ごめんちょ。


二度目のタルタロス乗船に最早ため息しか出ません。
どうやらこのまま導師をアクゼリュスに届けるそうです。
ラルが愚痴なんだか伝達なんだか解らないレベルで教えてくれました。

どうやらアッシュの監視も仕事の内らしく、どいつもコイツも仕事押し付けやがってとご立腹気味です。
ただ案の定導師のお守を押し付けられ仕方ないのでご飯を作って持っていったら、途中出会ったラルに凄く物欲しそうな雰囲気を出されました。
いえ、目は見えないのであくまでも雰囲気なんですが……解りましたよ!貴方の分も作ればいいんでしょう!
全く、シンクといいラルといい何故こうも食い意地が張っているのか。

そうこうして辿り着いたアクゼリュス、戦艦内ではある程度自由にさせて貰っているのですが導師が連れて行かれる少し前からラルの姿が見えません。
おかしいですね。一応責任者扱いなので今までは誰かしらに聞けば居場所が確認できたのですが、いつの間にか全員知らなくなってます。

流石にこれは嫌な予感がします。
いえ、実はラルがいれば崩落の少し前にはタルタロス脱出させてくれると思ってたんですよ。
懐かれてる自信はありましたから、このまま見殺しにされることはないだろうと。
しかしラルの姿が見えないということはその考えは撤廃した方が良いのかもしれません。

最悪邪魔されても鮮血のアッシュ程度なら私一人でも何とかなるとふみ、行動に出ることを決めます。
それでもまぁ最初から暴力沙汰はいけませんね。
とりあえず導師のお守として変に信頼されていることを逆手に取り導師が心配なので町に行きたいと主張してみたら、丁度町に行く用事があるという人といっしょに行くことを条件に艦を出ることが許されました。
ありがとうございます。ハイマンさんという人だそうです。
何やら総長直々に任務を言い渡されたとかで、これをやりこなせば昇進できるかも?と内心ちょっとwktkだそうです。
良かったですね。ちなみにどんな任務なんですか、そうですか、総長の妹を呼び出しに……。

ああ、やっぱりシスコンか。
内心納得しながらティアと合流したハイマンさんに手をふり、導師を探すと言って早速障気漂う街中に駆け出しました。
こういう時身軽なのって便利です。音素による筋力強化を存分に駆使し、軽い身体を生かして屋根から屋根へと伝いながら緑の頭を探します。
時間はあまりまりません。ティアが連れて行かれたということはもうすぐ崩落するということ。
更に言うならばイオンが同行ではなく誘拐である以上、時間が早まらないとは限らない。

「! シンク!」

導師を探す、ふりをして探していた本命の緑の頭を見つけた私は、走っていた勢いを削がないまま屋根から飛び降ります。
幸い靴は丈夫なものです。摩擦で靴底が多少磨り減ったかもしれませんが、構いません。
土ぼこりを上げ多少滑りながら地面に降りた私にシンクは弾かれたように顔をこちらに向けました。
いえ、相変わらず包帯で顔を覆っているので視線は解らないんですよね。

「君が居るってことは……まさか!」

「十四番炭鉱はどこですか!」

「七番目もそっちか!ああもう、計画狂いまくりだよ!」

駆け出したシンクの後に続き、私も続けて走ります。
途中坑道の中に湧き出ている魔物は普通にスルーです。
レベル差を理解している魔物は襲い掛かってなんて着ません。どこかの誰かさんより賢いですね。

「タルタロスで来たわけ?」

「揃って誘拐されてきました」

「誘拐した張本人は?」

「途中から姿が見えなくなりました」

「最っ低!!」

吐き捨てるように言ったシンクは岩山に不自然に空いた壁の空洞に迷うことなく飛び込みます。
人が二人ギリギリ通れるか通れないか程の幅の、鉱石を掘るには狭すぎる空洞。
間違いなくセフィロトへの入り口ですありがとうございます。何で解いちゃったんですかイオンのお馬鹿!
入った途端に切り替わる視界に一瞬目が眩みますが、足を止める暇はありません。
シンクと考えうる中で最高のスピードを出しながら、くぼんだ場所に位置するパッセージリングの、その正面にいる三人の間に滑り込みました。
こういうときシンクも私もスピードタイプでよかったと思います。鈍重型なら絶対に間に合わなかった。
驚いた顔をしたヴァンとルーク、そしてイオンがいます。くそ、何でアニスが居ないんだ。

「驚いた。確かルークの護衛の……シンクだったか」

「そうだよ。そっちこそこんなとこでルーク…さま、と何してんのさ」

「傭兵如きには関係のないことだ」

「へぇ?じゃあ当ててやろうか?超振動を使って大量殺戮させる気なんだろ」

ルークの隣に立っていたヴァンの気配が変わりました。
ルークもシンクの言葉にえ?と声をあげます。
正直なところ、最低な私はストーリー的にココでルークを止めて良いものか、一瞬だけ迷いました。
しかし戸惑いながらも真っ直ぐな瞳を向けてくる彼に、そんな思考は吹き飛びました。
だって彼はまだ七歳なんです。ほんの少しでも一緒に旅をして、知ってしまったんです。
彼は限りなく純粋であることを。その心が、とても幼いことも……。

「ルーク、超振動での障気の中和には犠牲が付きまとうのです。
ココの規模ならば、恐らく第七音素師100人を殺して得られる程度の第七音素が必要です。
つまり貴方がココで超振動を使えば、アクゼリュスに存在する第七音素の素養を持つ人を殺してしまうかもしれません。無理矢理第七音素を奪う、という形で」

すみません、物凄く適当なこと言ってます。障気中和イベントでそんな事言ってましたよね?
アレを応用して適当にハッタリかましただけですゴメンなさい世界の危機なので許してください。
しかしルークが動揺してくれればそれで儲けモノです。
本当なのか?ってヴァンに聞いているルークは最早積極的に超振動を使おうとは思わないでしょう。
シンクが腰を落としてヴァンとルークににじり寄り、私は導師を背後に庇いながらいつでも動ける体勢を維持します。

「ルーク、私よりもあの傭兵達を信じるのか?話しただろう。お前は英雄になれるのだ」

「英雄とは時に大量殺戮者と同意義ですがね」

「確かにね。敵陣営の人間をたくさん殺せば嫌でも英雄扱いされる。
敵だろうと味方だろうと、人間は人間なのにさ」

「ルーク、彼等は傭兵なのだろう?しかも、お前の父に雇われた。
彼等はお前がココで英雄になられては困るがゆえに、邪魔をしてきているのだろう。
さぁ、私を信じなさい」

「で、でも……シンクはそんな奴じゃ、トモカだって」

「信じなさいとか…気持ち悪っ!」

「同感です。髭親父がいたいけな青年に迫る姿なんて見てて楽しくも何ともありません」

「せ、師匠の悪口言うな!」

「ハイハイ。というか雇われてるっていうならアンタだって一緒じゃないか
大詠師モースと同じ、預言を順守するための組織に所属している、グランツ謡将?
アンタが大詠師モースの命令を受けて英雄になれるなんて嘘をついてルーク、さま、を騙して、預言を順守させようとしてる、なんて考えもできるんだけど?」

「!?」

シリアスになりきれないのは最早私とシンクの性なのか。気持ち悪いというのは心底同意です。
しかし続けられたシンクの言葉にルークが息を呑む音がしました。
無意識なのでしょうが一歩後ずさったルークを確認したヴァンの口から漏れた舌打ち。
一瞬にして緊迫した空気になったかと思うと、流れるような動作でヴァンが剣を抜きルークの首に宛がいます。
そうきましたか。たちが悪いな。

「たかが傭兵風情が邪魔してくれおって。だがココまで来れば最早同じこと。
さぁ、役に立ってもらうぞ。『愚かなレプリカルーク』!!」

「え?う、ぁ、あ、ぅああああぁあああぁあっ!!」

突然の力の奔流に私は咄嗟にありったけの紙人形をルークとパッセージリングの間に向かって投げつけました。
何とか踏ん張りきれたのは前にシンクがいて庇ってくれたからか、それともただの僥倖なのか。
音素を込めた紙人形が次々に壊れていくのを感じながら、踏ん張った時間は僅か数秒にもそれこそ数十分にも思えました。
背後でイオンが吹っ飛んだ気がしました。すみません、庇いきれなくて。許してちょ。

気付けば光の奔流は消えていて、顔面を庇うようにクロスしていた腕の隙間から覗いた視界は殆ど変わっていませんでした。
違うところといえばパッセージリングに罅が……罅!?
ヴァンは先ほどまでの雰囲気を一変させ、地面に突っ伏すルークを気にも留めることなくパッセージリングを見上げています。

「っち、完全ではない超振動ではこの程度か。やはり失敗作は失敗作ということか」

「っ……師、匠ぇ…?」

「まあいい、これで終わる」

そう言ってヴァンが何か口の中で呟いたかと思うと、十字を象った光がパッセージリングに襲い掛かります。
甲高い音を立て、破壊されていくパッセージリング。
目を見開くルークの真上で大小の破片となったパッセージリングは今度こそ完全に壊れてしまいました。
シンクが素早く駆け寄り、ルークを抱き上げてバックステップで私の元へと戻ってきます。
途端に響きだす地鳴りに崩落は間逃れないことを悟りました。

「兄さん、騙したのね!外郭大地は存続させるって言ったじゃない!!」

「ティア!?何故ここに!」

驚くヴァンは続けてアッシュが飛び込んできたのを見て更に驚愕しますが、あんな鶏冠がどうなろうとどうでも良いです。知ったこっちゃありません。
案の定超振動の余波を受けて吹っ飛び気絶しているイオンに駆け寄れば、ジェイドとアニスも駆け寄ってきます。来るのが遅いわ馬鹿たれ。

「くっ、導師を救うつもりだったが仕方が無い」

魔物を呼び寄せ、アッシュを連れて飛び去っていくヴァンなど最早どうでもいい。
イオンを背負いティアの元へと駆け寄ります。
そこから先のことは、えぇ、わかっていますが考えたくありません。
フォースフィールドに囲まれながらゆっくりと魔界へと降下していく中、これからの展開を思い出します。

ええ、まあ解ってるんですがね。タルタロスでのつるし上げが待っている筈です。
それを思うとシンクの腕の中で震えているルークを直視できません。
完全に止められなかったことに胸が痛みます。なんと謝れば良いのでしょうか。
……ごめんちょ。じゃ、駄目ですよね。、絶対。

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