トリップ!×トリップ?02



※シオン視点


「うぉおおおぉぉお!すげーー!!」

「美術館では静かにしろっつってんだろ」

ぽかん、と軽い音を立てて#カナコ#がルークの頭をはたく。
頭を叩かれたことに声は収まったものの、ルークは目をキラキラさせながらガラスにへばりついたままだ。
一体これで何度目のやりとりか。

ここは市の美術館。
外の世界を見てみたいというルークの希望に答え、#カナコ#がボク達を連れて来てくれた。
今は昔の武器や鎧、日常品などを展示しているとかで、ルークは目の前の刀にかじりついたまま離れない。
ボクにはボロボロの武器にしか見えないのだが、剣士であるルークには垂涎の一品のようだ。

「日本の刀は細いね。しかも片刃なんだ」

「そうね、独特だと思う。美術品としての価値もあるし、マニアも結構居るらしいから。日本刀は他国の刀に比べて製作過程に大きな違いがあってね――」

隣で#カナコ#がシンクにしている説明を聞き流しながら、他の展示品を見ているイオンの方へと歩み寄る。
一見猫耳のように見える帽子を被ったイオンは、日本人形という女の子?の人形?を見ていた。
見ていて怖い、と感じるボクの感性は正常だと思いたい。

「あ、シオン。見てください。日本人形だそうです」

「衣装がかなり凝ってるね」

「はい。民族衣装だそうです。華やかですね」

「ちょっと顔が怖いけどね」

ストレートの黒髪と、細い目、白塗りの顔、赤く塗られた唇。
目に生気を感じないせいで余計に怖い。
けどイオンの言うとおり赤い民族衣装は花柄の模様が描かれていてとても華やかだ。

「こっちは鎧か!?すげぇ、兜すげぇええ!!」

「また随分と独特な形状だね」

「ルーク…いい加減にしないと口塞ぐわよ?」

「あ、はい。すみません…」

興奮しているルークの声と、#カナコ#の低い声が聞こえた。
しょぼんとなったルークに対しため息をついている#カナコ#、そしてそれを見て呆れたような顔をしているシンクを見て苦笑がもれる。
#カナコ#がコチラにやって来たために、苦労してるみたいだねと言えば肩を竦められた。

「あのくらいの年頃の子は興味あるものに一直線だからね。仕方ないと言えば仕方ないよ」

「17,8歳って言えばそろそろ落ち着く頃なんじゃない?」

「何言ってんの。ルークは7歳でしょう?」

あっさりとルークを7歳児扱いする#カナコ#にイオンが一瞬だけ目を見開き、すぐにはい、と笑顔で答える。
ボクもそう言えばそうだったね、と答えてから全員で美術館を見て回る。
日本の文化は本当に独特だねって話をしながら美術館を出て、晩ご飯の材料を買ってから帰宅しようという話になった。

「あの鎧マジすげぇな!真っ黒い鎧とか初めて見た!!」

「でも黒い方が威圧感はあるよね。そういう意味では合理的だと思うよ」

「刀も細かったよなー。アレ折れねえの?」

「いや、かなり頑丈らしいよ。音素の強化もなしに突くのと斬るのを両方できる刀ってのは初めて見たし」

「そうだよな。ココ音素ないもんな」

スーパーに向かう途中、シンクとルークは刀と鎧の話で随分と盛り上がっていた。
シンクは元軍属、ルークは剣士ということで話が合うのだろう。
イオンは微笑みを絶やさないままそれを見ている。その瞳はとても優しげで、ボクには絶対にできない表情だ。

「そんなに嬉しい?」

「え?あ、はい。何でしょう?」

「ルークとシンクを見て凄く嬉しそうだからさ、そんなに嬉しいのかと思って」

「…嬉しいです。あの旅のとき、シンクとは分かり合えないのが悲しくて、寂しかった…。
それが今はルークと一緒に楽しそうに話していて、敵と味方の垣根を越えて笑顔を見せてくれて…夢を見ているみたいだと、そう思ってしまいます」

優しさを残しながら、少しだけ寂しげな笑みを浮かべるイオン。
その瞳は遠くを見つめていて、ボクも釣られて空を見上げればそこには譜石帯の無い青空が広がっている。
争いの無いこの平和な世界では、オールドラントのように憎しみあう必要など欠片もない。
因縁も何も無いから、守ってくれる人が居るから、叱ってくれる人が、居るから。

「つかさ、ぜんっぜん文字読めなかったんだけど。アレ古代イスパニア語でもないよな?」

「日本語って言うんだよ。僕達もまだ勉強中」

「何で言葉通じるのに読めないんだ?」

「そんなの僕が知りたいよ。ルークも勉強してみたら?死ねるから」

「え?そんなに難しいのか?」

「フォニック言語の数百倍は。覚える量が多すぎるんだよね」

「げ…」

シンクとルークの会話を聞きながら、ボク達はスーパーに向かう。
そしてスーパーに辿り着いた途端、ルークはぽかんとした顔になった。

「ルーク?どうかしましたか?」

「すげぇ…何だここ…」

「ここでも小規模らしいよ?」

「これでか!?」

かごを片手に野菜を物色するおばさんの隙間をぬうようにして、全員でスーパーの中を回る。
視線をキョロキョロさせながらもチキンを見つけて目を輝かせるルークに負け、#カナコ#は鶏肉のパックをかごに入れた。
ついでにお菓子を選んでおいでと言われ、ルークと一緒にお菓子を売っているコーナーに向かう。

「な、な、これ何だ?」

「お煎餅ですか?香ばしくて美味しいんですよ。多分シンクが選びますから、一枚分けて貰ってみたらどうでしょう?」

「ちょっと、僕が煎餅選ぶのは確定なわけ?」

「あれ?選ばないんですか?」

「選ぶに決まってんじゃん」

「結局選ぶんじゃねーか」

この三人はコントか何かしているのだろうか。
レプリカトリオがなんだかんだ言いながらお菓子を選ぶのを横目に、ボクもえび○んを選ぶ。これも結構美味しいんだよね。
日本に来るまでシンプルな塩味がココまで美味しくなるなんて知らなかった。

結局ルークは見たことの無いお菓子を食べるほどチャレンジャーではなかったらしく、無難にチョコレートのお菓子を選んでいた。
イオンは苺チョコのお菓子を選び、シンクは案の定煎餅を選ぶ。
全員で#カナコ#の元に戻り会計を済ませた後、カサカサ言う袋を全員で分担して持ちながら帰路につく。

「はー。クルマといいスーパーといい、ほんっとにココって凄いな」

「ふふ、平和な国でしょう?」

「ああ。いつかオールドラントもこんな風に平和になったらいいな、って思うよ」

全員で右側に寄りながら、年齢に似合わない大人びた目をするルークを見て#カナコ#が一瞬だけつらそうな顔をした。
しかしすぐにその顔を引っ込め、ルークの頭をわしゃわしゃと撫でる。
キャップ越しに頭を撫でられたルークは驚愕、後に照れというわかりやすい反応を見せてくれる。
いきなりなんだよ!と言いながらも悪い気はしないようだ。

「ルークは良い子ね。とても良い子」

「な、なんだよ急に…」

「思ったから言っただけよ。ルークは良い子、お姉さん褒めちゃうわ」

「俺はそんな良い子なんていわれる資格ないよ……つか、お姉さんってあんま年かわらないよな?」

「あら、失礼ね。私は24よ、この7歳児」

「……ガイより年上だった。つか7歳児言うな!」

「幾つだと思ってたのさ」

「んー、ナタリアと同じくらいかなって」

「ルーク、それだとぼく等を養えませんよ?」

「あ、それもそうか」

呑気な会話をしながら、家に辿り着く。
冷蔵庫に買ったものを詰めて、#カナコ#がご飯を作る間全員で家のことを済ませておく。
ルークにも多少手伝ってもらった。

「干したお布団って、お日様の匂いがするんですよ」

「どんな匂いだ?」

「嗅いでみます?」

イオンと一緒に布団に顔を埋めてスーハーやってるルーク。
子供みたいなことしてるね、という突っ込みはやめておいた。
実際子供なんだ。ココは突っ込むべき場所じゃない筈。

「ちょっと、何子供みたいなことしてんのさ。シーツつけるからさっさと寄越しな」

が、折角ボクが突っ込みをしなかったというのに、別方向から突っ込みが入った。
シーツを片手に現れた、実年齢2歳児のシンクだ。
しかしルークは子供に子供と言われたことにムッとすることも無く、良い匂いがするぞ!とシンクも一緒にやらないかと誘っている。
このへこたれない根性は一体どこで養ったのか。
一緒に干していた枕に枕カバーをつけながらこっそり苦笑をもらす。

「知ってるよ。干した後の布団はふかふかで気持ちが良いからね。それよりまだやるつもりならシーツ付けといてくれる?僕洗濯物取り込んでくるから」

「じゃあボクもそっちを手伝おうかな。イオン、ルークにちゃんと教えてあげるんだよ」

「はい!」

カバーを付け終わった枕をベッドに放り込み、そのままシンクと一緒に洗濯物を取り込みに行く。
ルークの腹出し衣装も一緒に洗濯されていてちょっと笑った。

ルークはあっという間にこの家に馴染んだ。
イオンと#カナコ#ができうる限りフォローに回っているお陰でもあると思う。

ただ、ルークは時折年齢に似合わない、諦めの入った表情をする。
それが少しだけ気になった二日目だった。


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