何してくれる嫌がらせか。
おかしいです。私、導師のお守を頼まれた筈なのに何故こうなってるんでしょう。
ベッドに寝転がったまま考えてみるものの、答えが出ません。
そう疑問を抱きつつ全身の筋肉をガチガチに緊張させたまま戦艦の壁を見つめて早数時間、やっぱり出そうにありません。
ちらりと背後を、というかおんぶお化けの如く私にくっついているラルを見ます。
私の腹部に手を回し、がっちりと私を抱えたまますぅすぅと寝息を立てて寝ています。私は抱き枕か。
おかしいです。私、導師のお守を頼まれた筈なのに以下略。
「失礼します。シンク師団長、ザオ遺跡に到着いたしました」
結局一睡も出来ないままベッドの上で固まったままの私でしたが、ノックの音と共に一般兵さんがそんな報告にやってきました。
ラルが熟睡している以上、コレは私が答えるべきなのかと悩んでいる暇も無く、解ったという声が背後から聞こえます。
いつの間に起きたんですか。というか起きたならばとっとと離して下さい。
もぞもぞと起きる気配と共に私の筋肉もやっと力を抜きます。
ずっと緊張しっぱなしでしたから、もう体中がガッチガチです。お風呂に浸かってじっくりほぐしたいところです。
「起きましたか」
「…ん。なんか目の下に隈できてるけど、寝てないわけ?」
「……おんぶお化けがいたもので」
「は?お化け?何言ってんの?頭大丈夫?」
私の嫌味は通じることなく、それどころか呆れたように言われました。
何故だろうこの敗北感。ちょっとイラっとしたのはご愛嬌です。
それからラルに促され、イオンやラルゴ、アッシュと一緒にザオ遺跡へと足を踏み入れます。
私はイオンの護衛兼お守なので戦いません。露払いをするのはアッシュとラルゴです。ラルはその援護兼指揮でした。
ラルゴとアッシュが戦っている間、周囲を警戒しながらも隣に立っている私に対し、イオンがおずおずと声をかけてきます。
「あの……トモカは何故、僕を叱るんですか?」
「見ていて危なっかしいと前々から思っていたのですが、最終的に見ていられなくなったからですよ。肉体的にも社会的にも」
「……それは僕がちゃんと導師としてやれていないということでしょうか?」
「そうですね。実に2歳児のような行動です」
「2歳児、ですか……」
私の言葉にイオンはしょぼんとしてしまいます。
そのまま大人しくしてなさいと言いたいところですが、フォローはとりあえずしておきましょうか。
ダアトに帰ったらちゃんと導師の振る舞いについて習いなさい、と。
対外的にはまだ14歳ですから、学びなおすのは間に合う筈です。
そんな風にイオンと話しながら辿り着いた最奥で、ラルとラルゴに促されてイオンは戸惑いながらもダアト式封咒を解いてしまいます。
そう言うところが駄目なんですよと言いかけて、ラルに睨まれた気がして口を噤みました。
余計なことを言うなってことですね解りたくありません。
そうして結局封咒を解いて倒れこみそうになったイオンを支えた時、複数の足音が耳に届きます。
来た道を見やればシンクを含めた親善大使一行(仮)が。
(仮)が着くのは親善大使一行がこんな所に来る筈が無いからです。
親善はどうした親善は。解ってるけど突っ込みたくてたまりません。
「イオン!」
「導師は儀式の真っ最中だ、邪魔しないで貰おうか」
「ごちゃごちゃ煩いんだよこのデカブツ!トモカ!君も何大人しく捕まってんのさ!」
「え?そこ私に突っ込むんですか?」
「君ならそこのデカブツくらい倒せるだろ。なのにそれをせずにおとなしく捕まってるんだから突っ込むにきまっるじゃないか。そういうのを怠慢って言うんだよ!」
「一対一ならともかく、六神将三人相手に奮闘するなんて嫌ですよ」
「オレを倒せる前提なのか……」
剣を抜こうとしたルークの前に立ってシンクが怒鳴ったために、イオンを救いに来たルークはあっさりスルーされてしまいました。
ルークが微妙な顔をしていますが、誰も気に止めません。親善大使なのに何この扱い。
しかしそんな事言ってる間に戦闘開始です。
シンクVSラル、その他VSラルゴ・アッシュです。皇帝名代や王女様方をその他扱いするのは仕様ですのであしからず。
ラルゴがちょっと荒れてるのは私とシンクのせいじゃありません。多分。
「トモカは渡さないよ!」
「うるさいな、大人しく導師だけ攫っておけばいいだろ!」
なんかラルとシンクが言い合いしてます。仮面VS包帯です。
というか何故ラルは私を渡さないと言ってるんですか?導師ではないんですか?
イオンを背後に庇いつつそんなことを考えながら観戦します。
苛烈になる緑の対戦に対し、ラルゴとアッシュのコンビは数に圧倒され徐々に押されていっています。
決着は早めにつきそうですね。
「「連撃、行くよ!」」
音素が爆発したような感覚がしたかと思うと、二人の声が重なりました。
拳と蹴りが交差し、お互いを屠らんと容赦なく連打で繰り出していきます。
二人同時の疾風雷閃舞です。恐ろしいです。近寄りたくありません。
回れ右したいですが、したところで先はセフィロトなので行き止まりです。
なので大人しく戦闘を見守ります。つーか何でこんなとこで秘奥義出してんだ二人とも。
いつの間にかラルゴとアッシュの方は決着がついていたらしく、ルーク達も全く同時に繰り出される同じ秘奥義を呆然と見ていました。
オレと同じ技!?同じ流派だからに決まってんだろ以下略とかいう赤毛同士のやり取りはやっぱりないようです。
タルタロスと良いココと良い、アッシュの空気感が半端ない。
それほどまでに注目を集めていた緑同士の戦いでしたが、膝を着いたのは……やはり、ラルでした。
経験とレベルの差はやはりどうしようもなかったようです。
「くそ…っ」
「導師とトモカは返してもらうよ」
シンクがラルを見下ろしながら言います。
この先の展開が解っているからこその台詞なのでしょう。
事実ラルは素早く私と導師の側にやってくると、息を荒くしながらも取引だと声をあげました。
導師と私を返す代わりに戦闘を中断すること。予想通りの言葉です。
ガイがこのまま倒してしまえば取引なんぞ必要ないと口にしますが、僕達は生き埋めでも構わないというラルの言葉にルーク達は無言になります。
流石に生き埋めは私も勘弁して欲しいです。
結局ルーク達はラルの提案を呑み、私とイオンはルーク達の元へと帰ることができました。
まずはイオンがルークの元へと走りより、アニスが怪我が無いか確認をしています。
続いて私もラルに背中を押され、シンクの元へと駆け寄ります。
そして落とされそうになった拳骨は慌てて避けました。シンク、舌打しないで下さい。
誰だってそんな痛そうな拳骨は避けます。普通です。
ようやくシンクに救出された私でしたが、まあぼうっとしているワケにもいきません。
ラル達に背中を向けて遺跡を出るために足を動かし始めます。
ナタリアが悔しそうにしていましたが、知ったこっちゃありません。
さっさと行きましょう。私眠いんです。実は殆ど寝てないんです。だから早くベッドに行きたいんです。
怒っているシンクも怖いですが、それより睡眠欲が優先です。
「……モカ!」
「?」
と、思っていたら背後から声をかけられました。
思わず振り返ってラルを見れば、ラルがコチラに走りよってきます。
構えを取るルーク達でしたがそれに頓着することなく私の手を取ると、私の手の甲にキスを一つ。
……どこでそんな技覚えたんですか。
「絶対、君を奪ってみせるから」
「何、を……」
「言ったよね?ソイツから、アンタを奪うって」
「本気だったんですか?」
「そうだよ。覚悟しててよね」
その言葉にナタリアがまぁ、と声を上げ、シンクがムッとする気配。
そしてラルはシンクの方を向いた後、そのまま私の手を離して直立不動。
ああ、そのためだけに来たんですね。
お陰で私はシンクへの恐怖心が更に増しました。何してくれる嫌がらせか。
シンクとルークに促され、ラルに見送られて地上に向かってレッツゴーです。
そうしてラルが見えなくなった頃、ついに私はシンクに拳骨を落とされる羽目になりました。
痛いです。頭蓋骨が割れそうです。アニスも、同情するくらいなら止めて下さい。
イオン、拳骨落とされたのは貴方じゃありません。見ていて痛そうなのは解りますが自分の頭を抑えてどうする。
「ねぇ、何がどうしてどうなったらあんな台詞言われるようになるわけ?
てゆーか何今まで呑気に捕まってたのさ。君ならいくらだって逃げ出す術があったはずだよね?」
「いえ、コーラル城でシンクが救出に来てくれると思ってたんですけどあてが外れまして…」
「だからって呑気に捕まってるんじゃない!」
そして拳骨をもう一つ。瞼の裏に火花が散ります。
暴力反対とか、人質に自分で逃げ出せって無茶すぎるだろJKといってもシンクには通じません。ちくしょうこのクソガキが。
頭を抑える私に対し、ナタリアが何故かワクワクした顔でコチラを見ています。
なんなんですかもう。ていうか一応初対面なんですからワクワクする前に自己紹介してくださいよ。
イオンに大丈夫ですか?って聞かれながら、一応自分に治癒術をかけます。
ファーストエイドじゃ足りません。シンクの拳骨一発で結構HP持ってかれますから。
ヒールを使えばルークにお前回復できんのかと驚かれました。一応第七音素師ですので。
まあそのお陰でシンクのしごきが更にハードになった過去があるので、私的にはそれほど嬉しくありません。
アレは本気で死ぬかと思った。
とりあえず新しく増えたメンバー(ナタリア)と自己紹介を済ませ、遺跡を出たらケセドニアへと向かうことになりました。
オアシスでも良いんですが、シンクがココからならケセドニアのほうが近いと言い切ったのでケセドニアです。
まあ砂漠は何度も仕事で来てますからね。解りますよね。
途中私とシンクで連携を組み、さくさく戦闘を終わらせて辿り着いたケセドニア。
同調フォンスロットを開いていないのでルークが操られるイベントも無く、皆様そのまま宿屋へと向かっていきました。
私とシンクは自宅です。自分の家があるのに宿屋に泊まるなんて金がかかることは出来ません。
そうして自宅に帰れば郵便受けにマスターのメモが入っていました。
ああ、そうでした。ココもマスターから借りている家ですから、仕事を辞めるなら今まで通りに借りることはできないかもしれませんね。
そんな事を考えながらメモを見れば、一度話がしたいから時間が出来たら職場に来てくれとのこと。
確かに一方的に辞めますとしか言ってませんから、マスターからすれば当然の要求です。
幸い私は親善大使一行に組み込まれていませんから、明日にでも喫茶店に行こうかと思います。
今から?嫌ですよ。私は惰眠を貪りたいんです。
そうそう、来る途中に聞いたんですがシンクはファブレ公爵家から正式に依頼され、ルークの護衛として親善大使一行に参加していたようです。
恐らく明日には出発するでしょうからシンクを見送ってからそのまま行けば良いですよね。
よし、そうしよう。
そんな事を考えていたら、いつの前にか私の前に素顔を晒したシンクが居ます。
何でそんなに眉毛吊り上げてるんですか。思わず逃げようとしたら腕を捕まれて拘束されました。
おかしいです。ラルのところに居た時と扱いが大差ありません。
緑の瞳が怖いです。誰か助けてください。というか私はいつになったら寝れるんだろう。
誰か私に睡眠を貪らせてください。
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