落ち着きましょう、そうしましょう。



 タルタロスから距離を取った私達は、改めてガイと自己紹介をしたあとセントビナーまでルークの護衛をする事で話を纏めました。
 これから小出しにされてくるであろう神託の盾を迎え撃つには戦力不足が否めず、かといって導師イオンが同行している限りそれほど急ぐことも出来ない。
 それならばセントビナーで護衛を補充するまでシンクが戦闘補助、私がルークの護衛になるのが一番効率がいいんですね。

 最初大佐は極秘任務だから護衛を補充するなんて出来ないと言っていましたが、キムラスカの王族をきちんと保護した方がキムラスカの心証は良いものになる。
 逆に護衛も付けずに歩かせて戦闘に参加させたなんて言ったら王族を傷つけたから宣戦布告なんていわれてもおかしくないんじゃないの。
 と言う説得の元、納得させました。

 大佐ってあれなんですよ。知識としては階級も身分もあるんです。
 けど言動がそれについていってない。知ってるけど解ってないんですね。
 軍紀に関してもそうです。一般人は守るべきとか、王族は敬うべきとか知識として知ってても理解できてない。
 これは憶測ですが、これまで王宮では散々ピオニー陛下に甘やかされ、そういった規律というものを意識せずにやってきたのではないでしょうか。
 元々研究者から軍人への転属らしいので、それほど厳しい訓練も受けていないでしょうし。

 だから、ルークが王族で守るべき一般人だって解ってても戦わせるし敬おうとしない。
 今まではピオニー陛下の庇護の下それでも問題なくやってこれたんだと思います。
 けど外じゃそうはいかなくて、今まで通りのスタンスでいこうとして、私に指摘されて慌ててそういえばそういう規律があったと思い出して掌を返してる。
 少なくとも私にはそんな風に見えました。

 憶測の域を出ませんが、いい線はいってると思うんですよね。
 なのでそれをセントビナー軍基地のマクガヴァン将軍にこっそり伝えれば、護衛補充の際にきちんと常識を持った補佐をつけることが出来るのではないか。
 そうしたらルークも原作ほど苛々しなくても済むかもしれません。
 シンクにその考えを伝えればんじゃそうすんべと同意? してくれたため、その作戦で行くことにしました。
 目指すはセントビナーでの脱落です。

 途中煩いガイとティアを無視し、イオンとルークを保護しながら何とか辿り着いたセントビナー。
 もうちょっとで契約も終わりだ正規軍からの多めな契約金万歳なんて思っていた私とシンクでしたが、無事街へと入って軍基地にお邪魔したあとで思わず固まってしまいます。
 そこに居たのは検問を敷いていた神託の盾兵に指示を出している六神将達。

 魔弾のリグレット。
 死神ディスト。
 黒獅子ラルゴ。
 幼獣のアリエッタ。
 そして……烈風のシンク。

 ガイが六神将に関してルークに説明している横でちらりと隣に居るシンクを見ます。
 門のところでは六神将のシンクが口悪くもラルゴに大人しくしているように言った後、これ以上マルクト軍を刺激しては外交問題に発展するからと検問を解くと言っていました。
 それは私が知る原作のシンクです。しかし隣に居るのもまた、間違いなくシンクのはず。

「……シンク」
「……あとで時間取れる?」
「はい。構いませんよ」

 シンクは去っていく六神将達の方を見つめたまま、それだけ呟きました。
 何を考えているかは解りません。解りませんが、きっと良いことではない。
 預言なんてクソ喰らえ、未来なんぞ解らなくて当たり前というのが私の心情ですが、これだけは預言を詠んでもらわずとも解ることでした。

 六神将が去るのを見送り、イオンの言葉を聞いて街に宿を取った私達は観光と称して宿を抜け出していました。
 あまり人が来ないだろうからと、ソイルの木に登って二人でぼそぼそと喋ります。
 ここなら誰かが来たらすぐに解りますし、例え解らずともはしごを登ってくれば嫌でも気付きますから盗聴の心配もありません。

「……あれ、僕だったよね?」
「はい。私が知るシンクでした」
「だよね。僕も嫌っていうほど覚えのあるシーンだった。ラルゴはまだ表面上しか怪我が治ってないから暫く動けなくて、セントビナー軍基地に居るマクガヴァン元元帥は退役こそしているもののその影響力は強い。まだ表立って動くわけには行かなかった以上できれば関わりたくない相手なのに、元元帥はホド戦争以来大の神託の盾嫌いで有名。あまり刺激したくなかったんだよね、そんな人物」
「だから外交問題になるって言ってたんですか」
「そ。実際元元帥は直接じゃないにしろピオニー九世陛下にパイプを持ってる。もうすぐ鉱山の街の預言が遂行されるのにダアトとマルクトの仲をこれ以上悪化させたくなかったんだよ。ま、親書にアクゼリュス救援が書かれてる時点でそんな気遣い無意味だったけどさ」

 肩を竦めるシンクは平静を装っていますが、やはりどこかピリピリしていました。
 予想外に現れたもう一人の自分に動揺が隠しきれていません。
 いくら逆行を繰り返しているとはいえ、こういうところは変に子供です。
 案の定、それでどうするのかと聞けば私の言葉にシンクは唇を引き結びました。
 虚勢を張るのも限界のようです。まったく、大人しく驚いておけばいいものを。

「いっそのこと確かめますか?」
「どうやって?」
「次接触するのは……確か、コーラル城ですよね? バチカル到着まで契約延長を申し出て同行すれば恐らく接触は可能な筈です」
「そういえばそんなのがあったね。燃え滓が軍港襲撃してルークを呼び出して……同調フォンスロットを開くと大爆発が進むし超振動制御も容易になるから、どうせならそこも邪魔しとくか」
「そこら辺はお任せしますよ。よく解りませんし」

 シンクが腕を組んで考え込みますが、ぶっちゃけ同調フォンスロットとか大爆発とかよくわからんとです。
 なので難しい話はシンクにお任せですよ。
 でもそうなるとケセドニアでの仕事はいっそのこと辞めたほうが早いかもしれませんね。
 良い職場だったのですが、行き当たりばったりではなく自分たちから彼等と関わることを決める以上、変に在職するよりは辞職したほうが良い筈です。
 迷惑はかけたくないのでそうしましょう。幸い貯金もありますし、くっ付いていけば自動的にマルクト軍からむしりとれますし。

「では宿屋に帰ったら早速大佐に相談しましょう」
「そうだね。いっそのこと君も一時的に導師の護衛に立候補したら?」
「嫌ですよ。あんな子供の面倒見るの」
「導師なんだよ、あれでも」
「導師だから嫌なんです」
「あ、そう」

 私の返事にシンクはそっけなく返します。それがどこか嬉しそうに見えるのは気のせいでしょうか。
 もしかしてシンクはまだなんか歪んだ感情持ってるんでしょうか、導師に。
 あ、こうやって表現するとなんかシンクが導師に邪な感情抱いてるみたいですね。
 生憎と私はBにLな妄想をする趣味はありませんのでこの話はここで終わらせて、さっさと宿屋に戻ることにしましょう。

 宿屋に戻って早速大佐に相談してみたところ、改めて契約書を作ることになりました。
 というのも元々タルタロスからセントビナーまでの正式な契約書すら作ってなかったんですよ。
 なのでそういうことならタルタロス〜セントビナーで契約ではなく、タルタロス〜バチカルで契約結んだらどうかって話になりまして。
 安全を確保できたら契約終了から、バチカルに無事到着したら契約終了に切り替わりました。
 契約金もボンッとアップです。ウハウハです。
 前金はセントビナー軍基地から出してくれるよう大佐に交渉しました。チョロ甘ですね。

 そして私も一緒に契約することになりました。
 私は正式にルークとイオンの護衛として雇われる形になります。
 ただしイオンの方は導師守護役と合流するまでです。当たり前ですね。
 これ、イオンの護衛を口実に教団からも少しはむしりとれませんかね。
 そんなことしたらアニスクビになりそうですが、赤の他人だし良いかな?
 まあモースのスパイやってる以上クビもないかな?

 そういえば契約を結んでいる最中に、どこぞの自称護衛騎士がルークの護衛はオレが居るじゃないかとうんたらかんたら言いだしました。
 どこぞの神託の盾兵がそれに便乗してルークばかり甘やかしてないで少しは戦わせるべきうんたらかんたら言ってきました。
 護衛騎士はお前がいつルーク様を護衛した? と聞くと黙ってしまいました。
 実際してませんもんね。戦闘には参加してもルーク守ってない。守ってるのティア、ルークじゃない。

 神託の盾兵の方は妬ましいんですか? と聞けば顔を真っ赤にしてそうじゃないとか言ってましたけど図星にしか見えません。
 実戦をやらないと身につかないとか言ってますけど別に身に付ける必要ありませんし。
 軍人じゃないんですから守られて当然なんですよ。一体何度言えば解るのか。
 脳味噌に行く栄養が全部胸に行っちゃったんですかねぇ。可哀想に。

 そうして契約を結んだ翌日、宿屋で鳩を借りてケセドニアへと飛ばしたあと、軍基地へご挨拶に行ってから出発です。
 セントビナー軍基地からは無事護衛の人員を借りてと前金を頂くことが出来ました。
 ただ大佐が極秘任務って言い張ってタルタロスを奪われたことを伝えなかったことだけが気がかりです。
 どうするんでしょうね。死者も出ているでしょうに。

 国境までという制限つきではありましたが、簡易の馬車も仕立ててもらえました。
 お陰で一般人(ルークとイオン)が徒歩ではないので行軍速度が早い早い。
 シンクは元々傭兵ですから慣れていますし、散々シンクに鍛えられた私もそれなりに着いて行けます。
 それでなくとも今は傭兵として同行しているわけですから弱音を吐くなんてもってのほかなんですけどね。仕事なんですから。
 まあティアは弱音はいてましたが。歩くの早すぎって。知らんがな。コイツ本当に兵士なのか。

「なぁ、飯はまだか?」
「ああ、お腹が空かれましたか。イオンはいかがですか?」
「そうですね。少しおなかが空きました」
「畏まりました。大佐、お二人がそろそろ空腹とのことですが、休憩は取れますか?」
「そうですね……いいペースで進めてますし、休憩をとっても問題はないでしょう」
「ではお昼休憩をとると伝えてまいります」
「お願いします。いやぁ、正直助かります」
「本来貴方がするべき仕事ですがね」

 フーブラス川を越えた辺りでルークがお腹が空いたというので休憩に入ります。
 貴人の相手も皇帝名代である貴方の仕事ですよとジャブを入れておくのも忘れません。
 それにしてもティア、へろへろですね。まったく、だらしない。
 私は音律士なのよって言いますけど、軍人なのは変わらないでしょうに。
 久方ぶりの青空お料理教室を開き、貴人二人に料理を振舞います。
 ルークとイオンに振舞ったものほど凝ることはできませんでしたが、軍の方々にもざっくりと作った料理を振舞います。
 喜んでいただけて何よりです。

「……なぁ、トモカ」
「はい、なんでしょうルーク様」
「お前の荷物、動いてねぇ?」

 自分の食事を後回しにして二人の給仕をしていたのですが、ルークが私の荷物をじっと見つめながらそんな事を呟きます。
 はて、私の荷物が動いているとはこれいかに。
 見ればイオンもお皿を持ったまま私の荷物に視線が固定されています。
 流石にこれは無視するわけにもいかず、シンクに一言告げてから二人の側を離れて荷物を開きます。

 現れたのはライガ・クィーンから託されたタマゴです。
 気のせいでしょうか。そのてっぺんにヒビが入っているのは。
 衣類の隙間からタマゴを取り出してみれば、パキパキという軽い音を立ててタマゴが割れていきます。
 思わず見守り体制に入ってしまった私達は悪くないと思います。
 ルークもイオンも驚きながらもじっと見つめてましたし。

 三分ほどかけてヒビを広げ、コンニチハハジメマシテをしたのは案の定ライガの子供。
 ミャーっと鳴いて現れました。こんにちは。
 アリエッタに渡すにはちょっと遅かったみたいです。

「えっと、ミルク飲みますか?」
「みゃー、みゃー」
「すみません、ちょっと待ってくださいね。普通のミルクじゃ駄目ですし……うーん。あ、希釈すれば良いのか」
「みゃー!」
「ちょっと待ってください。脱脂綿とガーゼが確かここに……あぁ、ありますね。後はフォークを使って、」
「にゃー!」
「お腹が空いたのは解りましたからちょっと待って下さい。ね? 良い子ですから、落ち着いてください」
「君が落ち着きなよ」
「……え?」

 シンクに突っ込まれ、ぴたりと動きを止める私。
 もしかして私混乱してるんでしょうか。
 いけませんね、落ち着きましょう。えぇ、落ち着きましょう、そうしましょう。

「みゃーっ!」
「あ、はい。ミルク作ります」

 とりあえず落ち着いてミルク作りましょう。そうしましょう。
 だからルークもイオンも、いつまでも驚いてないで早く食べちゃってくださいね。
 洗い物するのも私なんですから。


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