくば、今年もまたこの子達の笑顔がたくさん見られますように。
初詣に行こう!
トリップ×トリップ番外編でした。IFじゃないんだよ!
とりあえず書きたいところは書けたので満足です。
やっぱりシオンには狐のお面が似合うと思うんだ。
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