知ったこっちゃありません。



 チーグルの森で出会った大佐は結局私達を逃がしてくれませんでした。それどころか正体不明の第七音素を放出していた犯人として捕縛される始末。
 旅券提示したんですけどね。それがどうしたといわんばかりのあの態度!!
 だから主要メンバーに関わるのは嫌だったんですよ。
 アニスもちらちらこっち見てくるし。あぁ鬱陶しい。

 タルタロスへと連行された私の膝の上でミュウが凹んでいます。というのも連行される前にチーグルの巣に行ったんですが、納得できなかったので質問したんですよね。
 あいつ等、予想以上に最低でした。
 野菜を盗めば人間が気付く、人間が気付けば肉食であるライガを退治してくれる、と思っていたようです。
 つまりライガへ真剣に謝罪するつもりは最初からなかったと言う事。
 真剣に謝罪するつもりだったミュウはショック受けてましたよ。裏切られた気分なんでしょうね。

 なのでちょっと脅しておきました。
 ライガはもう居ないわけですから、チーグルがライガに盗んだものを謙譲していたといっても誰も信じません。
 そもそもライガは草食じゃありませんから、ライガが居ない以上信憑性は皆無です。
 そうなれば私利私欲のために野菜を盗んだと考えるのが当然であり、チーグルが害獣として認識される日も遠くないでしょう。

 いくらチーグルが教団にとって聖獣だろうと、エンゲーブの人たちからすれば生活がかかってるわけですから、一度決めれば後は容赦なくチーグルの駆除にかかる筈。
 狩り尽されないと良いですねと言う私にチーグル達は怯えていましたが、知ったこっちゃありません。自業自得です。

 さて、狭い船室に押し込められた私達ですが、完全に私とシンクは蚊帳の外です。当たり前ですね、大佐の狙いはルークでしょうし。
 大佐がぐだぐだ言ってるのを眺めながらため息を一つ。
 途端に導師がびくりと反応しました。何ですか。そんな恐る恐る見てこなくても口を挟むつもりはありませんよ。
 私は一生モブ役で居たいんです。巻き込まないで下さい。

 一応話が終わった大佐が私達を解放するというので降ろしてくれるよう頼みましたが、また却下されました。
 タルタロスを止めるわけにはいかないそうです。
 そこで私はカチンときました。

「カーティス大佐」
「ジェイドで結構ですよ。ファミリーネームは馴染みが薄いので」
「そうですか、失礼しました。それでカーティス大佐、貴方は不当逮捕した挙句私達を軟禁しているわけですが。ルーク様とそこの神託の盾兵はともかく、私とシンクは旅券を提示した上で国境を越えたことを伝えたにも関わらずこの暴挙、一体どういうおつもりで? いい加減降ろしてくれないと当初の予定通りケセドニアに帰る事もままならないんですが。それともマルクトの軍人というのは私が知らない間に犯罪集団に成り下がったんですか?」
「……先ほど言った通りタルタロスを止めることできません。最寄の町に着いたらあなた方は解放させて頂きますので」
「先ほど言ったとおり私達はケセドニアに帰りたいんです。無関係な上事情を話す気が無いなら、私達がそちらの事情に付き合う義理はありません。降ろして下さい。大体最寄の町ってどこですか? それすら説明してもらえないんですか?」
「少しは堪えてもらえませんか。貴方方のためにわざわざ艦を止める訳にはいかないのですよ。世界は貴方のために回ってるわけではないんです」

 私の主張はそんなにおかしなものでしょうか?
 私が呼び方を変えないこととマルクト軍を犯罪集団呼ばわりしたことにムッとした後、大佐に面倒そうに言われてイラッとしてしまいます。
 ティアにもあまり我が侭を言うものではないわ、とか言われましたが、それこそ知ったこっちゃありません。

「それはコチラの台詞ですよカーティス大佐。良いですか? もう一度言いますよ? 私とシンクは旅券を提示したにも関わらず不法入国だと冤罪をかけられ、不当逮捕されました。つまり私達は貴方の職務怠慢の被害者です。次に私はさっさと降ろせ、最寄の街とはどこか説明しろ、と言っている訳ですが、貴方は被害者である私の意見は丸っと無視。貴方は巻き込む側ですから良いでしょうが、巻き込まれるこっちは溜まったもんじゃありません。こっちは早く帰らないと職を失う可能性すらあるんです。むしろその可能性が高い。貴方のせいで私達は振り回されているのに世界は私のために回っているわけではない? 我が侭はどっちです。これで私達がクビになっても責任なんて取れないくせに偉そうに。良い年した大人なんですからそれ相応の対応を取ってもらえませんかね。お陰で私の中でマルクト軍=傲慢な犯罪集団の方程式が出来上がりつつあるんですが?」

 私の淡々としたマシンガントークにシンクが腹を抱えて笑いをこらえ、ルークがぽかんとしています。
 ティアとカーティス大佐と導師は絶句し、アニスはあーぁと言わんばかりの顔で大佐を見ています。
 そのしたり顔は止めなさいアニス。でも確かにこのマシンガントークも以前と変わりません。
 懐かしくさせちゃいましたかね。他人になりたいのに、失敗しました。ちくしょう。

「……セントビナーでおろします。ケセドニアまでの馬車代もこちらで負担しましょう」
「そうですか。それなら文句ありません。シンクはどうですか」
「いーんじゃない? ギリギリ間に合うだろうし」

 呆然としていた大佐が我に帰った後、呟くように言った台詞に私とシンクは頷きあいました。
 それならこちらの被害は時間のロスのみ。職場で愚痴るくらいで終わります。
 つまりケセドニアにマルクト軍の対応が拡散されるわけですが、カーティス大佐もそれくらいは覚悟されてたでしょうし、問題ありませんよね。

 こうして大佐が出て行った、もとい逃げ出したあと、仕切りなおしたルークは結局艦内を見て回ることにしたようです。
 一緒に見て回らないかと言われましたが、そこは丁寧に断りました。
 だって私達後で降ろされるだけの一般人ですし。
 機密とかあるでしょうし、迂闊に歩き回って難癖つけられるのは避けたいですから。
 アニスも名残惜しげに私を見つつ、結局は玉の輿を優先させたようでルークと一緒に艦内を見回りに行きました。

 マルコさんでしたっけ?
 大佐の副官さんと私とシンクという妙な組み合わせが残った船内で、シンクとこれからのことを話します。襲撃されるって知ってますからね。
 けどマルコさんも居るので、それがばれないように言葉を選びつつの会話です。これがまた面倒ですがまぁ仕方ない。

「多分遭遇しますよね? 一緒に動きます?」
「それが無難だろうね。下手に単独行動をしてリスクを高める必要はない」
「シンクは確か以前参加してませんでしたよね? 何してたんですか?」
「いわゆる後方支援さ。それと成功した時に誘導するんだけど……って、これは知ってる?」
「知ってます。扉ですね?」
「そう。そこに連れてって、且つ周囲を警戒するのが僕の役目だった。多分それは今回も変わらないから、無理に動かなければ大丈夫だと思う。この仕事は楽だった記憶しかないし」

 表向きはケセドニアに帰ったら次受ける予定の仕事の話、です。
 避難誘導の話か何かに聞こえると思います。
 そんな風に今後の打ち合わせをしていた私達でしたが、ルークが帰ってきたので席を外そうとしたら隣の部屋に案内されました。
 和平の話なんて聞かせるわけにはいきませんからね、私達の申し出に大佐も渡りに船だったようです。
 ついでに同じく部外者であるティアも引っ張ってこようかと思いましたが、煩そうなのでやめました。

 そして艦内に響くサイレン。私とシンクはようやく来たかと腰を挙げ、恐らくルークが飛び出してくるだろうと予測して廊下に出ます。
 案の定飛び出してきたルークを私とシンクでラリアット形式で足止めすれば、強大な大鎌を持った巨漢の男、黒獅子ラルゴが現れました。

「ほう。優秀な護衛が居るようだな、坊主」
「な、なんなんだよお前はっ!!」
「吠えるな吠えるな。今回の目的はお前じゃないからな……導師を渡してもらおう」

 豪快に笑いつつもラルゴに隙は見当たりません。黒獅子の名に恥じない実力の持ち主のようです。
 見た目はパワータイプですが、かといって鈍足というわけでもなさそうですね。
 シンクが拳を握りつつ、私はルークを背に庇います。

「ルーク様、無闇に動き回らないで下さいね。守りきれませんので」
「ま、守ってくれるのか?何で……・」
「目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いからですよ。言っときますが無駄に動き回って守りきれないと判断した場合は見捨てます。その程度の護衛ですから、命が惜しければ離れないで下さいね」
「わ、解った……!」

 私の言葉にこくんと頷き、ぎゅうと拳を握り締めるルーク。
 その手は僅かに震えていて、私はルークを振り返り安心させるように口角を上げて微笑みました。
 ルークは一瞬驚いたものの、少しはましになったようです。
 それを確認した後、一歩前に立って拳を握っているシンクに小声で話しかけます。

「膠着してますね。動きそうですか?」
「ラルゴと死霊使いが牽制し合ってるからね……でも何かきっかけさえあれば……」

 じりじりと、お互い腰を落とし構えたまま向き合う大佐と黒獅子。
 確かにシンクの言うとおり、何か一つきっかけがあれば崩れてしまうような緊張感があたりに満ちています。
 アニスはイオンの側にいけないことに焦れているようですね。
 そして緊張感が満ちる中、チャンスだと思ったのか何か知りませんが、ティアがこっそり杖を構えて息を吸い込みました。
 この状態で譜歌を歌う気か!?

「させんわっ!」
「っ!」

 勿論、その隙をラルゴが見逃すわけがありません。
 ラルゴの大鎌がティアの首を刈り取ろうと動き、大佐が槍を取り出してそれを防ぎます。
 一気に動いた状況にシンクが飛び出し、ティアは自分が狙われた事に驚いています。
 何故驚く、当たり前だろ馬鹿。
 シンクがラルゴの顎を狙って蹴りを入れましたが、ラルゴが咄嗟に身体をずらした気絶までは到りません。
 シンクが前衛を引き受けてくれるとでも思ったのでしょうか。ジェイドがそれを見て詠唱に入ろうとして、それを察知したラルゴが懐へと手を伸ばしました。

「導師に使うつもりだったが、仕方が無い……っ!」

 投げつけられる小箱。
 無防備に詠唱を始めたジェイドに封印術が投げられ、術のシャワーが展開されます。
 シンクが舌打ちをしながら今度は米神に肘を叩き込み、私も紙を投げて動きを封じます。
 大佐も封印術に顔を歪めたものの、すぐに槍を取り出してラルゴを刺しました。

「ぁ……さ、刺した……っ」

 私の背後で聞こえた震えた声。
 しかしそれはラルゴの巨体が倒れふす音に遮られ、私以外の耳には届かなかったようです。
 アニスが大佐とアイコンタクトをとるとそのまま駆け抜けて行き、大佐は槍を引き抜いた後私とシンクに向き直りました。

「援護ありがとうございます。正直助かりました。まさか封印術をかけられるとは……すみませんが、艦橋の奪還を手伝ってはいただけませんか?」
「それは仕事として依頼するってこと?」

 シンクの確認に大佐は少し迷った後、間違いなく頷きます。

「良いよ。僕は受ける。後で契約書作ってよね。モカはどうする?」
「私は……やめておきます。元々傭兵じゃありませんし」

 ちらりと視線だけでルークを振り返り、あらかじめ話していた通り私は一般人で行くことにしました。
 いえ、大佐の方から言い出さずともシンクが言うつもりだったんですよ。
 艦橋奪還のために傭兵として雇う気はないかって。大佐から搾り取る気で。

 問題は私のほうでして、一応ルークには生き残って貰わなきゃ困るのでルークの様子を見て傭兵として前衛に躍り出るか、一般人としてルークの護衛に回るかって話になってたんです。
 けど今のルーク……顔を青くして、僅かに震えながらもラルゴから視線が離せない……そんなルークを放置する気にはなれません。
 私の言葉にシンクは頷きましたが、ティアがキリッとした顔で私に言いました。

「何を我が侭を言っているの? この非常事態に傭兵も何もないでしょう?」
「この非常事態だから言ってるんですよ。頑張って私とルーク様という一般人を守ってくださいね」
「守ってって……私は後衛なのよ? 大体貴方達は戦えるでしょう?」
「戦えようと何だろうと私とルーク様は一般人です。努力義務とはいえ軍人には一般人を守る義務がある筈ですが、カーティス大佐?」
「……そうですね。いざという時の自衛くらいはして下さいよ」
「了解です。ルーク様の誘導は任せてください。恐らく一番混乱している筈です」

 納得がいかないという顔をしているティアを無視し、私は視線でルーク様を指します。
 それだけで大佐は私がルーク様の護衛に回ろうとしていることを察したようで、ため息をつきつつもお任せしますと言ってくれました。
 一応重要人物であるという認識はあったようです。良かった良かった。

「大佐、甘やかすのはよくないと思います」
「さっきちっとも役に立たなかった軍人が何言ってんのさ。それとも何? アンタ、軍人の癖に守るべき一般人に手を貸してもらわなきゃ戦えないわけ?」
「そうじゃないわ! ただ非常事態なのに、戦う力を持っていながら一般人だからって自分達だけ守られようだなんて、」
「一般人なんだから当たり前だろ。アンタ一体何習ってきたの? 納得できないなら軍人やめれば? そしたらアンタも守ってもらえるよ。陣形は僕が前衛、モカとルーク……様が並んで、殿は大佐でいいね?」
「構いませんよ。シンクは前衛のようですが、モカは後衛ですか?」
「両方できますが、どちらかといえば後衛寄りです」

 愛称で呼ぶな。
 文句を飲み込んで大佐の質問に答えつつ、ティアの存在を綺麗に無視したシンクの台詞に同調している大佐に内心驚きます。
 原作だとこの時ティアのこと頼りにしてるように見えたんですけどね。
 ナイトメアの威力を知らないから仕方ないのかな。

 こうして私達は急遽パーティを組み、タルタロス奪還に臨むことになりました。
 目指すはセントビナーでの脱落です。
 和平? 知ったこっちゃありませんよ。

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