好きにすればいいです。


私から与えられたミルクをたっぷり飲んだ後、みゃーっと鳴いてるライガの子は現在ルークの膝の上です。
というのも人間・動物・魔物問わず赤ん坊というのを見るのが初めてらしく、ルークがいじくり倒してるんですよね。
まだ赤ん坊ですから眠りそうになったら寝かせてやってくださいねとは言ってあるんですが、さすが魔物の仔、フーブラス川を渡って結構経ちますが今のところちっとも眠る気配なしです。
めっちゃタフ。そしていつアリエッタに渡すべきか…。

そういえばフーブラス川でのアリエッタのイベントがありませんでした。
まあライガ・クィーンは殺してませんから当たり前といえば当たり前ですね。
あと譜歌のイベントもありませんでしたね。第二譜歌のフォースフィールド、でしたか。
そもそも障気が噴出することもありませんでしたからね。
時間的に考えて馬車で移動スピードがアップしているためでしょうね。
これなら軍港襲撃される前に国境辿り着けるんじゃないか?と思った私でしたが、その前にあれがありました。

「月夜ばかりと思うなよ」

「アニス、ルークに聞こえちゃいますよ」

「はぅあ!?」

「イオン、注意するのはそこじゃないと思いますよ」

「え?」

「きゃわーん、アニスの王子様ーっ!」

可愛い子ぶって国境を越えようとしていたアニスでしたが、案の定哨兵にアッサリと断られた挙句不穏な発言をぽつりと。
それをイオンに注意されそのままルークに抱きつこうとしたアニスでしたが、私が間に割って入ったためにぴたりと動きを止めてしまいます。
その顔に浮かぶのは困惑。そして伺うように私を見てきます。
あ、今気付きましたがアニスと身長がどっこいどっこいじゃないですか!これはこれでムカつきます!

「ご無事で何よりですタトリン奏長。しかし何故ルーク様に近寄るのですか?
貴方が護衛すべきはルーク様ではなくイオンであり、イオンと合流した貴方がすべきことは導師守護役でありながら側を離れてしまったことの謝罪です。
解ったならさっさとイオンに謝ることですね」

「あ、あたしは親書を守るために!」

「貴方はいつ親書の護衛になったんですか?
それとも教団はいつの間にか皇帝の親書は導師よりも尊いものであると教義を変えたのですか?」

「だって…大佐が」

「まだ言い訳を言いますか」

ぴしゃりと言い切ればアニスは俯いて黙り込んでしまいました。
イオンがまぁまぁと私を宥めようとしますが、貴方が怒らなきゃいけないとこですよ。
大きいため息をつけばイオンとアニスが揃ってぴくりと反応します。

「まぁいいです。そんな対応をし続ければ周囲は貴方達をどう見るかということまで私が心配する義理はありませんから好きにすれば良いと思います。
あなた方がどんな評価を受けようと私には関係ありませんし。
導師守護役アニス・タトリン奏長。現時刻を持って私は導師イオンの護衛を終了させて頂きますので、後は貴方にお任せします」

「あの…どう見る、とは?」

「自分の部下の躾もろくに出来ていない駄目主従って見られるんだよ。
旅券不携帯で国境を越えようとしたことを咎めもしない主と、守護すべき主の側を無断で離れ、且つそれの謝罪をするどころか男に現を抜かす役立たずの護衛ってね。
そんな人間が長をやってる組織…さて、どんな風に見られるだろうね?」

イオンの疑問に対し、今度はシンクが答えます。
イオンはその言葉にはっとしたあと視線をさ迷わせ、アニスはおろおろしたあとイオンに対して側を離れたことを謝罪していました。
でもごめんなさいイオン様って何ですか、そこは申し訳ございませんと謝罪すべきところでしょう。
土下座しろとは言いませんが、頭下げるくらいなさい。誰だ教育係は!

もう一度ため息をつく私はさておき、さっさと国境越えようぜ、でも私もルークも旅券がありませんというルーク達のやり取りが始まります。
聞けばダアトを家出同然で出てきたらしく、イオンとアニスも旅券は持っていないとのこと。
どうやらタルタロスで向かう予定だったケセドニアで発行してもらうつもりだったとか。
じゃあ何でこっち来たんですかと大佐に声を大にして問いかけたかったのですが、頭上から感じた殺気に仕方が無いので口を噤みます。

「ここで死ぬ奴にそんなものはいらねーよ!」

剣を振りかぶり降りてくる男。鮮血だか熱血だかの二つ名を持つ真っ赤な鶏冠を持つ男。
飛んで火に居る夏の虫とはまさにこのことですね。
私がルークの手を引いて背中に庇い、シンクが素早く背後に回って男もといアッシュを思い切り蹴り上げます。
間抜けな声をあげて近場に積んであった木箱の山に吹っ飛ぶアッシュ。
キムラスカ側から慌てて走ってきたグランツ謡将が目を見開いたまま何をしている!とアッシュに怒鳴りつけました。

「退け!アッシュ!」

「退け?何言ってんの?国境で騒ぎを起こした挙句ルーク…様を殺そうとしたんだ。
捕らえるに決まってるだろ!」

シンクは未だにルークに敬称をつけるのが苦手なようですね。
国境に詰めていたマルクト兵と共にアッシュを捕らえようとしたシンクでしたが、さり気なくグランツ謡将に間に入られ、更にその間にアッシュが舌打ちをして逃走してしまいました。
コイツ、逃走援助の罪で捕まれば良いと思います。

「ちょっと、何で邪魔するのさ!」

「し、しかしだな、彼は私の部下で…」

「部下なら余計に捕らえて罰しなきゃ駄目じゃないか!それなのになんでわざわざ逃がすわけ?!」

「そ、れは…私から厳しく罰しておく、だから…」

「この場合罰するのは上司であるアンタじゃなく騒ぎを起こされたマルクトでしょ。
アンタがやったのは立派な犯罪者の逃走援助だってわかってんの!?」

ぎゃあぎゃあとヴァンに詰め寄るシンクは非常に生き生きとしてました。
完全に楽しんでますね、あれ。性格の悪さが実に滲み出ています。いいぞ、もっとやれ。
私はルークに怪我がないのを確認したあと、ある程度満足したらしいシンクの追求を逃れた謡将から旅券を受け取るのを見守ります。
私とシンクは持ってますから見守るだけです、はい。

そう言えば原作と違ってティアがナイフを構えませんでした。
いえ、ずっと謡将を睨んではいたんですけどね。国境を越えながら六神将の襲撃について追求しているティア。
そもそも何故イオンがここに居るのか知らないという謡将に対し、その更に隣でイオンが勝手にダアトを出てきたことを謝罪していました。
どうやら宿屋での一悶着は歩きながら行う事でショートカットされるようです。

まあ何やら複雑そうなダアト組はさておき、私はキムラスカ側の軍の詰め所で簡単に事情を説明して馬車を借ります。
ルークは遠目から見ても王族の特徴を持ってるのでざっくりとした説明で通じます。これは助かります。
そして用意してくれた馬車にルークとイオンを乗せ、いざ軍港へ出発。
ちなみにアニスが一緒に馬車に乗ろうとしたのは呆れました。
謡将も注意しろよ。ダアトには馬鹿しかいねえのか。
まあ私が守るべきはもうルークのみですから関係ありませんね。

そうして護衛たちで馬車を囲って軍港まで向かっていたのですが、アリエッタもアッシュも仕事速すぎでしょう。
船からはもうもうと煙が上がりあちこちに転がる魔物の死体、同じようにうずくまる人達も血にぬれています。中にはぴくりとも動かない人も居ますから死んでしまった人も居るかもしれません。
一緒に来ていた謡将は慌てて剣を抜いてアリエッタに詰め寄っていました。

「アリエッタ、誰の許しを得てこんなことをしている!」

「総長……ごめんなさい、アッシュに頼まれて」

「なに!?」

アリエッタは謡将が驚いた一瞬の隙を突き、フレスベルクに捕まり頭上へと逃げてしまいます。
船の整備士は預かった、返して欲しければイオンとルークがコーラル城に来い、来なければ船の整備士は殺すと告げる様子はたどたどしくも非常に幼いです。
ですがやってることはちっとも幼くありません。むしろ犯罪だばかやろう。
まあこれでコーラル城まで行くルートが成立したと思っていた私でしたが、フレスベルクが予想外の急降下、続いて背中に衝撃が襲ったかと思うと何故か反転する視界。
一瞬のうちにみゃーっと鳴くライガの子が遥か下の方に。何故?先ほどまで隣に居たのに。

「あと、この人ももらっておきます」

「は?ちょっと待ってください、何で私まで」

「ちゃんと来ればこの人も返す、です」

「トモカ!」

ライガの子を抱えたルークに名前を呼ばれたものの、ぐんぐん高度を上げるフレスベルクのせいでろくな抵抗もできません。
今ここで抵抗して落ちたら私死にます、確実に。
流石に自殺願望はありませんので、第三音素を集めて強風を和らげる程度に留め、大人しく連れて行かれるがままにします。
というか貰うって何だ。荷物か私は。

結局コーラル城に着いたあとぺいっと放り出されるまで、私はひたすらフレスベルクに掴まれるがままでした。
放り出された後も体勢を整えてアリエッタに対し構えを取ろうとしたのですが、忍び寄ってきた影に背後から首筋へとナイフを当てられてそれも諦めます。
私が抵抗するのを諦めたのを確認してから、アリエッタもフレスベルクから降りてきました。

「ご苦労サマ。で、何コイツ」

「シンクが探してたアニスのお姉さん。一緒に居たから連れてきた…」

「…これが?」

先ほどの貰う発言と良い今回のコレ呼ばわりと良い、一体私の扱いはどうなってるんですか。
抵抗する意思無しと告げるために両手を挙げていた私でしたが、シンクという名前に思わず振り返ります。
そこに居たのは緑の髪を逆立て、鳥の嘴を模した仮面をつけた少年。
まごう事なきシンクです。どこをどう見てもシンクですありがとうございました。
シンクは振り返った私の首に再度ナイフを突きつけ、動くんじゃないと地を這うような声で言います。

「そう。じゃあ僕はコレと話があるからアリエッタはオトモダチを布陣してあいつ等が来てもすぐ解るようにしておいて」

「わかりました」

とてとてと去っていくアリエッタを見送った後、腕をとられたかと思うと背中で纏められ縛り上げられます。
背中を押されたので素直に歩きますが、一体全体どういうことなのか。
というか私探されたんですか、初めて知りました。

「逃げようとしたら刺すからね。アンタだけじゃない、あの整備士もだ」

「解りました」

「……きな」

素直に頷いた私に対し、シンクが何を思ったのかは解りません。
しかし私は黙って後を着いていくだけです。
……でも本音はちょっと帰りたいです。ケセドニアが恋しいです。
はァ…。

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