寝言は寝てから言って下さい。


途中出会うライガ達を倒しながら辿り着いた艦橋前で、私とルーク、それとシンクが見張りをすることになりました。
まあ見張りという名目の元、先ほどから青い顔をしているルークを風にあてるのが目的です。戦闘中に吐かないで下さいね。

一応戦闘中剣を握ってはいるものの、神託の盾兵交じりの敵にルークは殆ど戦えていません。
私もシンクもそれを咎める気はありませんが、ティアとジェイドの足手まといになるんじゃねぇオーラが半端ナイです。
私が見れば視線をそらすので可愛いものですが、ルークには負担になってると思います。
でも誰だって人殺しは嫌です。軍人でもないのにそんな事する必要ないんですよ、本来は。

シンクもルークに世界を変えてもらう必要があるので戦うことは推奨してますが、だからといって人殺しを強要する気は無いようです。
むしろ一般人であるルークに当たり前のように剣を持たせようとすることに眉を顰めてました。
シンクも元は軍人ですからね。そこら辺は結構厳しいんですよ。
多分私達が居らず、且つ私が誘導しなければジェイドもティアと同じように剣を持たせていただろう、というのはシンクも納得してくれましたし。

「にしても、よくあんな歌で眠れるな」

そんな中、だいぶマシになったのか虚勢を張るようにルークが口を開きました。
ナイトメアで眠っている神託の盾兵を見ての台詞のようです。

「第七音素を使った眠りの譜歌ですから、味方識別をつけていなければルーク様も眠ってますよ」

「またそれだ。一回オレもかけられたからそれは知ってるけど…その第七音素って何なんだよ?」

「音素に種類があるのはご存知ですか?」

「知らね。音素って譜術使う時に使ってる奴だろ?」

「そうです。音素には第一から第七までの種類があり、第七音素とは七番目の音素のことです」

「そのまんまじゃねーか」

「はい。そのまんまなんです」

原作だとここでミュウを使って神託の盾兵を起こしてしまい、そこで初めて人を刺してしまうわけですが…ミュウは私の道具袋に入ってますし、シンクと私が警戒してますのでそもそもルークは剣を手に持っていません。
音素について話をしていると、頭上で急速に第二音素が集まる気配。
咄嗟に私がルークを庇うようにして横へと飛べば、私達が立って居た所に氷の結晶が降り注ぎました。
物騒ですね、アイシクルレインですか。

「チッ、避けるんじゃねぇっ!」

「避けるに決まってるでしょう、馬鹿ですか」

突然の戦闘開始にルークはパニックに逆戻りです。そのまま大人しくしていてください。
シンクが第五音素を集めるのを感じながら私も紙を取り出そうとした瞬間、扉が開いて大佐とティアが飛び出してきます。

「何事ですか!?」

「ちょっ!?」

フレアトーネードを展開しようとしていたシンクが咄嗟に術を引っ込め、私も紙を投げ損ねます。
途端に再度アイシクルレインが展開され、今度こそタイミングを誤った私はルークを守りきることができませんでした。
直撃したティアとルークが気絶し、私とシンク、それと大佐が何とか間逃れましたが…周囲を取り囲む神託の盾兵の気配に舌打ちを漏らしたくなります。
飛び降りてきた男を見て思い切りしちゃいましたが。

「こいつ等、どうしますか」

「殺せ」

「アッシュ、閣下のご命令を忘れたか。それとも我を通すつもりか」

「チッ…どこかに閉じ込めておけ!」

一連の話を聞いて、シンクが大佐を見ます。そこで大佐が構えを解いたので、私もシンクも構えを解きました。
シンクは雇い主の意向に従い、私は一人で抵抗する気が無いだけです。
こうして私達は武器を取り上げられ牢屋に案内されたわけですが…あの、私の紙、取り上げなくていいんですか?あ、武器と見なされてませんか、そうですか…。

ガチャンと錠をかける音が響き渡り、神託の盾兵はさっさとどこかへ行って…いや、入り口のところで雑談してました。
もうすぐ導師帰って来るそうな。そんな事迂闊に喋って良いのか。

「しかし…導師を奪還とのことだったが、流石に皆殺しはやりすぎじゃないのか?」

「馬鹿言え。導師を誘拐したんだぞ。これはユリアの天罰だ。導師を軽んじるからこうなるんだ」

「そう、だな。お陰で教団もえらい被害が出たもんな…」

雑談する声が遠ざかり、私とシンクで大佐を見ます。
厄介なことになりましたね、とか言ってますけど元凶貴方ですよ。自覚してください。

「そもそも大佐がちゃんと詠師達から承認を得て導師を連れ出していればこのタルタロス襲撃は無かったってことですかね」

「まさにソレだよね」

私の言葉にシンクが同意し、大佐が驚きます。何で驚く。思い至らなかったのか。
あ、もしかしてずっと和平の妨害だと思ってたんでしょうか。
あれですよね。大佐って思い込んだら一直線というか、それ以外の可能性を考えないですよね。これ以外の答えがあるはずが無い、みたいな。どんだけ自信満々なんだ。

「で、この後はどうすんのさ。また艦橋奪還?」

「いえ。こうなってはタルタロスは足手まといにしかなりません。イオン様を奪還後、タルタロスを脱出しましょう」

「じゃあ契約は安全を確保できたら終了、に変更?」

「そうですね。臨機応変な契約者で助かります」

「安心してよ、後からぼったくるから。ちゃんとマルクト軍に請求書送りつけるし」

「……せめてカーティス家にしてくれませんか」

ケッといわんばかりのシンクの台詞に大佐がぼそりと呟くように返します。
シンク、知らん顔です。これはマルクト軍本部に請求書を送りつける気満々ですね。
大佐の評価を落とす気です。もう既に地に落ちてる可能性もありますけどね。

そうこうしているうちにティアが目覚め、次にルークが目覚めます。
これからのことを話していると、案の定ルークが止めに入りました。
人を殺すことになると。それは嫌だと。
だから何?と、当然のように応えるティアはルークの言うように冷血だと思います。
段々とヒートアップしていく二人のやり取りを傍観していた私達でしたが、ティアの叫び声と共にルークが言葉に詰まりました。

「私だって、好きで殺してるわけじゃないわっ!」

視線を泳がせ、反論の言葉を探しているようですが…見つからないでしょうね。七歳児の語威力じゃ仕方ないです。
一件悲劇的な台詞ですから他人の感情に敏感な子供ならなおさらです。
案の定見つからなかったルークがなるべく殺さないようにしようって言ってるだけだと、視線を逸らしながら言います。

「大丈夫ですよルーク様、捕まえる前と同じようにルーク様は守られていれば良いんです。いざとなったら私が前に出ますから」

「…トモカ、さっきもそうだったけど、貴方ルークを甘やかしすぎじゃないかしら?」

「甘やかし?寝言は寝て言ってくれませんか。
一般人に剣を持って人を殺せと、貴方はそう言うんですか。
今まで嗜み程度しか剣を握ったことが無い人に、人を殺す覚悟を持たずに戦場に放り込まれた人間に人を殺せと。
ルーク様の仰るとおり、貴方は他人に対してのみ冷血のようですね。
自分に対しては随分と甘いようですが」

「殺さなければ殺される、ソレが戦場というものですよ。もっとも、ファブレ家の方はその覚悟も無しに戦場に行かれるようですが」

「大佐、貴方にも同じ台詞を言わせていただきます。寝言は寝てから言って下さいね。
ルーク様は軍人じゃありません。勿論覚悟なんてできてる筈がありません。
突如戦場に放り込まれた一般人ですよ。本来は保護されるべき存在です。

ソレなのに貴方達は保護すべき一般人に剣を持って人殺しを強要するんですか。
それともマルクトやダアトでは一般人でも軍人と同じように剣を持って戦うんですか。
それなら軍人要らないと思うんですけど、どうなってるんですか。
お忘れのようですが、貴方達軍人には一般人を保護及び守護する義務があるんですよ。
解ったらルーク様に人殺しをしろなんて寝言はもう言わないで下さいね」

私の言葉に軍人コンビは黙り込みます。この二人、一般人の意味を理解してるんでしょうか。
そもそもルークは貴族だって言うことも忘れてますよね、きっと。
というかそろそろ自分達の行動が祖国にも最低のレッテルを貼っていることに気付いてください。

「っ…私は!戦うように言ってるだけよ、人殺しをしろなんて言ってないわ!
それに私が甘えてるですって!?」

「一緒だろ。剣を持って戦場に立つってことは殺し合いをするってことさ。
戦いなんて崇高な言葉で誤魔化してるだけで、結局は人殺しを強要しているのと一緒だよ」

「シンクの言うとおりです。
それに貴方は一般人であるルーク様に人殺しを強要したにも関わらず、人殺しを仕事としている軍属のくせに好きで殺してるわけじゃないと言う。
これが他人に厳しく自分に甘い証明じゃないですか」

「人殺しが仕事ですって!?」

「違うんですか?」

いきり立つティアに対し、私があえて大佐に聞けばそうですねと大佐は言います。
ティアは自分の味方ができたと思ったんでしょうね。
何か喚こうとしたのか口を開きかけましたが、その前に大佐が眼鏡のブリッジを上げる仕草をして表情を隠しながら続きの言葉を口にしました。

「確かに人殺しは私達軍人の仕事です」

「大佐まで…!」

「ティア、彼女は何もおかしなことは言っていません。戦場で、そして夜盗や盗賊相手に私達は人殺しをしているわけですから。
いえ、軍人だからこそ人殺しを許されている、と言った方が正しいでしょう」

「それで、ソレが仕事なんですから私達に押し付けないで下さい。と先ほどから私は言ってるわけですが、私の主張は何かおかしいですか?カーティス大佐?」

「…いえ、傭兵であるシンクはともかくとして確かにルークや貴方に剣を握る必要はありません。お喋りはここまでにして陣形は以前のまま、イオン様を奪還し艦を脱出しましょう」

不満そうではありますが大佐が同意したことによりティアは渋々黙りました。
というかティアは一体軍の仕事をなんだと思ってたんでしょうね。
軍人ごっこは家だけでして欲しいです。

『骸狩り』という緊急停止措置が成され、動力が停止したタルタロス内部を進み何とか左舷ハッチまで進みます。
途中壁を爆発させるという荒業を行いましたが、ゲームでも何故この爆音で見つからなかったのかとても不思議だったんですよね。
理由、簡単でした。『骸狩り』のせいで部屋に到るまでの廊下に隔壁が下りていて、神託の盾兵の人たちは来たくても来れなかったというとても単純な理由でした。

魔物をガンガン倒して辿り着いた左舷ハッチ。
外から人が来る気配を確認した後、ルークとシンクが前衛をなぎ倒し私と大佐が続き、ティアがナイトメアを歌う手筈になりました。
ルークは最初外されてたんですけど、ずっと足手まといになるのは嫌だと言うのでシンクに任せた次第です。
だっていざとなればシンクのみで全員ボコせますし、ティアがこの作戦で役に立たないのは知ってるのでいっそのことシンクの側に居てくれた方が安全なんですよね。
私も大佐と同じで近・中距離戦ができる中でも中距離戦の方が得意ですし。

「…来ます」

「おらぁっ、火吹けっ!」

「ふぁいやー!」

そうして作戦を立てた後、神託の盾兵がドアを開けた瞬間ルークがミュウを突き出します。
そこは変わらないんだなとか、何だかんだ言いつつミュウはルークのこと嫌いじゃないっぽいなとか呑気なことを考えて居たのは内緒です。
いえ、一応私がご主人様なんですけどね。このままルークに押し付けちゃ駄目かしら。

階段を転がる神託の盾兵を乗り越え、剣を手にしたルークと共にシンクが飛び出します。
そして間髪いれずに私と大佐が続き、銃を構えたリグレットを牽制。
大佐が槍を取り出し、私も紙を周囲に展開することに成功しました。

「ティア、譜歌を」

「ティア?ティア・グランツか」

「……教官!?」

案の定、杖を構えたままハッチの入り口で固まるティア。
現れるアリエッタ、逆転する形勢、導師に銃を向けるリグレット。
私的には導師などどうでも良いですが、自分の所属する教団の最高指導者に武器を向けるリグレットは阿呆だと思います。後で教団に密告してやろうっと。

そして飛び降りてくるガイ、奪還できた導師、動き出そうとするリグレットとアリエッタ。
一応何とかなるでしょうが、念には念を入れておきましょう。あらかじめ展開しておいた紙の出番です。

「紫電」

第三音素が収束し、大気中に含まれたが電気がパリパリと音を放ちます。
そして展開された譜陣の中に立っている、味方識別がされていない人間に放電。
ピリピリしてて楽しそうですねー。


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