06.未知と遭遇する午後三時



※イオン視点


「ねぇ、飽きたんだけど」

「何度目だシンク。次言ったら書き取りの量を倍にするよ?」

「えっと…これで良いですか?」

「…うん、見事に鏡文字になってるね、イオン」

「カナ、おやつ食べたい」

「シオンは後20分我慢しなさい」

全員が席に着き、それぞれに鉛筆を持ってノートに向かう勉強の時間です。
日本語は相変わらず難しくて、鏡文字と言われて改めてノートを見れば、確かに言われたとおり文字が逆さまになってました。
そんなつもりはなかったんですが、漢字は本当に難しいですね…。

漢字は全てではなく日常的に使うものだけ覚えれば良いとカナに言われているものの、日常的に使うものだけでも数百文字はあるとか。
未だに百文字も覚えられていないと思うのですが、一体どのくらいかかるんでしょうか。

「……あれ?"太い"ってこれだっけ?」

「それは"犬"ね」

「あの、これで合ってますか?」

「…うん、左右逆だね」

「カナ、おなかすいた」

「あのね……あーもう!はいはい、もう解りましたよ!
それじゃ、ちょっと早いけどおやつにしようか」

今度は左右逆だそうです。
灯りという字を丁火と書いてました。ぼくはこういう間違いが多いです。
シンクは座学が嫌いらしく、あまり長く続きません。すぐに飽きたといいます。

シオンは話が脱線しがちです。
その度にカナが頑張って修正を掛けるのですが、今回はカナが折れたようです。
今日はシオンの勝ちですね!

いつもより少し早いおやつを食べるためにノートを片付け、言われたとおりにテーブルの上を綺麗にします。
その間にカナがおやつを用意してくれます。

昨日のおやつは濡れおかきという不思議な食感のお菓子でした。
お煎餅を始め、日本で作られたというお菓子(和菓子というそうです)は独特のものが多く感じます。
そしてその殆どがシンクのお気に入りになっていきます。

シンクは和菓子を食べられただけでも日本に来た価値があると言っていました。
美味しいは正義だと思うそうです、どういう意味でしょうか。
真顔で言ったシンクをシオンが爆笑して殴られてましたが、シンクにとって好きなものが増えることは素敵なことだと思います。

「今日は羊羹貰ったからそれ食べようねー」

テーブルを片付けていると、カナが早速お菓子を持ってきてくれました。
ようかん、というのは初めて食べるお菓子ですね。
こうやって初めてのものに遭遇すると、ついつい3人でまじまじと見つめてしまいます。

「ねぇ、黒いんだけど」

「あんこだからねー。大丈夫、甘いよ」

「これ何か入ってない?」

「そっちは栗羊羹だからね、栗でしょ」

初めて見る黒いお菓子は、カナ曰く甘いそうです。
塊(欠片?)が三つ乗った小皿を渡されましたが、食べるのに勇気がいりますね、これ。

「黒いつるつるしたのが羊羹、白っぽいのが芋羊羹、何か混ざってるのが栗羊羹ね」

カナの椅子に座りながらの説明を聞きながら、思わずシオンやシンクと顔を見合わせてしまいました。
二人ともぼくと同じで少し戸惑っているようです。

しかしカナは気にせずに食べ始めてます…普通に。

「…せーので食べようか?」

シオンの提案に頷くと、シンクも少し迷った後に頷いてくれました。
それぞれ別々のようかんをフォークで刺します。ぼくはいもようかんを選びました。

「いくよ……せーの」

ぱく、と効果音が付きそうなほどぼく達は勢いだけを頼りにようかんを口の中に入れました。
口の中にふんわりとした甘さが広がります。
洋菓子には無い、和菓子独特のまったりとした甘さです。

「……美味しい」

思わず呟けば、シオンとシンクも目を丸くしてました。
3人で目をぱちくりさせていると、カナが何故かくすくすと笑っています。
……何かおかしなことをしたでしょうか?

「そんな勇気出さないと食べれない?」

「ボク達からすれば未知の物体だからね…」

シオンの苦笑交じりの言葉に、カナはまだ笑ってました。
カナからすれば小さな頃から食べているものですし、おかしく見えるのかもしれません。

それでもようかんが美味しいのは解りました。
試しにくりようかんも食べてみれば、今度はいもようかんとはまた別の味がします。
こっちはくりの食感が彩りを添えてくれてまた美味しいです。

「お煎餅の時もそうだったけど、3人とも未知の物体に遭遇すると一緒に挑戦するよね」

3人でようかんを食べていると、早々に食べ終わったカナにそう言われました。
確かに、思い返してみればおせんべいを食べる時も、お味噌汁を飲むときも、3人でせーので口に入れてました。
あ、でも…。

「確か洗濯機はシオンが一人で挑戦してくれましたよね」

「あぁ、シンクが動き出した途端蹴ろうとしてた時の話?」

「忘れろ」

「掃除機も殴ろうとしてましたよね?」

「だから忘れろって言ってるだろ!?」

「私としてはまず攻撃から入るってところを何とかしてほしいんだけどね…」

思い出して恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしたシンクにカナが苦笑交じりに言います。
実際壊れはしなかったものの、シンクは驚くとすぐ攻撃態勢に入るのでカナとしては気が気ではないようです。

「テレビは掌底だったよね」

「電子レンジは何もしませんでしたよ?」

「扇風機は…踵落としだっけ?」

「その前にカナにチョップされてました」

「シオンもイオンも…僕に喧嘩売ってる…?」

「あはは、まさか」

拳を握り締め、わなわなと震えるシンクの顔はやっぱり真っ赤でした。
喧嘩は売ってませんが、シオンは確実にからかってると思います。
とても良い笑顔なので。

「まぁ壊さなきゃ別に良いわよ。カルチャーショックはまだまだ続くだろうし」

「カルチャーショック?って、なんですか?」

「異なる文化を目の当たりにして驚くこと、かな?」

「あぁ、そんな感じだね…常に」

「慣れてきたかなって油断したら驚かされるからね…特に食事方面は」

カナの言葉に納得していると、二人とも何故か遠い目をしながらそう呟いてました。
確かに驚くことは多いですが、楽しくて良いと思うんですが…。
以前そう言ったらシンクにこのおとぼけ導師めと言われました。
そういえばおとぼけってなんでしょうか…?

「これからも小出しにしてくからね、どんどん驚くと良いよ」

「カナってボク達で遊んでない?」

「ばれた?実はちょっと遊んでる」

カナの言葉にシンクが深々とため息をつきました。

「あはは、おやつ食べ終わったら夕ご飯まで遊んで良いよ。私は仕事してるから」

「じゃあボクはゲームの続きしようかな、シンクもやる?」

「いいよ。じゃあカナ、よろしく」

「また翻訳機になるのか私は…」

シンクの言葉にカナは苦笑しながら立ち上がりましたが、なんだかんだ言いつつパソコンを取ってきてぼく達の傍で仕事をしてくれるんだと思います。
カナはぼく達にとっても甘くて、優しいから。

「じゃあぼくはお皿を洗っておきますね」

「ん?いいの?」

「はい。カナはノートパソコンを取りにいくんでしょう?」

「まぁね、じゃあお願いしても良い?」

「はい!」

「ありがとね、イオン」

カナから小皿を受け取り、シンクたちからも空になったお皿を貰いました。
こうやって小さなことでもありがとうと言ってくれることがとても嬉しいと感じます。
シオンとシンクは早速ゲームをしに行きました。
ぼくもお皿を洗って片付けたら、一緒にゲームを見たいと思います。






イオン様視点って実は凄く苦手です。
口調が…口調がわからない…。
そして突っ込み不足が否めない…orz

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